第107話 クランハウス⑥

 まずは部屋の拡張を行い。二倍になった部屋の三分の二位の辺りで仕切用の収納ボックスや本棚を置いた。広く取った方に黒と焦げ茶色で出来た、四角いチェック柄で出来たラグマットを敷く。


 そこには、作業用の執務机と椅子のセット。それから、対面置きのソファーとテーブルのセットを設置した。

 執務机には、以前使って時のまま既に、製本師の作業で使うインクやペン、羊皮紙類が置かれている。


 小物や消耗品に関しては、一度家具に置いてしまえば使い終わるもしくは、置いた本人がそれを移動させるまで、アイテムボックスに入れようと、倉庫に入れようと状態が維持される。

 この移動にかんする仕様がゲームらしいと言うべきところだろう。


 家具には他にも機能的な部分がいくつかある。

 例えば仕切り代わりに使った本棚には、魔法書やスキル書、スクロールならば倉庫代わりに収める事ができる。更に、収納ボックスは、鉱石や薬草類などを保管してくれる。


 クローゼットについては、購入して初めて設定した際にその用途を決める。

 キャラの服用、装備保管用、など用途に応じて別途、購入する必要があるものの非常に使いやすい家具と言える。


 仕切り奥の自室に当たる、本棚の裏にグレーと黒のストライプ柄になったラグマットを敷き、アイテムボックスを開いた。


「先に大型の家具の配置にしよう……」


 広めのクローゼットを二個取り出す。

 どちらも黒に塗られたクローゼットの扉の枠飾りを確認する。銀は、装備保管用。金はアバターの保管用に設定していた。


「先に、銀を奥に置いて……金はこっちで……」


 収納ボックスの穴を潰さないよう、装備保管用を本棚の裏に置き、服用はその隣に配置する。

 クローゼットに足を向ける形でベットを置き、その周囲にお気に入りの家具や小物を配置した。


 残りは窓に着けるカーテンだが……さてどうしようかと悩みつつ、結局以前と同じように、ラグマットに合わせた形で配置する。

 ベット側には、足元付近には白色で蔦が書かれた。上から下に向けて、グラデーションしているグレーのカーテンを、執務机の方には、焦げ茶生地に黒の蔦が書かれたカーテンを配置した。


「よし……いいかな」


 漸く終わった模様替えに満足したところで、会議室やリビングなどがどうなったかを確認するためクラチャを開く。


[[大次郎先生] これとかどう?]

[[キヨシ] 梯子が短すぎて……三段しかできなかった……]

[[宮様] 黒、そこ右にずらして~]

[[ヒガキ] えっ! 高くないですか?]

[[ゼン] これ何処に置きますか? 白さん]

[[黒龍] はいよ]

[[宗乃助] 畳が欲しいでござるw]

[[大次郎先生] いや、これ位の方がいいよ。

       これ以上安いとすぐ耐久切れるからw]

[[†元親†] さゆ~。これどこー?]

[[白聖] あー。それ角でいいかも]

[[ティタ] 畳預かってるよ~。リビング用だけどw]

[[宮様] チカ、それまだ早いw]

[[さゆたん] チカ、それ最後でしゅw]


 クラチャを見た瞬間、未だ配置をしているらしい事が判り、ここで終わったとチャット打てば、絶対呼ばれると確信した。


 そっとチャットを閉じて、自室を後に、玄関ホールへと向かう。そこには各部屋に付いたタッチパネルよりも三倍はありそうなパネルが付いている。

 これのパネルは、ハウス全体の機能設定を行うためのもので、部外者の侵入禁止やインターホン機能。時間ごとのアラート設定もできる。


 倉庫、雑貨屋、鍛冶屋は、このハウスに備え付けの執事が一手に引き受けてくれる。

 雇用料金は掛らないものの執事を利用する度、購入料金にプラスして100ゼルが徴収される仕様になっている。


 他に何か必要なものはないだろうかと考え、ポータル設定をしていない事を思い出した。

 ポータル設定と言っても、帰還の護符を使った場合の選択肢にハウスが増え、ハウスからは【 ヘラ ]の神殿前に移動するだけだが……。

 無いよりはマシ程度の機能だが、これがPK中は中々に役立つので私には重要なことだった。


 大まかなハウスの設定を終え、自室に引き返そうとしたところで丁度買い物から戻って来たらしい先生とヒガキさんに鉢合わせした。


[[宮様] ふぅ~。大体終わったかしら?]

[[白聖] チカ、それこっちなーw]

[[キヨシ] 梯子がっ!!]

[[大次郎先生] 戻り。家具配置どう?]

[[ヒガキ] 戻りました]

[[ティタ] おか~。もう終わる]

[[黒龍] いい加減梯子は諦めろ! キヨシ]

[[宗乃助] おかえりでござるよ~]

[[さゆたん] おかでしゅ~]

[[ゼン] おかです。これどうしますか?]

