第112話 クランハウス⑪ 加入PVP

 真剣な表情で宮ネェが、シロとシュリンクを順次見つめた。

 二人共、宮ネェと目が合うと一度だけ頷き、頷き返した宮ネェの手が挙がる。大きく息を吸い込みカウントと言うと同時に5秒前からカウントが始まった。


「カウント――5……4……3……2……1……Go」


 Goの合図で、弓に番えた矢が飛び交う。シロの飛ばした雷を纏うオリハルコン アローがシュリンクの右腕を掠り、シュリンクの炎を纏うオリハルコン アローが、シロの右足を掠った。


 ダメージを受けたはずのシロの顔がニヤっと緩み笑ったように見えた刹那、左から走り込み回るようにしながら弓を目一杯引き絞ったシロが上空目掛け矢を放った。

 それはゆっくりと上空に弧を描き、シュリンク目掛け落ちて行く。


 それ視線を奪われ上を見るシュリンクの左胸――丁度、心臓の辺りに、風のエフェクトを纏った矢が轟音をあげ貫いた。


 その攻撃に対し、シュリンクは冷静に対処する。回復POTをしっかりと飲み、シロの射程からギリギリの位置を左右に移動しながら、距離を詰めようとするシロに対し反撃のタイミングを測る。


[[大次郎先生] ほぅ~。上手いな]

[[黒龍] 冷静に対処してんなーw]

[[ティタ] シロも余裕そうだけどw]

[[宗乃助] 冷静なのは重要でござるよ]


 冷静に対処できるところは非常に素晴らしいと思うが、シロのあの顔が気になる。

 顔を緩めたまま、シュリンクの行動を観察するような視線で、彼を追いかけているその様子に、きっと何かを企んでいると何故か思った。


 その予想は裏切られる事無く、弓を引き絞るシュリンクさんが立ち止まった刹那に起こった。

 シロが矢を番えないまま弓を引き弦を離す。

 すると何も無いはずの頭上からシュリンク目掛け矢が降り注ぎ、その身体を穿つうがつと更に次から次へと矢が降り注ぎ始めた。


 足の踏み場もないと思える程、大量の矢がシュリンクを射抜き、穿つ。

 結果、彼はPOTを飲む余裕さえ与えて貰えず、矢に射抜かれ灰色となり倒れた。


「白聖 Win」


 呆然とする観客を余所に、宮ネェがシロの勝利を宣言する。

 颯爽と金色の長い髪を靡かせイケメンアバターの顔で決め顔を作り戻って来るシロ。そんな彼が、クラチャでこんな事を話しているとは誰も思わないだろうと確信できた。


[[白聖] 終わったーw

    虎の獣人の子さ、いい物持ってるよなw

    戦いよりそっちのが気になったわw]

[[さゆたん] その顔で、このセリフwww]

[[キヨシ] 台無しだなw うは]

[[†元親†] 残念な奴だなw あははは]

[[宮様] はぁ……これさえなければイケメンなのに]

[[ティタ] 煩悩塗れぼんのうまみれw]

[[宗乃助] 巨乳もいいでござるが、どうでござった?]

[[大次郎先生] 後で揉ませて貰え。

       で、シュリンクさんどう?]

[[白聖] 上手い。けど、足りない。

     ツクヨミの効果は知ってるはずだし

     それを放置した時点でアウトだろw]


 シロの説明によれば、ツクヨミには数種類のスキルがついているようで、今回使ったのは、ゲンゲツと言う名のスキルだそうだ。


 弓に着いた月が上弦(じょうげん)――次の満月までの間と言う意味――になった際、天に向かい打ち上げた矢が満月になるまで増殖しその数を無数に増やす。

 時間にして3分ほどだろう。その間上空で増え続けた矢を、弓の弦(つる)をはじく事で狙った相手に落とす。と言うスキルらしい。


 同職だからこそ、月弓・ツクヨミの効果を知らないと言うことはないだろう。その効果を知りながら放置したと言うシロの言葉に確かにと私も納得した。

 シュリンクさん自体上手いと言える弓職であることは確かだし、彼ならばとも思ったけれど……シロの言葉を聞き考えを改めさせられた。


 これまでの三戦を見て思うことは、全員が後一歩足りない。三次職でなければ、この動きであれば確実にクラン加入させていたはずだ。


[[黒龍] うんじゃま、行ってきますか―]

[[白聖] 頑張れよ黒w]

[[ティタ] いてらーw]

[[†元親†] 負けたら、黒歴史なーw]

[[宮様] 黒急いでw]

[[黒龍] ざけんな、チカw]


