第193話 最強はアップデートを楽しむ⑮
年末年始の気分が抜けきらない内に、社会は動き出し……長い休みの学生以外が、嫌々ながらに仕事へ向かうようになるのに合わせ、ゲームでも定期メンテナンスが入った。
今回の定期メンテナンスでは、いつもより少しだけ長めの時間が指定されている。公式に書かれていた理由は、イベント終了につきその作業とトーナメント戦の勝利者選定の為となっていた。
イベント終了は予定通りだ。今回のイベントで私が狙っていた武器も各四本ずつだが仕入れる事ができた。強化は正直この本数じゃ対して出来ないだろうと諦めている。
それでも、アイテムを持ちたい欲求のまま選択した。
・刀のスキル書 六段突き アイテム5000個
・ビック ウルフ(騎乗用) アイテム7500個
・妖刀 キエンセッキ アイテム 25000個 ×4
・妖刀 ハキセッカ アイテム 25000個 ×4
残り2517個は、転写用の羊皮紙に……。
二週間しかないイベント期間で、よくここまで集めた。そう自分自身を褒めたくなるほどの出来だった。
新しいスキル書は、昨日の内に覚え試した。結果を言えば、ゴミスキル……。こんなもの取るぐらいなら、全部転写用の羊皮紙にすればよかった! そう思えるほど使えないスキルだった。
スキル発動と同時に、二本の刀が対戦相手の肩、腰、膝の六ヶ所を突く。突く度にショックボルトに良く似た電気っぽいエフェクトが上がり相手を痺れさせる。時間にして10秒、ダメージは100程度しかでない。黒に付き合って貰い試した結果がこれだ。
ビックウルフに関しては、良い買い物が出来たと思いたい。
見た目、黒に近いグレーの大きな狼で毛は短い。ワンポイントは、手足が白っぽいのが特徴的だ。速度的には、私たちが走るよりも早いので今後移動にはこの子を使う。
名前をつけてあげたいとは思っているけれど……散々ネーミングセンスが……とか言われたので、誰かに考えて貰おうと思っている。
刀についてはいつか、どこかでドロップするようになるかもしれないのでそれまで、倉庫で暖めておくつもりだ。妖刀とつくので、なにかしらスキルがありそうだけど……今は我慢しておく。
そして、トーナメント戦の勝利者選定ってことは、既にトーナメント戦が本格的にアップされてからひと月が過ぎたと言う事だ。二週目にカチ遭った偽物の件が解決して以降、私たちもまたクランポイントの為に精力的にトーナメント戦には参加していた。
公式を見る限り勝利者というのは、ひと月毎に累計ポイントの合計と戦績が多い順に五人が選ばれる。一位以外は基本的にポイントが多く貰え、各城下町のボードにそれぞれの名前が記され程度だ。
上位十人には、それぞれに順位に見合ったポイントが分配される。
一位 5000 p
二位 3000 p
三位 2500 p
四位 1500 p
五位 1000 p
それを足した合計ポイントの10%がクランの貢献度=ポイントになる。と書かれていた。私が獲得できたのは、1786ポイント。
一位であれば、+5000ポイントなので6786ポイントになる。
10%がクランポイントとして適用されるので678ポイントがクランポイントになると言うわけだ。
ま、一位かどうかは微妙なのでログインしてからだけど……。
思考を繰り返している内にメンテナンス終了時刻が過ぎ、ゲームにログインする。
ログインすると同時に、クラチャに挨拶を流すもまだ誰も来ていないようだった。なので、さくっとまずはやりたい事をやってしまう。
まず向かったのは、自分の露店だ。お客さんは今の所いないが、狼の女の子が店の中でアクセクと働いている。その動きが可愛くてついつい、頭を撫でてしまうのは仕方が無い事。
ひとしきり彼女を撫で終え、補充用の魔法書を彼女に渡す。
無事クラン費からの借金を返済したとはいえ、現在の倉庫内資産200Mでは心もとないし、貧乏なのに変わりは無い。欲しい物が買えないのは痛いと考えここ数日、寝る前の数時間を魔法書制作に充てていた。
