第143話 閑話 雪継の災難
その日は、いつもと少しだけ違っていた。
アップデートでもない限り狩り場にいるモブの増減は変わらない。なのに、俺たちがいつも引き摺り階段で放置していたはずのモブが、綺麗に掃除されている。
そこで、俺はおかしいと思っておくべきだったんだ……。
[[水無月] マスター。なんか9Fでモブ狩ってるPTいるからモブ放置無理かもーw]
[[さつきちゃん] あ~本当だ~。面倒だよー]
[[雪継] ん~。階段入れない感じ?]
[[blueberry] 無理w]
[[水無月] 燵魅戻って、処理しないとMPKになる]
[[無慈悲] もう放置で良くない?]
[[燵魅] うぜー。なんでこんなとこで狩ってんだよ]
[[雪継] 放置ダメ絶対……ていうか、相手名前分かる?]
[[獅子王] 戻るのだるっ!]
[[雪継] 同盟にもPTチャで伝えて]
[[水無月] ちょっと、燵魅舌打ちしない。相手雑魚とか言っちゃダメだってwww]
[[blueberry] ん~。名前見える範囲だと、白聖、
さゆたん、キヨシってなってるかなw]
血気盛んな年頃の燵魅がどうやら相手に対して雑魚とか言ったらしい……あぁ、これは謝って穏便になんとかすませないとダメな案件じゃんなんて思っていたら、ブルーベリーの報告でそれだけでは済まない事を知った。
階段を上っていた足がピタっと止まりクラチャを何度見直しても、シロ、さゆたん、キヨシって言う名前が見えた。
[[雪継] あー。アース詰んだわ。オワッタ]
[[さつきちゃん] え? なんでPKしてくるの?]
[[水無月] 何この人達……怖]
[[獅子王] あぶねー俺も言いそうだった!]
[[むー姫] んー? どうかしたのー?]
[[雪継] 絶対誰も、やり返すなよ! 同盟にも伝えて!
じゃないと収集つかなくなる!]
放心状態ながらもクラチャで念押しして、俺はrenに密談を送った。
なんで、こんな過疎狩り場にren達が居るのか……と聞きたいところだが、まずは先に謝り倒す。
死神なんて呼ばれてはいるけれど、renに限って言えば身内には優しく情け深い。
そのことを知っている俺は、とにかく元クラメンだと言う利点を利用する事にした。
正直なんでもは言い過ぎたと思いながら密談を終えた俺は、なんとかrenにとりなして貰えることを祈りつつ9階へと登った。
密談の返事が来ないままrenたちと合流した俺を待っていたのは、凶悪な笑顔を湛えた元クラメンのパイセンたちだった。
『すまん。ちょっとうちのクラメンがやらかしたらしいから……少し話し合いしたい。
皆はモブの処理頼む』
『BFがなんでここに……?』
「マジ、ごめんな……うちのメンバーがren達に喧嘩売るような態度とって」
「雪継。まず謝る態度はそうじゃねーよな?w」
盾を担いだ黒が、当たり前のように、腕を組み仁王立ちするとそう言った。
「ちょ、まさか……」
「日本人の心は大事でしゅよ?w」
「酷い……黒とさゆが酷いw」
さゆたんの言葉にまさか、正座か……そう思いながらも、素直に正座をする。
そんな俺に、何をしてるのかと聞く水神、他同盟相手のマスターたちに諸事情を説明した。
「雪継。お前なら分かるよな?
クラメンの暴走は――「
「はい……」
相変わらずのシロの言葉に身体は即座に反応する。
そんな俺を見つめたシロがニヤっと口角をあげて笑う。
嫌な予感がした。何がとは言えないが凄く嫌な予感がする。
そんな俺の予感などお構いなしに、周囲のマスター含めメンバーたちが吹きだし笑っている。
[[む―姫] 雪継くん、なんでそんなwwww]
[[獅子王] マスターが、へたれに見えるw]
[[松本Knight] マスターの知り合いっぽいけど? どうみてもあっちが上だなw]
[[雪継] 仕方ないだろw 大先輩なんだよ!
しかも、全員上手いんだよPKうちじゃ確実に同盟ごと潰されるw]
[[燵魅] え? 同盟ごと?]
[[雪継] あのなー。ren以下このメンバーは、元「殲滅の破壊者」って
クラン。その名前知らない奴はいないでしょ?w]
[[む―姫] え? じゃぁ……あれがこれなの?]
[[雪継] y]
殲滅の破壊者と言うクラン名は、この病ゲーで知らない者はいないと言われるほど有名だ。どれほどかと言われれば、三カ条が出来る程に……。
「じゃぁ、分かってるわよね」
「う……嫌な予感がっ!」
宮ネェの問いかけについ本音をポロリと零した俺は、懇願する視線をrenに向けた。
だが、そんな俺の願いは――
「雪継と燵魅の二人が、全茶で人生最大の汚点である黒歴史を語った後ごめんなさい。
と謝罪することで今回の事は許す」
と言うrenの言葉で儚く散った。
ちょっと、renそんなそんな酷い事を俺にやれと……しかも、最大の汚点って! あぁ、そういや、ren以外のメンバーがこう言うの容赦無いんだったな……。
「まーじーかーよー! だから嫌なんだー誰だよ。
renたちに雑魚とか言ったやつー。俺まで巻き添えじゃん!」
「言ったの雪のクラメンだし、諦めて? まー、俺たちはPKでもいいけど?」
自分の所のクラメンの仕業だと分かっていてもつい、駄々をこねる子供のようになんとか罰ゲーム回避を試みる俺に、ティタが容赦なくPKでもいいと言いだした。
「PKはいやだw 潰されて終わるだけだもん。
俺このキャラ消したくない。ゲームも引退したくない」
「なら、やるしかない!」
ぶっちゃけPKだけは勘弁して欲しい。
殲滅の破壊者だった頃、PKだけはクラメン全員がリアルそっちのけで、活き活きと良い笑顔で参加していたを知っている。
そこに俺も居た訳だけど……敵対=PKを受ける側になってはじめて、恐ろしいと感じた。
究極の選択と言うか……もう選ぶ方が限定された選択を迫られた俺は、PKか罰ゲームかならば当然、罰ゲームを選ぶしかない。
腹を決め「わかった」と了承の返事をすれば、明日トーナメント戦前……一番プレイヤーのログインが多い時間によろしくと言われてしまった。
抜け目が無い……まじ、ren、先生と宮ネェが揃うとロクな事が無い。
そう言えば、昔も同じような事思った気がする……デジャブ?
少しだけ昔を思い出し懐かしく感じながら、元クラメンに別れを告げレイドへと向かう。
本当は、殲滅の破壊者みたいなクランを作りたかった、けれど……あれは俺には作れない。
それに、今のクランも悪くないと思えた――。
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