第230話 最強はイベントに励む⑩
ボスの攻撃は、基本触手で攻撃するか、もしくは身体を振り回しその体液を振りまくかの二通りのようだ。HPが半分以下に減ったところで攻撃形態が変わると討伐経験のあるふうたんが言っていたので、今はそれに備えるのが良いだろう。
盾が居なくとも安定してボスのタゲを執り続けるティタは流石だと言っていいと思う。そんなティタに羨望の眼差しを向けている同職の柊さんは、ティタの動きを真似るように動いては、たまに被弾してしまっている。
学ぶことは大事だけど……今じゃない。
『ちょっと、柊。いつも通りに動いて』
『ぷっ、やべー、柊、草生えるからクラチャで誤爆すんの辞めろ』
回復である光合成が、度々被弾する柊に注意を促す。そこへ、ロゼの楽しそうな声があがる。SGの人数は、五十人を超えているらしくクラチャも楽しそうだ。
そこに加われと言われたら、無理だけど。
『ren、左』
『k』
『すまん。ミスった』
雑魚がマップに引っかかったらしいティタの声に、即答しつつマップを確認した。移動している上でマップに表示されていると言う事は、エントではない。となると……ここらに湧くとすればジュエルフェアリーだろうと当たりを付けた。
『
『k』
余裕しゃくしゃくとマップ上のモブの表示を眼で追いながら、肉眼で確認できそうな位置に来たところで視線を向ける。
そこには、どうみても木にしか見えないモンスターがいた。
『アレ? エント……なんで?』
『え? ジュエルフェアリーじゃないの?』
『違う、みたい』
驚きつつもジュエルエントがこちらに向かってくる以上、応戦するしかないと武器を構えたその時――突然、ジュエルエントが巨大化したかと思うとオールドジュエルエントと名前の表示に変わった。
見た目が巨大化しただけではなく、その見た目もまた年月を重ねたように変化している。
『え? 特殊個体?』
『名前、何になってる?』
『オールドジュエルエント』
『そいつ周回ボス』
『は?』
『あ、でもそいつソロ用だから、ren一人でも余裕だと思うよ~』
ティタの言葉をそのまま信じて、オールドジュエルエント=以下ボスにブレスオブアローを放つ。被弾した途端、ボスは回避行動をとるかのように自身の枝で己の幹を守る姿勢を取った。それに構わずもう一度ブレスオブアローを放ってみれば、先ほどの十分の一以下のダメージしか与えられていない。
なるほどね。このボスは、回避行動を取った後ほぼほぼ無敵状態になるって事か。弱点とかありそうだけど……どこだろう?
ボスの全体を観察しつつ動き出すのを待っていた私にティタが「斬りつけると回避行動解除するよ~」と教えてくれた。
その声に『ありがとう』とお礼を伝え。物は試しとばかりにオニキリ×オニマルクニツナを手に持ちボスに斬りかかる。
ジュエルエントは物理耐性が強く魔法に弱い設定だったはすだ。なのに、このボスは刀でもきちんとダメージが出ていた。
要は、このボスは、回避行動をとっていない場合は魔法に弱く、回避行動をとると物理に弱いと言う事だろう。PTを組めずソロでイベントをこなすプレイヤーのためのボスだと思えば、良く考えられていた。
枝を針のように伸ばし突き刺すように攻撃をしかけるボスの枝を回避しながら、再び右手の刀で斬りつける。二度目の攻撃でボスは回避行動を辞め、木の形に戻った。
そして、根の部分を器用に動かしながら私に突進する。
その動きからただ突進するだけかと思いきや、ボスは相当に早い速度で前進しながら激しく頭の部分に当たる枝葉を揺らした。
揺れる枝葉は、その重みで互いにぶつかりパキン、パキンと言うガラスが割れる音に似た音を立て折れる。降り注ぐ枝葉は、相手をしている私にとって凶器となりえるほどに鋭く尖り降り注いだ。
『ren、余裕あったらバフ』
『k、少し待って』
