第206話 最強はアップデートを楽しむ㉘
キマイラ討伐の作戦が発表された。
まずは、全体攻撃の毒霧とダークフレイムと言う闇の炎を吹きだしてくる蛇の頭を優先で排除する。次は、レーザー光線を得意とする鶏の頭を排除。その後、単体ボスになったヒヒを倒して討伐終了になる。
余談にはなるが、以前興味本位で討伐した事がある。
胴体と繋がっているヒヒの頭を潰せば、ボスの動きは鈍くなるから楽になるだろうと初回はヒヒの頭を優先で倒した。
が、その分全体攻撃の威力が馬鹿みたいにあがり。鶏のレーザーが乱射されて全滅。二度目の討伐も最初はヒヒを狙っていたが、鶏、蛇どちらか一つでも残っている限り経過時間に応じて何度潰してもヒヒの頭は復活してしまう事が判明する。
その結果、ヒヒの頭を残し蛇、鶏を先にやった方が楽だとわかり、ヒヒの頭は最後まで残す事になった。
鶏と蛇が、排除されるとヒヒは単体のボスに変化する。
単体化したヒヒは魔法攻撃が無くなる代わりに、攻撃速度と威力が上がる。全体攻撃が無くなる分、幾分か討伐は楽になるはずだ。
『――って事で、ヒヒのタゲは基本黒メイン、大和サブで。
ヒヒがドラミングしたら、盾以外は攻撃停止。
ドラミング中に盾よりダメージ出したら、必殺技を食らうから注意するように!』
先生の説明に細くするようにロゼが言葉を挟む。
『必殺技はバリアも効かないし、死ぬ覚悟しろよ? 周囲のやつはヒヒが自分の方に向かってきたら走って逃げろ。巻き込まれるぞ』
『後はこんな感じかな? 他に分からない事ある人いる?』
『巻き込まれるって、必殺技は範囲なんですか?』
手をあげたアースの子が、おずおずと聞いた。それに対し先生は『範囲じゃないよ。ただ半径15メートル以内にいる本人含め10人をランダムで即死させるスキルだね。だからかたまり過ぎないように注意ね』と説明していた。
ヒヒ単体になった時点で上下左右に動きながら攻撃を繰り返すのが一番良い方法なのだが、固定砲台気味の遠距離職にそれを求めても混乱するだけと分かっている。だからこそ、ドラミング中は攻撃をするなと言う指示をだしたのだと解釈した。
ドラミングといえばゴリラの特徴だが、気にしてはいけない。
『他に何かある?』と再び聞いた先生は、誰も何も言わない事から問題ないと判断し黒へ視線を向け頷いた。
『大和、準備はいいな?』
『うん。大丈夫だよ黒!』
[[黒龍] ren、バフくれ! インヴィス火とソウル雷、プロテクは地で!]
[[大和] 僕、インヴィス風でお願い。後は黒と一緒]
[[ren] k]
要望のままインヴィス、ソウル、プロテクの順に、黒と大和に個別のバフを入れた。バフが入ったのを確認したのか黒と大和がボス部屋へ入る。それを追いかけるように、クラメンたちが、ロゼや他の参加者たちがボス部屋へ突入した。
部屋の中央に元気な様子で佇むボスは、体長七メートル。太さはプレートメールを着た黒が四人分。赤い体毛に白い皮膚。青と白の色鮮やかなラインが入ったヒヒの顔と、黒い毛に緑の鶏冠を持つ鶏の顔。背後からは金の目を細め、黄色に黒のまだら模様をした蛇の頭。
部屋に入ると獰猛な六つの瞳が一斉に此方へ向いた。そして、威嚇するかのようにヒヒが巨大な犬歯を見せうなり声をあげ、鶏が声高く鳴き、蛇が頭を擡げた。
すかさず黒のヘイトが複数回感覚を開けず飛び、大和のヘイトが合間合間で入る。二人がヒヒと距離を詰める間に、レイド参加者たちは位置取りを済ませる。ジリジリとした緊張感が周囲に漂った。
『k』という黒の合図に、先生が即座に反応して『蛇優先、近接ATKは攻撃注意ね! 攻撃開始!』と指揮を執る。
先生の合図に、蛇へ総攻撃が開始された。
[[さゆたん] renちゃん。風のインヴィス欲しいでしゅ]
[[キヨシ] 俺もー]
[[鉄男] 俺も欲しー]
[[白聖] あり!]
