第169話 最強は壊滅を齎す㉑

 ロゼにPTに誘われて、そう言えば……と思い出し白影を探せば瞳を輝かせてすぐそばにいた。

 居るなら声かけてよ。怖っ!


「ren! エヴァラック!」

「持って来てる。トレ」

「出すわ」


 白影にトレードでエヴァラックを渡す。

 その代わりに白影から、280Mが渡された。

 円満な取引が終わりホクホク顔の白影が「やった~!」と喜び去って行く。そんな彼を見送り、PTチャットで次の商談に入る。


『各クランに、製本師いるんだよね?』

『うちは居るわねw』

『うちは居ないなー』

『うちも居ない……』

『小春ちゃんとこは1冊、ロゼと雪のとこは三冊まで売るでいい?』

『メテオの魔法書って相場無いわねぇ~。

 これまで見つかってなかったから、そうね……400Mでどうかしら?』

『うちは、三冊買うわ。小春ちゃんとこと同じ値段でいいぞw』

『え? じゃぁ、うちもそれで!』


 メテオの魔法書について話を振れば、新宿二丁目以外は製本師が居ないと言うのでとりあえずとばかりに三冊まで売る事にする。

 値段を吹っかけろと言ってたクラメンたちに、400Mでいいか確認をするためクラチャを開いた。


[[春日丸] 戻ったで~!]

[[ren] ハルおか。

    メテオ@400Mで買うって、売っていい?]

[[キヅナ] 丸坊おけーりw]

[[雷] おかえりなのですよ]

[[大次郎先生] 400か~。クランハウス増設もしたいし

       もう少しぼったくれない?w]

[[宮様] 確かに、部屋の残り少なくなったわね~]

[[黒龍] 500でごり押し!]

[[卑弥子] 新書なら500でいけるはずよ~w]

[[ren] わかった]


 クラン資金が不足している事と、元メンバーが戻ったことによりクランハウスが早速手狭になってしまった事を踏まえ500Mで販売することを決める。


『@500じゃないとダメって言ってる』

『足元見てんな~w』

『いいわ。言い値で買うわ』

『仕方ない。戦力強化したいし買う』

『うっ! ちょっと相談する』


 小春ちゃんとロゼには、その場でトレードを出し販売する。

 これで2G……旨い。

 残るは雪継のところだが、相談すると言ったきり数分待つも返事が無い。

 どうするのか決めかねている様子に、後でもいいよ? そう伝えようとしたところで……。


『ん~。うちの今の財政だと出せても450MがMAX……

 それで三冊売ってくれない?』

『ふむ。なら一冊買って、製本師育てて転売すれば資金稼ぎになる』

『財政厳しいなら、製本師育てて1冊買う方がいいだろ。

 今後もクラメンに覚えさせるつもりなら、確実にひっ迫して行くようになるしな』

『なるほど、転売もありか……三次職魔法職ならサブにいるし……。

 うん。ちょっと資金作り目的で製本師育てて見るわ』

『なら、1冊でいい?』

『うん。それで~』

『k』


 商談が済み。トレードする私と雪を見ながら、何故PTを組んだのか当初の目的をロゼが話出した。

 その内容は、二つ。


 一つ目は、同盟を組みたいそうだ。

 同盟を組む目的としてロゼは、攻城戦とレイドを上げていた。


 二つ目は、ドラゴンレイドの定期化。

 今回、カリエンテを討伐出来たことで、他のドラゴンレイドを回りたいと思っているらしい。

 一度成功した事で、今回組んだメンバーで行きたいとロゼは考えているようだった。


『質問いいかしらん?』

『なんでも』

『同盟を組むって言うけど、あたしたちもう既に、他と同盟組んでるわよん?

 それはどうするのん?』

『身内だからハッキリ言うけど、解散して貰いたい』

『理由は?』

『今さ、同盟組んでるとこで自分のクラン以上に強いとこってあるか?』

『ないわね』

『N』

『だろ? うちもそうなんだよ。

 だからって訳じゃないけど、何をするにもうちが主体になる感じでな……。

 ぶっちゃけ寄生状態なんだよな』

『あ~。それは分かる気がするわw』

『なるほどねw』


 どうやら同盟を運営する側は、とても大変なようだ。

 苦労して立ち上げて、同盟に参加したクランのメンバーの面倒まで見るとか……面倒過ぎる。私はパスだな。

 ロゼの声に同意を示すような返事を返す小春ちゃんと雪たちの話を聞きながら、一人そんな事を思った。


 シルバーガーデン・アース・新宿二丁目はそれなりに有名で、強者の部類に入るから余計にそうなのかもしれない。

 だからといって、同盟主側に頼りっきりなのはどうなの? 

 戦争にしてもレイドにしても、各人が最高のパフォーマンスをする事で上手くいった方が楽しいはずだ。

 どちらかに負担をかける事で、成功させてどんな意味があるのか理解できなかった。


 ていうか、やっぱりまた同盟の話か……ロゼ達と組むね……うーん。

 ハッキリ言えば、どこのクランと同盟を組んでも一緒だ。

 うちの場合は、PKが主でクラハンなども週に1回あるかどうか……その他は全て個人行動な訳で、同盟を組んで同盟ハント等に誘われた所で誰も行かなそうな気がする。

 やっぱり単体で行動した方がいいような気がするんだけど?


