第180話 最強はアップデートを楽しむ②

 ロゼから届いた密談の内容は、以前話した例の同盟に関する事とドラゴンレイドに関する事を話したいから、時間が欲しいと言う事だった。

 そんな訳で宮ネェと先生を道連れに、シルバーガーデンのクランハウスがあるデメテルを訪れている。


[[黒龍] んじゃま、先にクラハンいっとくぞー?]

[[ミツルギ] スクロールに貯めるっす!]

[[宮様] よろしくね。早く終わったら合流するわね]


 デメテルの街中を湖の方へ三分。うちのクランハウスよりは一回り小さな木組みのクランハウスに到着する。

 インターフォンのような呼び鈴をならすため先生が腕を伸ばしたその時、玄関が開けられ白影が出迎えてくれた。


「よっ!」

「え? まだ押してないけど?」

「うむ。窓から見てたw」

「ストーカー?w」

「誰の?!」


 白影の登場に先生が、少し引き気味な様子を見せる。白影の窓から~と言う発言に、宮ネェが冗談めかして言えば、それまで笑っていた白影が、急に真面目な顔になり誰の? と聞き返していた。

 その顔が余りにも真剣で……先生も私も引き攣った笑いを浮かべ固まった。


「ren? それとも私かしら?」

「……中身男にストーカーする男って怖くね?w ナイワー」

「影! お前そこで棒立ちさせないで、さっさと中に案内しろよww」

「あぁ、悪いw」


 相変わらずこの二人が揃うと面白い。が、いい加減中に入りたい……気分だ。理由は簡潔に、シルバーガーデンのメンバー達の物珍しそうな視線だ。そこへ救いの手を差し出すかのような、ロゼの声がかかる。どこにいるのかと視線を向ければ窓から顔を出していた。


「悪い悪い」と言いながらハウス内へ案内され入れて貰い、会議室へ通される。

 席に座るとすぐに長身ナイスバディーなエルフさんが、秘書さんのような雰囲気で「お飲み物は、何がよろしいですの?」と聞いてきた。

 大きいクランになるとこんな風な人がいるんだな……。


[[大次郎先生] 秘書だなw]

[[宮様] 秘書さんね~。

    でもなんでかしら、少しいらっとするわw]

[[ren] 良い匂いした]


 宮ネェの嫉妬心を煽ったらしい秘書さんに、片手を上げて飲み物は要らないですと断りを入れる。


「手持ちあるから」

「私もあるから大丈夫よ」

「じゃぁ、私も?」


 飲み物は、ヒガキさんお手製の飲み物にする。

 そうそう、最近ヒガキさんはコーヒーだけではなくカフェラテや抹茶ラテの飲み物から、サンドウィッチやパンケーキなどの軽食も作ってくれている。本当に彼をクランに誘えて良かった。

 

 帰れまてんから数日後に、突発で行われた試飲&試食会。そこで出されたヒガキさんお手製の料理・飲み物全てが、美味だったのは言うまでもない。その日の内に、材料を用意してお金を払い頼んでしまうほどに……まぁ、そのおかげでまだストックは十分にある。


「いいのか?」

「あーうん。うちにはカフェオレがマジになるぐらい巧くコーヒー作れるヒガキがいるから、他のコーヒーは飲めないんだよw」

「あぁ、そう言えばいたなぁ~。カフェオレがマジで口説く程美味いコーヒーか~、興味あるわw」

「本気で美味しいわよw」

「へ~。俺にも一杯飲ませてw」

「仕方ないから奢ってあげる」


 ロゼの問いかけに頷き、白影とロゼにアイテムボックスからコーヒー二つと自分用に抹茶ラテを取り出す。湯気が上がるカップの中には、茶とらのような縞模様の猫の顔が描かれている。遊び心ある可愛らしい絵を眺め、勿体ないと思いながら両手にカップを包み込み一口啜る。


 ふわっと香る抹茶の味と香り。その後から、ほんのり甘いミルクの味がまろやかで美味しい。その味を十分に堪能し落ち付いたところでカップを置き、未だ出したコーヒーを飲むロゼへ視線を向ける。


