第181話 最強はアップデートを楽しむ③
会議の結果だけを言えば、シルバーガーデンと新宿二丁目、アースとの同盟が決まった。
組むと言ってもすぐにではない。
元々同盟を組んでいたロゼ・雪継の二つのクランには諸々の事情がある。そのためしばらくは時間が必要で、私としても準備が必要なのでありがたい。
ぶっちゃけた話をすれば、うちとしては同盟組んだからって戦争とレイド以外でほぼほぼ同盟のクラメンと絡むことはないのだけれど……。
「ま、揉めるようなら徹底的に!」
「そしてら、私たちが出張ってPKに持ち込めるから良いわねw」
黒い笑顔の先生と微笑んだ宮ネェ。笑顔は対照的なのに二人して、同じ事を言っていた。
そんな二人を知っているロゼと白影は、くつくつ笑う。
「相変わらずだな」
「何、もう血に飢えてるのか?w」
ひとしきり肩を震わせた二人は、懐かしそうにこう言った。
そんな二人に、先生は肩を竦めて見せる。
「最近は残党狩りばっかりでね……」
「飽きたって声が出るぐらいPKはしてないわね」
「なる。相変わらず自分の正義でやってんだろ?」
「y」
先生の言葉を引き継いだかのように宮ネェが宗乃助の言葉を代弁すれば、白影が両肘を付き頬に手を当てた態勢で言葉を返していた。
正義とかそんなカッコイイものじゃない……所詮はPKだ。本物の正義にはなれないしなろうとも思っていない。
ただ気に入らないから、殺す。それだけ……。
終始雑談みたいな感じで会議は終わった。
シルバーガーデンのクランハウスを後にした私たちは、その足でクラハンが行われているであろう魔巣へ向かう。
今日は全員がログインしている。数的にPTは三つに別れた方が良い。
合流するそう伝えはしたものの、同じ場所に行くのもどうかと思った私は、宮ネェ先生と三人で手前の部屋で狩ることにした。
[[宮様] ここらへんでいいんじゃないかしら?]
[[黒龍] え? こっちこねーの?]
[[大次郎先生] 奥は人がいるって言ってたし、ここにしよう]
[[ティタ] バフ……?]
[[ren] 分かった。バフ]
[[宮様] 諦めなさいw]
[[源次] まじかよw]
アップデートが近くなると狩り場が混むのは良くある事だ。
今回は、仕方なく三階奥で狩りをする。
四階より弱いモブが、500体前後しかいないけれど狩れないよりはいい。
さっそくバフを入れる。
個別のバフはどうしようか……宮ネェは、どちらも聖でいいだろう。先生は、どうしよう。
[[ren] 先生武器の属性聖にする?]
[[村雨] ガチスルーw]
[[大次郎先生] うん。槍は聖しかないw]
[[キヨシ] 俺にもバフくれよぅ~!]
[[ren] 分かった]
聖属性を付けた槍を使うなら、聖属性でいいだろう。ソウルは雷にしておこう。
そう考え、自分には氷のソウルと聖のインヴィス。宮ネェはどちらも聖で、先生には雷のソウルと聖のインヴィスを入れた。
『じゃぁ、ひいてくる』
トランスパレンシーを入れ、装備を軽鎧に変更し走る。
右の奥からジグザグに走り四隅と中央で、ポイズンクラウド(+20)を使う。するとモブが範囲魔法に反応し私を追う。
それに捕まらないよう注意しつつ、宮ネェと先生が待つ角へ戻った。
位置に付くと同時に、アイテムボックスから取り出したゲッターサークル スクロールを使い足の速いモブの動きを止める。
すると呼吸を読んだかのように宮ネェ、先生がそれぞれ二枚から三枚のスクロールを使ってモブを纏めてくれた。
その間にバインド(+18) スロー レンジ(+5) ショック ボルト(+19)を詠唱し発動させる。
無事に纏まったモブが黒ずんだり、固まったり、動きが遅くなったりするのを確認して、経験値スクロールを使う――きんちゃく袋のような袋が現れ、数字が吸い込まれるエフェクトが上がった。
同時にそのエフェクトが上がるのを見ながら、纏まったモブにホーリー フレイム レイズ(+20)を発動しタゲを固定を計る。
『k』
『宮任せる』
『k』
タゲ固定を優先し、闇系に有効だと言われる聖の範囲魔法を連発したところで、攻撃していいよ? と伝えた。
