第207話 最強はアップデートを楽しむ㉙
自分の判断を信じて個別のバフを入れてはみたものの、予想以上のMPが減ってしまったため急いでMPPOTをがぶ飲みする。その間も視線はキマイラに向けておく。
黒のヘイトが上手く効果を発揮しており、今のところタゲの固定もできている。
『蛇残り5割。毒霧の連発増えるから近接、回復は注意して!』
自分もボスへ攻撃を加えながら指揮を執る先生に、参加者達から「すげー」などといった声があがった。実際PKの時も似たようなことをしているし、うちのクラメンならだれでもやると思うし、見慣れたせいで別に何も凄くない。あんなので感動するなんて、余程甘やかされて育ったのだろう。
そんな事をツラツラ考えていたら、同じ感想だったらしい黒がヘイトを飛ばしながら『お前らも戦争の時、これぐらい余裕でやるだろ?w』と笑って言う。それに反応するのはロゼと雪継で、二人同時に『あの時のクランの仕様が、おかしかったんだよ!』とツッコミを入れていた。
あの時のクランとは、間違いなく殲滅の破壊者の事だろう。殲滅の破壊者に所属する古参と呼ばれる古株のメンバー達は、卑弥子と先生の画策――ただ単に、自分たちばかりが指揮するのはおかしいという考え――によりPK戦で各々順番に指揮を取らされていた。
ロゼと雪継は古参に入るため、完全に巻き込まれていた口だ。
『あの指揮地獄やばかったでござるなw』
『上手くいくと、超褒めてもらえたなー。ミスると扱いがミジンコ以下……だった』
『あれは楽しかったよ。私も指揮しなくてよかったしw』
『あたしはミジンコなったことないわねんw』
『指揮は慣れるに越したことはないけど、精神的に辛かったわいねw』
『指揮する直前に、卑弥子に言われるんだよ。お前は、天才か? ミジンコか? ってw』
『あたくちも無いでしゅw』
『怖い、あれはもう思い出したくない! 失敗すると、呼び出されてずーっと書き取りさせられるんだ……何枚描いたか思い出せないぐらい書いたよ……俺』
『私もないわ~w』
懐かしむような会話が繰り返される。ほぼうちのクラメン達なのだが、所々でロゼや千桜、小春ちゃんが会話に加わっていた。
そんな時だった、鶏の鶏冠が肥大化し風船のように膨らんだかと思うと「グケー」と一鳴き。鳴き声が響いた刹那、その目から黄色いレーザー光線が発射された。鶏の頭が動くのに合わせレーザーも縦横無尽に動く。それを必死の形相で躱したり、避けたりする周囲の光景にある映画の一場面が浮かぶ。巨大な恐竜が、ブワーっと炎を吹き出すアレだ。
[[ベルゼ] うおぉぉ。あっぶねー!]
[[†元親†] ちょ、今のベルゼアレみたいだった!]
[[風牙] 鶏うぜええええ]
[[さゆたん] 誰か通訳するでしゅよw]
[[村雨] うおぉぉぉりゃぁぁぁぁ!]
[[シュタイン] ふむ。そろそろ我のPOTを……]
[[大和] 通訳というか、多分、映画の弾丸避けるシーンだよね?]
[[宮様] ちょっと、動きすぎよ!]
[[ティタ] あぁ! えっとアレなんだっけ、作品名出てこない]
[[白聖] 博士、却下だ。投げるの禁止ok?]
[[キヨシ] あぁ、分かった! イ〇バウワー]
[[†元親†] それだー! マジできる男は違うなw]
[[聖劉] え、そっち?!]
[[大和] えぇ……!!]
レーザーをギリギリで躱したベルゼの行動が、チカ曰く”できる男”らしい。あんな必死な形相で避けてるのにできる男と呼ぶの?
私にはチカの感覚が理解できない……元より、チカと感覚を共有したいとは思えないけど……多分だが、チカの感覚が共有できるのはキヨシだけだろう。
なんてくだらない事を考えていたら、こちらに向いた鶏の頭――目からレーザーが発射された。それをを軽くジャンプして避ける。
レーザー自体の攻撃力は、私の体感でHPが300減る程度と大した事はない。が、しかし、その後に受ける持続ダメージが痛い。十五秒毎にHPが250ずつ減り、三分間も継続する。ボスのみの時はいいが雑魚が沸いた後などは地味に痛く、回復職に負担をかけてしまうのでできる限り避けられるならそうすべきだと思っている。
『大和、白影、雑魚湧くぞ。タゲ』
『k、北西方面』
『任せて~。じゃぁ、僕は東南で~』
黒の声に名前を呼ばれた二人が即座に対応する。ボス部屋前で事前に済ませておいた打ち合わせ通り、ボスを中心に白影が北西――背面側へ。大和が東南――ボスの正面側へと回りこむ。
『近接→白影の雑魚優先。遠距離→大和の優先。属性は、風or地で対応して』
そんな二人の動きに合わせ総指揮を担当する先生のが攻撃支持が飛ぶ。
[[宮様] チカ、黒と遠距離のHP管理頼むわよ!]
