第142話 最強は夢想する㉒

 静寂と恐怖がその場を包み込む。そんな空気をぶった切るように笑顔の先生が、雑魚とのたまったPTのプレイヤーたちに対し事後処理を始めた。


「あー。レイドの人達かな? 主催者と話をしたいんだけど……主催者誰かな?」

「――あ、えーっと、ま、まだ来てないです」

 放心するプレイヤーたちの中で、いち早く正気を取り戻したらしいエルフの彌瑠みりゅうが返事をする。

 どうやらレイドに行く途中なのは間違いないらしい。

 無所属が居ない事、複数のクランマーク以外のマークが居ない事などから、同盟でレイドを行うつもりだったのが見てとれた。


[[キヨシ] なー。この燵魅たつみってアースだよな?]

「主催者来るまで悪いけど待たせて貰うね。

 後、こっちからもアースのマスターにも話通させて貰から」

「あ……はい。今5階らしいので、もう少しかかるみたいです」

「アースって、雪継だったわよね?」

[[ティタ] うん。同盟でしょ? たしか……緑円の彗星って名前だっけ?]

「そうだね」

[[ren] 私から密談入れておく]

[[大次郎先生] よろしくw]

[[黒龍] ティタ……緑円の星だw]

「そうです」

[[†元親†] 雪継。うちに戻らないの?w]

[[宗乃助] 戻る訳ないでござるよw

     いまや大同盟のマスターでござるww]


 アースのクランマスターである雪継は元クランのメンバーで、クラン解散後にクランアースを作った。その後同盟を作りいまや大同盟のマスターになった人物だ。

 関係は良好なので、揉めたくは無かったのだが……今回は、仕方が無い。


 キヨシが殺した男を見つめながらクランマークがアースである事を確認する。先生は相変わらず淡々と事後処理をこなし、宮ネェと二人彌瑠と話を続けている。

 早速密談を送ろうとタブを開けば、既に事情を聞いたらしい雪継の方から密談が届いていた。


”雪継” ren。すまん……うちの馬鹿がマジですまんw

”ren” ノ


”雪継” 久しぶりw マジでごめんなー?

”ren” 謝り方が軽いw


”雪継” www

”ren” 主催雪継?


”雪継” いや、俺も参加はしてるけど主催は、メルクリウスの水神みずがみ

”ren” ふーん。まぁ、どうでもいいや。

    で、どうする? PKする?


”雪継” どうでもいいなら、なんで聞いた?w

     PKしない。潰されるの眼に見えてるからしないw

     燵魅に謝罪させるで許してくれない?

"ren" 謝罪ってどういう謝罪なの?。


”雪継” ん~。renたちが望むとおりの謝罪をさせる。

    で、どう?

”ren” なんでもいいってことね? 相談する。


”雪継” あ……うん。

”ren” うぃ


 雪継との密談を一時中断して、クラチャを見れば雪継の教育が悪いと言う会話がされていた。そのチャットを追いかけ、雪継に来ない方がいいよ? と知らせてやろうかとまで思ったが……面白そうなのでやめた。


[[さゆたん] 雪継、説教でしゅねw]

[[白聖] クラメンの暴走はマスターの責だろ?w]

[[ren] 雪継から、PKはしない。本人に謝罪させるから許してって]

[[黒龍] 説教は確定だな]

[[大次郎先生] 謝罪ってどういう謝罪?]

[[宮様] 公式で謝罪?]

[[ren] 私たちの望む謝罪をさせるって]

[[キヨシ] ほー]

[[†元親†] へー]

[[鉄男] ふーん]

[[ミツルギ] 三人の笑顔が黒くて怖いっす]


 望む謝罪をさせると言ったことで、キヨシ、チカ、鉄男の三人がとても楽しそうにニヤニヤ笑う。それを目撃したらしいミツルギさんが、心の底から引いていると分かる表情で視線を逸らした。