[[大次郎先生] ren。設定終わった?]

[[†元親†] なー。これ俺の部屋に持っていきたい!]

[[ヒガキ] いい物が買えました!]

[[ren] y]

[[宮様] じゃぁ、全部終わったのね。物置って作ったの?]

[[黒龍] おつかれ、おけーり]

[[ren] 1階、階段から見て右側奥、私の部屋の隣]

[[宗乃助] 畳欲しいでござるw]


 どうやらそろそろ配置が終わるらしい。

 買い物から戻った二人が各々挨拶を流している間に、そっと気配を消し自室に戻る。

 

 未だ梯子に拘るキヨシ、色々な物を部屋に持ち込もうとするチカ……そして、畳と言い続ける宗乃助……。この三人の内、、宗乃助以外の二人に見つかれば厄介な事になるのは分かり切っているので、部屋に籠るか狩りに向かうのが一番だ。


 このまま狩りに向かえば、他のメンバーが面倒そうだと考えた結果の行動だった。

 ゲーム内で時間を見れば、ボスタイムまで三時間位の猶予がある。


「最近出費が重なってるし、折角机出したし代行の仕事をしよう……どれにしようかな……」


 トーナメント戦のおかげか、魔法職もATKも色々覚える傾向にあるだろう。そう思考しつつ、サブキャラにキャラチェンジした。


 簡単に言えば製本師は、魔法やスキルを印刷する仕事だが印刷する際、その魔法を使う分だけのMPを使う。なのでMP的にはドラマスのまま製本するのが一番効率がいい。

 けれど、魔法を覚えていないと製本できないと言う仕様のため人気の無いドラマスではできない。


 今回は、人数的にも多いであろう魔法遠距離職のサブキャラを選んだ。【 プラークシテアー 】の街からポータルを使い【 ヘラ 】に移動させ、ハウスに戻った。

 皆自分の部屋にいるのか、狩りに行ったのか既に玄関ホール近辺は静かで、ハウス備え付けの執事が佇んでいるだけだった。


 自室の扉を開け中に入り、机に座ると早速製本の作業をはじめた。

 まずはスキル一覧を開き覚えた魔法を選択する。すると、小窓が開きその魔法のペンタグルが表示される。それを羊皮紙にペンと定規などを使い書き写す。

 

 一次、二次、三次と覚える魔法があるこのゲームでは、三次職の魔法でも上位の魔法になるほどその作りが複雑になっており、時間はかかるし例えばミスを犯した状態で本にすればボフッと言う失敗音をあげ全てが消失してしまう。

 

 そのためか、かかる費用はインクと羊皮紙、自分が覚える魔法書だけと少なく儲かりはするが、代行の中では不人気と言われている。


 集中して書きあげた羊皮紙を表示された小窓の横に翳しミスが無いか見比べ問題ない事が分かると同時に羊皮紙を丸め製本用の紐で結んだ。

 すると丸め結んだ羊皮紙が、白いエフェクトに包まれテロンと鳴る音と共に魔法書に変化し現れる。これで漸く一冊の魔法書の出来あがりだ。


 要した時間を表示された時計で確認すれば約一時間半と言うところだった。

 三次職の魔法書を作ったにしては、かなり早めに出来たとひとり満足しつつ、ボスタイムに備えメインキャラへとキャラチェンジする。


[[黒龍] ボス!]

[[宗乃助] いつもの畳屋が廃業してるでござるぅぅぅぅ!]

[[白聖] ほら、これやるから梯子作れよ……はぁ]

[[さゆたん] ボスいいでしゅねw]

[[宮様] 宗乃助> デメテルの北露店?]

[[ティタ] ボス行きたい~!]

[[キヨシ] シロさんきゅー! ボスいくいくー!]

[[†元親†] いくぜええええええ!]

[[大次郎先生] ヒガキ、ゼンも一緒に行こう]

[[黒龍] ren。存在消してても見てるのは分かってるぞ!]

[[ヒガキ] え? いいんですか?]

[[ゼン] 本当ですか?]

[[ren] ……PT組んで]


 誘う前にボスタイムだと既に流れていた。

 別に誘うつもりだったしいいか……玄関ホールに向かい執事さんに話しかける。雑貨屋の機能がある彼は、各種ダンジョンで使う消耗品も二割増しで売ってくれる。

 便利だけど、足元見てるよね……運営……。


 そう思いつつも、結局遠回りする位なら執事で買った方が早いし楽だと思い購入した。

 全員が玄関ホールに集まりPTを組む。

 初参加のゼンさん、ヒガキさんには先生が移動中十分に説明するだろうと勝手に思い込み、一足先に善悪の塔に移動した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る