第166話 最強は壊滅を齎す⑱


 タブをPTにしたまま口頭で、注意事項を伝え足元にウルトラ リカバリー ポーション(=以降表記 超POT)を20本ずつ捨てて行った。

 このPOTは、HPPOTを代行で作成する際、一万本に一本程度の割合で出来るPOTだ。

 通常のHPPOTがHPを約二割回復するのに対し、この超POTは約八割を一気に回復してくれる。


『黒・大和・雷は予備含め30本ずつ渡しておくから、宮ネェ・チカは無理せずに逃げて』

『k』

『わかった~!』

『ren、そのPT以外全員拾った』

『位置取りはさっきと同じで、とにかく復帰が戻るまで持たせよう! 宮ネェ、チカ足元に置くから拾って、大和、雷、黒の分置くからどっちか持って行って』

『じゃぁ、俺が届けるよ』

『よろしくなのです』

『ティタ、それから村雨こっち来て』

『なに~?』

『おう! どうしたー? ren』

『これ、二人に貸しておくから使って』


 双剣使いでデュアル ソード マスターの二人ならば、刀も通常の剣と変わらず装備出来て使える。そこで、ダメージリーダーとなりそうな二人にトレードで、+29 ムラクモ×オハバリと+28 オニキリ×オニマルクニツナを貸し出した。


『ちょ! これマジ? renここまでキチガイな強化値だったの!?』

『いつかでいいから、持ってみたい武器だ……』

『強化値は言わないように! 貸すだけ!』


 相手の武器の強化値を知っているのと知らないのとでは、対人に置いて大変重要な点になって来る。

 だからこそ、二人には口止めをした。けれど、そのうちティタ辺りがポロっと言ってしまいそうだなと不安になりつつ、バフの更新をかけた。


 黒にPOTが渡ったのを確認して、全員が攻撃位置に到着するのを待った。

 人数が少ない事を踏まえ、全員に個別のバフまできっちり入れ直す。

 その上で、近接・遠距離・魔法職問わずマジック オブ アブソール(+25)を追加した。


『renちゃん、みんな着いたでしゅよ~w』

『ロゼ、仕切りよろしくね!』

『そこで投げんのかよw』

『だろうなとは思ってたからいいよ……。

 黒、タゲ固定!

 全員MPPOTがぶ飲みでスキル使いまくって総攻撃開始!

 回復は、8割キープで回復!!』

『おう!』

『やるでしゅ!』

『何この刀! ダメージやばっw』

『その刀色が恐ろしいよ……ティタ君』

『キィエエエエエエエエエイ! 最高だ!』


 ロゼの総攻撃開始の合図で、先陣を切ったさゆたんがアイス ランスを放ち、ティタ、村雨が貸した刀でカリエンテを切り付け、独り言のように感想を漏らす。

 そんな三人に後れを取ってなるものかと言わんばかりに、他のメンバーも攻撃を開始した。


『現在、入り口に3PT集まってます』

『バラバラで来るなよ。出来る限り纏まって中に突入してくれ』

『はい』


 復帰組からも連絡が入り、残りを待ってから洞窟内へ入るよう指示が飛ぶ。メイン武器を貸し出した私はと言うと、MPPOTを無限にがぶ飲み中。

 バフをずらす為に、余分なMPを作る必要が出来たためだ。


『黒、回復どう?』

『ん~。もうちょい遅めでもいいかな。今8.5位の割合』

『了解よ!』

『カリエンテ、案外やわっこいな』

『そうかー?』

『HPザクザク減ってるじゃんw』

『確かに、さっきより減りが早い気が……?』

『キノセイダカラ』


 確実に気のせいだろうと思える発言を繰り返す引退組に、シロがキノセイだと片言で伝え視線を逸らした。そんな楽しい会話を繰り広げながら、カリエンテを攻撃する皆をアシストする為、漸く回復したMPを使いデバフを入れる。


 ダメ元で、サイレンス(+25)とアーマー ブレイク(+25)それから、ウェポン ブレイク(+20)の三つを、どれかが入ればラッキーと言う思いで入れて詠唱発動させた。


 サイレンスに関しては、やはり完全にレジられているようだ。三度目の詠唱でサイレンスを外し、二つに絞ればどちらもエフェクトが上がり少しだけカリエンテの攻撃と防御を衰えさせる。