「うわっ! マジで美味いな」

「うちにも卸してくれないか聞いてくれない?w」

「ヒガキも装備必要だし、嫌とは言わないだろうけど幾らで買う?」

「ん~。@1kでどう?」

「豆そっち持ち?」

「豆込みなら@2kは出してくれないと採算合わないわね」

「わかった。じゃぁ豆込み@2kでとりあえず1000杯交渉してくれw」

「k」


 このゲームの食料品はクエストアイテムでも無い限りかなり安い。コーヒー豆なんか@100ゼルで売りに出ていたような気がするが……? 100ゼル分の豆で、ヒガキさんはコーヒー5杯分は賄えますから~。そう言っていたと記憶しているのだが……ま、聞かなかったことにしよう! 私は抹茶ラテが美味しければそれでいい。

 例え、先生がどれほどぼったくろうが、ヒガキさんのためにだろうし言う事なし!


[[大次郎先生] ヒガキいる?]

[[聖劉] 源次、もう少し右に寄ってくれない?]

[[ヒガキ] はい?]

[[源次] k]

[[大次郎先生] ロゼがヒガキのコーヒーを豆代金込み@2kで

       1000杯頼みたいっていい?]

[[黒龍] カモだなw]

[[宗乃助] ネギ背負ってるでござるよw]

[[ヒガキ] え? 高くないですか?]

[[ティタ] ウケルw]

[[宮様] 貰っておきなさいw]

[[ヒガキ] はい。大丈夫です]


 @2kに反応した皆が言う通り、カモがネギ背負ってる状態だ。

 それを高くないかと聞き直す彼はなんといい人なのだろう……。三次職カンストしたし、新しい装備に切り替えたばかりでお金はこれからますます必要になる。その事を分かっているメンバー達は貰っておけと彼に諭していた。


「1000杯@2kで請けるってさ」

「サンキュ!」 


 コーヒーの話が終わり、時間を持てます。

 いつ話を切り出すのか? そう思いながら待っていたのが一向に話が始まらない。

 同盟に関する事と言っていたし、小春ちゃんや雪継が居ない所を見ると、今回は同盟の話自体がなくなったのだろう。

 言い難い事かもしれない……そう考え、私の方から話を振ってみる。


「で? 結果はどうなったの?」

「唐突だな。おいw」

「気を使う仲でもないし?」

「まーなw」

「とりあえず、同盟は組むことで決まった。ただ、どこを同盟のマスターにするかって話しになってさ…………ren、同盟作ってw」

「は?」


 ロゼの言葉の意味が分からず、素っ頓狂な声で返事を返す。そんな私の方へ諦め顔を向けた先生と宮ネェが、無言で両方の肩を叩いた。

 いやいや、待って、なんでそんな諦め顔してんの? うちが同盟のマスターする必要ないよね? おかしいよね?

 

「まぁ、元クラメンばっかだし……好きにやりたいって言うren達をルールで拘束して、速攻で同盟解散するハメになるよりは、自由にやらせた方が良いって言う意見になってな。だったら、同盟のマスター任せた方が良いんじゃないか? って話になった訳だ」

「まぁ、そうなるわよね」

「まー確かにそうだなw」

「ていうか、うち。まだLv5なんだけど?w」

「上げて?w」


 あぁ、やっぱりあげるのか……面倒くさい。


「今めんどくさいって思ったろ?」

「……チッ」


 私の思考を見事に読んだロゼがジト目を向ける。そんな彼から視線を逸らし、舌打ちした私に溜息を吐きだしたロゼが「俺らもLv上げは手伝うから、な?」と言い含めて来る。

 まぁ、手伝ってくれるなら……いいかな?


