第228話 最強はイベントに励む⑧

 ボスとの距離が離れつつある状況で考えていても仕方がないと踏ん切りをつけたらしいロゼが、ダメ元でもPOTを買いに行くと選択した。決まってしまえば動きは早い。まずは、ボスを引かないよう遠回りをしながら小川のフェアリーを目指し移動をはじめる。その際ボスを見失わないよう、ボスのいる周囲の景色やマップを記憶に残す。

 

 生い茂る木々の配置を視覚で覚えるのは正直無理に近い。だが、マップで見れば視認できない場所に池のような場所がある事が分かる。とりあえずはここを目指す方向で戻ってくれば問題ないだろうと私はそこを目印にすることにした。


 それから十分。たまに湧くモブを軽快に倒しながら、小川のフェアリーに移動し終えPOTを買う。そして、全員で纏まり余計なモブを引かないように気を付けながら急いで記憶の場所付近まで戻る。ボスは、私達がPOTを買いに行く間に距離にして百メートルほどしか移動しておらず、すぐに発見することが出来た。


『バフ。インヴィス火?』

『うん。それでお願い~。じゃぁ、タゲ執るまで回復お願いね~』


 全体バフを入れ終わり、個別の火のインヴィスと雷のソウルを入れ終える。バフが入ったのを確認したティタは、いい笑顔で片手を挙げ双剣を構え、言い終わるなりボスへ突っ込んでいく。

 

 今回のボス戦の作戦は、移動中の話し合いの結果。

 まず盾が不在と言う事で五分の間ティタがダメージを与え続ける事でタゲ固定をはかる。その間、できうる限り回復は最小限に抑える。これは、回復へのタゲ跳び防ぐためだ。

 更に、ティタの合図で全員が攻撃を開始する事、途中で起こりうるボスの攻撃で厄介なデバフや全体攻撃は、ロゼがスキルカットを試みる事になった。


『しかし、ティタ安定したな』

『まーねー。うちの場合、大和が来るまで黒が居なきゃ盾居なかったし』

『なる。BFはクラメン増やそうとは思わなかったのか?』

『んー。クラン作った時に、フレ以外は誘わない方向で話ついてたしね』

『まーBFは、特殊だからな……うちじゃ考えられないわ』

『アハハハ。だから温いんじゃないの?』

『……温いか?』

『ヌルヌル』


 会話を交わしているのに関わらずティタは、手慣れた様子で右手に持つ剣を器用に動かしボスへダメージを与える。攻撃を受けたボスは、ドロドロとした触手を何本も出しティタへダメージを与えようとしているようだがボスの動きが遅いため、軽く身を躱すことで攻撃を避けていた。

 ティタ以外のメンバーは、現在、超絶暇な時間である。


『BFはどうやってしてるんですか? 自分もティタさんみたいになれますかね?』

『あー。こいつらはだから、比べるのやめとけ』


 柊さんの質問にロゼが良く分からない言葉で答える。訓練と言う言葉が聞こえた気がするが、まさかロゼのクランでは訓練と称した何かをしているのだろうか?

 私と同じ疑問を持ったらしいティタが『訓練って何??』と掘り下げて質問すれば、ロゼが頭をボリボリと掻き苦笑いを浮かべた。

 答えにくそうなロゼの代わりに結さんが『うち週に何回か、クラメン全員で動きとか連携の訓練してますよ~』と当然のように答えていた。


『マジで?』

『あぁ、まじだ。戦争とかで動き分かってないとグダるだけでメンバー同士のシコリが残るんだよ』

『あぁ~。なんかそう言うの面倒そう』


 驚いたように目を見開くティタが一瞬だけロゼに視線を向ける。が、視線は直ぐにボスへ戻され、ドロドロと溶け出すヘドロ状のボスを斬りつける。触手が動く度ティタは身体を捻り攻撃を避けてはいる。


