第168話 最強は壊滅を齎す⑳

 漸く到来したチャンスに、さっそく準備をはじめた。

 ロゼの声に答え片手をあげ、白影のカウントに合わせプロテクト スケイルを発動させる。

 全員に立体的なひし形をした青いエフェクトがあがった。それを確認し終えたところで試すは、雷竜召喚のイリュージョン トニトゥールス!


 本当にこれをやりたかった。そう思いつつ「イリュージョン トニトゥールス」と白チャで声高に詠唱する。


『ちょw』

『怪獣大戦争キター!』

『これはまたw』

『寒気の理由はこれかw』


 詠唱を終えると同時に、パチパチと火花が上がり始め空から大きな稲妻が空中に亀裂を入れるかのようなエフェクトをあげて地に落ちた。

 地を揺らすほどの稲妻の勢いに私の側の地面が抉れ砂塵が舞う。

 舞う砂塵が徐々に凝集するかのように集まった。

 その周囲を、青白い稲妻が行く線も走り弾け飛ぶ。

 それと同時にカリエンテと同じ大きさのトニトゥールスが、大きな口を開き咆哮をあげながら姿を現した。


「ギャアオォー!」


 カリエンテにトニトゥールスをぶつけたら、どうなるのだろう? 凄くワクワクする。

 胸の高鳴りを抑えつつ、トニトゥールスが巨大な足で踏ん張り勢いをつけるさまを眺めた。


『やべ……俺これ、カリエンテ吹っ飛んできたら死ぬんじゃね?w』

『プロテク入ってるから大丈夫な、はず』

『そこは、言いきって欲しかった……』

『南無』


 まぁ、死んでも別に、大丈夫。私は痛くも痒くもない。なんて事を考えながら、軽く黒と先生の会話を流しトニトゥールスの動きに注視する。


 目一杯まで踏ん張ったトニトゥールスは、地面に跡が残るほど前足に力を込めカリエンテに向け飛び出した。

 目で追えないほどのスピードでカリエンテに向かったトニトゥールスが、カリエンテの背後からその巨体をカリエンテにぶつけた。

 静まり返るカリエンテの巣の中に、一拍遅れて「ドゴンッ!」と耳を塞ぎたくなるほどの轟音が響き渡る。


 不意打ちに近いトニトゥールスの攻撃に、カリエンテはその身体をプレイヤーごと壁にめり込ませていた。

 苦しむような声を上げるカリエンテ。

 止めとばかりに咆哮をあげたトニトゥールスがその身体に纏った、青白い雷を一気に放出する。

 その攻撃に感電したのか、カリエンテが動きを止め力を失ったかのように、巨体を地に沈めた。


「ギュアオォォォ!」


 勝ち誇ったようにトニトゥールスがひと鳴きする。

 それと同時に流れるシステムログとファンファーレ。

 システムログの内容はと言えば……。


【カリエンテが初めて討伐されました。

 討伐おめでとうございます。】


 のみだった。

 せめて称号とかないの? 初討伐だよ? もっとこうさぁ、盛り上げようよ!

 

 そうこうしている内に、トニトゥールスが青白い雷に包まれ消えて行き、カリエンテが黄色い粒子をあげ消えた。

 カリエンテの消えた後には、まるで海賊の財宝のような大量のドロップ品が落ちていた。


『最後の最後いいとこどりされた気分だわ』

『なんだろう、この脱力感』

『なんだかな~』

『まー、倒せたしいいんじゃね?w』

『分配あるし、とりあえず……お疲れ?』

『おつかれ~w』

『うははははは! やっぱ最強じゃんw』

『言いだしっぺだし、ありだよねw』

『雷カッコイイな!』

『流石プレイヤーボスw』

『全員帰還! 分配はヘパイストスの神殿でやる!』


 まさか、トニトゥールスが残りHP全部を削ってくれるとは思わなかった。最初っから出しておけば、そう思いつつも結局は変わらなかっただろうと思考を切り、巣の中央に出現したポータルにのりヘパイストスに帰還する。


 いつもならば最後まで残ってい残り組がいないか見るところなのだが、今回はドロップ品の品数が異常に多い。そのため街に帰り、落ち着いてシステムログを見たかった。

 システムタブを開き、ログを確認する。

 70個近くあるログの中で、私が欲しいと思う物をいくつかシステムログから抜粋する。


【 カリエンテの鱗を3枚獲得しました。 】

【 カリエンテの心臓を獲得しました。 】

【 魔法書・フレア バーストを獲得しました。 】


 まぁ、買うならこれ位かな? 他に……何か無いか探したが、欲しいと思う物はない。

 参加者が多いこう言ったレイドでは、基本入札制のオークションで競売される。

 それに参加するため、倉庫に預けてあるお金を降ろしに向かった。

 ついでに、白影に売り付けるエヴァラックとメテオストライクの魔法書も持って行くことにする。


[[ティタ] ren~。お願いがあるんだけど]

[[白聖] renゼル貸してくれ~!]