「はぁ。分かった。でも、今の同盟は解散していいの?」

「すまん。頼むなw

 同盟は今話し合いつーか、事情説明して理解求めてるとこ」

「まぁ、揉めるようなら無理しなくていい」

「ren。気を使ってるふりして、めんどくさい事から逃げるの禁止なw」

「チッ」


 今度は白影に思考を読まれ再び、舌打ちする。

 ロゼ達が私たちに気を使ってくれた上で同盟のマスターに押すのは分は分かる。分かるが、面倒な物は、面倒なのだ。


 それはさておき、やはり同盟解散には他のクランから異論が出ているらしい。小春ちゃんの所は同盟を組んでいない事で問題はないはず。揉めているとすれば、ロゼか雪継の所だろう。

 本人たちが上手く纏めてどうにかするだろうけど、いざと言う時は協力してあげられるようにしておこう。


[[宮様] やっぱり揉めてるのかしら?]

[[キヨシ] 決めた! 俺、サブ盾にする!]

[[黒龍] 俺は、回復にするかー]

[[†元親†] 俺は、両手剣!]

[[大次郎先生] だろうな。揉め無きゃいいけどなw]

[[ren] いざって時は、うちがでるでいい?]

[[さゆたん] 死神が死神になるでしゅw]

[[ティタ] 揉めてるの?]

[[風牙] どうした?]

[[村雨] 揉め事か? PKか?]

[[白聖] 相手どこだ?]

[[宗乃助] 久しぶりでござるw

     残党狩りはあきたでござるよw]

[[大次郎先生] いやいや、PKじゃないから落ち付けw

       そうなるとしても、もうしばらく先だから

       今の内に経験ためといてw]

[[大和] わくわくするね~w]

[[鉄男] お? どこ、相手どこ?w]

[[ミツルギ] ノリノリっすねw]

[[聖劉] そっかw

    じゃぁ、今の内にがっつり経験貯めておかないとw]


 PKなんて一言も言っていないのに、血に飢えているらしいクラメンたちは次々相手はどこだ? などなど口々に言い始める。

 PKになる事は無いだろうけど、一応準備だけはしておいた方が良いかな? どの程度相手がごねているかにもよるし、そこら辺はしっかり聞いておこう。

 

「揉めてるってどの程度?」

「ん~。まぁ、この間のドラゴンレイドの事から突っ込まれてるな。

 うちは、だけど。雪の方は、わかんねー。あいつなりに上手く纏めようとはしてるみたいだけど、足元みられてんのかもな~」

「解散するまでには時間かかると思うぞ」

「なるほど」


 程度を知りたくて聞いたが、中々に面倒そうだ。解散までに時間がかかるのは悪い事じゃない。うちとしてもその間にクランのLvを上げる事が出来る。

 しかし……この間の思いつきでやったドラゴンレイドの事を何故? 相手が突っ込んでくるのかがわからない。


 同盟でやる予定でもあった? そんな話聞いていないけれど……もしあったのならば、こちらに非があるのは明らかだ。

 謝る必要があるのであれば、そこはきっちり謝ろう。

 と、そこまで考えロゼに再び問いけようとしていた私の横で、先生も同じように考えたのか先に質問をしていた。 


「ドラゴンレイドの事で突っ込まれるって、何か悪い事した?」

「否、簡単に言えば、うちのクラメンだけしか連れて行かなかったのがムカついたって感じだな。

 成功したって聞いた途端、なんで誘わなかったとか言ってたし」

「くだらないわねw」


 ロゼの代わりに答えた白影の言葉を宮ネェがばっさり切り捨てる。それに苦笑いの白影が言葉を続けた。


「ぶっちゃけた話するとだ。あの時もし誘って成功しなかったらしなかったで愚痴愚痴言われるし、誘っても誘わなくてもあいつらは文句を言うんだよ。戦争の時も毎回そうだしなw 分配が多いとか少ないとかそういうことばっか言いやがるw」

「うざっ」

「殺ろう?」

「さくっと殺っちゃいましょうよ?」


 どっちにしても変わらない。そう言いたかったであろう白影の言葉を聞いた先生、私、宮ネェの順に吐き捨てるように言った。それを聞いていたロゼと白影は、くつくつ笑い「やっぱ、お前らのが面白くていいよな~」「最高だわ」そう言葉を零した。

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