第182話 最強はアップデートを楽しむ④

 引いたモブを狩り終わり二度目の引きが終わったところで、対面にいるPTの元へ行っていた先生が戻ってくる。


『どうだった?』

『ん~。なんて言うか、三次職だけど初心者だった?』

『意味分からないわね?』


 風牙の問いに対し先生は、微妙な顔をする。

 そして口を開いた先生の言葉に、三人同時に首を傾げた。


 三次職だったけど初心者? どう言う事?

 宮ネェが、代表するように私たちの言葉を代弁する。

 そんな、私たちを前に先生はう゛~んと唸りながら腕を組んだ。


『えーっとな。

 別ゲーからの移住者で、自分たちだけで今までやって来たらしい。だから、三次で初心者って意味?』


 疑問で疑問を返すな。って言いたそうな風牙。

 何それ? そう言いたそうな宮ネェ。

 どちらにも同意したい。私も意味が分からない。


『要は、別ゲーで知り合って、このゲーム始めた。

 野良じゃなくて友人だけでPT組んでるってこと?』

『そうそう。だから、このゲームの常識とか暗黙の了解とか知らないらしい』

『ふーん』

『ほ~ん』


 曖昧な返事を返す二人の眼は、もう完全に嘘だろと思っている節だ。

 そんな宮ネェと風牙に先生は、俺は嘘言ってないぞ? と必死に弁解していた。

 その時だった。天の声――クラチャで黒――が私たちに天啓を齎す。


[[黒龍] renたち下使う?]

『いや、そんな眼されても私は、言われたまま伝えてるからね?』

[[風牙] 下って、黒たちが使ってる下の段?]

『まー、なんていうかこのゲームもいろんな奴いるしなぁ。

 先生の事信じてない訳じゃないぞ?』

[[黒龍] 下が空くらしい。使うなら、さゆと大和向かわせる]

[[ren] 行く]


 相談するまでもなく、この部屋の広さで2PTは辛い。

 ただでさえ一部屋のモブを全て引いて狩りをしても、沸き待ち時間があったぐらいだ。

 それなら一部屋に階段が設置され、二つに分かれたその部屋を使った方が良い。

 部屋自体も広くモブの数がここの二倍は多い事から当然の選択と言えた。 

 

『移動しよう。半分じゃ話にならない』

『だな』

[[黒龍] じゃぁ、大和とさゆ頼むな―]

『わかった。密談で伝えておく』

[[大和] わかったー]

『よろ』

[[さゆたん] 了解でしゅよw]


 狩り場が取られないよう大和とさゆたんが、移動の間だけだが下の部屋で狩りをしてくれる。

 さっそくトランスパレンシーを入れ移動を始めた。


 移動中狩り場を見れば四次職のアップデートが近くなり、カンストしてないプレイヤーの面々は必死に狩りをしている。

 まぁ、それだけではなさそうだけど……。


『やっぱりあのSC売りだしたせいかしら?』

『だろうなw』

『確実にあれしかないだろw』


 そう。あのSCとは経験値SCの事だ。

 クラン露店で数日前から、一日千枚を販売している。

 一応転売防止のため一人につき一日二枚までの制限をつけた。

 にもかかわらずSCの効果を知っている古参のプレイヤーたちは、露店に入荷させると同時にこぞって買い求める。

 売り始めて二分ほどで売り切れる勢いは、流石の私でも驚いた。

 

『レア品1枚5Mは、安過ぎw』

『確かにそうよね~。それは、私も10Mでいいと思うけど……。

 それにしても、仕入れで底ついてたクラン費があっという間に倍に膨れ上がったわねw』

『本当なら10Mでいいと思うけど……どうせ、2時間じゃ100%も50%もかわらないんだから』

『半分だから半額』

『ですよねー』

『欲が無いわねw』

『ま、ren以外作れないから仕方ないw』


 本物ならば10Mでいいと思う。もう手に入らない物だから……だけど、私が作った物は複製版だ。

 本来の経験値SCなら100%分の経験値を籠められる。だが、複製版では50%しか入れられない。


 宮ネェや先生の言い分もわかる。

 確かに二時間で貯まる経験値なんか……0.05%程度。100%も50%も変わらないと言うのはそう言う意味でいったのだろう。


 それを踏まえた上で、安くして枚数を稼いだ方がいいと思ったのだ。

 病ゲーでの狩りは、レアドロップなどがなければ一時間当たり1M ~3Mぐらいしか稼げない上に、三次職だけで二千枚必要になる。だからこそ、安くした。


 自分が買う立場になった場合……一枚使って0.05%しか稼げないんだよ? 100%稼ぐまでに2000枚は要る。それが一枚10Mだったら流石の私でもガチで諦める。


[[大次郎先生] さゆ、大和ありがとなw]

