第231話 最強はイベントに励む⑪

 ボス討伐中にも拘わらずロゼが欲しがりそうな弓のリストを思い浮かべ探した私は、完全に売りつけるつもりで、ロゼに以前売った弓は何だったのかを聞いた。

 

『+21 ジャランガだな』


 ジャランガの弓は、インドの神話に出て来る弓の名を冠している。使えるのは大体、二次職後半から三次職中盤まで。あの弓が出た頃は相当に高値で取引されていたが、アップデートを繰り返す内にもっといい弓が出たため今では値下がり傾向の強い弓である。


 ジャランガなら強化の生贄用に使ったが砕けず残ったままいつか売ろうと思って保存していた弓でも十分補うことが出来るはずと考えた。

 そして、そのまま何を売るとは言わずロゼに『いくら出す?』と聞いてしまった。聞かれたロゼは『はっ?』と不振顔で聞き返す。


『+26ライジョウドウならあるけど、いくら出す?』


 慌てて売りつける弓の強化値と名前を教えるとロゼが真剣に悩み始めてしまった。

 ライジョウドウ――雷上動と言う武器は、前太平記(ぜんたいへいき)と言ういつ書かれたかは忘れてしまったが、歌舞伎の時代背景などに用いられている本の中で、鵺を射抜いたとされる弓だ。弓の効果としては、常に雷を纏う事から水系のモンスターには強いとされている。今ロゼが使っている弓より威力は劣るが距離は長く、射速が早い。強化値がこちらの方が上だろうから、威力も変わらない。


『ライジョウドウか、+26なら欲しいけど……今は流石に、相場がわからないから終わってからでもいいか?』

『わかった』

『交渉終ったなら二人とも攻撃に参加してね? 手止まってるからね? 気付いて?』


 販売交渉が一段落ついたところで呆れた顔のティタからボスに集中するよう注意が飛ぶ。それにロゼと二人苦笑いで頷き、再びボスに攻撃を再開した。

 ボスを二刀で斬りつけながら残りのHPを確認する。既に、半分を切っているのでもう少しすれば形体が変化するのだろう。ボスの第二形体を楽しみにしながら攻撃を続けた。


 それから十分もかからずボスはついに雄たけびにも近い「ぎょちゅぎゃにょぎょー」という訳の分からない言葉を発し、蠢く触手を振り回し始めた。それは徐々に高速になり、ボスの身体の原型を変えていく。


『ふう、これが形体変化か?』

『そうです。この後、真黒なフェアリーが出て来るんですけど、そうなると完全に魔法は効かなくなります。ただ物理には弱くなるので……後――』


 ロゼの問いかけにふうたんが答えていた。彼女がこの後どうなるのかを説明を始めたタイミングで、ボスの変化が終わる。


 透けた黒い四枚羽を持ち、赤黒い身体に黒布を巻き付けたフェアリークィーンは、その名をブラッディーフェアリルクイーンと言うらしい。瞳は赤く、口元は真っ赤だ。

 武器は、針のような大きさの杖で体調は30センチほど。通常のフェアリーよりかなり大きめだった。

 そして、ブラッディーフェアリルクィーンを守護するように一回り小さな体をした赤、青、緑、黄、灰、金、白、銀の八色の二枚羽のフェアリー達が、それぞれ槍、扇、杖、剣、弓を持ち周囲を取り囲んでいる。

 色からして多分、属性ごとのフェアリーなのだろうと予想する。


『じゃぁ、タゲ執るね~。その間悪いけど少し回復多めでお願い~』

『はい』


 首を左右に振り武器を持つ両腕を伸ばしたティタがボス中とは思えないほどのんびりとした口調で言い終える。回復役である光合成はそんなティタに頷く。その返事を聞いたティタの顔が瞬時に真剣みを帯びる。『いくよ』という声を残し一瞬でボスへと詰め寄り斬りかかった。


 ティタとボスの攻防は、ティタの優勢から始まった。だが、それは直ぐに覆される事になる。初撃は見事にボスへと通った、しかし、次にボスに斬りかかろうとしたティタの動きを阻むようにボスの周囲を囲むフェアリーが反撃を開始する。


 ティタの眼前で燃え盛る斧を振り回すように動く火のフェアリーは、縦横無尽に動きティタの動きを封じる。そこへ、雷のフェアリーが電光石火の如く足を狙い雷光走る槍先を突き出せば、風のフェアリーが風を纏った矢を射かける。

 流石にティタも分が悪いと思ったのか、一度距離を取るように下がる。そんなティタに鎚を持つ地のフェアリーが小さな小石を造りだし追い打ちをかけた。


『うわっ!』


 攻撃を避けながら後ろへと下がっていたティタが小石に躓きバランスを崩す。それを狙いすましたかのように今度は、水で出来たような針を持った水のフェアリーが、十本もの水の針を生み出した。

 身体を大きくエビのようにくの字に曲げた水のフェアリーの動きに合わせ、水の針が勢いよく動き出す。氷のフェアリーが扇で仰げば、水の針は鋭利な刃物のように尖り三倍もの大きさになってティタを襲った。


 それを持ち前の運動神経でなんとか躱そうとするティタは、身体を捻り、曲げ、ジャンプするも避けきれずダメージを負ってしまう。直ぐに光合成がティタの回復を行ったまでは良かったけれど、回復でタゲを貰った光合成が今度は逃げ回る事になってしまった。


『これ俺じゃタゲ固定無理かも。ヘイトないとキツイ』


 ぽつりと零されたティタの言葉に、示し合わせたかのように私とロゼが動く。私は刀のスキル――アマギリで、ロゼはスキルショットでボスの気を引く。

 ロゼはスキルショットで、雷と氷を交互に打つ。そして、私が使ったアマギリは、その範囲内にいる全てを対象とした攻撃だ。その一撃一撃がどれ位の効果を出すのかは判らないが、回復である光合成が追われ続けるよりもいいだろうと選んだ。


 アマギリの発動からエフェクトが上がり、ブラッディーフェアリルクィーンを中心に効果が発動する。私より先にスキルショットを射かけ光合成からロゼへとタゲが変更された。そこへ私のアマギリがダメージを与えたため、今度はロゼの所に向かっていたフェアリー達が私へと向かってくる。


 向ってきたフェアリーの様子から、もしかすると取り巻きは、距離を取れる二人が交互にダメージを与えてタゲを執り合って攻撃されないようにすればいけるのではないかと思いつく。

 どうせこのまま攻撃をしたとしても光合成にタゲが戻る。ならば試してみる価値はある。


『ティタ、今のうちにボスタゲ執って。ロゼとティタで交互にタゲ取り合えば、取り巻きは何もできないはず。二人が距離を取ってやればダメ貰わないかも』

『わかった!』

『おう。任せろw』


 取り巻きのフェアリー達から逃げつつ二人に指示を出す。私が逃げ回る間にティタはボスへと突っ込んでいき、ロゼは自身の射距離最大まで移動を開始した。


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