 効果時間はどちらも5分と短い。その事を踏まえ、都度都度入れていくように心がけた。


『メテオ来るぞ! 回復、軽装備全員赤い枠線の外に走れ!』


 ロゼの声に、慌てて全員が回避行動にでる。

 黒たち盾と近接は、カリエンテのお腹の下に入り遠距離と魔法職、回復は全力で範囲を示す赤い枠線の外に向かって走った。


 メテオを放とうとするカリエンテが、前後四本の足を踏ん張り、首を天に向け咆哮を上げる。

 それからたった数秒で、カリエンテにとっては小さく私たちにとっては巨大な隕石が透明度の高い炎を纏い地を揺らし降り注いだ。


 その様子を一瞬視界に収めた所で、すぐさまこの場に居るPT全員の生存確認をする。今回は、ロゼの指示が早かったおかげか全員無事だ。

 黒たちのHPは極端に減ってはいるが、死亡者はいなかった。


『ナイス、ロゼ!』

『HP回復忘れんなよ! 超POT惜しみなく使え!』

『そんなバカいねーだろw』

『貧乏人にとってはかなりの大金だよ?w』

『流石にメンバーで持ち帰ってる奴いたら、俺が個人PKで殺してやるわw』

『ren。ウェポン ブレイクって意味あるの?』

『黒に聞いて?』

『なんで俺?w』

『タゲ受けてるから?』

『あぁ……えーっと、ちょびっと減ってる気がするw』


 ウェポン ブレイクはどうやらあまり効果がないようだ。次から外しても良さそうだな、そう思った刹那、カリエンテの瞳が金から黒に変わる。

 

『チカ! バリア準備!』

『チカ、3.2.1.バリア!』


 ロゼの声にチカが、杖を掲げる。

 それを合図に白影が、ロゼの代わりにカウントを入れ言葉に合わせチカがバリアを発動させた。

 チカのバリアに合わせ、次の発動時間を測るため五分間のみ効果を得られるソウル オブ フルークトゥスを自分に入れた。


 スキル使用中は活動を停止するカリエンテに対し、動きが止まった今こそ、攻撃の時だと言わんばかりに、全員で総攻撃をしかけその膨大なHPの3%程度を減らした。


『全員揃いました! 中に侵入します』

『了解』

『鍵担当、頼むな!』

『はい!』

『はい』


 漸く復帰組が全員揃ったらしくPTチャットを使い、こちらに連絡を入れる。それに答えたロゼと白影が、それぞれに返事を返していた。

 あっという間に来る個別バフの更新時間に、本当にもう一人バッファーが欲しい。そう心の底から思いつつバフを更新する。


『あ、ren俺、できれば水が良い!』

『あぁ、あたくちも水でお願いしたいでしゅ~』

『私も、移動速度優先が良いから水で~』

『k』


 キヨシ、さゆたん、カフェオレからウラガーンでは無く、フルークトゥスでと要求されバフを変更した。

 個別バフの更新だけでMPが残り半分。その状態で、三人にフルークトゥスを入れPTバフの更新をかければ、すぐに尽きてしまう。

 続行を決めたのは私なので、ここは我慢してPOTを再びがぶ飲みした。


 その後も続くカリエンテとの攻防は、中々にハードだった。

 第三形態となったカリエンテの攻撃は、黒のHPを一撃で六割も吹き飛ばし、たまに振りむき大和のHPを八割削った。


 超POTを使って回復はしているものの、宮ネェとチカのMPが徐々にMPPOTでは追いつかなくなり……十五分で全体で三割になってしまう。


『二分後、マナチャ』

『全員MP気にせず総攻撃!』


 二分後、個別バフの更新をすると同時にマナチャを入れる。そう宣言した私の言葉を引き継ぐようにロゼが、全員にMPを使いまくれと言葉を発した。

 それに答えるように、青や水色、白などのエフェクトが一気にカリエンテに向かい弾け飛ぶ。

 すると、流石にダメージを感じたのか、咆哮を上げ左右に頭を振ったカリエンテが、身を屈め自身の尻尾で周囲のATKを弾き飛ばした。


 一気に減る近接ATKたちのHP。

 それに即座に反応した宮ネェがヒーリング オールを使い一気にクラメン達を回復すれば、ロゼ達の所も同じように回復をしていた。

 雪継、千桜もまた個別にヒールを貰い問題は無いようだった。

 

『扉に到着しました』

『わかった。水晶に触れるタイミングはこっちで指示する。

 水晶まで進んでくれ』

『了解です』


 漸く扉に到着した復帰組にロゼが答える。

 その間、カリエンテを注意深く見ながら個別のバフを更新しておく、今の所変化は無いそう判断を下し『マナチャ』と伝え、その言葉を言い終わると同時に、マナチャージを発動させた――。

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