第129話 最強は夢想する⑨

 あの後三時間ほど狩りをして、眠いと言う声が出始めたことでクラハンが終わりを迎えた。落ちる皆と一緒に私も落ちる。


 朝と言っていいのかは微妙だけれど、アラームが鳴り眠りから覚めた。

 寝起き早々、公式を開きある文字を探す。

 トーナメント戦のデバフの仕様について書かているかどうかを確認するためだ。


 その記載がない事を確認した後、可哀そうな兄へメールを送った。

 内容は完結で、デバフの事公式にのってないんだけど? 補填と保障頑張ってね? と……。


 返事がすぐに返ってくることはないと知っているので、そのまま食事やシャワーを済ませ病ゲーへとログインする。


 今日はまず、船旅からの開始だ……帰るのにも定期船を使うしかない太古の孤島。そこから本土へ戻るため、船の時間に合わせてアラームをセットしておいた。


[[ren] ノ]

[[宮様] おはよーren]

[[鉄男] よーw]

[[ミツルギ] おはっすw]


 クラチャに挨拶を流し、宿屋を出て集落を後にする。船着き場に到着したところで、ミツルギさんと鉄男に会った。

 二人共、前の船が出た後にログインしたらしく、私と同じ定期船で本土に戻ると言っていた。


 定期船が到着してそれにお金を支払い乗り込んだ。


 今回本土に帰るのは私たちだけかと思いきや、ゾロゾロと乗り込んでくるPTがいる。

 そのクランマークを見て、胡蝶たちのPTだと気付いた私は早々に、トランスパレンシーを使い姿を隠した。


[[鉄男] renなんでトランスパレンシー

    って、のせいかw]

[[ミツルギ] どうかしたんっすか?]

[[ren] !]

[[黒龍] ノ]

[[宗乃助] おはでござるよw]

[[キヨシ] 船えええええええええ!]


 船で胡蝶に会うとか、タイミングが悪いと思っていた私の視界に、黒、宗乃助、キヨシがログインしたらしいクラチャが見えた。

 まさか、船に乗るつもりじゃないよね? 


 そう思いながら船首で一人タイタニックを楽しむ鉄男に他人の振りをして、甲板に置かれた樽の影にテーブルとクッションを取り出し製本をする準備を始めた。


[[黒龍] 間に合ったなw]

[[宗乃助] でござるなw]

[[キヨシ] あぶね-ww]

[[ミツルギ] ノノ]


 出発時間ぎりぎりで乗り込んだ黒たちが、危なかったと話しをする中、胡蝶が少しだけ黒い笑みを浮かべた。


 それをたまたま見てしまった私は、何をするのかとそちらを凝視する。

 胡蝶達の姿が見えた直後にトランスパレンシーを入れたため、胡蝶たちには私たちが乗っていると言う認識はないはずだ。


 髪を弄りつつ、唇を尖らせ上目遣いになった胡蝶が、甘たるい声を出し黒へと声をかけた。


「黒。久しぶりぃ~♪」

「……あぁ」


 胡蝶の声のトーンが昨日より、確実に2オクターブぐらい上がっている。そんな胡蝶に危険を察知したらしい黒が、おのれの身を守るように数歩後ろに下がった。


 やば……ウケル。あんな黒の引き攣った顔みた事無い。ボスの相手してる時はあんな勇ましいのに……。


 肉食獣に狙われた、小動物のような動きをする黒。それを見て楽しむ私、ミツルギ、鉄男の三人は声を出さないよう気を付け笑う。


「あのね~。黒いなくなってからね~。うちのクランすんごぉぉぉく、困ってるの~」

[[鉄男] くんw黒にくんwwww]

[[宗乃助] 黒くん、黒くんwwwww]

[[キヨシ] くろくんwwwwwwww]

[[鉄男] 酸素、酸素が欲しい!]

[[宮様] どうしたのよ? 黒に、くんなんて付けて気持ち悪いわね?

    鉄男、大丈夫?]

[[宗乃助] 黒、くん付けで呼ばれてたでござるか?w]

[[キヨシ] ヤバい、黒に一番似合わないw]

[[黒龍] 黙れ。俺だって止めろつったんだよ!]


