第189話 最強はアップデートを楽しむ⑪

 動かなくなったトレラが、またも首から上を回す。

 視線の先には、シロが……。

 顔を引き攣らせるシロに向かい身体を回転させたトレラ。

 僅かな間、二人が見つめ合う。


 そしてトレラは【 イイデスネ……私の研究の生贄にしましょう! グフフフ 】と笑いシロの方へ走りだした。


[[白聖] ま、まじかよおおおおおお!]

[[さゆたん] 怖かったでしゅ! 短剣振りまわしてくるでしゅよこいつ!]


 久しぶりに焦る声を上げたシロが、トレラに捕まらないよう必死の形相で走った。漸く開放されたさゆたんが、本気で引いた顔をしながら元の位置へ戻る。


 黒と大和がなんとか、タゲを取ろうとヘイトを連発するもトレラは止まらない。

 

 何か……何か、追う理由があるはずだ。そう思いはするものの、理由がわからない。

 追われるシロの足止めは試みるメンバーたち。

 だが、やはりトレラは止まらない。


[[ren] さゆたん]

[[さゆたん] どうしたでしゅ?]

[[ren] 追われる前に、何したか教えて]

[[さゆたん] そうでしゅね……]


 そう言って、考えるように腕を組んださゆたんが首を傾げ「いつも通りでしゅよ」と返した。

 いつも通りか。それなら、攻撃はしていないはず。

 それ以外になにかかわったことはと考え、ある事を思い出した。


 トレラが沸く直前、さゆたんは闇属性防御のPOTを飲んでいた。それはシロも同様で……って事は、飲んだ順に追いかけられる? 

 いや違う。それを言うならトレラが沸く直前、さゆたんよりも先に黒がPOTを飲んでいた。じゃぁ、なんで……?

 

 とりあえず、試しに黒に予備のPOTを飲んで貰う? うーん。わからない。

 そこに、さゆたんが思いだしたのかクラチャに「自己バフ入れたでしゅ」と発言した。それを聞いたシロが、俺も入れたわ! と更に続く。


[[黒龍] バフか! ちょい試してみるわ]


 そう言うと黒が、徐に自己バフを入れる。

 バフに関しては流石の私も把握していないが、黒がバフを入れた途端トレラがぴたりと止まり、黒へ向かい走り始めた。

 それを見ていた周囲の私たちは、バフで間違いない事を悟る。

 

[[大次郎先生] バフ入れたらクラチャで報告!

       黒悪いけど、都度バフ入れて引き寄せよろ]

[[黒龍] k]


 すぐさま先生がクラチャで指示を出す。

 クラチャの内容に頷く皆は、黒へ辿り迫るトレラに攻撃を開始した。


 一方で、黒へ攻撃を仕掛けるトレラは、両手にナイフと思われる短剣をどこからか取り出し、斬り付け始める。

 その動きは、俊敏な上打撃が強く、攻撃を盾で受けているにも関わらず黒のHPがガンガン減る。

 こんな減り方で、魔法を使われたらひとたまりもない。


[[宮様] この状態だと、ヤバイわね。今は良いけど、後が無くなるわ!]

[[大次郎先生] チカ、補助入って! その間に宮、POTで回復]

[[†元親†] わかったぜー!]


 メインで回復を受け持つ宮ネェが悲鳴に似た声音で訴えるも、打開策が無い状態だ。

 なんとしても耐えて貰うしかない。


[[聖劉] こいつ弓だとダメ通るw]

[[村雨] うりゃああああああ!]

[[ティタ] 斬りつけても、肉に武器がはじき返されるんだけど]

[[白聖] スキルだと更にダメ通るぞ]

[[宗乃助] 近接武器では通り難いでござるな。スキル使っても、微増でござる]

[[風牙] 弓のがよっぽどダメ通るぞ]


 クラチャの会話を見る限りトレラには、近接武器が効きにくいようだ。

 その代わり、魔法攻撃と弓のスキル攻撃は効いているように見える。


 聖劉とシロの言葉に、次々と弓に持ち替え攻撃をするメンバーたち。

 これなら黒が、無理してその場に留まりダメージを受ける必要はない。

 黒が周囲を走りまわり、魔法と弓でトレラを攻撃させれば、宮ネェたちのMP温存にもなるのではないだろうか?

