第132話 最強は夢想する⑫
ミューズのポータルへ集合したクラメンたちとPTを組み終わり、美しい街中を歩く。のだが、正直……景色とアバターの色合いが、かみ合わな過ぎて違和感しかない。
こうしてプレイヤーが、団体で歩くと違和感しかないんだなと思いつつミューズの街の西にある岬の神殿跡地を目指して歩いた。
視界に映るのは、コバルトブルーの空にエメラルドグリーンの海。そして、屋根が無くなって柱だけになった古い神殿だ。
その神殿の床にぽっかりと空いた穴が、今回私たちが目指す水中庭園の入り口に繋がっている。黒を先頭に地下に続く、白い石で組まれた人工的な階段を降りた。
そこには白い石に囲まれた水があふれる事無く、青色い光を発してたゆたっていた。
[[大次郎先生] ヒガキとゼンはオーツ持ってないよね?
とりあえず、100ずつ渡しておくね]
[[鉄男] ここのモブ、全アクティブだっけ?]
[[さゆたん] オーツ足りなくなったら直に言うでしゅ]
[[ヒガキ] ありがとうございます]
[[ゼン] はい]
[[ティタ] そうだよ> 鉄男]
[[ren] バフ]
今回は、個別とPT用全てのバフを全員にかける。水中庭園に湧くモブは水系で毒を良く使う。
毎回毒を貰う度に、解毒するのも大変だろうとマジック オブ ポイズンを追加する。
それと同時に、水中でもいつも通り動けるようプロテクト オブ フルークトゥス――ドラマス専用のバフ。その身をフルークトゥスの鱗が包み込み水に関する全ての行動阻害を無効化する。(呼吸は別)――も追加しておいた。
バフが終わり、先生の説明が済んだところでオーツを飲み終えた黒が青白く発光する水に飛び込んだ。それを皮切りに全員が次々その水に飛び込む。
水の感覚と共に浮遊感を感じ、見える景色が暗転すると同時に目を閉じた。
浮遊感が終わり地に足をつけた感覚に瞼を開けば、そこには某有名なランプの精を呼び出すアニメに出るような屋根の丸い宮殿が見えた。
その周囲には、色とりどりの魚が泳ぎ、透き通った木や花が宮殿に侵入する者を拒むかのように配置されていた。
[[黒龍] 相変わらず……ここの景色は違和感しかねーw]
[[宗乃助] でござるなw]
[[宮様] んー。中世ヨーロッパの庭に突然インドの宮殿が!
みたいな状態よねw 黄色ね]
[[キヨシ] ジンでてこねーかなぁ?]
[[白聖] まー。素材集めようぜw]
[[さゆたん] そうでしゅねw]
一見綺麗な庭に見えるが、この庭は仕掛け満載の巨大迷路だ。
仕掛けに嵌らず、早々に迷路を抜けるためには宮ネェの言った花の色を辿るのが一番だと言える。
何故花の色を辿るのかと言うと、入口の花の色以外の通路や角を進むと即死出来るレベルのモブが湧き、それを倒し進んだとしても入口に戻されると言う罠が発動するからだ。
黒が花を辿り、水晶の生垣から突然出てくるそれらのモブをティタやシロ、宗乃助が処理する。それを繰り返して居た時だった。
「ぎゃああああああああああ!」
突然上がった叫び声に、後ろを振り返る――とそこには、モブと思しき亀に乗ったチカが巨大なディープ シャークに追われていた。そっと視線を外した私は、皆の方へと振り返る――。
[[ティタ] 放置で良くない?]
[[黒龍] だな]
[[白聖] 賛成]
[[キヨシ] チカァァァァァァ!!]
[[さゆたん] バカはほっとくでしゅw]
[[宗乃助] でござるなw]
[[ミツルギ] え? 助けないんですか?]
[[ゼン] チカさん……すいません]
[[鉄男] 南無南無チーン]
[[ヒガキ] えっと……]
「たすけて~」
[[宮様] コラコラ、流石に助けてあげましょう? ね?]
[[大次郎先生] はぁ~。なんでお前は……]
ディープ シャークに追われる亀は必死に逃げる。その亀に乗った涙目のチカもまた私たちから遠退いていった。
はぁ、仕方ない……このままでは本当に死に戻りになるだろうとチカが憐れに思えてしまい。
ついつい亀とディープシャークに向け、スローを発動する。動きが遅くなった二匹のモブにバインド(+18)を設置し詠唱発動させれば、チカ以外が固まり動きを止めた。
[[白聖] ほっとけばいいのにw]
[[ティタ] ほっといていいのにw]
「ren~~~~! あいがとぉぉぉ」
[[黒龍] こうやって助けるから反省しねーんだよ。 死に戻りするまでほっとけ?]