僅かに減ったHPをPOTで回復しながら、ティタに返事を返す。ボスが動いている状態では流石に落ち着いてバフを入れる事は出来ない。そこで、まずはボスに魔法を当て回避行動をとらせ動きを止めてバフを入れることにした。
『サンキュー』
『ありがとうございます』
『あり』
『こっちも半分だから、早めに戻ってね~』
回避行動を取ったボスを取り合えずその場に留め数十秒かけバフを入れ終える。お礼を言う周囲へ手を上げ、ムラクモ×オハバリを取り出しボスの元へ戻った。一体どれぐらいの時間回避行動を取ったまま動かないのか調べたい。そう思うほどにボスはピクリとも動かない。
そんなボスの状態にある妙案が浮かぶ。浮かんだ案をやればもしかしたらボスを倒すのにそう時間は掛からないだろうとその案を実行することにした。
まずは、ボスが回避行動を解除するように取り出した刀で攻撃する。二度目の攻撃で、顔? というか節を覆った腕を元の位置に戻そうとするボスにドラゴンオブブレスを打ちこんだ。するとボスは、元の位置に戻ったばかりの腕を再び持ち上げ節を隠した。
いける。これなら被ダメも無いし余裕~。そう確信した私は、ボスが声にならない声で断末魔を上げ黄色い粒子になって消えるまでそれを繰り返した。
ドロップは、残念な事に強化の石(杖)二個と宝石が数種類だった。
『ただ』
『鬼畜が居る』
『まぁ、renだしね?』
オールドジュエルエントを倒し終わり、急いで戻り、戻った事を伝える。伝えた途端ロゼとティタが苦笑いを浮かべながら暴言を吐いた。
いい方法だと思ったのだが、ロゼには私の行動が鬼畜に見えたらしい。というか、他のメンバーにも同じように見えていたようで、よく見ればSGの面々の顔が引き攣っていた。
それが落ち着くと次は私やティタが持つ武器の話題になった。
ドワルグさんが、鎚を振り回し私の手にある刀へ視線を向けていた。そして『武器が、異常に光ってる気がするが?』とロゼの方を向き、問いかける。
ふられたロゼは矢を放ちながら『ドワルグ、renの武器は見なかったことにしとけ~。
ボスの触手を避けながら、首を傾げるティタが『ロゼも持ってるよね?』と確認するように聞く。するとロゼは、鼻を鳴らし『ねーよ』と一言返した。徐々にロゼの口調が昔に戻ってる気がするけど、きっと気のせい。そう、気のせいなのだ。
『え、だって解散する結構前に、renから買ってたじゃん』
『あぁ~。確かに買ったんだけど……』と悔しそうに眉間に皺を作くり、唇を噛んだロゼは『戦争直前に赤ネトラップにかかって、赤ネなおす時間も無くって戦争行ったら死んで、割れた』と告白した。
消失した理由が不可抗力な上、哀れな状態だった。何とも言えず、ロゼを不憫に思いながらボスを斬りつける。
赤ネトラップの元凶は、一年ほど前に行われたイベントアイテムにモンスターに一定時間化けられる指輪だ。
どこの誰が思いつき、始めたのかは判らない。同調した馬鹿なプレイヤー達が面白半分で、同じモンスターが沸く場所でその指輪を使いモンスターに化ける。モンスターになると同時に装備は外されるため、ほぼ丸腰状態で狩りに来たプレイヤーに瞬殺されていた。プレイヤー同士の戦闘の場合、相手がモンスターに化けていようと殺せば赤ネームになってしまう。そのため指輪が回収されるまでに、数多の善良なプレイヤーがそのトラップにかかり装備を消失したり、装備強化が落ちたりしたのだ。
『マジかぁ~。メイン武器は痛いね~』
『マジ。あの時程引退しようかって思ったことはないな』
悲しそうに肩を落とすロゼに、ティタは元気を出せと言いたそうに視線を向け直ぐにボスへと戻す。近くに居たのならばきっと肩を叩いて励ましていた事だろう。
そんなロゼとティタの会話を聞きながら私は、脳内でロゼが使える強化済みの弓のリストを思い起していた。その理由は、幻想郷のチケットを手に入れた際の購入資金を出来るだけ増やしたいと言う欲からだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます