第131話 最強は夢想する⑪

 ポータルに乗りミューズへとやって来た私は、ミューズの街中で骨董品店を探す。

 コバルトブルーの空の下、青い屋根に白い壁をした南国風の家々が立ち並ぶミューズの景観はまるで、エーゲ海にあるサントリーニ島のようで本当に綺麗だと思う。


 家々の間にある路地は人が二人並んで歩けば、逆から来た人の邪魔になる程狭い。その狭さがまたどこか懐かしく、心躍らせてくれた。

 そんな路地の一角に探していた骨董店を発見する。


 見た目高級そうな皿や壺、銅像などが並んだ店先。その奥には見ただけで、頑固一徹だと分かるような顔付きのお爺さん(ジョースイさん)がショーケース越しに座っていた。

 店主のジョースイに話しかけ、ウィンドウに現れた選択項目【 彫刻について学ぶ 】をタップする。


【 彫刻について学びたいだとっ? 甘くは無いぞ! まずは水晶と粘土それから、手のひらサイズの滑石(なめいし)をもってくることからだ。 】


 そう言って会話を終えたおじいさんに、持ってきて置いた水晶、粘土と滑石をアイテムボックスから取り出し手に持った状態で再び話しかける。

 すると視界が変わり、轆轤や何かの作業台のようなものがある工房と思しき場所にジョースイさんと二人立っていた。


 ここからは、実際に作る訓練にはいるらしい。ジョースイさんが、【 良く見て学べ? 】そう言うと、粘土を取り出しこね始める。

 それがかなり柔らかくなったところでやってみろと言うジョースイさんに従い私も、粘土をこねた。

 

 粘土をこね終えジョースイさんが確認する。【 いいだろう 】と言った彼が自分のこねた粘土を、今度はうどんの麺ぐらい細長くする。

 それをグルグルと重ね水差しの瓶の部分の様な形にしていった。


 【 やってみろ 】と言うジョースイさんに従い同じようにしていく。彼のお許しがでるまで何度か外してはこね直しクルクル重ねを繰り返し漸く【 いいだろう 】とお許しが貰えた。

 それを今度は、轆轤に乗せて回しながらヘラと水を使い成形した。

 

 何度も何度もやり直しを繰り返す。人により向き不向きがあると語るジョースイさん、明らかにお前には向いていないと言われている気分になった。

 それでも代行のあの可能性を諦めきれない私は、意地になり作業をこなす。


 手に水を付け親指と人差し指で形を整える。力加減が非常に難しく形を整えるそばから器の形がクネクネ曲がる。

 発狂しそうな気持ちを抑え、なんとか無理やり形を作るもグニャっと歪みぺちょっと倒れた。


[[ren] がああああああああ!]

[[キヨシ] この布最強だぜ~w]

[[ティタ] ren?]

[[大次郎先生] どうしたの?]

[[さゆたん] どうしたでしゅか?]


 たまらずクラチャに溜ったストレスを吐きだした。それに反応したメンバーに事情を説明すれな草が大量に生えていた。


[[宮様] 洋裁と細工の時もren発狂してたわねw]

[[宗乃助] 不器用でござるw]

[[ティタ] あったあったw]

[[白聖] 何やってんだかw]

[[鉄男] 彫刻ってことは、アレ試してるのか?]


 かなり昔の事を持ちだした宮ネェにティタが同意する。

 不器用なのはわかってるよ……と脳内で宗乃助に返事をすれば、シロが呆れたように笑った。

 くだらない会話をしながらも、へタった粘土をこね直し形を整え重ね轆轤に乗せた。


 次こそは絶対成功させる……。

 誰かに急かされている訳ではないが、ここさえ乗り切ればなんとかなる気がした。


 そんな私に、ジョースイさん【 お前ならできる。やるんだ 】と何十回目か分からない励ましの言葉をかけてくれた。


 それから5時間後漸く、漸くコツを掴み出来るようになったところで、次に進む。ジョースイさんが【 次はこれだ 】と手に持ったのは滑石だった。今度は本当の彫刻を教えてくれるらしい。


 まずは、今回作る予定の立体的な星形の型紙を作るところからだ。

 型紙となる厚めの皮に、星の形を書いていく。正面背面、上下、左右全てを書き取る。

 それが終われば、皮を切りとり滑石に乗せ型を書いていく。

 

 そこまで済んだところで、ジョースイさんが滑石を固定する台に挟み込み置いた。そして、細い彫刻刀のようなものと小さな金槌を手に持ちカツカツっと軽く削りはじめた。

 三割ほど削ったところで【 やってみろ 】と、私にその作業台を譲ってくれる。


 これなら私にも……何とか出来そう……刀使うし多分いける……。

 そう思いつつ、作業台の滑石に向け彫刻刀と金槌を振るった。


[[キヨシ] ボスだぜー!]