[[ren] 次は無い]
[[†元親†] 皆が酷いー! わかったーTT]
亀から降りたチカが涙ながらに泳ぎ戻ると同時にディープ シャークの処理をさゆたんとキヨシが始めた。
ディープ シャークの見た目は、背中に剣の様な鋭利な背びれがある以外はホホジロザメそのものなのだが、本物よりも体表部分は皮が硬く剣や槍が通り難い。
そのため風魔法で倒すのが一番だと、処理を二人に任せそれ以外のメンバーは見学する。
流石二次職の狩り場と言うだけあって、数秒後には動けないディープ シャークがその巨体をうねらせひっくり返ると下へと落ちた。
「亀はどうする?」と聞くキヨシに「亀の甲羅は細工の素材になるのよ~」と言う宮ネェ。
その言葉を聞いたさゆたんが、ウィンド カッターを何発か叩き込みさくっと亀を殺すと素材をゲットしていた。
チカの起こした騒動も収まり、再び宮殿を目指して歩く。こうしている間にもバフを更新し、オーツを飲む。
[[ren] オーツ。更新]
オーツの更新は10分に一度。
その効果が一度切れてしまうと、再び使っても酸欠のデバフが消えないのだ。そのためオーツだけは切らすわけにはいかない。
そこで、思いついたのが同じ10分のバフを更新する度にチャットでオーツの更新を促すというものだった。
これならば忘れる事はないだろうと思いつつ、たまに出るモブを処理しながら庭園を進んだ。
漸く、水晶と魚と花が咲き乱れる庭を抜け宮殿の入り口がある階段へと到着した。左右に太く短い柱の立つ階段を登り、宮殿の扉に到着すると同時に扉の中へと入った。
玄関ホールに当たる部分には、九つの人の大きさはあろうかと言う真珠がそれぞれ数字のかかれた台座に置かれ等間隔に飾られている。
[[大次郎先生] とりあえず9階から行こうか?]
[[宮様] そうね]
[[大次郎先生] じゃぁ、皆触るのこれね]
[[黒龍] チカ。キヨシ間違えるなよ?]
もし、この真珠を外して持ち帰れるとすれば……それだけでも、相当なゼルになるだろうな~などと思いつつ先生の
何故全員で触れる必要があるのかと言えば、台座におかれた真珠にはそれぞれが別の階へと繋がるポータルの役割があるからだ。
そのため皆が別々に真珠に触れてしまうと、階が別れてしまい合流が難しくなってしまう。
合流が難しいと言うだけで、絶対出来ないわけではない……できないわけではないが、階ごとに設置された最奥のポータルの位置を知っている上で、罠を全て辿り抜け中ボスを倒し辿り着ければとつく……ので無理に等しいと言える。
そんなどうでもいい事を思考し、周囲を見回しモブに変更が無いかを確認する。
以前この狩り場に来たのが二年ほど前と言う事で、自分の記憶に間違いがないかを確認すべきだと思っていた。
その時に出たモブは、ダンシング マーメイド、マーマン、ルーサルカ、シーファング トードで、見る限り変更はされていないようだと安心したところで、キヨシの声に一抹の不安を覚えた。
[[キヨシ] 俺のかりばだあああああ!]
[[さゆたん] MP管理が大変な狩り場でしゅw]
[[黒龍] うじゃうじゃいるな]
[[ティタ] 流石過疎狩り場……]
[[白聖] ここ物理きかなかったよな?]
[[宗乃助] 多いでござるなw]
[[鉄男] 物理きかないの? マジ?]
[[大次郎先生] 物理聞き難いね。黒先頭に隊列組んでゆっくり進もうw]
[[黒龍] りょーかい]
[[宮様] ヒガキとゼンは間に入ってね。絶対自分から攻撃しないでね!]
張り切るキヨシが声を張り上げ、大変だと言いながらさゆたんがニヤっと笑う。周囲を見回していた黒が、うへぇ~と言うような表情をするとティタも同じような表情を作った。
シロはいつも通りな感じで、アイテムボックスから虹色の弓――幻想弓シュキーナ。天使が使ったとされる弓で、MPを代償に風の矢を作り出し、物理的に矢を使うことなく敵を射抜くことができる。――を取り出していた。
宗乃助は多いと言いながらも楽しそうに笑い、鉄男が知らないと言わんばかりの声で驚く、先生が指示を出しつつ鉄男に答え隊列を組んだところで、最奥に向かい進みはじめた――。
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