第183話 最強はアップデートを楽しむ⑤

 まずは、イベントを楽しむ前にやるべき事をやる。

 四次職になるためのサブクラスを選ぶことだ。と言っても、既にサブクラスは決めているので神殿に向かい一次から三次までさくっとあげる。


 二次を三回分の経験値は無事に貯められたので問題ないだろう。そのお陰で三次職が30%しか貯まらなかったのだけど……。


 クラチャで挨拶を流し、さっそく転職に向け動き始める。

 メンテナンスが開けたばかりだ。既に神殿も教官も込み込みだろうと予想しつつ神殿に向かえば、案の定だった。


 それでもなんとか人に埋もれながら、サブクラスに転職を果たす。

 一度目の一次は、ウォーリア。二次は、ブシ。

 二度目の一次は、メイジ。二次はウィザード。

 三度目の一次は、ウォーリア。二次はドラグナー。

 三度目のサブクラスを終え三次を詮索する。

 これで漸くフォルティッシ ドラゴン マスターになれた。


 転職分は、事前に貯めておいた収納された経験値スクロールを使いLvをあげているので苦労もへったくれもない。その場に留まり転職する度に経験値スクロールを使うだけだ。


 無事三次職になり、再びドラマスを選択し終えた私は、次に教官の元へ向かった。

 目的としては三次職で選択する魔法書をは覚えさせるためだ。ここで、何を覚えさせるか非常に悩ましいところではある。

 

 欲しいとすれば、回復系なのだが……メイジのヒ―ルを覚えた所で所詮は一次だ。回復するHPは20しかない。

 INTの振り分けが多ければ、もう少し上がる可能性はあるのだが三次出使うには無理がある。

 ドラグナーにも一応回復はある……ただし、自分のHPを使っての回復だ。


「あ~。どうしよう」

「何が?w」

「……?」


 教官の前で唸る私へ、聞き覚えのある声が笑いながら答えた。

 その声に顔を上げれば、右前方に片手をあげた元クラメンのベルゼがいた。


「よ! ren、久しぶり」

「うん。久しぶり……生きてたんだ?」

「まーなんとかなw」


 相変わらずの姿にベルゼを見上げる。

 私の倍はあろうかと言う身長に、筋肉マッチョの身体なのに、頭には丸い耳があり、お尻には丸い尻尾がついている。

 人目で、あぁ、こいつ熊だなとわかってしまう。


 そう言えば、この間のドラゴンレイドの時は、ベルゼいなかったし……休止してたのかな? アップデートで復帰するって言うプレイヤーは多いし戻ったのかもしれない。


「で、何悩んでたんだよ?w」

「ん~。回復欲しいけどサブのスキル何にしようかなって」

「あぁ~。なるw 四次用の三次サブ何にしたの?」

「ドラマス」

「は?」

「どうせなら、装備替えなくいいのにしようとおもってw」

「また、キチガイっぽいことしてんなw」

「ブシのスキルの”リョシン”って……回復に入るの?」

「あ~どうだろう? アレって回復なの?」

「いや、疑問に疑問で答えないで?」


 お互いに疑問符をつけつつ会話を交わす。


 二次職業ブシには、刀装備時のみリョシンと言うスキルが出る。

 リョシンは、範囲スキルで半径1.5メートルほどしか効果は無い。

 が、枠内にいる全員に約一分間の間五秒おきに、約100のHP回復を齎してくれる。

 結構使えそうなこのスキルだが、枠外にでるとすぐにその効果はなくなる。その上、範囲も狭く効果時間も短いので微妙だった。


 その後三十分ほど考えながらベルゼと話をしていたが、考える事が面倒になり……もとい、今はまだ経験値が足りない上に、新規狩り場でのイベントも参加したい。と言う事で後回しにする。

 隣に居たベルゼに「またね」と手を振り、教官を後にした。


 ヘラの街から新たに出来た街【 アフロディーテ 】に移動する。

 少しの暗転の後視界が変化した。


 公式にアップされていたのは間違いなくここだろうと思える緑豊かな公園に花々が咲き乱れ、その中央には白亜の噴水。

 噴水の上部には、ツボを持つ女神が置かれている。

 その周囲には、神殿のようなこれまた白く美しい建物が並びどの路地を見ても花壇があり花々がそよ風に揺れていた。


 街往くNPCたちは、古代ギリシャの衣装のような……どこか頭がいかれ……じゃなかった。片方の肩から膝辺りまでの布を巻き、頭頂部から額まで花冠のような冠をつけている。

