第94話 最強は覇者を志す㉖  PT戦@少数

 盾を替えた盾に対し、バインド(+18)を詠唱し設置発動させること、十回どうやらこの盾は魔法防御力が上がる盾だったようで、バインドがまったく聞く気配がない……。


 仕方なくシロに、盾の足止めを頼みタスキに向かい走りつつ、装備を変更する。

 ローブ装備から軽鎧へ装備をチェンジしつつ、二刀を取り出す。


『あの盾メデューサでござるか?』

『不明』

『見た目似てるけど、メデューサなら丸くない?』

『アバターで盾の見た目変更できるから、もうわかんないよなーw』

『メデューサなら、デバフ入り難いからなぁ……冷凍もやめといた方がよさげ』

『バインド入らない……強化しないとダメだ』

『なんか、トーナメント戦からやたらスキル入り難いw』

『運営の嫌がらせでござるか?』

『通常狩り場なら問題なかったよな?』

『y』

『後で運営にメールしてみるかーw』

 

 PKに比べバインドもアーマーブレイクも、フリーザーにしても酷く入り難いのは確かだ……あの盾がメデューサの盾だったとしても、今までに比べてかなり入り難い。


 以前行った、グランドロールとのPK戦では普通に効果を得ていたし入り難いとは言っても何度か試せば入っていた。

 そのPKからさして時間も経っていないことを鑑みるに、どうやら運営がトーナメント戦だけ何かしているのではないかと疑いたくなってしまう。


 まー、運営に聞いたところでどうせテンプレメールが帰って来るだけだろうが、余りにもおかしい……のは確かだ。


 そんな甘い考えをしつつ、タスキに切りかかる。右手の刀をタスキの左上腕から腰にかけて振り抜き、左手の刀で腹を横一文字に切り裂いた。


 宗乃助、シロ、キヨシの攻撃が相手に着弾する度にエフェクトがあがる。

 その光を前に、あるアニメの一文が頭をよぎった……目がぁぁぁぁ! と、流石に空気を読めない子にはなりたくないので、脳内で再生させるに留めたが、そんな私とは対照的にキヨシが、はっきりとチャット同じ文言を打っていた……あれ? 毒されてる?


『目がぁぁぁぁぁぁ!』

『黙れ?w』

『はぁ……キヨシの位置から目が痛いなら、拙者やrenはもっとでござるよ?w』

『うははははははっ!』

 

 笑ってごまかすキヨシを横目にチラリと視界に捕えたところで、右手の刀をタスキの腹に差し込んだ。

 背後に現れた宗乃助が頭上から縦に切り裂くと同時にクリティカル音がなり、タスキの身体が軸を失くしたように揺らゆらと揺れ倒れ灰色に変化した。


『おし、@3 結』

『おつかれでござる』

『盾に全くフリーザー入らないw』

『DP入れてるから、ほっとけw キヨシ、重ATKの方だけ注意なw』

『おうよー!』


 タスキの処理が終わり、次に向かうのは結だ。宗乃助と二人連れだって、傍にいる盾のスキルに気をつけながら結へと移動した。

 私たちが移動するよりも早く結に攻撃を仕掛けている、シロとキヨシを横目に私たちも刃をその身体に差し込んでいく。


 アーマー ブレイク(+25)の効果が未だ残っている暗殺者は、紙よりも更に柔らかい。まるでプリンのように掬ったそばからダメージが入って行く。


『おー。やっぱABいいでござるな』

『すげー。楽だわ―w』

『雷系纏わせると2割減るww』


 チャットを打つ余裕すらできるほどに柔らかい結を仕留め終え、DPしか入っていない盾を先にやろうと言う話になったところで、フリーザーの効果が切れたらしい重ATKが動いた。


『キヨシ、シロ』

『無理』

『あ……!』


 直に反応したのはシロの方だったが、既に矢を番え打ち抜く寸前だったためか動きに合わせることができず。重ATKの急襲を受けた宗乃助が、思いの外強い一撃を貰いHPを4割ほど吹き飛ばしてしまった。


