第108話 クランハウス⑦ ボス狩り中

 深夜にも関わらず元気なクラメンたちを引き連れて善悪の塔に登る。

 60Fのボスは、いまのところクラメンを連れて登れる唯一のボスだ。70Fにも登れるが流石に、未知の場所に纏まりの無い、キヨシ&チカを連れていく気にはなれない。


[[ティタ] あー。スキル書でないかなぁ~]

[[宗乃助] 拙者は、玉が欲しいでござる]

[[黒龍] 玉は俺も欲しい]

[[大次郎先生] あたくちだって欲しいよw]

[[さゆたん] 皆欲しいはずでしゅ]


 玉か……私ですら一年半毎日通って漸く最近手に入れた所だ、そう易々とでないだろうな……と思いながらも、誰かに出ればいいなと思った。

 60Fへの道中、いつも通りに進んでいく。ヒガキさんゼンさんがいるとは思えないほど快適だ。


 この二人が、きっちり言いつけを守り他に迷惑をかけていないからこそだ。

 これがもし、今まさにゲイザーを引っかけ他人を巻き込んだチカと、巻き込まれゲイザーに固められたキヨシだったならば……これほど快適ではなかっただろう。


[[白聖] キヨシ……ゲイザーに固められるってやばくね?w]

[[†元親†] wwwww]

[[宮様] まー。装備が装備だから……w ピュリファイ]

[[ren] キヨシ。装備替えた?]

[[キヨシ] んー。何も変えてないはずだけどw]

[[宗乃助] チカ、ごめんなさいするでござる!]


 ふむ。ゲイザーで固まるのか……キヨシの運が悪いのか、渡したアクセが悪いのか……そんな事を考えながら57Fを登りきり58Fに差し掛かったところで、黒が左手で後ろにいるメンバーを止めた。

 何事かと後ろから覗きこんでみれば、山羊の頭に赤い瞳。

 口からは毒の霧の如き緑の息を吐き出し、二足歩行で徘徊する、三叉の槍を持つアレがいた!


[[ティタ] うわー。俺、初めて見たw]

[[黒龍] バフォだな……どうずる?]

[[宗乃助] 殺るでござるよ]

[[大次郎先生] そうだね。ヒガキさんも、ゼンさんもいるし

         走るにはキツイと思うw]

[[さゆたん] 魔法書ドロップ!! やるでしゅw]

[[宮様] 二人共、バフォが槍を振りまわす時は、離れてね~]

[[ティタ] タイミングは言うからw]

[[ヒガキ] はい!]

[[†元親†] こいつのローブあるってマジ?w]

[[ゼン] はい]

[[ren] バフ]

[[宮様] 全チャしておくわねw]

[[白聖] ローブあるの?]

[[キヨシ] マジで! 超欲しいーぜ!w]


 バフをいつも通り入れながら、クラチャに注目する。


 バフォのHPや攻撃は、その討伐人数により変化すると言われている。人数が多ければ多いほどダメージが上がり強力になるらしい。


 何故、らしいが付くのかと言えば、私がPTでバフォを討伐した事が無いからだ。

 今回は11人と人数が多い、そのためかなり強化されたバフォになるだろう。

 その強化がどれぐらいなのか、少しだけワクワクした。


 その後も続くクラチャ。

 チカの言うバフォメットのローブは、不確かだが古参の間ではドロップすると言う噂が密やかに流れている。

 正直な話、今まで一度も見た事が無いので出るとは言えないが、もし出るのであればそれを目的に籠るのもありかもしれない。


 強化するためには、最低でも100セットは欲しい……バフォ自体、滅多に会えないのでそれを考えると最低でも数年単位で善悪の塔に籠る事になりそうだが。


 個別のバフを入れ終わり、ひとりブツブツ思考を繰り返している間に、カウントが0になっていた。

 ポーカーフェイスを決めつつ慌てて、バフォにアーマー ブレイク(+25)を詠唱し、連発してエフェクトを上げた後、ウェポン ブレイク(+20)を入れて行く。


[[ティタ] 来るよ!]


 ティタの言葉を合図に、黒以外の全員がバフォから離れ槍を回避する。

 ボォンとまるで、ジェット機の通り抜ける音を近くで聞いたようなそんな音が鳴り、バフォの槍が水平に弧を描いた。

 

 槍が通り過ぎると同時に、黒に対し宮ネェが回復を飛ばす。ティタ、先生、宗乃助がエフェトを武器に纏わせながらバフォに近付き斬り付けた。

 ゼンさん、ヒガキさんも負けじと果敢にバフォに斬りかかる。その背後から、鋭利に尖った氷が二本、バフォに突き刺さると雷を纏った矢が、それを破壊するかのように抜いた。


 タゲが流れないよう、十秒に一度のタイミングで黒のヘイトが上がる。

 もう既に、結構な時間が経ったように思うが、未だ元気に槍を振りまわす山羊に私もまた、ブレス オブ アローを叩き込んだ。


[[白聖] かてぇ!!]

