第190話 最強はアップデートを楽しむ⑫

 トレラに追われる黒が、狙いやすいよう柱の内側を走る。

 そうやって、攻撃し続けて三度目の個人バフの更新を迎えた。


[[ren] 黒]

[[黒龍] k]


 私自身に個人バフを入れ、トレラが動きを止めたところで黒がタイミングを計り自己バフを使う。

 グルグルと回る首から上の頭が、再び私から黒へ向き身体がそれの沿うように回転する。

 そこへ、さゆたんが間髪置かずホーリー クロスを放つ。


【 ぐがっ! 】 到底人とも思えない声を上げ苦しむトレラが、突如黒に迫っていた足を止め完全に沈黙する。

 それにいち早く反応した先生が、全員に注意を促した。

 皆が緊張した面持ちで、トレラを見つめる。


 身動きをしなくなったトレラの体表から、ドス黒いオーラが発生立のぼりはじめ。

 発生したオーラは時間を追うごとにトレラ自身を包みこみ、一分ほどで繭になる。

 更に一分後、びっしりと繊維で固まっていた繭が、パキパキと音を立て白い亀裂が幾筋にも入り轟音と共に割れた。


[[黒龍] やべぇ……もう、おっさんの原型がねーよw]

[[ティタ] あの鎧カッコイイ!]

[[†元親†] 黒騎士じゃん!]

[[風牙] フル装備だな。おいw]

[[ゼン] ひえぇ~]

[[春日丸] あの角クリスタルか?w]

[[宗乃助] 顔が少しだけリッチに近付いたでござるw]


 繭の中から現れた、トレラの豹変っぷりに全員が口々に感想を漏らした。

 

 見た目変わり過ぎと言う黒の言う通り、おっさんだったトレラはその面影を一切なくしていた。

 全身が細くなり、ゴツゴツの黒い鎧からは同じ色のオ―ラが渦巻き守っているかのようだ。

 身長は私たちの倍はありそうな大きさで、両手には両刃の直剣が二本。


 今度は完全に物理か……? そう思った刹那、トレラがヘイトを打ち込んだ黒に反応して、攻撃を開始した。

 剣と盾がぶつかる音が鳴り、黒が身体ごと吹っ飛ばされた。

 

[[ティタ] ウソでしょ?!]

[[大次郎先生] 大和!]

[[大和] わかってるー!]


 名前を呼ばれるかどうかのタイミングで、飛ばされた黒とトレラの間に割り込んだ大和がヘイトを飛ばす。

 が、トレラはその大和さえあまりの衝撃に耐えきれず吹っ飛ばしてしまう。


 宮ネェとチカがすぐさま二人に回復を飛ばし、状態異常を解除する。何とか起きあがった黒が、再びトレラをおびき寄せ大和が追撃を逃れる。

 

 このままではマズイ。

 二人共、トレラが突撃する度に弾き飛ばされHPが半分以上持って行かれている。どちらかが少しでも遅れたり、宮ネェたちのMPが尽きれば、待っているのは死だ。

 どうすればいい? 何か、何か打開策はないのか?


 必死に視線を動かし、トレラの周囲や室内を見回す。

 トレラが変身する前までなかったものを探し、ある違いに気付く。

 無色が二個黒・白が各一個ずつの三種類にわかれた水晶が、四本の柱の上に浮いている。


 これを壊せば、いけるはず。だが、どの色を壊せばいい? 間違えば、間違いなくトラップが発動するか、即死だろう。どこかにヒントが!

 今までの経験から、どこかしらにヒントがあるはずだ。それもトレラの周囲に! 

 

[[風牙] どうする?]

[[源次] タゲ固定はヘイトでできるだろうけど、きつそうだぞ?]

[[宮様] MP5わぃよ!]

[[†元親†] おれも!]

[[キヨシ] 帰還するか?]


 帰還も視野に入れるべきだろうけど……それなら試したいあの水晶の破壊を。でも、どれを壊せば?

 黒のヘイトが入り、トレラがそれに反応して剣を持ち降りかぶった。

 瞬間トレラの兜についた角が白に光る。


[[ren] 柱・白の水晶壊して!]


