第133話 最強は夢想する⑬

 襲い来るダンシング マーメイドとマーマンのPTを黒がレンジ ヘイトでタゲを取ると同時に、シロがシュキーナで作りだした矢でダウン プルを入れる。

 ティタ達が武器で攻撃を開始するのに、タイミングを合わせたさゆたんとキヨシのトルネードがモブを切り裂きエンドさせた。


 この狩り場では、武器の攻撃よりも魔法の攻撃の方がダメージが大きい。モブとのLv差もあることから余計にそのダメージは大きくなっていると言える。

 まー、三次職のティタ達が攻撃してもLv差でそう時間掛らず倒せるだろうけど……。


[[キヨシ] 楽勝ぉ~!]

[[さゆたん] キヨシ調子に乗るとしぬでしゅよ?w]

[[ゼン] キヨシ君気をつけてね?]

[[白聖] キヨシがうざいww]

[[ティタ] ゼン。心配するだけ損だよ?w]

 

 パッと見、ドーム状の大きな部屋だ。通路は螺旋状に壁に這うようにとりつけられていた。中央に向かうほどそれは下層の広場へと道を作っている。


 今私たちがいるのは、最も屋根に近い壁の通路だ。

 視線の先は袋小路になっているため、そのまま下層へ向かう事はできない。


 この庭園内では、シロとキヨシ、さゆたんの三人が主力だろう。

 が、その考えに一抹の不安がよぎる――。


 キヨシは本当に大丈夫だろうか? なんだか危ない気がする――と、思っていたそばから、キヨシが罠を踏みぬきバイディング シャークに噛みつかれデバフを貰っていた。


[[キヨシ] ぎゃあああああ!]

[[黒龍] あふぉだろ?w]

[[宮様] 仕方ないわねぇ~。さっさと殺しなさい。出血解除するから……]

[[大次郎先生] だから気をつけろって言ったろ?]


 キヨシの踏んだ罠はまだ優しい方の罠だった。バイディング シャークはHPは低く魔法一撃で倒す事が出来るモブで、噛みつくことで出血と毒のデバフを与えて来る。

 ここでの最強の罠と言えば、ボスであるクラウディ フェアリー ロゥの分裂体が出現することだ。


 濁った水の妖精と言う名を持つロゥは、出現した直後全身から汚水と言う名のヘドロを吐きだす。

 そのヘドロにはサイレンス、ガム、毒、POT仕様不可などのデバフが満載で……。

 三次職でも、回復がサイレンスにかかり、POT不可のデバフが付けば余裕で死ぬ。


 罠について考えながら、更新のバフを回しオーツの更新を伝えた。皆その声に答えるようにオーツを取り出し飲んだところで、下に降りるための白と赤二枚の扉に到着した。


[[黒龍] 中央どっち?]

[[ren] 白]


 黒の質問を受け、通路から中央を見た。そこには、時間により点滅をかえる魔法陣が白く光っている。即座にその色を答えた私に返すように黒は赤の扉を開けた。


 この通路を下層に降りる場合、中央の魔法陣の光とは違う色の扉をあける。

 もしここで中央の魔法陣と同じ色の扉を開けてしまった場合、扉を開けた瞬間モブが湧く罠。もしくは、庭園の入口に強制的に戻される罠が発動する。


 何度もここに通い、何度も死に戻りした経験がクラメンの中にはしみついているのでここでは間違いを犯さないと……思いたい。


 思い込むつもりで扉を潜り、次の通路へ出るための鍵を探す。

 その間にも次から次に湧くモブをさゆたんとキヨシ、シロが処理してくれた。


 漸く見つけた鍵である壁の石を押しこんだ刹那、扉の向こうと元の通路から大量のモブが私たちを殲滅せんと迫りくる。


 黒は開いた扉から入って来るモブにレンジ ヘイトを発動させ引き攣れる形で扉から飛び出した。

 狭い通路で、前後をモブに挟まれるほどやりにくい事は無い。

 それを分かっているクラメンは黒の後に続いて次々と通路に飛び出した。


 黒のレンジ ヘイトが何度かあがり進行方向のモブの処理を黒、宮ネェ、キヨシ、先生。宗乃助が開始する。

 抜けた扉から迫りくるモブに対しティタと鉄男が、タゲを取るためサンダー ボルトのスクロールを使い呼び集める。

 それを足止めするのは俺の役目だと言わんばかりにシロがダウン プルを発動させモブを縫い付けた。


 間髪置かずに私はドラゴン オブ ブレスを、ミツルギさんと鉄男が風を纏わせたスキルで武器を振るい、さゆたんがトルネードを使い殲滅していった。


 壁に立ち待機していた、ゼンさんとヒガキさんを守るように円を作り周囲のモブの処理を終わらせたのはオーツが切れる20秒前だった。


[[ren] オーツ@20]

[[ティタ] こんなにモブ湧いたっけ?]