 冠がなければ、頭がいかれたなんて思わなかったと思う。


 そんな街中を軽く散策して回り、鉱山への道を聞いて回る。

 新規狩り場と言っても、一次・二次・三次と狩り場が別れるこのゲームでは、三次職の狩り場を探す必要があるためNPCからの情報収集が重要だ。


 酒場や雑貨屋、鍛冶屋を回り大まかだが狩り場の場所を聞き出せた。

 一次の狩り場は、街から南西の場所にある鉱山。

 二次の狩り場は、街から北北東にある山間部の洞窟

 三次の狩り場は、街の地下鉱山跡らしい。

 入り口は、街の北門の手前にはある階段だとNPCは言っていた。


 北を目指し歩く私の左右にはいつの間に来たのか、微笑むさゆたんと村雨が……。

 これは、クラハンって言われそうだなぁ……めんどくさい。

 どうやって回避しよう。できれば、ソロで稼ぎたい。などと思いを巡らせイベントNPCとお金になりそうなクエストNPCを訪ねクエストを受けた。


「ren。黙っとくから狩りしようぜ!」

「renちゃん。でしゅw」

「k」


 内緒にするから狩りに行こうと言う二人に、回避を諦め了承する。

 私の考えはそんなに表情に出ていただろうか?


 PTを組むと地下へと潜るための階段を下へ進んだ。

 階段を下り終わり周囲を確認する。

 鉱山入り口は、舗装されているのか石造りの壁と床で覆われていた。所々見える明かりは松明だろう。


『そうでしゅた。renちゃん靴返しておくでしゅよw』


 そう言ったさゆたんから、トレード申請が来ると以前貸した靴が返却された。


『いいの?』

『キヨシとチカから同じ靴が返ってきたから大丈夫でしゅw』

『何? なんかあったの?』


 もう大丈夫なのかと聞けば、大きくさゆたんは頷いた。事情を知らない村雨の声にさゆたんは事の経緯を話す。

 それを聞きながら、マップへ視線を向ける……が、マップは真っ黒のままたまに、赤い点と緑の点を表示するだけだ。


『なるほどな~。あいつらやるじゃんw』

『マップつかえない。NPC探そう』

『でしゅねw

 モブは見えるけど……道はわかんないでしゅw』

『四方のどこかにはいるはずだ!』

『でしゅねw』


 新しい狩り場では、マップ機能が使えないためまずはマップや期間の護符を販売する雑貨屋NPCを探す。

 マップの有りなしはかなり重要だ。現状だと距離も何もわからない。


 モブとの距離だけは分かるので、とりあえずバフを入れ ケイプ マンティスやバッド倒しながら三人で進んだ。

 ウロウロと松明が照らす坑道内を歩き、三十分かけて漸く雑貨屋NPCを発見する。


 これでやっとまともな狩りができる。そう思った矢先クラチャで黒たちが騒ぎ出す。


 その声にビクッと肩を震わせた村雨。

 ニヤっと黒い笑みを浮かべたさゆたん。

 完全にスルーする気満々の私の三人は、とりあえずクラチャを見なかったことのする事をPTチャットで話し合い決めた。


[[ティタ] クラハンいこー?]

[[宮様] ふぅ。やっとサブ転職終わったわ~]

[[†元親†] 新規狩り場いこー!]

[[宗乃助] すまんでござる。拙者既に狩り場でござるよw]

[[風牙] 俺も狩り場~w]

[[黒龍] いくかーw]

[[白聖] 俺狩り場w]

[[大次郎先生] とりあえず、クラハンいける人だけ行こうw]


 ふむ。宗乃助・風牙・シロには気をつけよう。

 他は、ここに来るにしても会わないだろうから……大丈夫なはず。そう信じて、今はNPCで買い物をする。


 NPCに話しかけ、専用の帰還の護符を十枚とマップを購入した。

 購入したマップをアイテムボックスから取り出し、記憶させる。すると、黒かったマップに坑道内の地図が現れた。

 これで迷う事は無いだろう。

 村雨とさゆたんも無事マップを購入して記憶したようだ。


『んじゃま、一度最奥までいってみようw』

『でしゅねw』

『k』


 村雨の声に同意を返し、三人で新規狩り場の探索を開始した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る