第203話 最強はアップデートを楽しむ㉖

 入り口に到着する直前で、小春ちゃんが私に気付いたように手をあげた。そんな彼女に答え手をあげれば、彼女の方から走り寄って来てくれた。

 小春ちゃんの走り方が、凄く内股で両手の小指を立てたお姫様走りなのは見なかったことにしたい。前は、もう少しだったと思うんだけど……気のせい? ま、いいか。

 深くは考えないように、思考を速攻で切り捨てた。


「renちゃ~ん。ごめんね~、お待たせしちゃったわね~ん。頼まれた物もってきたわ~ん♪」

「うん。ありがとう」


 挨拶程度の会話を済ませ、トレードを出して来る小春ちゃんに慌てて値段を聞いた。


「幾ら?」

「大丈夫よ~。renから貰った素材で十分足りてるから~ん」

[[†元親†] が話してるぞ! ティタ!]

「そう。良かった」

[[鉄男] どこ?! 俺もみたい美女!]

[[ティタ] マジ? ドコ?]

[[白聖] スタイルはっ?]

[[†元親†] ほら、スグそこにいんじゃんw]

「これで納品完了ねん♪」

「うん。ありがとう」


 小春ちゃんとのトレードを済ませた。途中で入ったクラチャの会話が気になり、チカ達の方を見ればチカは悪戯が成功した悪ガキのような顔をして笑い。鉄男、ティタ、白が、地に崩れていた。


[[鉄男] カマとカマ……の美女ね……]

[[ティタ] チカニ期待シタ俺ガマチガッテタ]

[[白聖] 巨乳だけど、中身オカマじゃねーか! クソッ。期待して損した!]


 酷い言いざまである。

 これは関わらない方がいいような気がして、直にそこから視線をアイテムボックスへと移動する。小春ちゃんが作ってくれた三人用の武器は、とてもいい出来でこれならと思えるものだった。


 ミツルギさん用の武器は、カンショウ×バクヤ。

 中国の歴史上に有ったとされる宝剣であり、雄雌二フリの短剣らしい。名前の由来は、製作者夫婦の名が付いているとかなんとか。詳しい事はあまり分からないが、黒く曲剣のような形に反り返っているのが雄のカンショウ。赤く反りが余りない方が、雌のバクヤ。

 

 攻撃速度上昇、スキル発動速度上昇が5%だがついている。武器スキルが付けば一番いいが、こればかりは作成の際の運なので仕方ない。


 ヒガキさん用の武器は、ベガルタ×モラルタ。

 ケルト神話に出て来るとされているひとフリずつの剣だが、病ゲー内では双剣として制作可能だ。モラルタは通常の片手剣と同じ大きさで、ベガルタはモラルタよりも一回り小さい。どちらも両刃だが、モラルタは刀身がほんのり青味がかり、ベガルタは白っぽい。

 攻撃威力上昇、攻撃速度上昇がそれぞれ3%ずつついている。

 しかも、これには武器スキル:アーングリコンバーション――ダメージを受けるほどに怒りのゲージが貯まり、maxと同時に発動させる強撃スキル――も付与されていた。


 ゼンさんの用の武器は、トートスタッフ。

 どこだったかは忘れたが、トートは魔術の神と言われている神様のはず。その神の名前をそのままスタッフの名前にしたのがこの杖だ。杖の上下は黒く、持ち手の部分は白い。ヘッドの部分にはシトリンの目を持つ平に近い鳥っぽいモチーフがつけられている。

 詠唱速度上昇、雷属性攻撃の威力上昇が5%ずつついている。


 多分だが、ゼンさんの得意魔法がキヨシと同じ雷系と言うことにされているから、魔法攻撃属性のダメージ上昇用にシトリン――雷属性の宝石がつけられたのだろう。

 

 無事に手元に届いた武器をそれぞれ鑑定眼で鑑定し、本当にいいものだと実感する。

 今度小春ちゃんにまた、素材売り付けに行こう。などと感謝の気持ちを抱えている間に、武器を渡したい三人が入り口へと到着していた。今渡すべきか……こっそり後で渡すか……悩ましい。どうせ悩んだところで渡すのは分からないと気付いた私は、さっさと渡してしまう事にした。


[[春日丸] あぁ、トレラ誰か買わねー??]

[[ティタ] チカノセイデ、ヒドイメニアッタ]

[[ren] ゼンさん、ミツルギさん、ヒガキさん。ちょっと来て?]