『この液体っぽいの触らない方がいいかも。これでダメージ負うから足元注意ね』


 宙返りをしながらボスの後方へと移動したティタが、自分の足元から三十センチ先に溜まったこげ茶とも緑とも言えない液体に剣を突き立てながら注意を促した。

 剣を突き立てた事に意味があるのかとそちらを凝視していた私は、ティタの剣が引き抜かれるのと同時にその液体が蒸発して消えて行くのを目撃する。


 なるほど。あれもボスの一部扱いで、攻撃すれば消えると言う事か……なら、地の範囲魔法でなんとかなるのではないだろうか? いや、ダメだ。ボスには魔法無効がある。となると、私が見つけ次第刀でダメージを与え消してしまう方がいいだろう。


『そろそろ良さそうかな』

『じゃぁ、全員攻撃開始しようか。renインヴィスとソウルくれ』

『k 属性plz』


 ティタのgoの声に、ロゼがバフを要求して来る。仕方なくそれぞれの属性を聞き、バフを追加していく。前衛には雷のソウルと武器の属性に合わせたインヴィスを、魔法職には氷のソウルと武器の属性に合わせたインヴィスを、回復には聖のインヴィスの実を追加した。

 

『よし、行くぞ! 結とふうは、足元の優先排除してくれ』

『『『はい』』』

『了解』

『はい~』


 ボスへひとまずデバフが入るかを試す。

 使うのはアーマーブレイク(+25)だ。バインドやサイレンスは、魔法で魔法を封じるデバフであって、魔法無効がついているボスには一切発動しない。

 それに対してアーマーブレイクは、魔法でボスの防御力を低下させる物理効果がある。魔法である事に変わりはないため発動しない可能性も高いが試してみる価値はあると考えた。


 ダメで元々、試して発動すればラッキーだ。なんて思いでアーマーブレイク+25)を発動してみれば、スンと言う音を出し失敗するエフェクトも上がらないまま魔法は発動しなかった。

 その結果から、ボスにデバフを入れる事を諦めた私は、POTを取り出し飲むと二刀を取り出し物理攻撃へとシフトした。

 

 選んだ二刀は、オニキリ×オニマルクニツナの方だった。

 自分に雷のソウルと火のインヴィスを入れる。この二刀を選んだ理由は、斬りつけた相手を無差別で出血状態に出来るから。デバフが入らない以上、武器に付いたスキルで少しでもダメージを与えられる方がマシだろう。


 PT全員バフ欄を見ながら、バフ抜けが無いことを確認しているとある事に気付く。


『ティタ達POT飲んでないけどいいの?』

『あ……』

『ぬおー。忘れてたー』

『完全に失念してました!』

『ありゃ』

『使うの忘れてたわ』

『あるあるだよね~』

 

 せっかく買ったのだから使っとこう感がありありと感じられる会話を交わす。全員がPOTを使ったことを再びバフ欄で確認したところで、攻撃に加わるべくボスへと走り寄る。

 触手を動かしティタを狙うボスの背面から、右手の刀で袈裟斬りを仕掛ける。斬りつけた手応えの無さに、まるで水を切っているようだと思った。


 そこへ、ボスの触手が伸び振り回される。危うく当たりそうになりながら、なんとか身を躱し両手に持った刀でグルグルと扇風機の羽根のように回転する触手を根本から切り落とした。

 べちゃっという音を立て地に落ちた触手の塊は、蠢きながら水たまりのように広がり本体を攻撃するプレイヤーの足元に罠を張る。


『renさんの方、行きますね~』


 ふうたんの声かけに足元の水たまりを避ける。

 するとすぐに、水たまりをアースクエイクのエフェクト――黄色い魔法陣が水たまりを包み、地割れが起こり、割れた部分が地震のようにガタガタ揺れる――が襲う。そして、数秒後、魔法のエフェクトと同時に水たまりもかき消えた。


『ダメージ見てるけど、POT使っても使わなくてもダメージ量変わらない』

『まー、ダメで元だったし。相手の攻撃が緩くなる可能性もまだ残ってるからとりあえず、使っといてくれ』


 ダメージの量が変化しないとティタが不満の声を上げる。それに対し、弓を引き終えたロゼは肩を竦め可能性を話す。

 現状ボスへの攻撃は、私の刀を使っても1200程度しか出ていない。通常の狩場――魔巣の雑魚モブならば18000前後は出るので、十分の一以下と言う事になる。

 それだけこのボスの物理攻撃耐性が高いのだろうが……魔法無効も持っているボスをどうやって攻略すればいいのか本気で分からなくなった。

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