第185話 最強はアップデートを楽しむ⑦

 狩りを始めてしまえば二時間なんてあっという間で、第二陣の先生、宮ネェ、宗乃助、ヒガキさんが戻る。

 入れ替わるように、チカ、聖劉、村雨が寝袋に入りリアルへ戻った。


 戻ってきた人数に対して寝袋に入るのが一人少ない状態になったため、私は一時的にPTを抜け帰還することにした。

 理由は簡単で、解除スクロールの購入が目的だ。

 街に戻り、補充と装備の耐久を戻して地下入口へ。

 

 街の中を右往左往しながら、入り口を潜り抜け階段を降りた。

 マップも購入済みだし、サクサク一階を進み雑貨屋NPCへ到着。

 予備含めて何枚買おうか悩み、クラチャで相談した。


[[黒龍] 戻り。腹いっぱいで眠いわw]

[[ティタ] あ、黒戻ったなら俺一回落ちる~w]

[[ren] 解除スクロール何枚ずつぐらい欲しい?]

[[大次郎先生] なら、引き終わって交代で!]

[[大和] ん~。500枚は欲しいかもw]

[[黒龍] 解除スク?]

[[宗乃助] ファントムのデバフ解除用でござるなw]

[[さゆたん] 戻りでしゅw]

[[ren] 分かった]


 大和曰く一人頭五百枚あればいいらしいので、とりあえず一万枚を購入。

 少し多いが残りは予備で、欲しい人が居れば分ける形でいい。

 欲しい物を手に入れ後は、九階まで登るだけ。

 トランスパレンシーと移動上昇のバフを追加して移動をはじめた。


 登り始めて三十分、六階に到着する。

 トランスパレンシーを入れていても、見破るモブは居るようで引き攣れて登る訳にはいかず、階段を使い対処した。

 クラチャでは、黒が足止めに四苦八苦しているようだ。数十秒に一度の割合で、愚痴っぽい呟きが流れている。

 私的には、黒よりも解除する宮ネェとチカの方が大変だと思うけど……。

 

