第167話 最強は壊滅を齎す⑲

 カリエンテと対峙するメンバーたちのMPが約八割まで回復するのを見届ける間際、またもカリエンテの瞳の色が金から黒に変わる。

 その刹那、ロゼが卑弥子の名前を叫び、すぐさま白影が三秒前からカウントを入れた。


『卑弥子!』

『3……2……1……バリア!』


 白影の声に合わせ、卑弥子がバリアを発動させヒードン フレア バーストを無効化したところで、再びカリエンテに対しアーマー ブレイク(+25)を入れる。

 私の願い虚しく、詠唱したアーマー ブレイク(+25)は全てカリエンテにレジられ発動せず……。


『チッ』


 舌打ちしながらも仕方ないと諦めMPPOTでMPの回復に努めた。


『全員水晶に到着してるな?』

『はい』

『じゃぁ、はい――『ストップ! 全員走れ!』』


 ロゼが復帰組に合図を出そうとした刹那、今度はメテオストライクの詠唱に入ったらしいカリエンテが天を仰ぐ。

 その様子を見ていた聖劉が、ロゼの言葉を止め範囲外に走るよう叫んだ。


『なんだこれ~!! 本気で忙しすぎだろー!』と言うキヨシの叫び声を聞きながら、杖や弓、軽鎧やローブの全員が赤い枠線の外を目指し全力で走る。


 赤線を越えるかどうかの位置で振り向き、逃げ遅れがいないかを確認していた私の眼前を巨大な隕石が通り過ぎ地に大穴を開けた。


[[宮様] 怖!]

[[†元親†] 目の前で見ると迫力すげーw]

『逃げ遅れ、いないなー?』

[[卑弥子] 殺す気満々w]

[[さゆたん] 確実に殺る気でしゅw]

『怖! これマジで半端ねぇ!w』

[[カフェオレ] あぁ、マジコーヒーのみたいw]

[[キヨシ] 死ぬわ―! これ死ぬわ―w]

『生ジル生きてたのかw』

『ロゼエエエエエエ! そのネタ、止めて下さいお願いします』

『土下座すんなよぉぉぉw』


 全員の無事が確認出来たところで、何故かロゼになまじ……雪継が土下座していた。意味が分からないが何かがあったのだろう。

 

 メテオの落下したエフェクトが消えカリエンテが動き出す。それに合わせ超POTを飲み終えた黒と大和がすぐさまヘイトを入れた。

 第一形態よりもタゲ飛びが少なくなったとはいえ、未だにダメージリーダーであるティタと村雨、風牙にはタゲが飛んでいる。

 それを黒たちがヘイトとダメージでなんとか最小限に抑えている状態だった。


『全員中に入れ~』と、ロゼが言い入り口に復帰組が次々と現れた。


『バリアの順番は、シルバーガーデンから使って行く。

 次は、アース。その後は二丁目で頼むな!』

『k。アース了解』

『二丁目もokよー!』

『バフ、元に戻すからタイミングは各クラン指示よろ』

『え? 俺らにはこのままでも……』

『できれば、このままが……』

『却下』

『renのMPは、ABに決まってんだろーがよ! 〆んぞ!』

『甘えんな!』

『はぁ? 何言ってんの?w』

『ちょw キヅナ怖い! 怖いからー!』

『キヅナ、落ち付け。本気じゃないんだからさ……な?』

『うん』

『も、もちろん!』

 バリアの順番を指示したロゼの言葉を引き継ぎ、私も事務的に報告を出す。これだけの人数だバフの管理は流石にできないので、これまで通りに戻すと言えば白影と雪継がバフをこのままかけろと言いたそうに言葉を濁した。


 そんな二人に、即座に却下を出したのはティタで……興奮しているらしいキヅナが、昔の口調で〆る宣言をする。

 村雨と風牙も同じように笑いながら、ありえないと言う表情を見せカリエンテに一撃を入れていた。

 そんなキヅナに落ち付けと同年代の先生が諌め、二人にも本気じゃないよな? と脅しをかけこの話しは終息する。


『位置に着いたら、全員総攻撃開始。

 残り二割だ! 絶対討伐するぞ!』


 気合いの入ったロゼの声に答え配置についた復帰組が、攻撃を開始しはじめる。それに合わせ、再度カリエンテにアーマー ブレイク(+25)を試した。

 三度目の詠唱でカリエンテの頭上にエフェクトがあがる。

 それを視界に収めていたらしい近接ATK組が、我先にと攻撃を仕掛けはじめた。


 カリエンテの巨体を覆い隠すほどのエフェクトがあがり、その膨大なHPが徐々に減る。

 苦しむような咆哮と共に、周囲に集る近接組が太い尻尾で弾き飛ばされ、口から吐き出された炎で、遠距離組がダメージを負う。


 終盤になり、カリエンテもついに本気を出しはじめたようだ。

 

