第93話 最強は覇者を志す㉕  PT戦@少数

 PT戦にエントリーした待つ事10分ぐらい、漸く呼びだしのカウントが表示された。

 やっぱり四人PTでも多いらしいこのPT戦、来週からはひとりで出た方が効率いいかもしれないなと考えている内に視界がブラックアウトする。


 見える景色はただの闘技場で相手も直に視認できる位置だった。

 人数は同じ四人、視界右端で名前と職を確認すれば弓、暗殺者、盾、重ATKのPTで、タスキ、ゆい、ミツル、輝鬼こうきと言う名前だ。


 最初に潰すべきは、弓と暗殺者だろうが、盾と重ATKの足止めを優先しておかねばこちらが痛い思いをするだろう。


『うわー。ガチガチでござるな』

『盾と重ATKの足止め優先するか?』

『その間に飛んでくる弓が怖いw』

『拙者とrenで暗殺者と弓のタゲが取れればいいでござるが……微妙でござるな』

『キヨシ、冷凍で弓先に潰せる?』

『やってみる』


 バフを入れている間にPTチャットで弓を優先排除することが決まる。キヨシが潰されるとしたら、弓の強撃が一番だろうと読んでの判断だった。

 相手もこちらが弓を先に潰すだろうことは読んでくる可能性が高い。


『隠れる場所が無いのが痛いでござるな』

『最初の20秒で、デバフ入れ終われるならプロテク入れるのもありだけどなー』 

『いざと言う時の保険がなくなるでござる』

『無理じゃない?』

『ミツルと輝鬼はガムでいいんだよな?』

『耐性積んで無きゃいいなw』

『誠それでござるな……』

『まー。やってみようぜー!』


 今回は少しばかりこちらの分が悪いのは見た通りわかりきっている。そこで、最初の20秒でプロテクを入れて、相手の攻撃を凌ぎ固められればと言う意見を出したシロに対し、私、宗乃助が同時に却下を出した。


 20秒でどうにか出来る手はある。竜を召喚すれば良いだけだ……でも、それでは楽しくない。

 できれば戦って勝利を収めたい……まずは弓、暗殺者を先に私がバインドで固められれば、キヨシのフリーザーで残りを固めれば何とかなる可能性はある。


 バフが終わり、残り10秒となったのを合図に宗乃助が走りだす。それと同時に私も走り出し軽鎧をローブへと変更した。


『10.9.8.7.6.5……4……3……2……1……gogo』


 シロのカウントが始まり、痛いローブ姿を晒しながらも入れるべきものは入れる……と腹を括りタスキの足元へバインド(+18)を設置する残り3秒で設置を終えた私は、同時に暗殺者へ向けサイレンス(+25)も詠唱した。


 gogoの合図と同時に弓が動く、折角設置したバインドを無駄にすまいと発動させるもギリギリで交わされてしまった――が、代わりに前へ出て来ていた盾が、その範囲へと入っていたらしい。

 結果一度目のバインドはレジられはしたが無駄打ちにはならなかった。


『足早い』

『でござるな……こう言う輩が一番やり難いでござるよっ!』


 やり難いとは言いつつも、暗殺者へきっちりクリティカルを決めた宗乃助がハイド ヴィジブルを使い消える。相手の暗殺者もまた同じように使ってはいるが、PTメンバーのディティクションにより二人同時に姿を現す結果となっている……。


 連携が取れていると言えば取れているのだろうが……使う本人が舌打ちしていたことから、微妙なところなのかもしれない。

 3回目のディティクションで姿を現した暗殺者に、詠唱済みのサイレンスを間髪入れずに発動させた。

 無事挨拶者の頭上に、エフェクトが現れサイレンスの効果が得られた事を確認できた。


『ないすー! フリーザーいくぜぇ!』

『キヨシ前に出過ぎるなよ?』

『弓がUZEEEEE』


 サイレンスが入れば、相手の暗殺者はハイドを使う事が出来なくなる。他のスキルもこれで潰せたことだろう。残りは弓をどうにかしないと……そう考えていた私の横で姿を現した宗乃助が、背中をポンと叩いた。