[[†元親†] わかったー]
[[黒龍] マジで、頼むぞ?w]
チカに対する黒の言葉。普通で考えれば「回復よろしく」と取るところだが、私の耳が腐っているのか裏を読みすぎているのか「ミスってくれ」と聞こえた気がした。多分、気のせいだとは思う。思うが……私は、その真意を確かめたい。何故かこのタイミングで、ワクワクとした悪戯心が芽を出す。
『ねぇ、黒。さっきのマジで、頼むぞって……ミスってカオスにしたいってこと?』
自分なりに笑みを浮かべて、黒に聞いてみた。なのに、なんで皆して驚いいたって顔してるの? 雑魚湧いたしタゲ執って? あ、蛇が毒吐いた。
私とボス、雑魚モブ以外の全てがフリーズしたかのように動かなくなる。その隙に大量に沸いた雑魚が周囲のプレイヤーを襲い、ボスの尻尾である蛇が紫色のエフェクトを口から吐き出し毒霧の範囲攻撃をしかけて来た。
動かない大和と白影のせいで、雑魚のタゲが分散され周囲のプレイヤー達へ向っている。流石にこのままでは本当にカオスになるしマズイとせっかく作った笑顔を消し真顔で、フリーズしたまま動かない面々に向け『タゲ! 解毒!』と声を張り上げた。
『――っ、危ねぇ!』
『はぁ~。もう、renなんで、こういう時だけそんな顔で笑うかなぁ~?』
『アレは男、男、男!』
『いつものじゃなかった、何かあった?』
『俺は巨乳派、巨乳派、巨乳派』
『チカ、回復優先! 解毒は私がするわ!』
『ちょw 白とティタ何の呪文唱えてんの?w』
『お、おう! 回復な!』
ハッと再起動したらしい黒、大和、白影が動き、ヘイトのエフェクトが複数個所にあがる。そのおかげで分散したタゲが引き戻された。
妙な呪文を唱えながらティタと白、その他の近接達が白影の方へ集まり攻撃を開始する。遠距離職は、先生の指示通り大和のモブを優先していた。忙しなく雑魚モブの処理が始まり、五分後なんとかカオス状態を免れ、残る雑魚の処理を丁寧に行った。
ボスのタゲを持つ黒も、順調にボスからのダメージを回避しつつヘイトを稼いでいる。
『遠距離の方~雑魚処理終わったら、そのまま白影の方に回って~』
『大和、ボスの背後に入ってくれ』
『了解』
バフの更新を終えたところで、大和の方の雑魚処理が残り少なくなる。数的に大和の方が少なかったので、当然だろう。最後の一匹を倒し終わり、そのまま白影の方へ援護に向かった。
**********
【クラメン達の心情(密談編)】
"黒龍" ちょw なんであんな顔であいつ笑ってんだよ!!
"ティタ" マジ、あの顔は卑怯だよ~(´;ω;`)
"ヒガキ" あれがマスターの笑顔ですかー。
"宗之助" 久しぶりに見たでござるなw
"大和" 超びっくりしたね~。renのあの笑顔は可愛い~w
"宮様" 何年振りかしら? あんな楽しそうな顔w
"白聖" やべぇ、一瞬惚れそうだったわ……(;´・ω・)
"キヨシ" 発言内容が酷いのには、誰も突っ込まないのなw
"さゆたん" renちゃんは可愛い女の子でしゅよw
"†元親†" ren女だしなぁ~。別に可愛い顔して笑ってるだけじゃん?w
"ゼン" マスター可愛いです。
"源次" まー見てくれはアバターだからな?w 勘違いすんなよ?
"聖劉" ティタと白の呪文がマジおもろかった(笑
"ベルゼ" あんな風に笑えたんだな~。
"ミツルギ" 見てはいけないものを見てしまった気分っす……
"村雨" はぁ~、驚いた。renの性格知らずにあれ見たら惚れるやついそうw
"シュタイン" 意外とかわいい顔してたのであるw
"鉄男" いつもの笑顔がニヒル過ぎるせいで
普通に笑っただけで、可愛く見えるオチな?w
"春日丸" そうか? トレラとrenならrenのがマシだな。大人しいし……。
"大次郎先生" とりあえず、ボスと雑魚処理優先しような?
【終】
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