第147話 最強は壊滅を齎す③
トーナメント戦開始まで残り5分、【 ヘラ 】のNPC前では参加するのか見学なのかプレイヤーたちがごった返していた。
それに紛れるように私もまたNPCへと近づく。
[[大和] 多いw]
[[黒龍] あー。NPC見えねーw]
[[宗乃助] 多いでござるなw]
[[ゼン] はー。緊張する]
[[†元親†] おっ! renみっけw]
[[大次郎先生] 私、身長のせいでNPC見えないw]
[[キヨシ] チカ見つけた~!]
[[宮様] 何処からこんなに湧いて来たのかしら?]
[[鉄男] なんか、正月の初売りとかこんな感じだよなww]
[[ティタ] 先生wwww]
[[ヒガキ] 1回は勝ちたいですね]
[[さゆたん] ヘラ以外もこんな感じでしゅw
人の多さは諦めるしかないでしゅw]
クラチャの声に周囲を見回しクラメンたちの姿を探すも、プレイヤーが多すぎて見えない。探すのを諦め仕方なくNPCに話しかけられる位置に
【 これより、トーナメント戦を開始します。 】
と言う、NPCの声と同時に個人の職不問に参加登録する。
登録を押したのと同時に、会場に移動するためのカウントが始まった。これだけのプレイヤーが参加するのであれば、すぐに呼び出しがかかるのも納得と思いながらカウントが終わるのを待つ。
呼び出しカウントが終わり視界が暗転し、草原ステージへと移動した。対戦相手は女エルフの双剣の重ATKで、名前はゆーりん。
装備を見る限り、防具を見る限り三次職である事は間違いないようだ。がしかし、武器が二次のままなことから三次職に上がったばかりなのだろうと予想した。
バフを入れつつ相手の出方を伺うため様子をみれば、課金バフを使いそのまま無防備に距離をつめる。
戦闘開始のブザー音が鳴り、二刀と双剣で斬り合う。ゆーりんは早期決着を目指しているのか、二次のスキルでゴリ押する。
その間、スキルをかわしつつアーマーブレイク(+25)を連発した。
何をミスったのか、スキルの反動により数秒の硬直を食らったゆーりんに対し、アーマーブレイクのエフェクトが発動する。
エフェクトを視界に収めた私は、即座に左手の刀を逆手持ちにして斬りつけながら間髪おかず、右手の刀で袈裟斬からのスキル一閃で切り捨てれば図らずもHPを枯らし決着がついた。
「おつかれです」
「おつ」
灰色になり倒れるゆーりんが、お疲れ様とチャットで表示する。
戦いの後、お互いに労いの言葉をかけあうのが暗黙の了解になっているらしい。私もそれに習い言葉を返した。
暗転する視界と沢山のプレイヤーのざわめきにも近い声を聞き、街に戻った事を悟る。アイテムボックスを開き装備の耐久などを見て、まだいけると確信したところで即座にNPCに話しかけ再び同じ条件で登録した。
クラチャでの報告を見る限りクラメンたちも職別で順調に勝っている様子だ。ドラマスの職別に……そう逡巡するも、初日を思い出しどうせ誰も居ないだろう。と、思い直した。
迷っていた間に二度目の【 会場に移動まで残り120秒です。]と言うカウントが表示されていた。
街をぼーっと眺めながら会場へ移動するのを待つ。そのわずかな時間にもプレイヤーが消えたり現れたりと出入りが激しい。
意外と参加者が多いのかもしれない。クランLvとスキル獲得のために出来る限りポイントを稼げるよう頑張ろう。
視界暗転して見えた景色は、闘技場。そして相手は、私と同じ?名前の赤の他人。職は、同じドラマスのようだ。
バフを入れながら、同じ名前の赤の他人を観察する。こちらは花魁衣装に二刀。あちらは、浴衣に二刀……ドッペルゲンガー見てるみたいで気持ち悪い。
それが、唯一出た感想だった。
観察すればするほど、気持ち悪いと言う感覚に苛まれる。最終的にさっさとこの戦いを終わらせようと決意した。
カウント0になると同時に、距離を詰め軽く飛び上がる。そのまま上半身を捩じり反動をつけて、両手に持つ刀を振り抜いた。
軽く挨拶代わりのつもりで、やったアクロバティックな攻撃を相手はただただ、嬉しそうな表情をして棒立ちで受ける。
「やった~。本物に斬られた……くふふっ」
なっ……なんなのこの人!! マジでキモイ。なんで攻撃受けて嬉しそうに喜んでるの?