売りだすのは、サンダー スピア・トルネード・ファイアー ウォール・ブリザードだ。サブ職業をやっている人が多い事を考え、三次職の魔法と二次職の魔法をそれぞれ十冊ずつ入れておく。
他にも、フリーザーやアンディーシブなども入れる。これはトーナメント戦以後、かなりの勢いで売れるようになったものだ。
一通りの在庫確認と補充を済ませ、売上金を倉庫に転送して露店を後にする。
次に向かうのもまた露店だが、こちらはお客さんでにぎわっていた。クラン用の――何度見ても店にしか見えない露店だ。
店の前に詰まれた見切り品の箱は相変わらずで、流石に売れる前に補充されてしまう為か一向に売れている気配がない。
いい加減拾って来るのを止めろと言うべきか悩む所。これ以上増えるようであれば、一度本気で話し合いが必要になるだろう。
原因はキヨシなんだけど……止めろと言った所で止めないだろうけどね。
それはそれとして、店内の補充状況を確認する。やっぱりと言うか案の定売れ筋は、経験値のスクロールだ。それから魔法書、スキル書の類が良く売れている。
試しにおいたヒガキさんのコーヒーなどもついでに買っていくプレイヤーが多いようで、うちとしてはかなりありがたい。
彼の作るものは美味しいから売れない訳がないんだけどね!
ヒガキさんにはクラン倉庫の在庫を確認次第、発注した方が良さそうである事を確認してクランハウスへ戻る。
戻ったクランハウスで執事に話しかけ、クラン倉庫の中を見れば魔法書の在庫とヒガキさんの軽食類、飲み物系が少ない。彼がログインしたら伝える事を忘れないよう脳内で保存して、クラン費を見た。
総額が8Gを超えている。これなら、クランハウスの増築は出来そうだ。今度の会議で議題に上げよう。
狩りに行きたいところだけど、今は経験値スクロールの量産をしておこう。いつも通り、自室の机の上に必要なスクロールの羊皮紙類を取り出し、転写を開始した。
キリ良く終わった所で顔を上げた。どうやら集中している内に、クラメン達が続々ログインして来た。
[[風牙] ノ]
[[ティタ] やっぱ負けた―! カッキー強すぎw]
[[キヨシ] さゆ一位じゃんw]
[[黒龍] トーナメントの順位見たか?w]
[[さゆたん] 休み明けの仕事だるいでしゅw 一位?]
[[ゼン] こんです。ほぼ知ってる名前ばっかりでしたw]
[[ヒガキ] こんばんわ~]
[[ミツルギ] こんっす! 宗乃助さん一位っすよ!]
[[ren] ノ]
[[白聖] 先生今日から出張で、一週間いないってさw]
[[宮様] ノン]
[[宗乃助] おぉ! 見に行くでござるよw]
[[源次] くそ! 敵がクラメンってやり難いなw]
[[大和] おー。黒一位~!]
白の言葉にそう言えばと思いだす、先生今日からいないんだった。うちの唯一の良心がいない。宮ネェと私だけで果たしてこいつらを抑えられるのかと聞かれれば、私も宮ネェも即答で無理だ!と答える。
トーナメント戦の順位の確認に行ってない事を思い出し急いで向かう。街までの転送を頼むついでに執事に、出来たばかりのスクロールを預けた。
ヘラの街に移動して、大神殿の近くに立てつけられた掲示板を覗き込む。そこには大きく【 トーナメント 勝利者 結果発表!】 と書かれた紙が張り出され、盾から順に職ごとに一位から五位までの名前が羅列されていた。
バッファーと書かれた場所を発見し、一位をみれば自分の名前が書かれている。無事に一位に慣れていた事に安堵しつつ、報酬である勝利者のリングをトーナメントNPCから受け取った。
=======================================
勝利者のリング
トーナメント戦優勝者に贈られる特別な指輪。
指輪をつけている間、栄光の光に包まれる。
攻撃速度上昇 3%
魔法詠唱速度上昇 3%
移動速度上昇 3%
全属性耐性上昇 3%
解毒効果を付与
=======================================
