第113話 クランハウス⑫ 加入PVP

 苦虫をかみつぶしたような顔で戻った黒が先ずまずした事は、キヨシ、チカにげんこつを落とすことだった。

 まぁ、散々邪魔されてた訳だからそうしたい気持ちはわかる。


 痛い痛いと子供のように転げまわるキヨシとチカに痛い訳ないだろ! と語気荒く言い終わると同時にドカっと座る。


[[黒龍] ないわ]


 先生が聞くよりも早く、結果を伝えた黒。皆も同意するように頷き先ほどの戦いに着いて振り返る。


[[大次郎先生] まー無いよねw]

[[さゆたん] このクラン加入条件が

      どこよりも厳しいでしゅw]

[[宮様] んー。特に厳しくしてるつもりは無いわよ?

    ……どうしてかしら?]

[[ティタ] 求めるのが即戦力だからじゃない?w]

[[白聖] 理想が高いw]

[[キヨシ] 高嶺の花たかねのはなを醸し出してる?w]

[[ren] まるで、官僚かんりょう]

[[†元親†] うはははははw

      大学時代の合コンみたいだなw]

[[宗乃助] 行って来るでござるよw]


 チカの例えはよく理解できないものの、このクランの加入条件が難しいのは理解できる。正直、部外者と言うよりクラメンを募集したいかと言われれば否だ。

 男女どちらを入れても揉めそうで、後々面倒なことになりそう。と言うのが私の見解だ。

 そう言った事から出来れば、クラメンの加入を希望したい……。


 ヒガキさんやゼンさんみたいに、素直でしっかりと自分たちの事は自分でやって、努力する意思を示そうとしてくれる人であればいい。

 それ以外は求めて居ないはずなのだが……?


 そんなことはどうでもいいやと思考を打ち切り、宗乃助の試合を見守る事にする。

 暗殺者同士の戦いは他職の戦いに比べ非常に面白いと思う。互いのスキルを如何いかに相手を騙し叩き込むか。となるからだ。


「宗~頑張れよ~!」

「頑張るでござるよ?」

「誰だお前w」

[[ren] 知り合い?]

[[宗乃助] 全く知らないでござるw]

[[黒龍] すげー、知り合いっぽいけど?w]

「ふふっ! 聞いて驚け――「大将戦 宗乃助 vs ミツルギ」」


 名乗ろうとした顔を仮面で隠した謎の狼獣人の話をぶった切る宮ネェの声に、全員がそちらに注目する。

 スルースキルがあればMAXだろうクラメンたちは、既に彼の存在を無かった事にしているらしく、誰もそれ以降話しかけようとはしなかった。


 彼の言葉選び的に、思い当たる人物が一人いるのだが……まぁ、本人が隠しているのであれば私がとやかく言うことは無いかと宗乃助の試合に集中する。


 宮ネェの視線を受けた二人が位置に着く。

 身体を解す仕草をする二人がいい笑顔で頷いたのを確認して、手を振り上げカウントを始めた。


「カウント――5……4……3……2……1……Go」


 Goと同時に、ハイド ヴィジブルを互いに使い距離を縮めた二人が互いの背面にクリティカルを狙い、それぞれ短剣を差し込もうとする。

 しかし互いに危険を察知したのか、シンクロしたようないいタイミングで、バックステップを踏み距離を取った。

 開始10秒で互いに見つめ合う状況だ。


「いいでござるなぁ~」


 嬉しそうな宗乃助の声が聞こえたかと思えば、彼の姿は既にそこには無く。視界を動かし探せば、ミツルギの背面に短剣を差し込んでいたところだった。


 耳触りのいいクリティカル音が鳴る。

 カウンターでミツルギにダメージを与えた宗乃助は、相手の攻撃が届く間際――。


 またも、姿を消し所在を確定させないよう動く。

 振り向きざま短剣を振り抜き空を切る形になったミツルギは、注意深くその場に留まり目を閉じた。


 その状況から推測するに、フォーサイト――三次職暗殺者のみ使用できるスキル。使用時MPを消費するものの、自信を中心に薄い波紋を起こし、近付く敵の位置を見破る事が出来る――を使っているのではないかと思われる。


 ミツルギの使うスキルに気付いているだろう宗乃助が、アイテムボックスから自作のクナイ――とは呼べない鉄の塊にしか私には見えない物――を、ミツルギに投げる。

 それに反応したミツルギは、短剣でそれを弾くと宗乃助に向かい一気に距離を詰めたかと思えば、右手に持つ短剣で宗乃助に斬り付ける、


 既に予想済みだったらしい宗乃助の口角が上がり、左手に持つ短剣を下から上に持ち上げミツルギの短剣を弾くと、がら空きになったミツルギの胴を雷を纏った右手の短剣で斬り付けた。