[[白聖] 2PTだからじゃないか?]

[[宗乃助] あぁ~。納得でござる]

[[さゆたん] 回復2、盾2いるし大丈夫でしゅよw]

[[宮様] 盾2!?]

[[ティタ] もしかして、俺も盾なの?w]


 クラチャの内容に、あぁ、そう言えばそう言う罠もあったなーと思いだす。PTメンバーの人数によりモブが増減すること、そして、ボスが強化されることを失念していた。

 今回ボスを狩る予定はない。けれど……本体が強化されれば、分裂体も強化されるはずだ。となると、罠には十分気をつけなければならない。


 そこまで思考して、ちらりと踏みぬきそうなキヨシとチカに視線を送る。何かを楽しそうに話す二人に釘を刺しておくか悩んでいたその時――。


 目の前を歩く、先生が罠を踏んだ。


「ぁ!」と漏れる小さな声、目の前に空いたブラックホールから黒や緑、茶色などが混ざったヘドロのような色。そしてシーツを被ったお化けのような見た目と顔に、ボロボロの羽。


[[ren] 宮ネェ!]

[[宮様] バリア!]


 姿が完全に現れる前に、宮ネェを呼ぶ。その刹那宮ネェのバリアが発動された。全員にバリアのエフェクトが上がるかどうかのタイミングで姿を現したクラウディ フェアリー ロゥの分裂体が、その口を大きく開き大量のデバフ込みの汚水を私たちに向け吐きだした。


[[大次郎先生] ごめん。踏んだ]

[[さゆたん] 久しぶりにみたでしゅw]

[[黒龍] 謝るのはあとでいー。やるぞ]

[[宮様] チカ。バリア繋いで!]

[[宗乃助] ゼンとヒガキは最後尾に。

     ミツルギ、シロ後方注意頼むでござる]

[[キヨシ] やるかー!]

[[†元親†] わかったーw]

[[鉄男] シロは、攻撃優先でいいぞーw 俺が後方行っとくわw]

[[ミツルギ] 了解っす!]

[[白聖] さんきゅ。鉄男]

[[ren] 時間との勝負]


 クラチャで話終えるとすぐに、分裂体に向け黒がヘイトを飛ばす。その間に、設置型のバインド(+18)、ショック ボルト(+19)を置く。

 基本設置型の魔法は、ボスには効き難い。だが、分裂体は違う。ボスの強さを持った一般のモブとして設定されているはず……。


 発動させるタイミングを見ながら、全員に個別のバフを回しオーツの時間を確認する。残り7分。まだ十分に時間はある。


 四度目のヘイトが上がり、黒の「やれ」と言うクラチャと同時に、私は設置型の魔法を詠唱発動させつつ、ブレス オブ アローを叩き込む。

 設置型魔法は見事にレジられてしまったが……本当に一般のモブ設定なのだろうか?


 そんな私の右後方からさゆたん、キヨシがストームが分裂体目掛け飛んでいき、横に立つシロが風を纏った矢をMPで作りだし弓を引き絞る。


 間髪入れずに放たれた矢が分裂体を射抜き、ティタと先生、宗乃助が各々の武器に風を纏わせ分裂体へと斬り付けた。

 

 分裂体と戦う私たちの後ろでは、鉄男とミツルギさん、ゼンサン、ヒガキさんが、雑魚モブをこちらに行かせまいと奮闘している。


[[宮様] @5秒]

[[†元親†] k]


 バリアの残り時間を宮ネェがチカに伝える。残2秒まで待ちチカがバリアを発動させた。


[[†元親†] バリアー!]

[[黒龍] このバリアで押し切る!]

[[ren] MP気にしないでok]

[[さゆたん] ガッツリ使うでしゅw]

[[キヨシ] やったるぜぇぇぇぇ!]

[[鉄男] んじゃま、俺もスキル使うわ―w]


 黒の声に、マナチャを入れると宣言すればさゆたんとキヨシが喜び、他のメンバーもMPを気にせずスキルの連打を始める。

 後ろを見る事はできないが……耳に届く音から、ミツルギさんと鉄男もスキルをフル回転させているようだった。


 風魔法と風のスキルで集中攻撃を受ける分裂体は、ティタと先生、宗乃助の風を纏わせたスキルをその身に受けたところでHPを吹き飛ばし「びゅるるるるるるる~」と言う断末魔を叫ぶ。

 何かを溶かすような音を出しながら床に崩れ落ちた。


 なんとか押し切ったとバフを確認すれば、チカの張ったバリアが切れるコンマ数秒前だった――。

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