私の意図を理解した先生が、槍に持ち替え殴り始め宮ネェは新たなスクロールを取り出し、効果が切れた場所に再びスクロールを使う。
主語のないやり取りでもお互いに理解ができるのは長年の付き合いのおかげだろう。
この三人でも問題なく出来るが、流石に三人だけでやるのは他のメンバーたちから愚痴が出かねない。
そう考えPTチャットで『後二人ぐらい追加しようか?』そう伝えてみた。
『このままでいいでしょw』
『そうだな。下手にバランス崩すと向こう全滅する可能性あるし』
『わかった』
二人共このままでいい。そう言うので結局そのまま経験値スクロール二回分にあたる四時間ほど狩りを続行した。
流石にぶっ通しで八時間ほどログインしている状況になったため、ここで一度休憩を入れようと言う話になった。
休憩中狩り場を確保するためにはソロで狩りを続行するしかない。私は大丈夫だとしても、宮ネェと先生には少ししんどい。
と言う話し合いの結果、別PTで狩りをしている源次を呼び出した。
源次が呼び出された理由は、ハイドだ。
宗乃助でも良かったが、彼の入っているPTには回復が居なかった。
下手に人数を減らし危険にさせるぐらいなら源次の方だろう。
彼がこちらに向かっている間に、宮ネェと先生には休憩を入れて貰う。
『じゃ、ちょっと行って来る』
『よろしくね』
『k』
宮ネェと先生が、部屋の角でトランスパレンシーを入れた状態で魔巣専用の棺桶――ドラキュラが眠っているような洋風な物を使いログアウトする。
それを見送り再びバフを入れ狩りをはじめた。
十分後、呼び出された源次が到着する。経験値スクロールを使っていたので、そのまま狩りを続行した。
『やべぇ、うまいw』
『そんな変わらないと思うけど?』
『全然違うわw』
『そう?』
『あぁ。向こうだとここの五分の一ぐらいだぞw』
『それは良かった。存分に吸って行ってw』
『おうw』
たった一度モブを集めて狩っただけなのに、そんなに違うのか……今度、ソロで来よう。
なんて事を考えながら、モブが沸いては狩りを繰り返した。
「戻り」
「戻ったわよ」
「PT」
約束の時間になり先生と宮ネェが戻る。
二人にPT加入申請を飛ばし、加わると同時に入れ換わりに棺桶を取り出す。棺桶に片足をつっこいながら、バフを入れた。そして、入れ終わると棺桶に立ったまま横になり現実へ戻った。
リアルで生きるための諸々を済ませ、約束の時間三分前にログインする。
通常ならば狩りをしているはずのそこでは、憤慨する宮ネェと源次の姿があった。
[[ren] 戻り……?]
[[大次郎先生] オカ、PT飛ばす]
[[ren] k]
『ただいま。これ、どうしたの?』
『もう、信じられない!
狩りしてたのになんでかってに半分使い始めてるのよあいつら!』
『マジで、ふざけてんな』
『えっとな――』そう言って先生が状況の分からない私に説明してくれる。
安全性を考慮して部屋の半分ずつのモブを引いて狩りをしていたらしい。そこへ、見知らぬPTが通りかかり通り引くのを待っている間に、そのPTが無言で半分を使い狩りを始めてしまったそうだ。
『なるほど、声かけたの?』
『いや、まだ』
『じゃぁ、話してお引き取り願えばいいよ』
『うん。私が話してくるからトラパンいい?』
『k』
先生が話に向かうと言うので、要望に答えトランスパレンシーを入れつつバフを入れた。
未だイライラしているらしい宮ネェと源次の様子を気にしながらも、経験値スクロールを使っているため狩りを再開する。
先生が対面にいるPTに話に行ったおかげで先ほどまでと同じく、角から角まで全て周り一部屋分のモブを引いた。
二人が待つ場所に戻り、一枚目のスクロールを使う。
すると先生の代わりに槍を構えた源次と宮ネェが、怒りながらもスクロールを使い纏めてくれた。
その間にデバフであるバインド(+18)と他の魔法を使い足止めやらを施す。
再びスクロールを源次と宮ネェが使ったところで、ホーリー フレイム レイズ(+20)を何発か連発してタゲ固定を計った――。
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