第191話 最強はアップデートを楽しむ⑬

 二段階目のトレラと戦闘開始から丁度30分が過ぎた。そこで再び、水晶が沸き、今回もまた白だった。

 黒の指示で迅速に、シロと聖劉が白の水晶を壊しトレラの強撃を回避する。漸くHPが30%まで減りトレラが三度目の変身を開始した。

 何処からとなく流れるオドロオドロしいパイプオルガンの音に、周囲を見回す。

 トレラはと言うと、黒霧りに包まれ私たちでは攻撃できない位置に浮かんでいた。


[[キヨシ] なぁーなー。次何が来ると思う~?w]

[[さゆたん] 嫌な予感がするでしゅw]

[[大次郎先生] 気抜かないように!]

[[村雨] 早く、早くこいやあああああ!]


 パイプオルガンの音が終わり、空中に浮いていたトレラの繭が弾け飛ぶ。

 そこには、ボロボロの黒いローブに豪奢な杖を携え、赤い瞳をした骸骨がふわりと浮いていた。


 漸く最終形態か。そう思ったのも束の間、宮ネェが本気で嫌そうな声音をあげる。

 

[[黒龍] クソかw HP全快してんじゃん!]

[[ティタ] あぁ……また1からってこと?]

[[源次] なえr]

[[風牙] まぁ、落ち付けってw]

[[大次郎先生] 仕切り直しか……]

[[ミツルギ] ウエェ。萎えるっすねw]


 今までのボスでは無かったHP全回復と言う現象にメンバーたちもまた、新しく沸いたトレラに次々クラチャで愚痴を零す。

 愚痴を零しつつも帰るつもりはなさそうなので、好きなようにさせる。


 魔道士風にクラスチェンジしたトレラは、完全にリッチだ。

 黒が三度目のヘイトを入れたところで、トレラが黒に向かい瞬間移動する。

 攻撃事態は魔法で詠唱は遅いし、威力もそこまではない。一撃あたり黒のHPの20%前後だ。

 これなら宮ネェ一人でも余裕で回復できる。


 楽勝ムードが漂う中、トレラが突然誰も居ない壁際へテレポートで移動する。

 そこで大きく手を広げ【 我を屠ろうとする愚かなる者どもに、粛清を!! 】と言うと、突如室内に20体ものトレラが沸いた。


[[†元親†] 本物ドレ!]

[[黒龍] タゲ外れてやがる]

[[大和] 同じく~]


 とにかく近場から殲滅しようという先生。

 その声に黒が近くの一体へ近づこうと一歩踏み出した刹那、部屋半分のトレラが反応し、魔法を放つ。

 一撃は大したことのない魔法だが、それが大量に押し寄せれば即死だ。


 舌打ちした黒が慌てたように飛来する魔法に対して、スピーゲン マジック ディフェンス――三次職盾専用スキル。自身に降りかかる魔法のダメージを大幅に減少させる。効果時間15秒――を発動した。


[[黒龍] いてぇ!]

[[大次郎先生] どうしろって言うの?]

[[ren] 宮ネェ、バリア>そのままチカ繋いで!]

[[宮様] k]

[[†元親†] わかった]


 攻撃がやむことなく、時間だけが経過する。

 黒の悲鳴に、先生が焦る。

 焦り周囲が見えなくなる二人を落ち着かせるように、声を張り上げた。


 全滅は避けるべきだ。残された時間はあまりない。どうにかして斬り抜けなければ……。必死に打開策を探し周囲を見回すが、これと言った方法が無い。どうする? どうすれば……!


 チカや宮ネェの回復魔法が幾筋も飛ぶ。が、効果切れにより黒のHPが一気に20%まで減った所で、宮ネェのバリアが発動され、九死に一生を得る。


[[ティタ] あぶな!]

[[白聖] 本物どれだよ]

[[黒龍] こえぇよぅ!]

[[大次郎先生] 撤退しよう]

[[宗乃助] 待つでござるよ。本物は、右奥の柱のやつでござる!]

[[村雨] いくぞ!]