[[さゆたん] トレラのバフなんでしゅか?]

[[†元親†] 呼・び・出・し・だ・と!]

[[風牙] 絞めるノカ?]

[[黒龍] ティタ。片言辞めろ?wチャット読みにくい!]

[[ミツルギ] ないっすよ?]

[[ヒガキ] はい]

[[春日丸] スキルの威力アップ、きまぐれ回復、補助魔法支援]

[[キヨシ] 裏? 番長?!]

[[ティタ] だって、チカがっ! 美人いるって言うから凄い期待して見たら

      ネカマとオカマだったんだよ?! 酷くない?]

[[ゼン] はーい]

[[さゆたん] あたくちには、微妙でしゅw]

[[ベルゼ] ぶっふっ! ティタ、そのネタ笑うからやめて?w]


 未だにチカに遊ばれた事を根に持っているらしいティタとトレラ出さなきゃいいじゃんと言いたくなる春日丸。その間で、風牙の絞めると言う言葉とミツルギさんが体育館無いって言った言葉は気になる。……どう言う意味かな? 今度じっくり聞いてみよう。


 ひとまず疑問は置いておき、集まってくれた三人にトレードを出す。といっても、ひとりずつなので加入順で出してみた。まずはゼンさんに……。

 

[[ゼン] え? な、なんですかコレ?]

[[ren] 三次職カンストおめでとうのお祝?]

[[宮様] あぁ、例のやつできたのね!]

[[源次] 例のやつ?]

[[ゼン] あ、ありがとうございます。凄くカッコイイです!]

[[宮様] うちのクラン恒例のrenの上級職祝よw]

[[源次] あぁ、なつい! 俺まだあの武器持ってるわ―w]

[[ゼン] 大切にします!]

[[宗乃助] 懐かしいでござるなw]

[[さゆたん] 大事に使うでしゅよw renちゃんの自腹でしゅww]

[[ヒガキ] 自分にもですか! ってこれ、凄くカッコイイじゃないですか!]

[[聖劉] 懐かしいねw]

[[ベルゼ] おー。俺もまだ持ってるぞ―w]

[[ren] ヒガキさんは双剣だから、刀じゃ無くて悪いけど……]

[[ヒガキ] ありがとうございます、大切にします]

[[大次郎先生] あぁ、あのハンマーは未だに私の倉庫に入ってるよ]

[[ヒガキ] いえ、十分嬉しいです!]

[[宗乃助] 毒霧もまだあるでござるw]

[[ミツルギ] え、自分もっすか?]

[[ren] 三人分。ミツルギさんは短剣の二刀使うだろうから、二刀になった]

[[白聖] 武器……サブに持たせてるわw]

[[ミツルギ] 嬉しいっす。しかもカッコイイっすょ!

      ありがとうございます]

[[黒龍] おー。よかったなー。俺らも貰ったんだよ。二次の頃!]

[[ティタ] あの時代の最強武器だったよねーw]



 その場にいたクラメン達が、どこか懐かしそうな顔をする。そんなクラメン達に見守られながらヒガキさんとミツルギさんにも武器を渡す。受け取った三人ともに、とても嬉しそうだ。武器を持ち替えたり、模擬戦をしてみたり。属性の強化も武器の強化もしてない分ダメージはそこまで出ないが、実に皆楽しそうだった。


 お試しのつもりで始めた模擬戦がいつの間にやら、本気の戦いになっている。やり過ぎるなと注意すべきだろうけど、楽しそうだからいいか……と流す。


「ちょ! お前ら相変わらず血に飢えてんなw」

「白影、やるぞ!」


 来たばかりと言った感じの白影に、黒が戦いを挑む。実際装備やらスキルやら見れば黒の方が何枚も上手なのだ。それでも誘ったと言う事は、同職同士で戦いたかったのかもしれない。


「しゃーねーなぁー」なんて言葉を残して、白影と黒の戦いが始まった。そんな二人を横目に、観戦してた白がロゼを誘う。


「俺らもやろーぜw」

「ストレス発散するかw」


 そう言ってロゼは、ニヤっと笑った。二人が連れて来たであろうクラメン達は、そんな二人を呆然と眺める。

 ここは、ごめんね? とか言って謝っておくべきだろうか? でも参加を決めたのはロゼと白影だし、私が謝る必要はないよね? ね? 

 などと、誰に問う訳でもなく自分の中で勝手に完結させながら、二組の戦いに視線を向けた。

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