第138話 最強は夢想する⑱
二―ケから、デメテルの方――西へ向かい25分ほど歩く。山間に出来た谷を降りれば、割れ目に巨大なクリスタルの城が地中に埋まるようにして聳え(そびえ)立つ。
天蓋の園を前に、バフを入れキヨシに装備を持ってきた事を思い出しあくまでも、貸出用だよ?と伝えローブをトレードで渡しておいた。
[[鉄男] あ―。マジ久しぶりだな~]
[[黒龍]
[[ティタ] あの時は地獄だったね……]
[[さゆたん] 死ぬか、殺されるかだったでしゅw]
[[キヨシ] 懐かしいなぁw]
[[宮様] あの時は、renと皇子兎が鬼だったわねぇw]
[[宗乃助] 殺されたでござるw]
[[†元親†] アレは面白かったなw]
[[白聖] あー。あったなぁw]
[[ミツルギ] 皆さん……何やってるんっすかw]
[[大次郎先生] 賞金3G+その他だったしね~w]
懐かしい黒の言葉に、ミツルギさん以外のメンバーが遠い目を天城に向ける。
大学受験を気に引退すると言う皇子兎が、自身の全財産を賞金にこの天城で鬼ごっこを企画した。皇子兎と私が鬼で、この天城の中を当時のクラメンがモブと鬼から逃げ回ると言うキチガイな遊びだった……。
――結果は鬼も含め全滅。
[[黒龍] あぁ、嫌な思い出だわ! さっさっと済ませて帰るぞw]
[[さゆたん] 賛成でしゅw]
[[宮様] そうね!]
天城を見上げていた視線を逸らした黒が、舌打ちしながら吐き捨てるように言えば無言で他のメンバーも頷いていた。
黒を先頭に先生、鉄男。ティタ宗乃助を最後尾に宮ネェ、キヨシ、さゆたんを守る形で天城に入ると最奥である14階を目指し、移動を開始した。
再確認にはなるが、クエストのために行くのは
天城は、15階建の城型ダンジョンではあるが、15階には週一でレイド ボスである堕天使ルシフェルが湧くので今回目指すのは14階と言う事になる。
モブは全てアクティブで、壁向こうであったとしても反応する。階層が上がる度に数が増え、硬さも強さも増し増しになって行く狩り場だ。
青緑のクリスタルの壁に乳白色の床と天井を持つ幻想的な通路を進み、階段を目指す。
そんな透けている壁の向こうに目をやれば、白い羽に
モブは、既に私たちを標的として捕えているようで、壁際を伝いついてきている。
これはマズイな……そう思う間もなく、反対の部屋の入り口から反応したモブが、私たち目掛け攻撃を仕掛けて来た。
[[黒龍] 誰だ! 壁近寄ったバカは!]
[[キヨシ] 俺?]
[[さゆたん] あたくちかも?]
[[宗乃助] 拙者でござるw]
黒のレンジ ヘイトが発動され、シロのダウン プルが降り注ぐ。さゆたんとキヨシが同時にフリーザーを打ち込み、ティタ、宗乃助、ミツルギ、先生、鉄男が同時に武装天使を取り囲んだ。
そこへ、後方からブレス オブ アローを打ち込み皆がスキルを使い攻撃する。
いつもならば、ここでモブは沈むのだが……流石、天城……HPが他の狩り場より多い上に、防御力も高い。
そう思いつつ攻撃を仕掛けたところで、いつも以上に時間がかかっている。これはどうみてもおかしい。そう思い、皆に質問をする。
[[ren] 武器、闇属性入れてる?]
[[黒龍] いてぇw 闇だぞ?]