 黒の腕に絡みつくような仕草を見せた胡蝶が、話を続けながら眉を八の字に下げ困り顔を作る。その声はどう聞いても困っている感じではない。

 それが更に笑いを誘うようで、鉄男とキヨシ、宗乃助がクラチャで爆笑しながらくんを連呼した。


 居ないはずの鉄男が会話をクラチャに流したせいで、黒がハッと何かに気付いた顔をする。徐にアイテムボックスから取り出したスクロールを開き、投げるように放った。


 そのスクロールは、手が離れると同時に上空へと登りパンと弾け、ディティクションの魔法が発動する。

 魔法が発動すると同時にトランスパレンシーの効果が消え甲板に姿を現した、鉄男とミツルギさんに黒がジト目を向けた。


[[キヨシ] 今度から黒くーんって呼ぶわwww]

[[黒龍] お前ら……]

[[鉄男] あ、やべっ!]

[[ミツルギ] すいませんっすwww]

[[黒龍] トランスパレンシーか……俺にも回せよ!]

「黒くーん。聞いてる~?」

[[鉄男] 無理だな―w

    だって、胡蝶来た時点で入ったしw]

「悪いけど、俺はもう胡蝶のクランには戻らない。今のクランのが楽だし面白いしw

 ぶっちゃけ勧誘とかも、迷惑だからやめてくれ」


 腕に絡みつく胡蝶を振りほどいた黒は、すごく真面目な表情になる。

 そして、ハッキリとした声音でキッパリ断りを入れた。


 その答えを聞いていた宗乃助とキヨシ、鉄男が”ヤルじゃん黒”と言う笑いを浮かべる。


 何かを探すように顔を動かした黒に、鉄男が私のいる樽を顎で示すような仕草をすれば、黒、宗乃助、鉄男、キヨシ、ミツルギさんが樽の影に座り製本作業をする私の側に座った。

 

[[キヨシ] 黒超かっけーw]

[[黒龍] おー。居るなら言えよw]

[[ミツルギ] 憧れるっすねwあぁ言うのw]

[[鉄男] なんか、別れた彼女に復縁迫られて

    今彼女を選んだ的な絵面えづらに見えたけどなw]

[[宗乃助] 黒はイケメンでござるなw]

[[ren] ナニソレ、キモチワルイ]

[[黒龍] キモ!]

[[宮様] ちょっと何があったのか説明しなさいよ?]


 黒の言葉に感動を覚えたらしい、キヨシとミツルギさんがカッコイイと褒める。一方で鉄男があり得ない言葉を使い揶揄した。

 二人して、気持ち悪いと言葉を吐き捨てブルっと震える素振りをすれば、宗乃助と鉄男、キヨシも「ないな」と笑う。


 船旅は順調に進み、本土に到着する。船の中では胡蝶たちと微妙な感覚で距離をとり、お互いに話すこともしなかった。


[[キヨシ] やっと帰って来たぜ―!]

[[ren] クエして来る]

[[宮様] あー。renちょっと後で話あるから時間作って?]

[[黒龍] 鉄男とミツルギ狩りいくかー?]

[[†元親†] おはよーw]

[[ren] k。クエ終わったらハウス帰る]

[[ティタ] ただいま]

[[さゆたん] おはでしゅよーw]

[[宮様] よろしくね~w]


 船着き場で黒たちと別れ、【 アテナ 】に向かう。

 順路としては、テティスからミューズへ、そしてミューズからアテナへと移動した。


 アテナのポータル側にある建物の中にいる博士に話しかけ、クエストの答えを告げれば【 君は素晴らしい才能を持っているな! 】と褒めてくれる。

 鑑定の極意とは何かをその後40分ほど博士に聞かされ、鑑定の代行が出来るようになった事を告げるシステムログが流れた。


【 おめでとうございます。鑑定ができるようになりました。 】


 試しに、未鑑定のMPPOTをアイテムボックスから取り出して鑑定を使ってみる。

 今までと違うところは、手に持つ未鑑定のポーション瓶の横にある「!」マークがある事だ。


 さっそくそれタップすれば、ウィンドウが開いた。

 ウィンドウには、緑の枠緑色の点線が十字に入った大き目の窓と鑑定、決定と言う項目が表示されていた。


 どうやらこの大きい窓に鑑定をしたい物を入れて、横にある鑑定のボタンをタップすることで鑑定されるようだ。決定は鑑定した結果をその名前に変更するためのものだろう。


 なんとなくそのウィンドウの使い方が判明したところで、手に持つ未鑑定ポーションを眺めた。

 実はポーションを取り出した時から思っていたのだが……未鑑定のPOTと言う名前の下に括弧で劣化したマナポーションと既に鑑定結果が表示されていた。


 鑑定が出来るようになっただけで表示がされると言う事は……もしかして、街往くプレイヤーも見ただけで、Lvや装備の強化値、ステータスなどが見えるのではないか? そう思い至り、はやる気持ちを抑えつつハウスへと戻った――。


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