[[キヨシ] ren~]


 まるで、飢えた猫のような声で、三人がそれぞれお金を貸せと言う。そんなお金はない! と切り捨てたいところだが……何が欲しいのか聞いてみてから決める事にした。


[[ren] 幾ら? 何買うの?]

[[白聖] 煉獄の矢筒が欲しい! 値段わかんねーw]

[[ティタ] 獄炎の剣……]

[[キヨシ] 記念に鱗買いたい!]

[[黒龍] 俺だって欲しいけど借金返してから

    って思ってんのにw]

[[村雨] ren。武器最高だった!

    いつか俺もこれ位の持つわw]

[[風牙] あー。俺もカリエンテの鎧欲しいけど

    高そうだ。余裕あったら俺にも貸してw]

[[聖劉] 煉獄の矢筒は、俺も狙ってるw]

[[ren] ん~。キヨシのは却下。私が全部買うからダメ。

    シロとティタと風牙のは値段見てからなら

    貸してもいい。黒どうする?]

[[白聖] 資産売却で、速攻で返すわw]

[[ティタ] 俺もなんか売ってちゃんと返すよ~!]

[[黒龍] 借金返済待ってくれるなら手持ちで買えそうなら買う]

[[キヨシ] えー! 何で俺だけダメなの~!]

[[ren] k]


 クラチャで話しつつ倉庫に入ったお金を取り出し、神殿に辿り着く。

 クランごとに座っているらしい状況を見て、私もクラメンの元へと向かった。

 それから数分後、ドロップを拾い終わったロゼたちが神殿に入って来る。


『全員居るか確認してくれ~。

 renと各クランのバフは、使った高級魔石の個数出して!』


 クラチャで全員いるか聞けば、全員いるらしい。と言う事でうちは問題ない。

 アイテムボックスを開き魔石の残りを確認した私は、その個数にマジか……! そう驚き、背筋が冷たくなった。

 開始当初、5000個持っていた高級魔石は、現在680個まで減っていた。


『全員いる。4320消費』

『アースも全員いるよ~。魔石は530個』

『二丁目もいるわ~。石は610個らしいわ~♪』

『シルバーもいる。石は640個』

『了解。今回出た高級魔石で、とりあえずアース、二丁目、シルバーは補填できるな。renは、それの残りと現金でいい?』

『別に、魔石はいいけど?』

『ダメだ。分配少なくなろうが、バフ貰ったんだから全員で分担する!』

『わかった』


 魔石のお金は全員で分担するらしいロゼの言葉に、オズオズと了承したところでオークションが始まった。

 今回は突発だったこともあり、武器防具、後珍しいアイテムなどの設定価格は全て10Mから開始。

 次々流れる商品と値段に呆然とその勢いを眺めた。


『次、獄炎の剣 10M~』

『30!』

『60!』

『65』

[[ティタ] ren!]

『80』

『89』

[[ren] 200まで]

『120』

『125』

『128』

『130』

『140』


 ティタと競っていた、もう一人が130で止まる。

『140~居ないか? カウントー。3……2……1……落札』

『ありがとー!』

[[ren] トレ出す]

[[ティタ] ありがとー!]


 足りない分を貸して欲しいと言うティタに、とりあえず100M渡した。そらからも、黒、村雨、風牙、聖劉、シロに借金の申し込みをされ各々に足りない分を貸し出す。

 聖劉とシロは同じものを競っていたので、どちらにも貸すしかない。結果、手持ちのゼルを多く持っていたらしい聖劉が勝ち取っていた。


 色々な物が売りに出され、欲しいと思ったものには入札。

 最初に決めた三つ以外にも、竜骨のトーテム(火)・炎火の杖・カリエンテの籠手を買ってしまった。

 売れ無さそうだったから買ったのも大きいが、いずれ強化する時の材料にも丁度いいので無問題。


『よし、集計終わった。

 今回の総額は、6,575,788,311ゼル。

 これは、魔石代と補充分のお金引いた分。

 参加人数は、112名。

 一人=58,712,395ゼルな

 PTL、均等分配で拾ってけw』


 ロゼの声にPTLが列を作り並ぶ。PTを均等分配に変更して、ロゼが落としたゼルを拾えば全員に58,712,395ゼルが分配された。

  久しぶりに楽しかった。そんな満足感を感じながら、白影を探していた私に分配が終わったらしいロゼが声をかけた。


『あぁ、ren、雪継、小春ちゃん。ちょいこの後、話あるから残ってw』

『いいわよん♪』

『うぃ』

『どったー?』

『PT組み直す』


 そう言うとPTが解散される。その後、すぐにロゼからPTが飛んできた。

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