第139話 最強は夢想ずる⑲

[[白聖] 5……4……3――]

[[†元親†] バリアー!]


 頼んだ通り3でチカがバリアを発動してくれる。バリアが発動されると同時に階段から飛び出し6Fへと出れば、バラバラに散っていたらしいモブが一気に私目掛け詰め寄って来る。

 囲まれないよう右にそれつつ室内をジグザグにゆっくりと走る。走りながら角付近でゲッター サークルのスクロールを使いモブを一か所に纏めた。

 

 ここでチカのバリアが時間切れとなるも、なんとかなるだろうと次の行動に映る。

 

 デバフは効かないのに何故スクロールは使えるのか……それは、課金アイテムだからだ。

 リアルマネーを使ったアイテムがゲーム内で優遇されないと流石にプレイヤーは萎える。

 課金して貰うための運営の配慮なのだろうが、ゼルで買っている私からすればかなりありがたい配慮だと言えた。


 逆サイドから来るモブを引こうとしたその時、私のまとめたモブの横を黒たちが走り抜け廊下へと向かう姿が視界に入る。


[[黒龍] なんかあったら、呼べよ!]

[[さゆたん] 気を付けるでしゅよ!]

[[†元親†] 俺残る~?]

[[宮様] ren。頼むわねぇ~w]

[[鉄男] 頼むな~w]

[[キヨシ] なんか、あれだ。脱出ゲームやってるみてぇw]

[[ティタ] チカ走るよ!]

[[宗乃助] 何かあれば呼ぶでござるよ~w]

[[大次郎先生] 鬼ごっこ思いだすなw]

[[ミツルギ] renさんお疲れっす!]


 一言残した黒たちを送り出し、部屋の中でモブを引き別の固まりを作った。とりあえず、これで二つ纏まってくれたと、もう1枚スクロールを使い先に纏めた方へ時間調整をしながら使う。

 それを交互に繰り返し、ダメージを追わない場所へ陣取るとその塊を眺め仁王立ちして呼び出しを待つ。


[[黒龍] モブ多いな]

[[ティタ] ここから上全部こんな感じかもね……]

[[宮様] 嫌な事言わないでw]

[[さゆたん] 勘弁して欲しいでしゅw]


 どうやら、廊下の方もモブが多く残されていたらしい黒たちの発言を見ながら、どちらのモブの塊とも距離をとる。

 スクロールを使いつつ、黒たちの合図を待つ事15分。なんとか処理を終わらせたらしい黒たちが、階段を登ったと知らせが入った。


 最後に二つの塊に、複数枚ずつゲッター サークル スクロールを使い部屋をかけ抜け、階段に向かう。

 出来るだけ中央を通り、階段までの道を蒙ダッシュすればスクロールの効果が切れたモブが大挙して追いかけてくるのが見えた。


 アレにつかまったら死ぬ……必死の形相後ろを振り返りモブの様子を伺う私へ、階段から呑気な声でティタが「こっちだよ~」と手を振る。

 そのまま、ティタを巻き込み倒れ込むように階段へ到着した。


[[大次郎先生] お疲れw]

[[宗乃助] 無事でなによりでござるよw]

[[†元親†] 俺なら死んでるなw]

[[ミツルギ] 危なかったっすねw]

[[ren] ありw]


 たったこれだけのことなのに、どっと疲れを感じる。まるで、バフォとタイマンで戦った後のような疲れを感じながら7階へと登った。

  正直、チカとかキヨシあたりが何かへまをやるのではないかと思っていたが……何も問題を起こさなかった。ここ最近、皆から叱られた効果か? と思いつつ、まだ気を抜けないなと思いなおす。


 7階は通路の脇に小部屋が少なく、モブはまばらにしか湧かない。そのためいつもならば休憩所のような感じになっているのだが、ここでもまたモブが8階登り口の階段に溜っている。


[[キヨシ] またかよぉぉー]

[[鉄男] うえー]


 嫌そうな声をあげるキヨシ、鉄男。

 舌打ちしながらも処理をするため、黒がレンジ ヘイトを打ち込む。それに合わせシロがダウン  プルを打ち込み足止めを試みる。

 見事にレジられたのだが……それを気にした様子も無く、シロは弓を引き絞り矢を放った。


 「さっさと倒すでしゅよ」とさゆたんが言い放ち。キヨシと同時にダークネス フレイム――三次魔法職線用魔法。闇属性唯一の範囲魔法。黒い炎で相手を纏めて焼きつくす――を発動さる。


 黒い炎が、黒のレンジ ヘイトで集まったモブを包み込み燃やす中、ティタ、先生、宗乃助、ミツルギ、鉄男の五人が天使を取り囲み一匹ずつ倒して行く中、宮ネェとチカはダメージを負うメンバーに回復を飛ばしていた。