中々に凄い性能だ。早速、貰った指輪をつけた。 栄光の光に包まれると言う文脈から、ただの文章だと思ったのに……実際は、自分の身体がギラギラした光に包まれ、そこにいるだけで目立つようなものだった。
この仕様は頂けない……。そう思った私は、そっと指輪を外すのだった。
【後書き】
足を運んで頂きありがとうございます。
------------------------- 第197部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
最強はアップデートを楽しむ⑯
【本文】
指輪の件はさておき、クラン貢献ポイントを確認した私は人知れずニヤリと笑った。今回のトーナメント戦で、皆が稼いでくれたクラン貢献ポイントは約6000。これだけあれば、クランLvを上げた上で、クランスキルをひとつだが得る事ができる。
クランスキルについてはひとまず先生が帰ってから相談することにする。
まずはクランLvだが、上昇に伴い同盟に参加するクランの数を増やせるシステムになっている。簡潔に説明すると、現在のBloodthirsty FairyがクランLv5で、同盟に加入できる数は一つ。Lv7で二つ、Lv8で三つ、Lv10で五つのクランが加入できるようになる。
とりあえずクランスキルを取るにしても、どうせあげるならLv10まで上げた方が選択肢の幅が広がる。
クランをLv5からLv6に上げる為には、一つの通過儀礼的にレイドーー七星竜とプレイヤー間で呼ばれている名前付きのワイバーン、セプテントリオンズの討伐がある。ぶっちゃけこれが時間的にも人員的にも面倒で、同盟主になるのを渋っていた訳だ。
図らずも人員の確保は、ロゼの言葉で解消された。
後は……時間だ。クランLvを上げる為のレイドはクランLvを上げる必要が無くともドロップが美味いと言う理由で、ほぼほぼ沸いたと同時に狩られてしまう。その為、クランLvを上げたいクランは沸き待ちをして、レイドを食べに来たプレイヤーを押しのけLAをクランマスターが取らなければならない。
前回の討伐情報が無い状態で、一時間前に倒されたとして次に湧くのは四日後とかのレイドの沸き待ちなどしたくない! と考えた私は、まずはクラメンに相談する。
[[聖劉] 眠い!]
[[宮様] あら、クラン費結構たまったわねぇ~w]
[[ヒガキ] お疲れ様です]
[[ren] 誰か、七星竜の沸き時間知らない?]
[[ティタ] 聖おつかれw 相変わらずの社蓄?w]
[[鉄男] 何? ren 七星やるの?]
[[キヨシ] うおーレイドじゃぁ!]
[[†元親†] 金! 金がくるぞーw]
[[ren] ポイント貯まったし、クランLv上げようと思って]
[[ベルゼ] チカとキヨシは相変わらずかw]
[[黒龍] あー。同盟の為かw]
[[鉄男] 調べて来てやるよw]
[[大和] ポイントって貢献度?]
[[ren] よろしく>鉄男 そう、貢献度>大和]
情報通の鉄男が調べてくれると言う事で、私は事前にロゼ、雪継、小春ちゃんへと話を通しておく。正直うちのクラメンだけでも行けなくはないと思うけど、対人戦になった場合人数は多い方が良い。
{[ナールニ] 地下採掘場PT募集~ @回復1、近接2 密plz}
{[ブルーノ] ハルおめでとぉ~!}
{[ren] ロゼ、雪、小春ちゃん ヘラ神殿come}
{[銀の矢] ハル三次カンストおめでとぅ!}
一人一人に密談を送るのがめんどうだったことから、全チャで三人を呼び出す。神殿までは目と鼻の先である事からのんびりと歩いて向かう。神殿の位置口で宮ネェが佇んでいた事から話し合いに来たものだと思いこみPTに誘っておいた。
神殿内部の床に体育座りをして待つ事十分、漸く五人が揃った。
この前よりも疲れた表情に見えるロゼと白影、いつも通り美を追求した格好をしている小春ちゃん、そして、疲れてみえるロゼ達より更に悲壮な表情の雪継と千桜。
どうしたのか聞くべき所だろうが、どうせ内容を語りはしないだろうと予測して敢て聞く事を止める。
『元気そうねん! renちゃん、素材余ってるなら買うわよ~w』