 そこまで思考して、クラチャで指示をだす。


[[ren] 黒、走りまわって!  全員出来る限り、弓・魔法で攻撃して

   その間に、宮ネェとチカはPOTでMP回復、 余裕があれば攻撃も]

[[黒龍] k]

[[宮様] わかったわ]

[[†元親†] 魔法ぶちかますぜー!]

[[シュタイン] 漸く出番であるなw]

[[キヨシ] いくぜぇ!]

[[ゼン] き、きよしくん、ちゃんと考えてないとMP切れるよ!]


 指示後すぐに黒が走り始めた。黒がダメージを負わなくなり、宮ネェとチカがMPPOTで回復を計る。

 それとは対照的に、キヨシ・さゆたん・ゼンさん・博士が魔法を使いMPを減らす。シロ・聖劉も同様に……。

 

 そのお陰で、徐々にトレラのHPが減りだすもまだまだ九割と言った所だ。

 バフの更新時間に合わせ、更新を開始。

 トレラが動きを止め、私の方を向いた。


[[ren] あぁ、やっぱりか]


 まだまだ、バフは終わっていない。が、そんなのはお構いなしに、トレラがこちらに走りよる。

 どうしよう、走りながらでもバフは出来る。けれども、流石に個別はしんどい。

 個別は本人ではなくメンバーに入れる。

 それにもトレラが反応する可能性はあるのだろうか? もし、あるのであれば、もう走って更新するしかない。

 とりあえず一度試してみようと思い、トレラを引きつつ全体バフを更新を再び始めた。


[[ren] 黒、私が個別自分に入れた所でバフ使って]

[[黒龍] おうw]

[[大和] 実験だねぇw]

[[春日丸] よく、アレに追いかけられて平然としてられるなw]

[[源次] オリハルコン並みの平常心の持ち主!]

[[さゆたん] 死神でしゅよ?w リッチより上でしゅww]


 必死に考えて行動しているのに、何故毎回ディスられるの?

 首を傾げたくなる言葉の数々がその後も飛び交い言われたい放題だが、トレラを引き攣れた状態でバフを入れ走るのがやっとなだけに突っ込みを入れ損ねてしまう。

 

 漸くバフが終わり、自分へ個別のバフを入れたところで黒にクラチャで合図を送った。

それを受けた黒が頷きすぐさま、バフを使いトレラのタゲが外れる。トレラが黒へ向け走りだしたのを確認して、個別のバフを黒へ入れた。


 結果、トレラは黒を追いかけ回したまま立ち止まる事は無かった。

 それを踏まえ次の更新は、自分の個別を入れた段階で黒へ合図を送る事を決める。


 武器を弓に変更したメンバーたちに、武器の属性を聞きそれに合わせたインヴィスを入れた。


[[鉄男] SSんだよなーこいつ]

[[シュタイン] 段階があるのであるか?]

[[大次郎先生] この状態が一段階なら、真面目にヤバイと思う。

       次の段階が、何処で来るかわからないから全員注意ね!]

[[宮様] 確かにそうね]

[[†元親†] 変身か! 黒であの減り……。俺らが受けたら、即死級じゃん!]

[[ベルゼ] おっさんがリッチか。アレの攻撃食らいたくないな]

[[風牙] 70、60、50は注意が必要だな]

[[源次] ドラゴンレイドの時みたいに、属性の変化も気をつけないとだな]

[[ティタ] 物理、魔法、遠距離にもだよ!]

[[宗乃助] でござるな]

[[ヒガキ] 予備作っときますか?]


 鉄男の言葉に、ハッとする。

 SSとの見た目が違うと言う事は、これが一段階で二、三段階とある可能性は高い。


 初見のボスではそれがいつ、どの%で変化するのか分からない。

 その事に先生の発言で皆も気付いたのだろう。

 全員の顔が、更に引き締まった気がする。


 先日のドラゴンレイドでは、ロゼが既に知っていたからこそ形態によって魔法や物理、遠距離物理等に別れても攻撃する事が出来ていた。

 ガーゴイルの属性変化には、シロが気付いてくれたからなんとかなった。

 

 三PTしか入れないから、トレラを甘く見ていた事に気付く。

 ここからは、今まで以上に真面目にボス討伐が無事に終わるよう取り組む事にした。


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