第111話 クランハウス⑩ 加入PVP
ヘラの城の右奥にある闘技場で、挨拶もそこそこにPVPを開始する。
今回は私のバフは無し。自力での戦いとなる。相手の職は、遠距離魔法職、回復、弓、盾、暗殺者の五人だ。
うちのメンバーで負ける人が居ないと思うが、相手のLvや戦い方が判らない事から皆それなりに秘策を用意している事だろう。
次回予告風に言えば、今まさに!クラン加入のための戦いが始まろうとしていた。
的な感じだろうか? 緊張感が無いクラチャに流されついつい、私もそんな事を考えてしまった。
先鋒戦は、さゆたん vs 春巻さん だ。
遠距離魔法職同士の戦いと言う事で、開始前にも関わらずお互いに、かなりの距離を取っている。ローブを羽織る二人の女性キャラ(男)が、杖を持ち佇む。
「カウント行くわよ~!」
そこに、心は乙女見た目は絶壁の宮ネェが立ち、いつも通りカウント開始の合図を出した。
宮ネェの視線を受け頷いたさゆたんに頷き返した宮ネェが、春巻さんの方にも視線を投げた。それを受け緊張した様子の彼女(男)が頷く。
「カウント――5……4……3……2……1……GO」
宮ネェのGOの合図と同時に動いたのはさゆたんだった。
先手必勝とばかりに、移動を繰り返しながらアイス ランスとサンダー スピアーを春巻に打ち込んだ。
それを辛くも避けた春巻が、仕返しにサンダー ストームをさゆたんに使うも、さゆたんはその範囲内には既におらず……。
[[さゆたん] 貰ったでしゅw]
そう言うと同時に、春巻にガムを仕掛け足止めを施した刹那、覚えたばかりのメテオストライクを詠唱し発動させた。
黒煙を上げた赤く燃えた流星が、春巻を目掛け次々闘技場に降り注ぐ。
さゆたんの口角が上がり、モトヤンらしいニ笑いを浮かべたかと思うと、これまでに見た事が無いほど鋭利なサンダー スピアを小さな体から打ち出した。
青白い雷の槍が、春巻の身体を穿つと同時にその身体は弾き飛ばされ起き上がる事は無かった。
「さゆたん Win」
宮ネェの声と共に、ピースサインを決めたさゆたんが凄くいい笑顔でスキップしながら私たちの元へと戻って来た。
[[大次郎先生] お疲れ。どうだった?]
[[さゆたん] んー。下手ではないでしゅけど
使えそうにないでしゅねw]
[[黒龍] なるほどな。PT戦で棒立ちって感じかw]
[[白聖] それはダメだなww
うち既にキヨシって言う地雷がいるしなw]
[[さゆたん] まー。まだキヨシのが上手いでしゅよw]
[[キヨシ] いえーい♪]
[[†元親†] いえーい♪]
感想を聞いた先生に対し、さゆたんは同職ならではの辛辣な回答を口にした。
キヨシも下手だ地雷だと散々な言われようだが、少なからず棒立ちはしないし相手の動きをみて動く事ができる。
さゆたんの言葉になるほどと納得しつつ、先ほどの戦いを振り返った。
春巻さんは動くことなくただ棒立ちで、さゆたんの攻撃をなんとか避ける程度だった事。
今後攻城戦をやって行きたいうちとしては、欲しいと言える相手ではなかったと言う結果になった。
「次の戦いに行きましょうか……」
「俺だぁ~!」
[[ティタ] 不安しかないんだけど……]
[[宮様] 本当に私じゃなくていいの?]
[[黒龍] 俺もw]
[[宗乃助] 拙者も]
[[白聖] 俺もw]
[[キヨシ] 俺はチカを信じるぜ!w]
[[ren] ノ]
[[さゆたん] あたくちもでしゅw]
[[大次郎先生] まぁ。そう言わないで……w
チカもやる時はやる男だからw]
なんと、回復職同士の戦いで宮ネェを選ぶと思っていた先生が選んだのは大剣を振りまわすしか能のないチカだった。
全員が不安を覚える戦いが、始まろうとしていた――。
「じゃぁ、位置に着いてね~」
「おうよー!」
「宜しくお願いします」
次(じ)鋒戦(ほうせん) †元親† vs 枝豆 の回復職戦だ。
片手を挙げた宮ネェが、チカと枝豆さん両方に視線を送り、頷いたのを確認すると大きな声でカウントを開始した。
「カウント――5……4……3……2……1……Go!」
背負った大剣を引き抜き、ニッといい笑顔を見せるチカはGoの合図と同時に走りだした。枝豆もチカに距離を詰められるのはマズイと思ったようで、その距離を離しに掛る。
回復同士の戦いは、二次職の魔法を、如何に上手く使い相手にダメージを与えるかで決まる。
チカの場合、魔法を使うぐらいならスキルをぶっ放すと言いそうだがと思った所で、焦れたらしいチカが二次職の大剣スキルを早速使用した。
「飛来撃ー」
[[ティタ] 誰か解説plz!]