[[宮様] 手が震えるわ……]

[[†元親†] ガクガクブルブル]


 宗乃助の声に、皆がハッと顔をあげる。宗乃助のターゲットマーカーがトレラ本体を指し示す。

 バリアの効果があるうちにトレラへ走る。全員が動く事で、全てのトレラが反応する。

 タゲは、バラバラでバリアが切れたら、確実に半分は死にそうな勢いだ。


 がしかし、本体を攻撃すると同時に周囲のトレラが動きを止め消えた。

 周囲の攻撃魔法がなければ、トレラはただの人に近い。範囲魔法はあるが、なんとかなる程度の攻撃だ。


 宮ネェのバリアが切れる直前慌ててチカを止め、二回目に備え準備だけして貰う。ヤケクソ気味にトレラ本体へスキル連打するクラメン達によってトレラのHPがガツガツ削られていった。


 意外と、最終段階のトレラは打撃に弱い上に、HPが低くいようだ。

 このまま……そう思った刹那、またもトレラが移動し雑魚が大量に沸く。

 トレラが消える間際、私たちにまで移動阻害のデバフがかかるのは面倒だがこの程度ならば、解除のスクロールで解除できる。


 さっきの倍はいるだろう雑魚の数に、全員が動きを止めた。

 近くにいたシロの舌打ちが聞こえた。

 黒たちは、さっきの二の舞にならないようぴたりと止まり、宗乃助に視線を集めていた。


[[宗乃助] 誰か、ペルケプティオのレンズ使うでござるよ]

[[宮様] なるほど、あのゴミみたいなアイテムで

    本体を見分けるってことね?]

[[ミツルギ] なるほどっす!]

[[ベルゼ] 肉弾戦してーなぁー]

[[ヒガキ] 色々と罠が多いですね(汗]

[[村雨] 使うわ。タゲ入れたらチカバリアよろw]

[[†元親†] わかったーw]


 宗乃助の声にあのアイテムの使い方がわかる。村雨が使うようだが、せっかくなので試しに私も使ってみる事もする。


 使い方は簡単で、アイテムボックスからルーペ状になったペルケプティオのレンズを一枚取り出し、トレラを見るだけだ。

 覗き込んだレンズで周囲を見回す。すると本物以外白い炎に見え、本物が何処に居るのか一度で把握できると言った感じだ。


 既に、村雨のターゲットマーカーが本物を示し、チカのバリアで詰め寄ったクラメンたちによってフルボッコにされているのだけれど……。


 ペルケプティオのレンズのお試しができたところで、バフを更新する。

 討伐を開始して、約一時間。

 最終形態になって、十五分といったところか? 漸くトレラとの戦いも終わりそうだ。


 初見のボス討伐で、撤退する事も誰一人として死ななかった事も非常に珍しい。

 

 断末魔の声を上げたトレラが、黒い霧となり天に登って行く。

 LAと取ったらしい源次が「俺の勝ちじゃぁ!」とよく分からない勝鬨を上げた。

 周囲のメンバーたちは、舌打ちすることなく「あぁ、負けた―」なんて言っている声を聞く限り何かしらの勝負をしてのだろう。

 そんなクラメン達の声を聞きながら、トレラ討伐のドロップアイテムを確認するためシステムチャットに視線を向けた。


【 廃れた地下研究所のボス クリュエル トレラ を討伐しました。 】

【 27021569ゼルを獲得しました。 】

【 テレポート の イヤリングを獲得しました。 】

【 クリュエル トレラの杖 を獲得しました。 】

【 クリュエル トレラのローブ を獲得しました。 】

【 闇リング を獲得しました。 】

【 サモン リッチ を獲得しました。 】

     ・

     ・

【 シールド クラッシュのスキル書 を獲得しました。 】



 全部で20個ほどのアイテムがドロップしていた。

 内容的には、善悪のボスより少しだけお金が多いのと専用のアイテムがある事。後は新しく追加された共に戦ってくれるペット――サモンがドロップした事ぐらいだろう。


 サモン・リッチか……Lvが上がる毎に、見た目が変わるらしい愛らしいサモンやペットだけど、初期見た目がトレラだったら誰も買わなそう。

 成長する度に、言葉を話すらしいし……泣き声が「ぐふっ」とか「うひひ」とかだったら……想像しただけで、要らないと切り捨てたくなる。


 誰も買わなかったら転売目的で買おうかな程度に、ドロップ品の項目を見つめ視線を外し帰還した。

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