『あら、小春ちゃん以外は相当しんどそうねw』
『しんどいなんてもんじゃねーよ。もう発狂しそう俺ww』
『素材って何が欲しいの? 後でいい?』
『もうな……本当死んでくれって思うわ……』
『雪、落ちつくわいねw』
『白影、それは言うな……俺だって、出来る事なら殺したいわ』
『いいわよ~んw たんまり売って頂戴ねん♪』
小春ちゃんの挨拶に答えた宮ネェが、疲れきった顔をした四人へ視線を向け言葉をつづけた。その声に答えるように、雪、白影が殺意に満ちた声で状況が芳しくない事を伝える。そんな二人をそれぞれの相方である、千桜とロゼが落ち着くよう言えば大きく息を吐き出し此方を向いた。
間で、素材を買い取ると言う小春ちゃんと話していたのは私だ。
と……そんな事はおいておいて、まずはレイドについて話をしておこう。
『呼んだ理由だけど、クランの貢献度が貯まったからレイドやる。手伝って』
『おー。トーナメント戦ほぼほぼ、BFだったからなぁそりゃ貯まってるわなw』
『いいなー。うちも欲しい……クランバフ用に』
『あら、レイドやるのねん。いいわよ~ん♪』
『沸き時間は、今鉄男が調べてくれてるからハッキリしたら伝える。対人になる可能性あるから、うちのクラメンで対応する?』
本題をさくっと伝える。するとロゼ、雪継、小春ちゃんの順で各々が返事をする。時間については追って連絡すると言う形で締めようと思ったのだが、このレイドはPKになる事がままある事を思い出しついでに話し合う。
『あー。七星はPKなりやすいからな……レイドに関してはクラン戦にしないって言う暗黙の了解があるから、俺らも手出しはできるぞ』
『なる。じゃぁ、全員で潰してゆっくりレイドやるでいい?』
『わかった』
『了解』
『素材が手に入るならなんでもいいわ~w』
三人共に了解を貰えた事で安心した私は、小春ちゃんに以前から計画していた事をお願いする。
『そうだ、小春ちゃんに頼みがあるんだった』
『あら、何かしらん?』
『えっと、双剣を一対と杖を一本、短剣の二刀を一対、作って欲しい』
『双剣って刀の方かしらん?』
『ううん。剣の方、うちの新人さん達の三次職祝に……』
『あぁ! ゼン、ヒガキ、ミツルギ用ね?』
『そう。三人とも頑張ってくれてるし、クランにも貢献してくれてるから余った素材で作って貰おうと思って』
『なるw 三次職の武器高いからなぁ~。そういや、俺らも貰ったな~w』
『懐かしいわね~ん。あたしも、未だにあの武器だけは倉庫に残してるわんw』
『俺も取ってあるなー』
『アレは売れないよなぁ~。なんか認められた証拠つーかさ、アレ貰って始めて一人前!って言われた気分になるもんなw』
『分かるわいねw』
『俺も取ってある。何度も売ろうか悩んだけど結局手放せないw』
懐かしそうに語る宮ネェ含めた六人。そんないい思い出になっているとは知らなかった。ぶっちゃけ、あの当時は、ただ単に代行の鍛冶が面白くて作っていただけなのだ。それをそんな風に言って貰えるとはありがたい。
そうは思いながらも、お金が無いなら売ってしまって良いのにとも思う。私が皆にあげた武器は、二次カンストでの時なので、三次職で使う事もまったく無いのに取っておく必要もないはず……そう思った途端、つい口が本音を呟いてしまう。
『え……倉庫の邪魔だし売っちゃえばいいのに』
盛大に『おい!』『折角の思い出に!』などと皆から突っ込み的な何かを貰い、会話を終わらせる。後は、時間が分かってからと言う事でその場は解散になった。
その後、三人の武器を作る為に必要な素材を小春ちゃんに渡すついでに、欲しいと言うものを駄賃として渡す。素材で足りない分は、出来あがってからお金か素材を追加で支払うと伝えた。出来あがりまでに十日程欲しいと言う小春ちゃんに頷き倉庫で別れる。
三人に渡す装備は、特出したものではないし大したものではない。それでも、喜んでくれるといいなと喜ぶ三人を想像しながらハウスに戻った。
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