[[宗乃助] 想像以上に硬いでござるなw]

[[キヨシ] ムキムキ過ぎw]

[[ティタ] 来る!]


 5分以上の時間を攻撃に当てるも、倒れる気配が無いバフォ。

 その硬さに、クラメンからは愚痴にも近い言葉が漏れた刹那、バフォが槍を払う仕草をする。それを見たティタから振りまわしの合図が入り、黒以外のメンバーが全員離れる。


 またも、すさまじい音を上げ槍が弧を描くと黒のHPが4割を切る勢いでゴリっと減った。すぐさま、宮ネェとチカが回復を飛ばし全開する。


[[黒龍] 徐々に痛くなってくるな]

[[さゆたん] 回数重ねるごとにダメージ増えてるでしゅか?]

[[大次郎先生] やばそうだな……]

[[†元親†] こいつ、ダメージ入ってるのか?w

      元気すぎね―?w]

[[ren] バフ]


 予想以上にバフォのHPが高い。挙句ダメージを与えているはずなのに、まったくその気配がない。これはマズイ気がする。

 そう思いつつ、打開策を模索しながら個別バフの更新をした。


 現時点で黒のHPが一撃で4割ほど持っていかれている。さゆたんの言う通り回数を重ねる度攻撃力が上がるのであれば、いずれ一撃で黒のHPを吹き飛ばしかねない。


[[ren] 黒、槍振りまわす時、離れてヘイトだけ入れて。

    ティタ、もうワンテンポ早く知らせられる?]

[[黒龍] k]

[[ティタ] んー。やってみる]


 タゲ固定さえできれば問題ないはずと、黒にも離れるように伝え。ティタに、もう少し早く離れる指示を出すよう頼んだ。

 これで少し様子を見てみようと思っていた矢先、バフォの深紅の瞳が更に濃い赤に光った。


「宮ネェ」

「バリア!」


 宮ネェの反応速度のおかげで何とか避ける事ができた、バフォの最強範囲攻撃。

 墜落(クラッシュ )の(オブ )矛(トライデント)


「チカ! 繋いでバリア!」

「任せろ!」

「5……4……3「バリアー!」


 バフォ最強の範囲攻撃、墜落の矛は、PT用に強化されたバフォのみが使うとされているスキルで、その効果範囲は階層全てで、効果時間は30秒だとアップされた際に見た公式に書いてあったので覚えていた。


 その階層にいるPTの全滅フラグと呼ばれ、バフォをやる時は全チャで報告を入れなければならないほど危険視されている。開始前に宮ネェが全チャを入れた理由がこれだ。


[[ティタ] 怖!]

[[白聖] やべぇw]

[[キヨシ] ガクガクブルブル]

[[さゆたん] 怖いでしゅwww]

[[黒龍] これが出たってことは残り三割切ってるなw

    一気に押し切るぞ!]

[[大次郎先生] さっさと終わらせよう]

[[ゼン] 手が震えます……]

[[†元親†] 俺スゲー!]

[[宮様] ふー。心臓縮みあがったわw]

[[宗乃助] 二人共良くやったでござるよw]

[[ヒガキ] こんな攻撃があるんですね……怖い]


 この攻撃は、バリア一枚では時間的な問題で避ける事が出来ない。本当に、宮ネェとチカが居て良かったと心から思った。


 最大攻撃を初めて受けたメンバーが多い中、黒だけがその攻撃を受けた事があったのかHPの残り三割を切っている事を知っていた。それを聞いたメンバーたちが、再び顔を引き締めバフォを取り囲み攻撃を再開した。


 その後再び、槍を振りまわす攻撃が一度あったものの無事バフォを倒す事が出来た。表示されたシステムログを確認するも残念ながら、ローブのドロップは無かった。


【 善悪の塔を彷徨いしバフォメットを討伐しました。 】

【 753656ゼルを獲得しました。 】

【 スキル書・クラッシュ トライデント を獲得しました。 】

【 魔法書・クリーピング フィーレ を獲得しました。 】

【 善悪の塔91階の宝玉を獲得しました。 】

【 善悪の塔91階のスクロールを3枚獲得しました。 】


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