[[黒龍] 行くか]

[[大次郎先生] じゃぁ、行く人はハウス集合で~w]


 全員本土に戻って来たらしいクラメンたちは、今から善悪のボスにいくようだ。そんな皆を羨ましいと思いながら、彫刻刀と金槌で石を削り出していく。

 この作業は私にでも出来るようで、集中してしまえばかなりサクサクと進んで行った。


 ジョースイさんに【 よくやった 】と言われ滑石の彫刻を終わらせ、最後の水晶へと取り掛った。

 水晶の作業は以前やった細工の作業に近い。

 四角になった細長く尖った水晶を、六面体や正三角形など色々な形に削り出す作業を行った。


 無事に全ての作業を終えた私にジョースイさんは――

 【 良くやった。ではお前さんに、最後の試練を与える。

   試練の内容は、この町にあると言う水中庭園でミューズの宝と言われる

   『女神の宝冠』をスケッチして作る事だ 】

 と言った。


 マジか……水中庭園って、罠満載の迷路だよ? そこから女神の宝冠を探して挙句、スケッチしてこいだと……?


 ジョースイさんの言う、水中庭園は地下10階まである二次職用の狩り場だ。

 二次職用とは言ったが三次職でも、余裕で即死するレベルの罠が所せましと配置されている。

 それだけならまだしも、そのルートが巨大迷路そのもので……間違ったルートを進めば、帰り道が分からなくなり、泣きながら経験値を生贄に死に戻りすることになる。

 そんな水中庭園は、プレイヤーの中で死の牢獄と呼ばれている。


[[黒龍] ゼン、ヒガキ避けろ!]

[[宮様] 鉄男範囲で、モブやってw]

[[ren] ボス終わったら、牢獄付き合って?]

[[鉄男」 任せろw]


 流石にあんな面倒な狩り場に一人で行きたくない。そう考えた私は、クラチャで誰か来てくれるメンバーがいないかと誘いをかけたものの……タイミング悪く、ボス中だったらしいクラメンは誰も返事を返してはくれなかった。


 もう少し時間が経ってから声をかけ直そうと思いなおした私は、時間つぶしついでに製本の作業をすべくジョースイさんの工房でテーブルとクッションを取り出した。

 書きかけのホーリー クロスのペンタグルを眺めたところで、不意にこれを水晶に書き写せないかと思いついた。


 そこで物は試しにさっき作ったばかりの水晶を取り出し、ペンタグルをペンで書いてみる。

 やはりと言うべきか、流石にペンとインクではペンタグルを書き写す事はできなかった。けれど、水晶に彫ればどうだろうか? と考えジョースイさんの道具を勝手に拝借する。


 結果だけを言えば、彫る事は出来た。が、ただそれだけだった。


 ペンタグルを彫る事はできるが、床に置いて詠唱しても壁に投げつけて詠唱しても魔法が一切発動しない。

 覚える事が出来るかどうかは試していないのでわからないけれど、多分これはただの置き物なのだろうと結論付けておいた。


[[黒龍] 牢獄って……ミューズのか?]

[[ミツルギ] 死牢っすか?w]

[[ren] クエストで行く必要があって、一人だとだるいから来て?]

[[†元親†] おー。いいぞー!]

[[鉄男] まーいいけどw]

[[さゆたん] 行くでしゅw あそこの素材は美味いでしゅw]

[[宮様] そうね。水中庭園は細工と洋裁の素材の宝庫だものねw]

[[ティタ] 暇だしいくよーw]

[[キヨシ] 死に祭りじゃー!]

[[白聖] 仕方ね―なw]

[[宗乃助] 皆で行くでござるよw]


 水中庭園でのクラハンが決まり、ミューズのポータルで皆と待ち合わせをすることになった。早速、書きかけのペンタグルやテーブルなど出したものをアイテムボックスに仕舞う。その後、ジョースイさんに声をかけ、工房から店へと戻り倉庫へと向かった。


 水中庭園では、名前の如く通常の状態では呼吸が出来ない。そのため必要になるオーツ――10分間のみ水中でも呼吸ができるようになる――と言うPOTとその他消耗品を倉庫から大量に取り出しポータルへと向かった――。

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