 直にハイド ヴィジブルを使い姿を消した宗乃助に対し、執拗にディティクションを打ち上げ追いかけまわす重ATKをシロのダウン プルが貫き動きを止めた。


 HPPOTをがぶ飲みしながら宗乃助がシロに感謝を伝える。その二人の様子を伺いつつ、重ATKにバインド(+18)を無心でかけ続けた……。

 MPがMAXから残り半分になった頃、漸く重ATKの色が変わりバインドがその効果を発揮する。

 キヨシのMPとシロのMPが半分を切っていることを考え、バフを更新してマナチャを入れる判断を下した。


『バフ後マナチャ』

『いくぜー!』

『使いまくるわー!』

『スキル連打でござるな!』


 マナチャと言う単語を出すと何故かテンションが上がるらしい、うちのクラメンたちは嬉々として魔法が効かないはずの盾に魔法を打ち込んでいく……【 これぞ、無駄打ち 】と題名を打ってもいいかもしれない。


 流石に、効かない相手に魔法を打ち込むぐらいなら……重ATKを優先でいいのではないか? とPTチャットで訴えてみたところ、この場に居る私以外のメンバー全員が盾に魔法が効かない事を失念していたらしい反応が返って来た。


『バカしかいないw』

『アハハハ』

『忘れてただけだw』

『あるあるでござるよw』

『そう言うことにしとくw』


 溜息をひとつ零し、皆の言い分にとりあえずわかった的な返事をする。

 盾に向かっていたはずの攻撃が重ATKに向いたことで、盾の眉根がよる。こちらのMPやHPバーは盾の目にも映っているだろう。


 無尽蔵にMPを使いきる勢いで魔法やスキルを使いまくるうちのメンバーたちの動きに違和感を感じたらしい盾はその表情を変えた。


『このまま、重ATKにMPバンバン使って。多分盾が装備替える』

『了解でござる』

『おっけー!』

『わかったw』


 見つからないようニヤっと笑った私は、バフを更新し終わり皆に指示を出した。もし相手が私たちのMPを見て装備替えるとすれば全体の残りが1割に減った頃だろう。

 全体と言う事は私自身もMPを減らす必要性があると考え、重ATKに向けブレス オブ アローを打ち込んだ。


 残りMP1割を切ったところで、盾が不意に自身の装備を変更した、その行動を目撃した私は、思惑通り事が運んだと顔が緩んだ。


 振り返りざま、周囲を見回し全員が範囲に入っていることを確認すると同時に、ローブに装備を変更しマナ チャージを詠唱する。

 全員のMPが八割まで復旧すると同時に、そのまま盾に対しバインド(+18)を執拗なまでに詠唱し設置、発動させた。


『ラスト盾~』


 シロの声にハッとなり盾の状況を見れば、その身体は黒く変色している。

 そのままでもいずれ倒す事はできるだろう。けれど、出来るだけ早くこの試合を終わらせたいと考えアーマー ブレイク(+25)を詠唱して発動させた。


 五度目の発動で漸く頭上に鎧が砕けるエフェクトが上がり、少しだけ柔らかくなった盾に対し攻撃をはじめるも既にHPは残り半分と言ったところだった。

 やりきった感を抱えた私は、二刀を振りまわし斬り刻む。


 宗乃助の短剣が赤いエフェクトを帯び、エフェクトは徐々に炎へと変わる。

 短剣の動きに合わせ揺らめいた炎は、盾の背中へ赤い筋を残すとそのまま身体へ吸い込まれていく。

 数瞬後、それは身体の内部を燃やしたのか短剣の刃の軌道を伝うよう噴き出した。


 その隙間を狙うように、雷を纏った矢が幾本も盾背中に突き刺さる。かと思えば、その後ろから鋭利に刃物のような氷の塊が盾の肩を穿つ。

 なすすべなくHPを削られた盾が倒れると同時に会場にブザーが鳴り響いた。

【 チームA Win 】と高々と表示された勝利の印を見上げ、互いにハイタッチを交わす。


 戦った相手にも「おつ」「おつかれさん」などと声をかけ、今回の戦いで感じたスキルの強化について思案する。


 正直、今スキルの強化をするのは痛い……お金がかかる訳ではないが、現状で強化するよりも四次職になってからの方が強化の成功率が高いのだ。

 その事を考えるとどうしても二の足を踏んでしまう。現状の問題点などをもう一度考え直してどうにか打開策を考えようとブラックアウトする視界の中、思考を打ち切った。


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