[[ren] あり]

[[宮様] ありがとw]

[[風牙] さんきゅーw]

[[さゆたん] いいでしゅよ~w]

[[大和] いいよ~w]

[[キヨシ] バフだああああああああああああ!

     バフがきたぁぁぁぁ!]

[[黒龍] エンチャ寄こせw]

[[白聖] バフくれバフw]


 どこの乞食だ。

 バフバフ煩いクラメンたちが颯爽と渡り廊下に消えて行く。

 後を追いかけ、渡り廊下でバフを入れた。

 バフを入れている最中、黒たちからPTの入れ替え希望の意見が出る。

 そこで、PTを六人ずつにわけた。


 そして、再びの狩り――。


 やり方は変わらないが、ここは巡回するモブが部屋の中央を横切って行くためタイミングを見ながらやる必要があった。

 けど、やっぱりモブが多いおかげか、モブを引き狩る回数は少ないが経験値の取得は此方の方が多い。

 帰還したPTに感謝しつつ、その後も狩りを続行した。


 そんな狩り三昧な日々を過ごし、なんとか三次職30%までの経験値を貯め終える。

 本音を言えば、50%ぐらいまでは貯めておきたかった……もっと、もっと早くあのチケットが出ていれば!

 そう思うも、こればかりは時の運だと諦める。


 待ちに待ったアップデートの日が訪れた。

 今回のアップデートメインは四次職だが、その他にもいくつか機能と魔法やスキル。更に新しい街と狩り場、ボスが追加されている。

 その上で、イベントも行われる。


 追加された機能は、街から狩り場までの移動手段。

 今までは、徒歩もしくはテレポートでしかいけなかったわけだが、それが今回のアップデートで騎乗用のペットを手に入れられるようになった。

 

 そして、そのペットもまた狩り場で出すことにより経験値を分配できる上に強化もできる。

 これは非常にありがたい追加だと思う。

 ただ不安があるとすれば、強化に失敗した場合だ。

 消えてしまう可能性があるのでしばらくは強化しないようにしよう。


 次に、共闘ペットだ。

 こちらは騎乗用では無く、狩りの時に手助けしてくれるペットだ。

 後衛や盾、ATKには非常にありがたいペットだろう。


 今回追加された機能の中で一番要らない……もの?

 キヨシ、チカあたりが凄く喜んで使いそうな奴だ。

 その名も、感情仮面。

 スマホの絵文字のような感じで、笑顔・泣き顔・叫び・怒り・驚きなどの感情を表す仮面だ。

 それを被っている間中、顔がそうなってしまうらしい。

 

 追加された街の名前は【アフロディーテ】

 主な狩り場は鉱山らしく、採掘などを持つプレイヤーには人気が出そうだ。町並みは、そこらじゅうに花が咲き乱れ乙女チック? カップルなどに人気が出るだろう。


 追加されたボスは、魔巣の五階にあるボス部屋の主ノーライフキング、聖・闇のドラゴンだ。

 他にも一次、二次で狩れる中ボスの追加などがあった。

 が、私には用が無い。そこは流し読みでスルーする。


 アップデートと同時開催のイベントは、クリスマスと年末年始を使って行われる。

 その名も【 新規狩り場へ行こう! 】だ。

 ネーミングセンスについて私がとやかく言えることではないが……安直過ぎるのではないだろうか?


 なんてことは置いておいて、その内容は新規狩り場で狩りをすれば、アイテムと引き換え出来るフォース リングと言うアイテムがドロップする。

 その他に低確率であたらしく出た魔法書や装備が獲得できるらしい。


 低確率と付くので何十万分の一なのだろうけど、新・魔法書はお金が増えるアイテムだ……ここのところの散財を補填するため是が非でも獲得したい! そう闘志を燃やしアップデートの終わったギアを被り、ゲームへログインした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る