ヤバイ、こう言う人物は本当にヤバい……。
これまでも、見た目を真似しているプレイヤーはいた。そう言うの限って私を避けるようで、私自身の前には現れない。
だが、この人は違う……明らかに自分の意思でここへ来ている。
[[ren] 誰か、トーナメント戦の
[[ティタ] どうした?]
[[鉄男] ん?]
[[大和] あぁ、renは偽物と当たってるのかw]
[[黒龍] 見るわw]
[[さゆたん] あたくちもw]
助けを求めるようクラチャで棄権の仕方を聞けば、誰も答えは返してくれなかった。
仕方なく、振り抜いた刀を再び構え直しドッペルに攻撃を再開した。
斬り付ける度「ふふっ」とか「あはっ」と笑い声を上げるドッペル。
「もっと、もっとだ!」と高揚した声を出すドッペルに、これで倒れないようであれば、もうトニトゥールスを召喚しようと決めムラクモ×オバハリの専用スキル――アマギリを発動させた。
アマギリ発動と同時にドッペルの周囲に霧雨にも似たエフェクトがあがる。
すると何を思ったのか、突如ドッペルが装備を外し初期の見た目――白のキャミソールに白のスパッツの姿になった。
[[黒龍] こいつはヤベー。マジ怖!]
[[さゆたん] ストーカーでしゅ]
[[大和] 斬られる度に笑い声とか……頭、大丈夫かこいつw]
[[ティタ] renの顔が、引き攣る通り越して無表情ww]
何千と言う刀身が降り注ぐ中「さぁ! 僕をren様のスキルで殺して~」と言うと両手を広げ、天を仰いだ。
その言葉に私は、ドン引きした。両手をひろげた所で、即座にバックステップを踏み闘技場の端にある壁にぶち当たるまで下がる。
遠視を使いドッペルが灰色になり倒れてもその場から動かず、ただただ恐怖し警戒した。
[[大和] こいつ通報したw]
[[黒龍] 俺も通報しといた]
[[さゆたん] あたくちも。renちゃん大丈夫でしゅか?]
[[宮様] ただいま。どうしたの?]
[[ゼン] 戻りました~
負けちゃいました。ごめんなさい]
[[ティタ] ren?]
視界が暗転して街に戻る。先ほどのドッペルの姿がトラウマのように脳裏で再生されていた私の肩を誰かが掴む。
振り向きざま刀の柄を握り、抜刀仕掛けたところで相手がティタである事に気付いた。
ティタとさゆたんが心配そうな表情で私の名を呼ぶ。
それに対し、どこかほっとした気分になり大丈夫だと答えれば、二人は更に心配だと言う顔をした。
気分的に今日はもうトーナメント戦に参加する気にはなれないが、代行とかして時間を潰せば別に問題はないだろう。
[[大次郎先生] 今日は、無理しないで
トーナメント休もうか?]
[[さゆたん] 今日はトーナメント辞めて
クラハンに行くでしゅよw]
[[白聖] え? マジ?
そいつの名前plz 俺も通報入れとく]
[[ティタ] うん。そうしよー?]
[[キヨシ] 金稼ぎに変更だ―!]
[[†元親†] 取り消して来るぜ~w]
[[ヒガキ] 狩りいいですね!]
[[ミツルギ] 賛成っすw]
優しいクラメンたちが、私の心情を慮ってトーナメント戦出場を取りやめ、クラハンへと行動をシフトしてくれた。
そんな皆へお礼をいいつつ、その提案に乗る。
ヒガキさん・ゼンさん・ミツルギさんの経験値稼ぎをしようと言う先生の言葉に、選択する狩り場をアイテムよりも経験値優遇で考えれば魔巣が一番効率がいいと言う結論になった。
狩り場が決まり、魔巣入口に集合と言う宮ネェの言葉に皆がそれぞれ移動を開始した――。
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