 そんなクラチャを楽しみながら、六階の階段でモブを処理していると階段の側にPTが見えた。

 流石にここじゃ邪魔になるし、右の小部屋へ移動しよう。

 モブを引っ張り階段から、少し離れた小部屋に向かう。そこなら、登るPTにも邪魔にならないだろう。

 そう思っていた矢先、引いていたモブにヘイトが叩き込まれ攻撃をしていたモブ以外全てを引かれてしまう。


「助けますね~♪」

「ちょ……」


 助けを求めていないのに、勝手に助けられてしまった。

 モブの処理を終え、モブを引いたPTを見ればそちらはまだまだ処理中と言った状態だった。

 手を出していいのか悩むも、元は私が引いたモブだしいいだろう。

 そう思い、攻撃を再開する。


「危ないですよ! 私たちなら大丈夫なので!」

「いや……私が引いたモブだし……」

「ソロでこんな所に登るなんて! 危ないですよ? ですよね?」

「いや……これ、見た目だけ……」

「PTメンバーとはぐれたんですか? 入り口まで送りましょうか?」

「いや……大丈夫です。あの一人で平気……」


 問いかけに答える間に別の人間が声を上げる感じで会話が進み、全く私の話を聞かない。


 私に殴りかかるオークウォーリアゾンビに、再びヘイトがあがり盾が私とモブの間に入り込む。

 どう見ても、私を庇ってくれているようだが……必要はない。


 装備の見た目のせいで、かなりの誤解を与えてしまったようだ。

 人と話すのは得意ではないが、倒し終わったら装備についてちゃんと説明しよう。


 そう気を取り直し攻撃を仕掛ける。相手はオークジェネラルゾンビだ。ゾンビであれば、アンデッド デヴォーション(+20)が使えるので大したことは無い。

 杖を持ち替え魔法を発動しようとした刹那、短剣装備のATKが「危ない!」と叫びながら私を弾き飛ばしモブの攻撃から庇う。


「だ、大丈夫? 俺の事は気にしないでいいからね!」

「はぁ……どうも?」


 弾き飛ばされ、魔法の詠唱が中断されてしまい呆然と彼を見れば超いい笑顔で、サムズアップする。

 ダメージを受けたであろう彼に対しPOTを差し出した。


「いやいや、大丈夫だよ。うちにはが付くほど優秀な回復がいるからね!」

「ふふっ。まだ超じゃないわよ! いつかあたしもみたいになるの!」

「アハハハハハ! そのイキだ~!」

「は、は、ははは」


 どこかで見たアニメの正義の味方よろしく、寒い会話をする彼らに乾いた笑い声で答える。


 見る限り彼らの戦い方は、私たちのそれとよく似ていた。

 盾が使うヘイトのタイミングもいいし、回復職と魔法遠距離職が前にでないのもいい。

 チカに爪の垢でも飲ませたいところ……。

 ローブ職を守るように、双剣使いと短剣職が周囲を固め少し離れた位置から弓が間引く感じも本当によく似ている。

 装備的には二次から三次に上がって間もない感じだ。けれど、それをカバーするように動き連携も悪くない。


 漸くモブの処理が終わり、彼らにお礼を伝えた。

 ソロなら範囲で、今の半分以下の時間で終わっていたけど、まぁ手伝って貰った手前感謝の心を表現しておくのもありだろう。


「どうも、ありがとう」

[[さゆたん] 戻ったでしゅw]

「気にしなくていいよ! 困った時はお互いさまっていうだろ?」

「そうよ。ところで、PTメンバーは何Fにいるのかな?」

[[宗乃助] おかでござるよw]

「9Fですけど?」

「9Fだって!」

「危険だわ!」

「一人では行かせられないな!」

[[源次] ren。お前草生えそうな会話してんなw]


 危険だ! と表情豊かな様子で盛り上がる彼らの横から、とても楽しそうな源次の声が聞こえた。

 いるなら、出てこいよ。そう源次に毒づきながら彼らに大丈夫であることを伝える。

 

[[黒龍] どうした?]

「いや……大丈夫な――「無事にPTメンバーの所まで送ってあげるよ! まかせて?」」

[[源次] ぶはっ! wwwww]

「えっと……近くにクラメンがいるから大丈夫です」

[[宮様] 源次、どうしたの?]

[[源次] やべぇw renの敬語w 笑い過ぎて酸素が!!]

[[さゆたん] どうしたでしゅか?w]

「そうか! とにかく、一人で行動してたら危ないぞ!

 クランの人が来るまで俺たちが守るから安心していいぞ!」

[[キヨシ] renの敬語? 意味わかんね~w]

[[源次] ……ぶぶっ]


 ひとしきり笑い終わったのか、源次が見たままをクラチャに流し、大量の草が生える。

 そのことにイラッとしつつも源次がいることだし、ここで別れるのが最善だろうと考えた。


 これ以上一緒にいると彼らの狩りの邪魔になるし、それに……こう言っては失礼だが、助けてくれたのも一緒にいるのも善意なのだろうが彼らの言動が私には痛かった。


 徐にアイテムボックスから取り出したディティクションスクロールを投げ、魔法が発動される。

 一瞬の発光の後、私の隣に源次が姿を現した。


 その姿をみた私は、源次を二度見した。敢てなのか、わざとなのか装備を街着にしている源次は、私と視線が合うとニヤっと笑う。

 その顔にはどう見ても、ここはのっかるべきだろ? そう書かれている。

 あぁ、わざとか……本当に、こいつはっ!


「どうも、うちのマスターが世話になりましっぷった!」

「どうも、円卓の騎士所属のハーニマだ」

「これはご丁寧に……Bloodthirsty Fairy所属、源次だ。

 こいつは、マスターでren。よろしくw」


 頭を下げる源次が言葉尻で吹きだす。

 そんな源次に気を止める事無く、凄くいい笑顔で盾の人が右手を差し出し自己紹介をしていた。

 握手を交わす源氏もまたクラン名と自己紹介を済ませ、私の頭に手を置いて私の紹介までしてくれる。

 クラン名を聞いた瞬間「え……?」と呟き彼らの動きが完全に固まる。

 

[[†元親†] まだー? スクまだなのー? もう、俺、耐えられない!]

「えっと……Bloodthirsty Fairy?」

「あぁ」

「うそでしょ?」

「マジかよ!」

[[ren] もう少し待って]


 チカの声にもう少しだけ待つように伝え、源次と顔を見合わせ階段を上りはじめた。

 が、一歩階段をのぼったところで源次が振りかえる。


「まー、あれだ。

 助けるなら相手が「h」もしくは「help」って出してる時だけにしとけよw じゃないと、横取りって思われるからなw」


「じゃぁな!」そう言って、片手をあげコートを翻しカッコよく階段を登り始めた源次が、不意に前のめりに倒れた。

 その姿は物凄く不格好で……ついつい「ぷっ」と笑ってしまった。


「笑うなよ、ren!」

「あ……ごめんなさい」

「いや、折角カッコよく決めたのにww」

「はぁ……で? 何?」

 

 笑う私を放置して、階段に座った源次が頭をガシガシ掻き、倒れた原因の短剣使いへ視線を上げる。

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