[[白聖] 俺も]
[[さゆたん] あたくちもw]
私の質問に、攻撃を続けるティタ、先生、鉄男、キヨシが視線を逸らしながら「すまん」「ごめん」などと謝る。
あー。やっぱりそうか……と、思いつつモブの処理を終わらせた。
通常狩り場であれば、強化率+属性値でダメージを叩き出せる。
それには理由があって……通常の狩り場では、同一のモブであろうとそれぞれに属性が振られており統一する事が出来ないからだ。
だが、この天城は特殊で属性が聖で統一固定されている。
こう言う属性が固定された狩り場の場合、どんなに強化値をあげた武器を使ってダメージを出そうとしても、反属性を付けた武器の方がモブに対しダメージを与えらる。
その事を知らないはずの無いメンバーが、半数も属性無視をかましている。その事実に今回の狩りはいつも以上に、厳しいものになるだろうと予想できた。
正直無理を言って来て貰った以上、私から何か言う事はできない。と考え5メートルほど進んだところで、逆の入り口から再びモブが現れ戦闘になった。
部屋の入口を通りかかる度、戦闘を繰り返して階段に辿り着いたところで、流石にマズイと思ったらしいティタ、宗乃助、先生が武器を変更していた。
[[宗乃助] 階段に辿り着くのもしんどいでござるなw]
[[†元親†] まだ、5階だしなーw]
[[宮様] 先は長いわねw]
最奥の14階まで、まだまだ時間はかかると溜息を零す宮ネェに心の中で謝りつつ階段を登れば漸く6階に到着する。
階段を出た刹那、黒のHPが一気に減り残り数ミリの所で宮ネェのバリアが発動された。何があったのか説明を求める先生の声に黒が「来るな! 戻れ」とだけ言う。
急いで階段へ引き返した私たちへ、戻った黒がヒールを受けながらクラチャで事情を説明してくれた。
[[黒龍] レイドの奴らが残したっぽい感じでモブが入口に溜ってる。
アレ通り抜けるのは、無理だな。数が多すぎて、処理もキツイと思うわ]
[[宮様] 死んだかと思ったわ~]
[[大次郎先生] バリア入れながら通り抜けるのも難しい感じか……]
[[黒龍] さっき1枚使ったからきついわw]
[[ティタ] 処理するのもきつい感じなんだよね?]
[[黒龍] 正直無理だな。軽く70はいる……]
[[宗乃助] 70でござるか?]
[[さゆたん] 無理でしゅねw]
[[ren] なるほどね・・…]
ぶっちゃけレイドやるなら、モブの処理ぐらいきっちりやっておいて欲しい。あくまでも黒の考えなんだろうけど……以前も似たような事があったので多分間違っていない。
レイドの参加者の誰かが、モブを引いて犠牲になるもしくは、帰還することで他のメンバーを上の階に登らせたのだろう。
ここまで来てクエストが出来ない事にイラつきつつ、どうにかできないか思考する。
ドラゴン召喚で倒せはするだろうが、しかしここで使って上に登ったところでそこでも同じような状況になれば、それ以降が手詰まりとなってしまう。
ならば他に上手く切り抜けられる方法はないだろうか?
モブの処理などはどうでもいい。階段にさえ辿り着ければそれで……あぁ、それならいけるかも……てか、もうそれしかない気がする。
そこで思考を切り、頭の中で作戦を練り直す。
まずは、皆が通り抜けし易いようにゲッター スクロールを数枚使ってモブを一か所に集める。
その後室内を抜けてモブを処理しつつ階段に黒たちへ行ってもらう。
その間この部屋の中を走り、モブを引きつけておけば死者を出さず、上に登る事ができる。
それに、登った後ならば、後から追いかける私も戦闘なしで階段に向かう事が出来るはずだ。
そこまで考え、クラチャにその案を伝える。
[[ミツルギ] 相変わらず、しんどい狩り場っすねw]
[[†元親†] 鬼ごっこの時みたいだなww]
[[鉄男] あの時もやばかったよなーw]
[[ren] 作戦考えたから、聞いて?]
[[黒龍] あー。あの時は、renと皇子兎が大量にモブ引いてたなーw]
[[ren] まず、チカ、バリア入れて私が通路走ってモブ引く。
その間に黒たちは釣れなかったモブの処理。
それが終わったら階段まで走って?
登り終わったら、合図plz 追いかける]
[[大次郎先生] わかった]
[[キヨシ] おー!]
自分が走った方がいいのではないかと言う黒に、私は首を横に振る。
その理由としては、軽装備を着れば黒より移動速度が速い。それに、いざという時の対処の手数の多さも私の方が上だからだ。
最悪の場合ドラゴン召喚してしまえば死にはしないだろう。と伝えれば「なる」と全員に納得されてしまう。
作戦開始を前に、バフの更新を念入りに行い装備を着替える。初めて私の軽鎧姿を見たらしいミツルギさんが「エロイっすね」と、褒め? てくれれば「え? これに?」と、シロ、ティタ、宗乃助が驚いた顔をしていた。
激しくこいつらを殺したいと心の底から思いつつ、階段を登りゲッター サークル スクロールをアイテムボックスから取り出し入口に立つ。
[[ren] チカ、カウント3でバリア入れて]
[[シロ] カウント俺がする]
[[†元親†] わかったー!]
[[黒龍] 0で全員移動開始なー]
全員が同意する返事を黒に返し、シロのカウントと言う声が上がった――。
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