 チラリと視線を動かし宗乃助を見れば、視線と頭を振って見せることで弓では無く盾を固めろと相手が見て分かるようにジェスチャーする。

 この場合、多分弓を狙えってことなんだろうな……多少付き合いが長い分、宗乃助がこう言う行動をあからさまに取る時は、相手を騙したい時もしくは、油断させたい時だ。


 視線を合わせ頷き合う私たち二人を見ていた相手の盾と弓、重ATKがその行動をどう解釈したのかは不明だが、何かしら思うところはあったのだろう。

 ミツルは持っていた盾を何故か変更し、弓は明らかに気を抜いた顔をしていた。


『キヨシ、盾以外にフリーザーでござる』

『シロ、弓にダウン プル』

『任せろ―!』

『k』


 私たちの意図を組んだらしい二人から頼もしい返事を貰い、互いに逆サイドへと走った。

 キヨシのフリーザーが盾以外に着弾していく。やはり相手も耐性を持っているらしく、最低でも一人頭複数回は使用させられてしまうようだ。


 それに比べ、シロは楽なようでダウン プルを初撃で相手の弓へと入れた後、キヨシが狙いやすいよう相手の重ATK輝鬼と暗殺者へ同じようにダウン プルを入れていた。

 弓職ずるい……なんて考えが一瞬頭を過るも、私のスキル強化が雑なのが悪いのだと思いなおす。


 シロと宗乃助の機転によって出来たチャンスを無駄にしないよう気を取り直し、俊足の弓の足元にバインド(+18)を詠唱し設置して発動させた。

 時間にして1秒ほどだろうが、一度目を失敗している手前発動と同時にまたバインドを詠唱し設置発動させた。


 無心で複数回繰り返す私が、15回目を詠唱しようとした刹那チャットで『待つでござる』と宗乃助に呼ばれ肩を叩かれたことで意識が浮上する。周囲を見回しタスキを見れば既に固まっていた。


『ヤケクソ?ww』

『5回目位で入ってたよなー?w』

『見てなかった』

『その調子で、他も頼むでござるよ』

『k』


 茶化すシロとキヨシに見えていなかったことを伝え、苦笑いを浮かべた宗乃助が肩をたたき離れるのを見送って、既にフリーザーにより固まった輝鬼ではなく、結に走り向かう。


 バインドが入ればそれを目指し、シロ、宗、キヨシの三人一斉攻撃を始めている。氷や雷、炎や風などのエフェクトがバインドにより固まったタスキの姿を見えないほど次々と覆い隠した。

 

 残り10秒も無いだろうが結へ近付きバインド(+18)を詠唱し設置して発動させる間、動ける盾がそれを邪魔するよう攻撃を仕掛けてきた。


『盾邪魔』

『DP』

『冷凍』


 私の言葉にすぐさま反応を返すシロとキヨシがほぼ同時に、魔法とスキルを打ち込み盾の邪魔をしてくれる。冷凍は無理だったようだが、DPは当たり前のように盾の動きを止めた。


 盾の攻撃を交わすため結の周囲をジグサグに走り周っていたが盾が止まった。

 詠唱に集中するため私も立ち止まる。

 詠唱する事、八回目して漸く結の身体が黒ずみ色が変化したのを確認して少し距離を取りMPPOTをがぶ飲みした。


 その後、アーマーブレイク(+25)をついでに入れられないかと数回試してみるも耐性盛り盛りなのか……一向に入る気配が無い。

 諦めない心で試すか悩んでいた私の肩をキヨシがポンポンと叩き慰める。


 なんでだろう……宗乃助の時は嫌な気分にならなかったのに……相手がキヨシであの顔されるとイラつく。

 叩かれる手をペシっと払いのけ、未だ攻撃中のタスキを指さし攻撃して来いと伝え。再度アーマーブレイク(+25)を結へと試した。

  

 攻撃を続ける三人を余所に、アーマーブレイク(+25)を入れた。

 やっとの思いで入ったアーマーブレイクのエフェクトに少しだけ感動を覚えつつ、そのまま近くに居るミツルにバインド(+18)を設置発動した。

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