 そんな皆に、更新バフを回し終えた私は、ドラゴン オブ ブレスを打ち込みながら、さゆたん、キヨシのためにゲッター サークル スクロールを使いモブを纏めた。

 ダメージを受ける黒のHPの減り具合が、エグイよー。無理だよーとチカが訴える。その声に、宮ネェが叱咤を飛ばした。


 さゆたん、キヨシの魔法で大分楽に倒せてはいるが……デバフが効かない天城では、私の仕事がほぼない。二刀を取り出し殴りに行きたい気もするが、ここまで近接が多いと二刀で斬り付ける事も出来ず……。ただただ、ブレス オブ アローか、ドラゴン オブ ブレスを打ち込むしかなかった。


[[さゆたん] renちゃん。暇そうでしゅw]

[[ren] ヤル事が無い……]

[[宮様] 野良のバフみたいねw]

[[白聖] renが暇そうにしてるの珍しいなw]

[[大次郎先生] 普通は前にでないからね?

       renが特殊なだけで、基本バッファーは後ろで

       緊急時に備えて待機だからね?]

[[キヨシ] うはははw ここは俺に任せろーw]

[[†元親†] やべー! 俺のMPがー!]

[[宗乃助] 泥船でござるなw]

[[鉄男] 泥船wwwwww]

[[黒龍] 宗乃助。笑わせんなw]

[[ティタ] 泥ww]

[[さゆたん] 沈むでしゅw]


 ゲッター サークル スクロールを使いながらモブを纏め、天城では大してダメージを与えない魔法を打つ棒立ちの私の様子にさゆたんが、珍しいと言わんばかりの声で暇そうだと言う。

 宮ネェが野良のバフだと言い始め、先生が特殊だと説明する。


 私自身野良に参加はした事が無いので良く分からないが、野良のバフはどうやらこう言う感じで棒立ちしてバフだけするようだ。

 そんなバフと組んで何が楽しいのか理解に苦しんでいると、キヨシが任せろと言う。

 その言葉に反応を示した宗乃助の言葉で、殺伐としていた空気が和み皆に笑顔が見えた。


 さゆたん、キヨシの魔法のおかげか、はたまた近接のメンバーが闇属性の武器に変えたおかげか、大量に放置されていたモブの処理を終え階段を登り8階に到着する。


 6階、7階とモブの溜まりを経験していた私たちは、8階も気を抜かず進むが……何故か8階はモブが一切たまっておらず、きっちり処理されいつも通りだった。

 粛々とモブを倒し、9階に進む道すがら、キヨシがニヤニヤした表情をしながらクラチャで皆に全チャを見ろと言う。


 また、どうぜっ下らない事だろうと思いながらも、全員が少し止まって全チャのタブを開く。私の視界に2年前に休止した懐かしいクラメンの名前に良く似た名前が映った。


{[佐助] 善悪30F @6募集~ 回復1 盾1 他自由 密談plz}

{[やまと] おぉ! キヨシ生きてたの?w}

{[ニーヤ] 闇情報買います。密談plz!}

{[ティタ] え? 大和?}

{[黒龍] 本物?}

{[やまと] うん。皆元気?}

{[正宗] クラン戦国 ではクラメンさん募集中です~♪

    面談後、採用します。密談 plz}

{[宮様] あら~。久しぶりねぇ~w 復帰するの~?}

{[さゆたん] 懐かしいでしゅw}

{[†元親†] おー! 大和~w}

{[ココア] ホワイトマシュマロメンバー居たら密談 plz}

{[やまと] 続々湧いて来るw 相変わらず皆元気そうだねw

      renがクラン作ったって掲示板に書いてあったから

      加入しようと思って顔出したw}

{[白聖] 復帰すんの? 大和}

{[やまと] うん。受験終ったし、一人暮らしになったし復帰するw

      入れてもらえるかな? 引退したら拒否とかある?}

{[鉄男] 俺が大丈夫だから大丈夫だろw}

{[大岡越前] 大江戸捕物帳では、クランメンバーを募集しています

       続々、密談下さい~}

{[やまと] おぉ。鉄男っちw おかえり?}


 全チャにクラメンが大量に湧く中、本物かどうか分からないので本人かどうかを確認しつつ、やまとに密談で今は天城にいるから難しいと伝えた。

「え? 死に戻り鬼ごっこ?」と即座に返してきたあたり本物で間違いないと確信を得て「それじゃない、違う」とだけ伝えた。


 二枚目の盾が、ゲームに戻って来たことでクラハンなど黒やティタに掛る負担が大分楽になるはずだと意気揚々とクエストを終わらせるため9階へ登った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る