 立ち上がり戦いの場へ向かう黒の背中にチカが負けたら黒歴史と投げかけ、ズルっとコケる黒。

 今ので集中が切れてなければいいなと思いながら、戦いが始まるのを見守った。


 副将戦 黒龍 vs 苑斬(えんざん)

 三次職、盾の戦いだ。大盾にランスを持つ苑斬。完全に黒より一回りほど身体が大きく見える熊の獣人だ。

 首や肩を回し気合を入れる仕草をした黒が、盾と剣を取り出し装備すると宮ネェが二人に視線を送り、頷いた。


「カウント――5……4……3……2……1……Go」


 カウントと声を張り上げ5秒前からカウントされた。Goと同時に動いたのは苑斬だ。

 盾を前に構えながらその巨体を隠し、ランスを突き出し攻撃する。黒はそれを悠々とあしらい、剣を盾の側面に打ち付けニッと口角だけを上げた。


 それを挑発と取ったらしい苑斬の顔が醜く歪んだ。

 右手に持つランスを怒涛の如く黒目掛け突き出すも、全て黒の持つ盾で防がれている。


 執拗にランスで攻撃を続ける苑斬。

 頭に血が登っているだろう彼に、私は興味を失った。


 あの程度の事で頭に血が上り周囲が見えなくなるようでは、盾としての能力に欠けている。

 このゲームにおける盾の役割は、誰よりも先に周囲の敵に対し気付く事。タゲを奪い、それに耐えるだけではダメなのだ。

 

[[大次郎先生] んー。ダメだな]

[[さゆたん] でしゅねw]

[[ヒガキ] どうしてそう思うんですか?]

[[ゼン] 上手いと思いますけどw]

[[キヨシ] 激オコwww]

[[†元親†] プンプン丸だーw]

[[大次郎先生] そうだな……ヒガキとゼンはさ

       盾の役割ってなんだと思う?]

[[宗乃助] 足元すら見えてないでござるなw]

[[白聖] 黒の挑発ほど分かりやすい物は無いよなw]

[[ティタ] あっ、引っかかったw]

[[キヨシ] だっせっww]


 クラチャで会話をする間に、ランスを突き出す苑斬に対し黒がその足を狙い動いていた。膝カックンと言えば分かりやすいだろうか? 盾を突き出しながら、剣の柄でカクっと膝が曲がるよう打ち付けたのだ。


 予想外の攻撃に、今のいままでランスを突き出していた熊の巨体が前のめりに倒れる。

 たまたま、地に突き刺さったランスのおかげで、無様な姿を晒す事は無かった。


 なんとか、巨体を起こそうとする熊を余所に、無防備な彼の背中に短剣を取り出した黒が突き刺す。そのまま、短剣についた精錬スキルを発動させた。

 バリバリとなった音、熊のお腹から見えた矛から予想するに、サンダー スピアだろう。


[[黒龍] お前らうるせーよw]

[[ヒガキ] えっと、タゲ貰う事ですかね?]

[[†元親†] ワロスw]

[[ゼン] 味方を守ること?]

[[大次郎先生] 確かにタゲ取って味方守る事が主体だけど

       それじゃ、足りない。

       まずは周囲を見る事が一番大事。

       要は、冷静さが必要ってことだね]

[[宮様] これは一方的ねw]


 精錬スキルを発動させながら、言いたい放題のメンバーたちにうるさいとチャットでキレる黒を余所に、先生の盾職に必要な事は何か講座は未だに行われている。


 講座は先生に任せ、他にどんな精錬スキルを付けたのか知りたい私は、戦いではなく黒に集中した。

 今後、トーナメント戦で戦うこともあるだろう。その時に優位に事を運ぶため必要だと考えたからだ。


 短剣を仕舞い込んだ黒が、次に取り出したのは両手用の直剣だった。

 苦悶の表情を浮かべた苑斬が、盾を構え直し黒の直剣を盾で受けようとタイミングを測っていた刹那、その剣先からファイアー ストームが繰り出された。


[[ティタ] えげつな]


 ファイアー ストームの炎が収まるより早く、黒が自身のメイン武器である片手剣を取り出し、苑斬を切り裂いたように見えた。

 盾と剣がぶつかり合う音の中に、複数回クリティカル音が混ざる。

 未だ私の位置からでは、渦巻くファイアー ストームのせいで、戦いの様子を伺い見る事が出来ない。


 固唾を飲んで様子を見守っていた視界の炎が漸く収まったと思えば……そこには、剣だけを持ち立った黒と、灰色に変化し倒れた苑斬がいた――。

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