第229話 最強はイベントに励む⑨

 ボスに対しての対処が分からない状況ではあるが、物理攻撃が十分の一でも効くのであれば優先して斬りつけるしかないと考えを纏めた。

 周囲を見回し、他にモブが来ないかを警戒しつつタゲを引くティタに視線が向く。ティタはティタで、試行錯誤中のようだ。双剣から放ったれたスキルは、ボスを直撃する。だが、ボスの反応を見る限り一切効いているようには見えなかった。

 今ティタが使ってスキルは、僅かに赤色が入っていたので炎系のスキルなのだろう。流石にここまで効果が無いのを見ると切なさを覚える。


『ん~。ダメか~』


 攻撃の効き具合が一切感じられない様子を見せるティタ。なんとかできないかと頭をフル回転させ、過去のバラ姫イベントが思い起こされた。

 あのイベントは本当に鬼畜だった。バラが咲き乱れる大迷路をモブを倒しながら進むのだが、その道には即死の落とし穴、毒蝶、麻痺蜂など嫌がらせとしか思えない量が配置されていた。

 モブの量が量だけに全て倒して迷路を進み、抜けた最奥にそのボスはいた。巨大なバラの蕾があり、それが咲くとボスへと変化するのだ。その姿や声は、お姫様のように可愛らしい。こちらが攻撃を始めた途端、流れるように美しかった金色の髪が全てトゲ付きの黄緑色の蔓に変わり、牙をむき出しにした形相になったのには攻撃した全員がドン引きしていた。


 ってそうじゃない……確か、あの時のボスは……通常の魔法攻撃が無効のスキル持ちだったはず。しかも今回と同じように物理攻撃耐性も持ってた。それで……ダメ元だーとか言って、キヨシが雷――上位のサンダースピアーで攻撃するとボスに通常の半分だったがダメージが通った。

 今回のボスも、もしかすると通常――火、水、風、地の攻撃よりも上位――雷、氷のスキルとか魔法を使う方が効果があるのかもしれない。


『ティタ上位のスキル使ってみて』

『わかった。ただアレ、結構MP食べるからそんな連発できないけど試してみるよ』

『よろ。効果があれば魔法職が攻撃に参加できるようになるかもだし、頑張って?』


 私とティタの会話を聞いていたロゼは『魔法無効ついてるからダメじゃないか?』と言いながらも弓職らしくボスから距離を取り矢を放ちダメージを稼ぐ。


『ロゼ、覚えてない? バラ姫イベントで魔法無効ついてて物理耐性付いたボス』

『え? バラ姫……あぁ! あいつか!』

『そう、アレ。あのボスも魔法無効ついてたけど上位は効果があったでしょ?』

『思い出したわ。キヨシがぶっ放したあれな』


 苦笑いと言うよりは、懐かしいと言うような顔で笑うロゼに頷く。そこへ思い出したかのようにふうたんが『そう言えば、フレが言ってたんですけど~。この ”呪われた” って付くボスは、らしいですよぅ~。なんでもぉ、ドロップ品のランクが変わるらしいですぅ~』と面白い事を教えてくれた。


 タイムアタックでドロップのランクが変わってくると聞いた途端、本気でボスの攻撃を始めたのはティタと私である。どうせ倒すなら……チケットが欲しい! あのチケットがあれば……再び、スクロールが補充できる。しかも今回は、前回の倍以上の数をだ。

 クラン資金を増やし、私の貯蓄を増やすためにも、このイベントでのチケットゲットは絶対条件なのだ。


『雷系は、さっきまでのよりマシかも、ダメージ出てる!』

『マジか! ふう、結。二人とも雷系の魔法で攻撃、ダメージ通るか確認してくれ』

『『はい』』


 雷系のスキルを試したティタが、ダメージが通ると言った途端、ロゼが最速で魔法職へ指示を出した。魔法職の二人は『サンダースピアー』と詠唱する。二人の杖から青色の雷を纏った槍が放たれボスを襲う。


『どうだ?』


 ダメージが通ると言っても普通に斬りつけるよりマシな程度なのだろう。ロゼの問いかけにふうたんと結さんが微妙な表情をしていた。


『うーん。杖で殴るよりはマシ位ですかね?』

『そうだねぇ~』

『まぁ、それなら魔法打ち込んでくれ』


 二人の返答にロゼは、杖で殴るよりマシなのであれば魔法を放ってもらった方がいいと判断をしたようだ。

 そんな三人のやり取りの横で、ティタがスキルを使いまくる。その回数既に七回。そろそろMPが尽きたと言い出しそうだなと思いつつ、足元にそっとMPPOTを置いてみた。

 すると、ボスの触手を器用な態勢で避けながらティタがニコっと笑って拾う。私の判断は間違っていなかったのだなと思いつつ、個別のバフを更新するべく一時後退した。


『ren、インヴィス雷に変えて』

『あー、俺も頼む』

『k』


 スキルで雷系を使うのであればインヴィスを雷に変えた方がいいと考えたらしいティタとロゼが変更する事を伝えて来る。そこで、他の二人にも同じように変更するのか視線を向ければ、オズオズと手を挙げる。その二人にも追加でバフを入れ終え、魔法職、回復と次々バフを更新した。


 ボスのHPは、攻撃する人数が増えたことで徐々に減り始めている。この十分の間で七割弱まで減っている事を考えるとボスの総HPはそれほど多くないのかもしれない。ボスへの有効打は未だ判明していないものの、このまま削ればいいのではないかと思い始めた私の頭に”タイムアタック”の文字が浮かぶ。


 そう言えば、ボスのドロップ率の時間割ってどれ位なんだろう? 気になるけど、調べようもないし、ふうたんに聞こうかどうしようかと悩み『ふうたん』と彼女を呼んだ。返事をするためこちらを見たふうたんが首を傾げた直後だった。


『全員離れろ!』とティタが緊迫した様子の声音をあげる。ロゼ、柊、結はすぐに後ろに飛びボスから距離を取る。何事かと視線をボスへ向け事態を確認すれば高速回転するボスが己に付いたドロドロした粘液を周囲にまき散らしていた。


 私を見ていたために逃げ遅れたふうたんとスキルを使った硬直を食らっていたらしいドワルグが見事に粘液を浴びる。粘液が付着した場所は、肌だろうが装備だろうが黒緑色に変色し猛毒の症状を表す。二人のHPバーが、五秒おきに一割弱減っている。確認するついでに見たバフの欄の最も下に、赤地に黒で人のマークがありその周囲を黄色の波線の麻痺アイコンがついていた。

 

『回復、急いでピュリファイ!』

『やばぁ~。こわー』

『これはやばいな。全員食らったら回復間に合わないな』

『毒が痛そうですね~』

『凄い怖いですね……』


 私が回復を急かす間に、ボスの攻撃を辛くも避けた面々――ティタ、ロゼ、柊、結の順に――が顔を引きつらせ、口々に感想を漏らす。会話を締めるかのように最後に回復の光合成が『範囲でデバフは本当に勘弁して欲しい』と呟いていた。


 体制が再び整うのを確認したティタが、回転を終え静かになったボスにヘイト代わりのアタックスマッシュ――剣気を飛ばしモンスターを呼び寄せる。対人使用不可――を飛ばし攻撃を再開した。

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