第130話 最強は夢想する⑩

 クランハウスへ戻った私は、先に用事を済ませるべく宮ネェにクラチャで声をかけた。私の呼びかけに応じた宮ネェが、先生を伴い私の部屋を訪れる。

 二人にソファーに座るよう勧め、ヒガキさんが入れてくれたコーヒーをテーブルに置いたところで宮ネェが話を切り出した。


「クラン費なんだけど……」

「あぁ……流石にまずいな。残高……」


 宮ネェの言葉に、高い買い物を平然としていた先生は苦笑いを浮かべる。

 確かに、クラン倉庫の残金500Mはまずい。このままでは、今後参加予定の攻城戦やPKの際の補填なんかに支障をきたす事になるだろう。


 資金を得る為に何ができるか……出来る限りクラメンには、負担をかけたくは無い。

 貧乏なキヨシとチカ、装備を失ったばかりのさゆたんには特に難しいだろうし……。

 聞いた話では、クラン維持費をクラメンから徴収するクランもあるそうだが……それは嫌だなと切り捨てた。


 じゃぁ、どうしようかと悩み、そうして思考を開始した。暫し無言の時間が流れ、考えた内容を二人に伝える。


「まずは、クラン倉庫のアレ売り払おう」

「アレって、PKの防具とかよね?」

「y」

「それ売ったとしても、1Gなるかどうかだろ?」

「まーそうだけど……無いよりはいい?」

「そうねぇ」


 私が売り払おうと言ったのは、グランドロールのPK戦で得た武器防具類だ。クラン倉庫を圧迫している。

 どうせ、売り払いたいと以前から思っていし丁度いいのではないだろうかと伝えてみたのだがそれでも、1Gぐらいにしかならないらしい。


「後は、クランで代行の露店出すか……?」

「割合どうする?」


「4割クランに収めて貰う。

 その代わり必要な材料は、メンバー各自要らない物をクラン庫に入れて、それを使って貰う」


「なるほどね……ただそうなると、材料入れるだけのメンバーが得じゃない?」

「確かにそうだね。そのメンバーにはノルマ設置して材料集めして貰うとかでどう?」

「うーん。そうなると強制になるから好きじゃない」


 うーんと唸る先生と宮ネェ。

 暫く悩む時間が必要なようだと思った私は、クランで出す露店について考える。


 今回私たちが出そうとしているのは、クラン名の入った露店だ。

 クランの名前が入っている露店は、出店するのに多少の人件費と出店費用がかかるが無料で出せる個人露店に比べ遥かに、使い勝手がいいものだと言える。


 無料露店の場合、販売上限は15種×999,999個。補充用の商品をNPCに預けられる数は10種×999,999個までと決まっている。

 売り上げは自分で露店に行き倉庫へ送って貰う手続きが必要だ。


 無料だからこの程度で十分と言うプレイヤーも多いようだが、魔法書やPOTなどは少量しか並べられないことになる、


 クラン用の露店の場合、販売上限は60種×999,999個。補充用の商品はクラン庫に入れて設定しておけばNPCが勝手に補充をしてくれる。

 売り上げは自動で月に1回クラン庫に入るので要らない手間が無い。


 また、クラン用には代行用の機能も付いている。その機能と言うのが、伝言と物品預かりと言う機能だ。

 オートクチュールになりやすい洋裁や細工などの依頼専用の機能と言えるだろう。

 その機能を例えるとするならば、パスコード付きのコインロッカーみたいなものだと思って欲しい。


 依頼人は、番号がふられた専用のボックス内に必要となる素材を入れ、作って貰いたい物のイメージや色の伝言を残す。


 受け取った作り手は、預けた人の番号が降られているボックスに入った材料で伝言に残された物を作る。

 それを同じボックスに戻し料金を設定して、クラン倉庫に入れておけば後はNPCが勝手に持って行って料金を受け取ってくれる。


 これを私はやろうと提案したのが、宮ネェと先生は難色を示している。

 その問題点と言うのが、代行を持たないもしくは持っていても役に立たないメンバーに関することだ。


 かなり難しい問題ではあるが、私としては強制するようなことはしたくないと思っている。

一方で宮ネェと先生は、代行をするメンバーに負担をかけるのだからその他のメンバーは、協力は必要だと言う。


「うーん。露店出すのはいいけど……困ったわねぇ~」

「その分、ゼンさんとヒガキさん、ミツルギさんのLv上げ頑張って貰えば良い」

「あぁ、それもあるなー。四次職のアップまでには追い付いて貰いたしし……」


「そうね。renの意見に従いましょう。

 正直お金よ。まずは資金を稼ぐしかない訳だしね!」


「それしかないな。

 代行をやっていないメンバーには積極的に三人のLv上げに行って貰おう。

 そこで出た素材は、二次職以外のクラメンにはクランに寄付して貰うでいいかな?」


「それでいいよ。

 とりあえずメテオはめんどくさいし、他の強化になるから出さない。

 他の魔法書ならいくつかあるしクラン庫に入れておく。

 露店の手配は任せていい?」


「露店は私がやっておくわね。

 私も作ってる物有るからそれ回すようにするわね」


「悪い。頼むな。私は他の皆にこの事伝え、装備の方売りに出しておくよ」

「よろしく」


 決まる事が決まり、コーヒーを飲みほして立ちあがった先生と宮ネェを見送り、私もまたキャラチェンジする。

 倉庫初号機に入れておいた製本した魔法書のストックを確認しつつ、執事に向かいクラン倉庫に入れていく。


 いつか売ろうとは思っていた……と言うより、売りたいけれど露店ではその余裕が無く出品すら出来なかったと言うべき本を次々と放り込みアイテムボックス内をスッキリとさせた。


 ゴミ処理に近い形で片っ端から入れてみたがいいだろうか? と悩みつつ、メインキャラへキャラチェンジする。


 鑑定の可能性について検証するため、ハウスの庭で暇そうに秘密基地を弄るキヨシを捕まえ実験をすることにした。


 まずは見るだけ……視認しただけで、相手のステータスが見えればと思っていたのだが……流石に見えないようだ。

 次は、触れて判るかどうか……これもどうやらプレイヤーではだめなようだった。

 

 その後色々思考錯誤してみたものの、結果的には私自身が手に持った物出なければ見えないらしい。

 使えない鑑定の効果に期待に膨らんだ心を返せと全く悪くない博士を思い浮かべ毒づいた。


 鑑定の実験に付き合ってくれたお礼の布を渡す。この布は一時期はまってやっていた、裁縫で作った布だ。

 布を持ち上げ喜ぶキヨシに再びお礼を伝え、次の代行の極意を得るためミューズへと向かった――。

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