 ドラゴンレイドに関しては参加する方向で考えて……あぁ、面倒になってきた。そうだ、こう言う時ことあの二人に頼ろう。


『ごめん、ちょっと先生と宮ネェ入れて。

 同盟についてとかは私の担当外』

『k』


 愚痴にも似た話し合いをぶった切り、ロゼに頼み宮ネェと先生をPTに加えるよう伝える。

 突然PTに召喚された二人は、何事かと驚くも話し合いの内容を雪に軽く聞いていた。


 後は二人に任せ、私の仕事は終わったと言わんばかりにテーブルとクッションを取り出し製本を始める。


『なぁ……あれもう、聞く気ないって意味?w』

[[宮様] ren 流石にロゼが凹んでるから

    ここで製本は止めてあげてw]

『そんな訳じゃないわよ。アレでもちゃんと話は聞いてるはずよ?』

[[ren] 同盟に興味ない。ドラゴンレイドならやってもいい]

[[大次郎先生] 同盟は拒否でいいんだな?]

『まぁ、私達が聞くからw』

[[ren] y]

[[大次郎先生] 一応ロゼ達の話も聞いてから

       そういう方向に勧めておく]

[[ren] よろ。

    あぁ、そうだ村雨、風牙たち部屋決めたら

    誰かにクラン庫からゼル貰って]

『そう……ならいいけど……さっきの話の続きだけど――』


 宮ネェと先生に、ドラゴン討伐だけは行くと言う私の意思をクラチャで伝えた。

 反対意見が上がらなかった事から、二人も似たような意見なのだと理解する。

 ついでに、新規加入組の村雨たちに部屋の支度金を渡してもらえるよう頼み、魔法書を羊皮紙に写した。


[[白聖] 俺が渡しとくわ]

[[キヅナ] ren。俺らの分配金クラン資金にしとけ]

[[雷] なのです!]

[[黒龍] いいのかよ?]

[[ライガー] どうせ使わないにゃ]

[[卑弥子] 引退してるしねw 装備はrenにあげるw]

[[カフェオレ] あ、ヒガキ君。

       マジでちょっと密談で連絡先送って!]

[[河瀬] 久しぶりに楽しかった。

    今度、俺のゲームにも遊びに来てw]

[[ヒガキ] いいですけど……四国ですよ?]

[[源次] お前ら気前いいなーw]

[[ケン坊] カフェオレ本気w]

[[宗乃助] 河瀬のゲーム。キャラ作ってあるでござるw]

[[カフェオレ] それでもいいw]

[[さゆたん] 本気でしゅw]

[[ユージ] 寝てた~。カリエンテどうだった?]

[[河瀬] マジ? GMコールしてくれれば俺が対応するわw

     キャラ名何?w]

[[ヒガキ] じゃぁ、送っておきますねw]

[[ティタ] 討伐したよ~w]

[[風牙] 余裕w]

[[さゆたん] 私物化でしゅwww]

[[村雨] 任せろw]

[[宗乃助] 宗乃助でござるよw

      多分でござるが、全員作ってるはずでござるw]

[[キヨシ] もう、キヅナたち落ちるのか?]

[[河瀬] 登録しとく!]

[[†元親†] 早くね?]

[[キヅナ] おう。そろそろ子供お風呂に入れる時間なんだわw]

[[ユージ] 明日も、仕事だから寝る~。

     反応無いからrenにはメール送っといたw

     おやすみ]

[[雷] 僕も一緒に落ちるのです。

   久しぶりに皆に会えて楽しかったのです。

   また、今度はオフ会で遊ぶのですよ~w]

[[卑弥子] 乙! 皆、またねw]

[[ライガー] 久しぶりにマジ面白かったにゃ!

      そのうち……家の事が落ち着いたら

      また、来るにゃ~。さらばにゃw]

[[河瀬] 皆と一緒にプレイ出来て良かった。

    必死に有給とったかいがあったよw

    また、会おうw]

[[カフェオレ] ヒガキ君、後で連絡するw

       コーヒー飲みに来い。

       一杯目ぐらいは奢ってやるw]

[[ケン坊] 挨拶は大事なコミュニケーションだぞ!

     皆また、オフ会でw お疲れw]

[[キヅナ] まぁ、あれだ。あんまrenに集んなよ?w

     後チカ、お前……いい加減。回復覚えろ?w

     じゃま、何かあったら連絡してくれw]

[[シュタイン] 私も抜けておくであるw

       研究が済んだら、来るである!]

[[春日丸] 俺も抜けとく~w

     PK済むか、飽きたら来るわw]


 いつの間にか集中していた私は、皆が一言ずつ残しクランを抜けていたことに気付く。言葉を返す事も出来ず、心の底から後悔した。

 せめて返事ぐらいはしておこう。そう思った私はメールを開いたのだった。


 そこには、新着メールが十一件。

 引退者組とクランを抜けた二人を足しても十人しかいない。もう一件は何だろう? そう思いながら見たメールの差出人の名前に私は再びの恐怖を感じた――。

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