[[キヨシ] フライング ソードだと思うw]
飛来撃……確かに考えようによってはそう読めなくはないけれど……チカの中二病全開のネーミングセンスが痛い。
試合よりも正直そっちの方をどうにかして欲しい……。なんて考えている私を余所に試合はゆっくりと進んでだ。
チカのスキルを受けた枝豆は、回復を使い自身のHPを回復すると距離を取るため再び走り出そうとした。
けれど、一気に距離を詰めるため枝豆に向かい跳躍したチカの大剣が、それを許さず風を切り裂く轟音をあげながら、枝豆の身体にダメージを受けた赤いエフェクトの筋を作った。
慌てたらしい枝豆が、立ち上がり自身に回復をかけ、反撃とばかりに遠距離魔法サンダー アローを打ち出すも、チカはそのダメージを物ともせず大剣を振り抜く。
そのダメージは、ローブだからこそ痛いと感じるほどのものだったのだろう。
逃げる事を忘れ、何度も回復を繰り返す枝豆にチカは容赦なく斬り付け続けた――。
決着がついたのはそれから約10分後の事だった。
欠伸をしていた隙に、MPが尽きたらしい枝豆が、チカの大剣による一撃を受けてそのまま地に沈んだ。
「†元親† win」
「ひゃっは~!」
[[大次郎先生] お疲れw]
[[ren] 眠い]
[[白聖] マジ疲れたw]
[[キヨシ] 最高だぜ、相棒~w]
[[黒龍] あー。終わった?]
[[†元親†] 快勝だぜ~www]
[[大次郎先生] チカ。枝豆さんどうだった?]
[[宮様] 次、シロ準備して~]
[[さゆたん] 眠かったでしゅw]
[[宗乃助] ヤバかったでござるよ……w]
[[†元親†] 俺に負けるぐらいだからダメじゃね?w]
[[ティタ] んー。はぁ~あ。終わったー?]
やっぱり回復同士の戦いは動きが少ないから眠くなるな……と言う、私の思いを余所に、先生がチカに枝豆さんについて聞いた。
それに対し、凄くまともな答えを返すチカに全員の視線が集まった。突然の視線に戸惑いながら頭を掻いて照れる素振りを見せた。
キヨシとハイタッチを交わすチカに、褒められてないよ? と脳内で突っ込みを入れ、シロを見送った。
先ほどの戦いを考査するのであれば、枝豆さんのスキルの使い方は下手では無い。
不意に攻撃を受けた時の対処の仕方さえ訂正してやればとは思うが、三次職になった奴は基本他人の意見は聞かない……。
どうしても、三次職まで育てたプライドが邪魔をする。そんな相手に何度も同じ事を言うのも不毛だと言う意見で、枝豆さんも不採用と言う結果になった。
中堅戦 白聖 vs シュリンク
二人が配置に着いた所で、戦うスペースを囲ったゴミが全て消えて行く……。慌てて立ち上がり、私、シロ、ゼンさん、ティタ、キヨシ、ヒガキさん、宮ネェで再度ゴミを撒き新たな戦いの場を用意した。
こう言うところで、手伝いますよと言って立ち上がってくれないのもマイナスだ。と内心思いつつ、シロに頑張れと伝え観客席に戻った。
宮ネェが二人に視線を送り、準備が整うのを待つ。
シロの弓がいつもと違う。
[[ren] シロ。弓変えたの?]
[[白聖] おー。気付いた? 対人用作ってみたんだわw]
[[ren] それ、なんの弓?]
[[白聖] 月弓・ツクヨミ]
[[ren] おぉー。ツクヨミって、年末年始イベントだよね?]
[[白聖] そそw]
[[黒龍] おまっ! 実は裏切ってやってたな!]
[[ティタ] うわー!]
[[大次郎先生] まーまー。落ち付けってw
去年はシロのとこだったからなw]
[[白聖] まー、サクッと終わらせて来るわw]
月弓・ツクヨミは、弓の中心部に矢を番える位置に黄色い月が付いていて、その月が満ちたり欠けたりすることで、威力が変わると言われている。
今年の年末年始イベントで出た、弓職にとっては最高の対人弓だ。射程は長く、弧を描くように打ち上げるだけで月の引力を発動し狙った相手を射抜くと言われている。
実際に弓の力やスキルを見るのは初めてだ……早く始まらないかなと、今回の戦いが楽しみになってきた――。
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