 一か八かの賭けだが、水晶を壊すよう指示を出す。

 間髪おかず私の声に突き動かされ、キヨシ・さゆたん・シロ・聖劉他、水晶の近くに居たメンバーが水晶に攻撃を加えた。

 僅かな攻撃でパキっと音を立て崩れた白い水晶。それに続き、他の水晶も壊れ柱の上の水晶は四つとも割れてしまった。


 タイミング良く、大和とトレラがぶつかる。

 剣と盾がぶつかり音があがるも、大和が吹っ飛ぶ事は無く、無事タゲがとれていた。

 それを見たメンバーたちが、トレラへ攻撃を開始。

 ひとまず何とかなったと安堵しつつ、新たな水晶が出来ていないか柱を確認する。

 今はまだ、新しい水晶は出来ていない。今後の事を考え、時間を見て水晶の確認は必須としておく。


[[シュタイン] 水晶が、鍵であるか……ふむ。中々面白いのである]

[[村雨] こいつは物理通るなw]

[[さゆたん] 魔法も普通に通るでしゅw]

[[大次郎先生] 宮たち交代でMP回復

       大和タゲそのまま固定で、もし外れたら黒よろしく]

[[宮様] わかったわw]

[[†元親†] わかったぜー!]

[[黒龍] k]

[[大和] うん]


 一時は撤退も考えていたメンバーたちの総攻撃に、トレラのHPが徐々に減り始めていた。


 バフを更新し終え、一息ついたところで、二段階目のトレラについて自分なりに纏めてみる。

 二段階目のトレラは、物理・魔法共に問題なくHPが削れる。

 トレラを初撃で受けるためには、博士の言う通り角の色と水晶がトリガーなのだろう。

 角の色に合わせ、水晶を壊す事でトレラのスキルの一部が無効になったのではないだろうか?


 もし、あの時点で間違た水晶を壊していた場合どうなっていたかは考えるだけで恐ろしい。

 今の所このボスを狩るには、最低でも二人の盾と二人の回復が必要。

 水晶の沸き時間に関してはまだまだ、今から調べる必要があるけど……。


[[ren] 水晶の沸きに注意。大和と黒は角の色に注意して]

[[ヒガキ] 怖いですね]

[[宮様] 隠れる訳じゃなかったのねw]

[[鉄男] こいつやたら柔いw]

[[ティタ] でも、よくren気付いたね]

[[さゆたん] 偉いでしゅよ!]

[[黒龍] 水晶と角とはなー]

[[ren] まぁ、まだ分からない事もあるけど]

[[大次郎先生] 助かった]

[[キヨシ] 俺が謎を解いてやるぜ~!]

[[春日丸] 何がわからんの?]


 注意を促したところで、攻撃しながらも気の抜けた会話がはじまる。

 春日丸の質問に、無色の水晶について答えると皆して唸り声を上げた。

 白・黒は一個ずつで無色だけが二個あった事。これがどう言うことに繋がるのか、正直わからない。

 

 一応注意して見て置いて欲しいと伝え話を区切り、討伐に集中することにした。


 二回目の個別バフ更新時にトレラを囲んでいた全員が、HPの六割を削られ吹き飛ばされる。

 慌てて、水晶を確認すればリポップしていた。


[[黒龍] 黒だ!]


 黒の声に、さゆたんとキヨシが即座に反応し、魔法で水晶を攻撃するが壊れない。

 急いで、刀を取り出し水晶に斬りつけようとしたところで、水晶に矢が複数本刺さる。

 すると、それまで壊れる素振りを一切見せなかった水晶にヒビが入り割れた。


[[宗乃助] 物理でござるな]

[[源次] 物理だな]

[[ren] 水晶の処理は、シロと聖劉に任せた。

    多分12~15分の間で水晶沸く]

[[白聖] おうw]

[[聖劉] 任せといて~w]

[[大次郎先生] k。12分タイマーセットした]

[[大和] 僕15分でした]


 二人がタイマーをセットしてくれた事で、正確な時間がわかるだろう。

 これでなんとなってくれればいいけれど……未だ不安がぬぐえない私は、トレラの動きを出来る限り観察する。

 現在のトレラのHPは50%を切ったところだ。三段階目が来るとすれば、50%を切ったあたりのはず。


 そう言えば、あのアイテムはいつ使うのだろうか……? 一個500kもしたのだ、ボスで使うアイテムであって欲しい。

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