[[聖劉] ありがとーw]
返事をするよりも先に、さゆたん、キヨシ鉄男へ風インヴィスを飛ばす。入れてもいないのにニヤっと笑ってお礼を言う白と聖劉にもインヴィスを入れたいが、属性は風でいいのだろうか? 悩みながら風のインヴィスを飛ばしたついでに、宮ネェとチカには、聖のソウルを入れた。
[[宮様] あり]
[[†元親†] さんきゅ~。ren!]
先にお礼を言ってきた二人が、何も言わないところを見ると風でよかったらしい。できればお礼を言う前にどのインヴィスが欲しいかだけでも伝えてくれるとありがたい。
なんてことを考えながら攻撃中のボスへ視線を向ける。
丁度タイミング良く? ボスが四つん這いになりお尻を持ち上げフリフリと左右に振る。その恰好はひどく滑稽で笑いを誘うが、その後にくる攻撃を知っている為まったくもって笑えない。
四つん這いでお尻を振るキマイラ。お尻が降られるたび尻尾の蛇が遠心力でグルグルと360度回る。
『全員退避! 範囲に入るな~!』
先生の声が周囲に注意を促すも、一歩遅い。
動きを止めたヒヒと鶏に対し、獰猛な目を光らせ蛇が大きく口を開くと同時に、回りながらダークフレイム――どす黒い炎を吐き出した。
逃げ遅れた近接ATK達を蛇のダークフレイムが襲う。
ダークフレイムは、その黒い炎が身を包む限り――多分だが一分半ぐらいの間――五秒に一度HPが300ずつ削られる闇属性のドット攻撃だ。時間が経過し炎が消えると今度は麻痺状態になり動けなくなる。
[[風牙] ちょ、宮かチカ、どっちでもいいからピュリファイくれ! 麻痺る!]
[[村雨] 俺もピュリファイ欲しい]
[[宗之助] 麻痺がっ]
[[宮様] ちょっと待って! チカ頑張って]
[[†元親†] えぇ! 俺一人で解除すんのぉぉぉ?]
次々と上がるピュリファイ要求に、黒たちの回復を持つ宮ネェが待ったをかけた。宮ネェから任されたチカは、驚きながらも必死にピュリファイを全員に飛ばしていた。
ダークフレイムをもらっていない私や、さゆたん達にもピュリファイが来たのはご愛敬ということにする。
蛇のダークフレイムが、なんとか収まりを見せはじめ周囲にまた近接ATK達が群がる。
次に攻撃してくるとすれば鶏かヒヒだが、今のところどちらも動きはない。いまだ麻痺ってる人もいるようだが、そこは自分の所のクラメンに何とかしてもらって欲しい。
インヴィスとソウル、プロテクを更新して全体の残りMPを確認する。雪継と小春ちゃんのところが五割。ロゼのとこは、遠距離魔法職が五割。うちは……そう思いながらキヨシ、ゼンさん、さゆたんのHPMPバーを確認する。
こちらは八割と意外とうまい具合にMPを回しているようだ。と思ったのも束の間、そういえば、クラメンだけはと氷のソウルを入れていた事を思い出す。
まだボス部屋に突入して五分程しか経っていない分、私のMPには余裕がある。ボスのHPはまだ全体で一割、蛇だけだと三割減ったかどうか程度だ。
このままMPが枯渇気味になりボスに与えるダメージが減り殲滅速度が遅くなって、雑魚モブが湧くよりは今のうちに少しでもMPを回復させて現状を維持した方が後々楽かもしれない。
自分の中の判断を信じて、レイドに関した遠距離魔法職の面々に氷のソウルを、回復職に聖のソウルを順次追加した。
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