 その後クラチャで話し合いを行い。

 結果、キヨシとチカ、鉄男の意見である”全茶で黒歴史を語った上でごめんなさいと謝罪させる”と言う事になった。


 それを伝えようと密談のタブを開いたところで、雪継含め主催者が私たちの元へ到着する。

 全部で10PTはいるであろう状況に部屋の中のモブが反応してしまう。

 それの処理をレイドの方のPTに任せ私たちと雪継、同盟に参加しているマスターたちと復活で起こされた燵魅、それから主催者である水神で話し合いをはじめた。


「マジ、ごめんな……うちのメンバーがren達に喧嘩売るような態度とって」

「雪継。まず謝る態度はそうじゃねーよな?w」

「ちょ、まさか……」

「日本人の心は大事でしゅよ?w」

「酷い……黒とさゆが酷いw」


 両手を合わせ合掌状態で頭を下げ謝る雪継に、黒がニヤっと笑い謝る態度じゃないと言えば何かを察したらしい雪継が顔を引き攣らせた。

 ロリ的笑顔で微笑むさゆたんが日本人の心を語れば、項垂れた雪継がその場で正座をする。


「雪継。お前なら分かるよな? クラメンの暴走は――「!!」――だよな?」

「はい……」


 腕を組み仁王立ちのシロが、正座した雪継を見降ろしまるで鬼教官の如く復唱させた。

 雪継は昔から同職のシロには逆らえない。初心者だった彼にスキルの使い方や狩りの仕方を教えたのがシロだからだが……。

 

 やり過ぎじゃない? ていうか……同盟相手のマスターたち最初は驚いた顔してたのに、今じゃ肩震えて笑い堪えてますよ? 

 雪継の今後が少しだけ憐れになるも、面白いからいいかと切り捨てた。


「じゃぁ、分かってるわよね」

「う……嫌な予感がっ!」


 メンツ丸つぶれ状態の雪継に宮ネェがわかってるよね? と聞けば、何かを感じ取ったらしい雪継ぐが項垂れながら審判の時を待つ。そんな彼に私は結果を伝えた。


「雪継と燵魅の二人が、全茶で人生最大の汚点である黒歴史を語った後ごめんなさい。

 と謝罪することで今回の事は許す」

「まーじーかーよー! だから嫌なんだー誰だよ。

 renたちに雑魚とか言ったやつー。俺まで巻き添えじゃん!」

「言ったの雪のクラメンだし、諦めて? まー、俺たちはPKでもいいけど?」

「PKはいやだw 潰されて終わるだけだもん。

 俺このキャラ消したくない。ゲームも引退したくない」

「なら、やるしかない!」


 私の言葉に正座状態で横に倒れた雪継が悲鳴に似た声をあげる。それにティタが突っ込みを入れPKでもいいよ? と聞けば、雪継は引退したくないと言う。それならやるしかないと鉄男が言えば、嫌々ながらに了承していた。


 そんな会話を終えたところで、レイドが終わった時点でやってもギャラリーが少ない事を考慮して、明日トーナメント戦が始まる直前にやることと時間を指定する。

 諦めた表情の雪継が「わかった」と返事をすると同時に話し合いの場は解散した。


 終始黙って聞いていた周囲のマスターたちには雪継から説明するよう伝え、手を振り彼らと別れクエストのモブを狩りに行く。

 部屋のモブを掃除してくれたおかげでその後大量のモブに絡まれる事も無く、大和の教えてくれたクエストモブの湧く部屋に到着する。


 灰色の水晶に囲まれた、その部屋の奥には探し求めたクエストモブが元気に室内を闊歩していた。黒以外は手を出さないよう伝え、バフを更新すると攻撃を始めた。

 黒がヘイトだけを入れ棒立ち状態で攻撃を受けてくれる間に二刀を取り出し、斬り付けダメージを与える。黒の回復は宮ネェがHPバーを見ながらやってくれているので私は攻撃のみに専念した。


 クエスト専用のモブは、基本HPが通常のモブより少なく設定されている。

 そのため時間的には余りかからず倒せるだろうと思っていたのだが、既に5分ほど斬り付け続けているのに倒れる気配が無い。

 これは想像以上に硬い……。


[[宮様] こいつ無敵?w]

[[ren] なんでこんな硬いの?]

[[ティタ] んー。HP減ってる?]


 なんて会話をしていたら、突然モブが「うぉぉぉー」と言う雄叫びをあげバサッと落ちる。

そして、システムログには

【 魔に魅入られし天使 を討伐しました。 】

【 魔を魅入られし天使から 魔痕 を獲得しました。 】

と出ている。


[[ren] 出た]

[[鉄男] 意味わかんねーw]

[[宗乃助] もしかしたらでござるが、他のクエストにもある攻撃した回数で

     ドロップするタイプのクエかもしれないでござるw]

[[黒龍] まー出たなら良し。さっさと戻るぞw]

[[さゆたん] でしゅねw]


 宗乃助の言う通り、攻撃した回数でドロップするタイプのクエストモブであればこうなるのも不思議ではないと思いつつ、14階へと登った。

 何事も無く14階に到着したところで、クラメンたちに先に帰還するよう伝える。

 どうせならと、先生に大和のお迎えも頼んでおいた。


 その後、ニーケと再会し魔痕を渡せば例のスクロールを【 良くやってくれました 】と言う褒め言葉と共に受け取る。

 漸く天城のクエが終わり、帰還の護符を使った――。

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