第227話  最強はイベントに励む⑦

 清算を終え『PTを入れ替えるから少し時間が欲しい』と言うロゼに頷く。既にデメテルに来ていたティタにも同じ内容を話して、鍛冶屋と倉庫、雑貨屋で補充と耐久戻しを済ませた。用事がすべて終わりイベントNPCの側に戻る。


[[ティタ] ロゼのとこのクランと合同でイベント行くとか

     renの人見知りも少しは治った?]

[[ren] どうだろ?]

[[ティタ] まぁ、これを機に少しずつ元に戻るといいね]


 ロゼがクラメンと未だ話し中でPTに誘って貰えない。ロゼの真剣な横顔を眺めるながらティタが私へ話を振る。それに答えつつティタを見れば、少しだけ情けない顔で笑ってこちらを見ていた。

 未だ、暗く影を落とすミッシェルの事件は、私に対人恐怖症と言うものを与え、私自身が逃げたせいで……元クラメン達にも重く責任を負わせてしまっている。その事を私は心から申し訳なく思う。

 謝罪の言葉を声にしようとした所で、ロゼからPT勧誘が飛んでくる。それに答えPTに入った。


『すまん、待たせた』

『よっす~』

『よろ』

『まぁ、とりあえずイベントマップ移動しながら紹介するわ~』

『ほいほい。なんかロゼがマスターっぽいことしてる』

『っぽいじゃなくてマスターだからな?』


 ロゼとティタの掛け合いを聞き流しながら、イベントマップへ入る。いつもの丘を目指して歩き出した所で、ロゼがクラメンの紹介を始めた。

 今回選ばれたのは、ティタと同じ双剣の柊、金属製の鎚を担ぐドワルグ、回復の光合成、魔法職の結とふうたんの五名だ。結、ふうたん、柊に関しては、トーナメントのPT戦でも戦ったことがある。


 狩場に入り、無数に沸いては攻撃して来るエントをなぎ倒しながら丘を目指す。その道すがら、引きを一緒にやる予定のティタが柊に引き方などのレクチャーをしていた。のほほんとした場の空気に、まったりしながらも時間差をつけバフを重ね掛けで入れなおすタイミングを計る。


『そうそう。だから、こういう風にジグザグに走れば、モブからの攻撃は受けにくいんだよ』

『なるほど、うちの場合はそれが出来てないから余計にやばくなってた感じですか』

『ん~。実際に見て無いからわからないけど、引くだけでダメージを追うってことは移動速度が遅いか、引き方が下手かだよね』

『白影も一応教えてるんだけどな、あいつの場合、擬音だらけだからな~』


 前に進みながらジグサグに走って見せるティタ。それを見ていた柊さんは、何かを納得したように何度か頷く。そこへ、苦笑いのロゼが、白影の事を持ち出す。

 白影の説明に擬音が多いと言うロゼの言葉を聞き、そう言えばと白影に出会った過去を思い出した。


 それはまだ私が、このゲームを始めて一年にも満たない頃の事だった。

 ある日、なんとなく気が向いて初心者狩場の様子を見に行った私は、そこで無心に剣だけを振り続ける一人の男性キャラを見かけた。

 ホーンラビットと戦うでもなく、ノンアクティブのホーンラビットが跳ね回るお花畑のような狩場で一人何時間も剣の素振りをする彼にゲームの中で何やってんだろ? 馬鹿じゃないだろうかと思ったのは記憶に新しい。


 珍しいプレイヤーがいたものだ。そう結論付けその場を離れようとしたその時だった。突然、素振りをしていた彼が「きたーーーーーー」と叫び、剣を持ったまま両手でガッツポーズをした。

 何が来たのか気になり彼の方を見る。そして、眼が合った。呆然と私を見ていた彼が、その顔に満面の笑顔を作りこちらへ歩み寄ると手を差し出した。

 握手か? そう思いながら、恐る恐る彼の手を握った瞬間、両手で彼は私の手を掴みブンブンと上下に振り「素振り部に入部希望だろ? 大歓迎だ! 今はまだ俺一人だけどな。一緒に素振りしようぜー。素振りの極意はこうだー。フンッって振って、ブンって鳴って、シュってやる感じだ」とか言い出し、喜び実演する彼に分からないとも違うと言えない私は、誘われるまま共に素振りをした――。


 その後は、私のお決まりヘルプコールに飛んできた白とロゼが止めてくれたのだけれど……。アレ何時間ぐらいしてんだろ? と言うか白影はアレで何を会得したのだろうか? 未だ、あの時のキターの叫びの意味を私は知らない。知りたいけれどまた素振りさせられるのは嫌なので聞いていないと言うのが正解だろう。


 懐かしい過去の思い出と言うよりくだらない思い出に懐かしくなり、ついつい『素振り部か……』などと口走ってしまう。


『ぶはっ! あはははははは、懐かしい、それ』

『くくくっ。素振り部、懐かしいな』


 お腹を抱えて笑うティタとロゼに、SGのクラメン達が怪訝な表情で首を捻る。そんな二人を放置して、マップを見た私は動きを止めた。


 マップに移る赤い大きな点は、ボス――呪われたフェアリークイーンの印。現在位置から約十五メートルほど先にある。本体を確認するためそちらに視線を向ける。そこには、ドロドロとした緑とも黒ともこげ茶とも言えない色合いのヘドロに似た何か見えた。

 ボスの動きは遅いようで、ノロノロと動き距離が離れている事から周回性のあるボスなのだろう。


 会いたかったボスに会えたので私としてはこのままボス戦に臨みたいところだ。

 このまま進めば、ボスにぶち当たる。その前に出来るだけの情報が欲しいと考えて『全員、止まって』と声を上げた。


『ボスか』

『y』


 いち早く反応したのはロゼだった。それに答えつつ他のメンバーたちを見る。視線をボスへ向けたまま『ここのボスやったことある人いる?』とティタがか聞き。オズオズと手を上げたふうたんが『わたし、ありますよ~』と返していた。


『どんな感じだった?』

『魔法無効化の物理耐性有で、動きは遅くていいんですけど、ダメージ通らないから時間がかかります。それから、全体攻撃で移動速度攻撃速度低下のデバフと全属性の攻撃魔法を使ってきます』

『なるほど』


 魔法無効は、魔法に対して無敵と変わらない。そこへ来て、物理耐性有……火力でゴリ押しもできないと……。ただでさえダメージが通らない状態で、デバフまで……運営は、何を考えてこのボスを作ったんだろう? と言うか、もうこれドロップさせる気ないだろ? などと脳内で鬼畜仕様に悪態をつく。


『面倒極まりない感じだね~。俺的にはPOT買ってからやりたいかな~』

『だな。俺もこれやるならPOT欲しい』

『POTって、フェアリーからのだよね?』

『うん。そう』

『ボスにあのPOTって効果あるの?』


  POTを買いに行ってからボスをやりたいと言うティタとロゼに、ボスに効果があるのかと疑問を口にすれば二人とも沈黙してしまった。


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