第204話 最強はアップデートを楽しむ(26.5)
黒vs白影と白vsロゼを観戦しながら、大分人が集まったなと考える。
雪継(アース)達が到着するまで、もう少し時間があると言う先生のチャットにまだ大丈夫か~なんて思い、模擬戦を黙認していた私と他の参加者達は――。
現在、博士が開発したと言う最新のPOTのせいで死屍累々のカオスと化していた。
引き金を引いたのは、大和のこの一言だった。
「そう言えば、博士~。新作のPOTってどんな効果なの~?」と何気なく白茶で問いかけた大和――に悪気はないはず――。
それに対し博士はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、アイテムボックスから新作のPOTを取り出し掲げ持った。「アレはヤベェ……やつだ」そう言った源次の声に、博士が掲げるPOTを凝視する。その時うっかり鑑定眼を使ってしまったのは言うまでもない。
…………数秒後、私は後退りしながら自分一人にトランスパレンシーを無言で発動した。
理由は、簡潔に……巻き込まれたくないから!!
博士の掲げ持ったPOT瓶は、透明だった。瓶の中身は、透明の液体、透明なのに何故か、パチパチと音を鳴らし、青白い夥しい電流が渦を巻くように揺らめき続けていた。
鑑定の結果は以下の通りだ。
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品名 : サンダーハリケーンボム(たまたま出来た試作品)
製作者 : シュタイン
効果内容 : POT瓶を投げつける事でサンダーハリケーンを
出現させダメージを与える。
効果時間 : 3分
効果範囲 : 半径250M
対象 : 使用者を含め範囲内にいる全て
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POTなのにボムって名前なんて、ヤバい以外の何ものでもない。こんなものレイド中に投げ入れたら全滅。しかも、対象は投げた自分も含まれることになる。
博士の周囲に居た面々が、戦々恐々と言った面持ちでジリジリと後退する。そんな中既にトランスパレンシーで姿を隠した私は、そっと後退しながら距離を取る。視線は勿論、博士に釘付けだ。奴がこの後、その手に持ったPOTをどうするのか、細心の注意を払い見守った。
「これが、我が英知の結晶である。その名も、サンダーハリケーンボムなのである!」
博士は、左手にPOTを掲げ、右手を腰に置き、堂々と語る。その姿は流石、研究者と言った所だ。が、周囲は更に顔を引き攣らせ一層博士から距離を取った。
[[ティタ] ちょ、博士止めようね? それ使うの危険だと思うよ?]
「うおおおおおおおおおおい。巻き込むなよ!」
「つか、POTなのにボムって言う名前がヤヴァイィィィィ」
ティタは必死に冷静さを求め、ベルゼは両手をあげ降参する。その横から、狂ったかのように鉄男が名前に突っ込みを入れた。
「ふっ、そんなに威力を知りたいであるか?」
キラーンと効果音と輝く星マークが付きそうなほど清々しい笑顔で歯を見せて博士が、恐ろしい事を言い始める。
毎度思うが、人の話は聞いた方が良い……。
[[聖劉] ちょっと、倉庫に用事思い出したから行ってこようかな]
[[大次郎先生] 博士。その凶器投げちゃダメだ!]
「博士! 俺ら巻き込むな? 巻き込むなら、ren達だけにしろよ?」
[[キヨシ] ぎゃー。ヤメテェェェェ!]
「中々いい出来なのである。10本程出来たから、ひとつぐらい試してみたいのである!」
逃げようとする聖劉が、ロゼにより縫いつけられる。その正面で先生は、短い腕を使い必死に×印を作る。必死に止めるクラメン達と白影、呆然と何が起こっているのか眺めるその他の表情の対比が凄い事になっている。なのに、博士はとても楽しそうだった。
あぁなった博士はもう止まらない。これ以上ここに居るのは危ないと考えた私は、もっと距離を取るべく視線を外し猛獣の入り口から離れる決意をした。
――とその時、博士の手からボムがポーンと放り投げられる。
「バカでしゅううううううう! ふざけんなぁぁぁぁ!」
さゆたんがキャラ設定を忘れたかのように、ドスの効いた声をあげながら私の横を通過する。
「ヒガキ、ゼン、ミツルギ、走って! 逃げるよ!」
短い脚を動かしながら、新人を引っ張り引率して逃がそうとする先生は流石だ。
「バリア無いのに、なんてことに……」
死相を浮かべた宮ネェが、何かを必死に探している。
「イヤアアアアアアアアアアアア」
ムンクのような顔をしたチカが、必死に落下前のPOTへ走る。
が、回復職の移動速度では到底間に合いそうにない。
「クソっ!」
短く毒づいた、源次も落下寸前のPOTへ走った。
遠視を使い周囲を見れば、ティタ、黒、宗乃助、小春ちゃん、ロゼ、聖劉、大和、ベルゼが必死の形相で落ちる前のPOTを確保しようと向かった。
着弾まで後十五センチ。
もうダメだ。死んだ。間に合わないと言う声が響く。
と、その時――何かが、POTに辺り、POTを高く弾き飛ばした。
[[宗乃助] ナイスでござる!]
[[村雨] もう一発頼む。白]
歓喜するするクラメン達。チャットを見る限り弾き飛ばしたのは白の矢だったようだ。高く上がったPOTは再び白の矢で高く弾き飛ばされた。
それを軽くジャンプして宗乃助が、無事手中に収めなんとかなった。
――かに思われた。――
博士により新たに投入されたPOTは、その場にいた全員の視線を奪いながら割れた。割れると同時に、発生した巨大な雷を纏った竜巻は、その場に釘づけになった全員を巻き込んだ。
「ふはははははは、いい出来なのである!」
そんな中ただ一人、仁王立ちでPOTの出来をダメージを受けながら喜ぶ博士。流石、自称マッドなサイエンティストは伊達じゃない。
なんて事があり、つい十分前まで沢山の人で賑わっていた猛獣の入り口は、今は閑散としていた。
逃げおおせた私とさゆたん、先生、ミツルギさん、ゼンさん、ヒガキさん他数名以外全員が死に戻りで街へ。
[[白聖] マジで、博士いい加減にしとけよ??]
[[村雨] なんで俺まで巻き込んだぁぁぁぁ!]
[[春日丸] マジこいつ殺す!]
[[ティタ] もうーヤダ……]
[[†元親†] もうこいつ殺そう?!]
[[シュタイン] フハハハハ。我最強なり!]
[[黒龍] ふっ、ざけんな! もうこいつ殺す。マジで殺す]
[[大次郎先生] 皆復活したら戻って~。雪達もうすぐ来るみたいだから]
[[源次] なぁ、なんで先生たち生きてんの?]
[[宮様] はぁ、酷い目にあったわ。
博士、実験は身内じゃない人にやってちょうだい!]
復活した面々が、口々にクラチャで博士を殺すと宣言する中、博士は気にした様子も見せず、実験が成功したことに嬉しそうだった。
何度も殺す。と叫ぶ黒は、マジキレ状態。こうなった黒は、とりあえずこのまま機嫌が治るまで放置するのが一番だ。難を逃れた先生は、皆の愚痴をスルーしてさっさとレイドの準備をすべくクラチャで声をかけPTを組み始めた。
[[シュタイン] なるほど! 宮ネェ流石であるな!
身内だと怒られるであるが、他人なら問題ないのである!]
宮ネェの身内じゃ無くて余所でやれと言う言葉に、博士は少しの間をおいて納得したように返事をしていた。この時の宮ネェの余計なひと言が、後々私を苦しめる事になるのはもう少し後の話だ――。
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