『バフ更新』


 復帰組のバッファーに知らせる為、更新時間を伝えて全体バフの更新をかけた。個別のバフは時間をずらし、かけているのでここでは更新しない。


『黒、もうちょい端によって』

『これ以上いけねーよw』

『マジ?』

『y』

『分かった』


 どうやらメテオの範囲が本当に、壁ギリギリになることからもう少しカリエンテを壁に寄せられないかそう考えたらしいロゼが黒にもっと壁によれと伝える。

 が、もう既に壁に半身はまった状態の黒は無理だと答えた。

 

 そんな二人の会話を聞きながら、例の考えを実行しようと画策する。

 次、カリエンテがヒードン フレア バーストを使った時、バリアをはるのは私の役目だ。

 その時漸くアレが試せる。これが最初で、最後のチャンスだ。と意気込み、個別バフの更新をかけた。

 

『復帰組以外は、装備耐久確認! POT系も見て無かったら補充行け』

『黒、どう?』

『あ~。欲しい! 砥石とMPPOT』

『大和は?』

『うんと、砥石だけでいいかな~』

『了解持ってくる』


 補充と言う言葉に、先生がその場を動けない黒と大和に補充分を確認する。それに二人が答えた所で、カリエンテが再び天を仰ぐ。

『ゆめ!』ロゼの声が、クラメンであろう回復の名を呼び赤い枠線が表示され同時に、バリアが発動された。


 バリアの効果がある間に紙防御の宗乃助、源次、シロ、聖劉は、動かないカリエンテにスキル連打で火力を上げダメージを稼ぐ。

 その後動き出すと同時に補給に行っていたのは見なかった事にした。


 ヒードン フレア バーストが早く来ないだろうか? そう願う私の気持ちを組んでくれたらしいカリエンテが、その瞳の色を黒に変化させた。


『ハルキ! バリア準備』

『……え?』

『ハルキ、3……2……1……バリア』


 漸く! と思っていた私を余所に、ロゼが自分のとこのクラメンにバリアの指示を出す。白影がタイミングを計りカウントを入れ、ハルキさんによりバリアが発動された――。


[[さゆたん] renちゃんどうしたでしゅか?]

『次、バースト来たら私がバリア!』

『いや、renのはと――『やる!』』

[[鉄男] なんかゴネてるw]

[[†元親†] どうしたー?w]

『あ、まぁ、やりたいならやっていいけど……?』

『あり』

[[白聖] 嫌な予感が……]

[[ティタ] なんか、背筋が寒い]

[[シュタイン] ん~。何か考えがあるのである]

『流石のロゼも、renには勝てね―なw』

[[黒龍] あり。先生]

[[大和] 先生、ありがとう~]

『当たり前だろw renには色々恩があるしw』

[[ケン坊] ren! 何やる気だーw]

『まぁ、それは全員だろ?w』

『だよね~w』

『ですよね~!』


 首を傾げるロゼたちを余所に、次こそは! そう思った。


 カリエンテのHP残り一割と少し、再びのバフ更新時間が訪れる。ここへ来て一時間、かなり長い時間カリエンテと対峙していた気がする。 

 二度と来たいとは思わないけど、引退者組含め皆が楽しんでいる事に企画して良かった。そう思いつつ、最後の〆として個人的に楽しむ事を考えた。


 カリエンテ討伐戦も終盤になり、全員が余裕少なく動き回る。それを、嘲笑うかのようにカリエンテの動きが激しさを増し、尻尾だけではなくその巨体を使った体当たりや、火炎など様々な攻撃を繰り出すようになった。


 そんなカリエンテに対して、私は私の仕事をこなす。アーマー ブレイク(+25)を五回と決め詠唱発動させれば、五回目で何とかエフェクトが上がってくれた。


『ナイス!』

『ABキタァァァァ!』

『イケイケー!』


 クラメンの喜ぶ声に手を上げて答え、カリエンテのHPを確認すればつい、先ほど確認した時よりも回復しているような気がした。

 これはおかしい……そう考えカリエンテの動きを確認していた私は、カリエンテのバフの中に一部変更がある事に気が付いた。


 リバース アトリビュート ヒーリング――効果時間は30秒。このバフが入っている間にカリエンテが受けた反属性による攻撃、その全てがHPを回復する。但し、HPが20%を切らないと効果が無い。反属性が対応となるため、同属性の攻撃は威力を増す。

 

 鑑定して初めてわかるその効果のヤバサに、めまいを起こしそうになった。まさか、こんなバフがあるなんて……。ってこんな事している場合ではない。


 慌ててPTチャットを開き、全員に聞こえるよう注意を促す。


『カリエンテが、リバース アトリビュート ヒーリングのバフを使っている間は、火属性の攻撃で! HPが回復する』

『は?』

『な、なん、だと……!』

『見た目は、青から赤に変わる丸矢印に斜線が入ったやつ。自信ない人はその間、手止めて!』

『だからか~! さっきから減らないと思ってたわ~w』

『了解』

『ロゼ、指示!』

『了解。全員聞いてたな~? バフに注意な! 青→赤○矢印に斜線のアイコンは注意しろ!』


 ロゼの声に、頷いた周囲が再び攻撃を始めた。それに少し遅れて長い五分が経過したことを知らせるようにカリエンテの瞳が金から黒に変化した。


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