 ミツルギは体制を崩され攻撃を食らいながらも、宗乃助にクリティカル音の鳴る一撃返す。

 

 バリバリと言う電気が走る音と共に棒立ちになるミツルギ。

 雷以外にも何かしらのスキルを、使っていたらしい宗乃助の勝利が決まった瞬間だった。


 痺れて動けないミツルギに対し、宗乃助は容赦無く両手に持った短剣にスキルエフェクトを乗せ、その身体を縦横無尽に斬り付ける。

 宗乃助の動きが止まり、徐に短剣を納刀する仕草を見せると同時にミツルギは灰色になり倒れた。


「宗乃助 Win」

「おつでござるよ!」

「いや、強い。参りました」


 宮ネェの勝利宣言を受け、労いの言葉をかけた合った宗乃助がこちらへ戻って来る。そんな彼に先生が他のメンバーと同じ質問をする。


[[宗乃助] ありでいいと思うでござるよ]

[[ティタ] うん。ミツルギはありだね]

「宗~。お前強いよな。相変わらず、流石俺の相棒w」

[[大次郎先生] そうか。なら彼にだけ声かけておくー]

[[宮様] ギャラリーが凄いわね……]

「で、お前は誰だ?w」

「いつ相棒になったでござるか?w」

[[白聖] 見てて何が楽しいんだろうな?w]

[[黒龍] 見物多すぎじゃね?w]

[[キヨシ] なー。さっきから、俺らの横で体育座りしてる

     こいつ誰のサブ?w]

[[†元親†] 俺は知ってる……多分、Feだろ?w]

「知り合ったその日からだろw 宗!」

[[さゆたん] 余興は終わりでしゅw

      また、変なのが加入したいとか言う前に帰るでしゅよw]

「聞いて驚け! 俺は――「鉄男だろ?w」」

「ちょっ! 黒! お前バラスなよwww」

[[キヨシ] Feって……何?w]

「あれ? お前引退したんじゃなかったの?」

「別ゲーやるから、引退するとか言ってたでしゅ」

「鉄男戻るの?」

「皆が冷たい……俺が戻ったのに! 冷たい!」

「鉄男引退するって言うのもう5回目ぐらいだしね~?」


 ミツルギさんに関しては、下手ではないし、即戦力になれる事、宗乃助相手にきっちり冷静に対処出来ていた事、彼自身装備がしっかりしている事を理由に加入を許可することになった。


 やはりというかなんと言うか……例の謎の男はやはり鉄男だった。

 病ゲーを引退すると言っては戻って来る元クラメンで、宮ネェ、先生と同じぐらいの年頃だ。アイドルオタでもある彼は、いつかアイドルと結婚するのが夢なのだとか……。


 職は、槍で三次職カンストだったのだが、キャラ名が違うのでもしかしたら新しい職を始めるのかもしれない。

 とりあえず、白チャで会話するのも面倒なので鉄男を加入させる。振り分けは、とりあえず仲が良さそうな宗乃助にしておいた。


[[謎の男] ただいまーw]

[[大次郎先生] それで、鉄男メインどうしたの?]

[[黒龍] 今度抜けたらもう永久BANでよくね?]

[[謎の男] メインは鉄男でやる。装備は全部取ってある~w]

[[宮様] 黒に賛成よw]

[[ティタ] そう言えばさ、鉄男なんで引退したの?w]

[[謎の男] 黒と宮が酷いw

     引退理由なんて別ゲーが……俺を呼んでいたからだw]

[[†元親†] うはははははw 鉄男久しぶり~!]

[[さゆたん] そのまま別ゲーで埋もれてれば良かったでしゅw]

[[ren] おかえり]

[[大次郎先生] ren。ミツルギ加入させる]

[[謎の男] さゆ、相変わらず辛辣w]

[[宮様] しかし、うちって……攻撃型よね……]

[[ミツルギ] よろしくお願いします]

[[黒龍] 攻撃型つーか攻撃過多だろ?w]

[[白聖] おー。鉄男おか]

[[ヒガキ] お初です]

[[キヨシ] 鉄男~!鉄鉄鉄男~!]

[[ゼン] はじめまして~]


 鉄男が引退したのは数ヵ月前で、特に懐かしいと思うことも無く。当然のようにそこに居るものだと言う感覚があった。

 正直鉄男はどうでもいいと思いつつ、ミツルギさんの加入の方が緊張する。できる限り慣れるまで、関わり合いにならないよう全てを先生に丸投げする為、部隊を先生にしておいた。


 クラメンがそれぞれ、戻った鉄男と新規加入のミツルギさんに対し挨拶を交わす、

 クランハウスへ戻るため闘技場を後にしようと入口を振り返った刹那、帰還の護符を使いたくなったのは言うまでも無い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る