第77話 最強は覇者を志す⑫ PT戦

 先ほど撒いたPOTを黒が拾う。流石に二タゲは厳しい様子だ。どちらかのタゲをティタが受け持てば、なんとかなると考えていた矢先、ティタが動いた。

 走る先には、フリーザーで行動不能にしたはずの弓が居る。


 時間的にそろそろかと考えつつ、黒からジリジリ離れクロエのタゲを引き離しにかかる。互いに視線だけを交わし頷くと意図を組んだらしい黒が、ヘイトを相手の盾に入れゆっくりと私たちから離れはじめた。

 クロエへバインド(+18)を試みる。がやはり入り難い。

 どんだけ上げてるのこいつ……!


『盾は抑える、ティタ弓抑えとけよ』

『k』


 クロエとのタイマンとなり、バックステップで下がった隙にバフを入れ直す。黒とティタへバフを飛ばしたところで、マズイと思ったらしいクロエがその速さを生かし右手の剣を振り上げ突っ込んで来るのを二刀で受けた。


 このままでは分が悪いと思いつつも、相手の猛攻に隙は無く剣を何度も交わし合う。獣人の特性を生かした動きで本当にやり難い……。なんとか打開策を探す、そして閃く……カリエンテ。いや流石に今回はだめだろう。そう思い直したところで、クロエがスキルを発動させる。


『クロス ジョルトだ』


 流石同職と言うべきだろう、発生したエフェクトを見ただけで言い当てた。スキルを発動したクロエが、大きく両手に持つ剣を地へと突き刺し交差させる。

 それと同時に、剣の周囲に渦巻いていたエフェクトが地面へと吸い込まれ、地を波打つように私へと迫った。

 

 二刀を突き刺し、避けようかと考えていたが、効果範囲は思ったよりも短そうだと考え横へ跳び退き、そこから更に跳ねあがりると同時に着地点へバインド(+18)を設置しておく。

 着地し範囲を避けるのに成功する……が、やはりそこは相手もお見通しだったようで、間髪置かずに剣で切り込んでくる。


 ニヤっと口角が歪み笑いを浮かべた私の顔が気に食わなかったらしい相手は、ぐいぐいと攻め立てる。

 完全に中央に捕えた刹那、あえて失敗することを踏まえ刀のままウェポン ブレイク(+20)を発動させつつ、バインド(+18)を発動させた。


 二つの魔法を同時に発動させたエフェクトに、一瞬だがクロエに隙ができる。そこを狙い二刀についたスキル アマギリを発動させた。青く白いエフェクトが上がり次第に相手へと雨粒が頭上より落ちてくる刹那それは、刀身へと変わりクロエにダメージを与えた。


 発動させた魔法はどちらも効きはしなかったが、ダメージを負ったクロエは緑色の光を発している。HPPOTを飲んでいる間、ただ呆然と見るのはアフォがやる事だ。

 間髪置かず、納刀し重心を前へと倒しスキル 一閃を発動した。


 鋼の撃ち合う音が鳴り響き、紫色のエフェクトが横一文字に彼女を引き裂く。視点に見えるHPはまだ残っている。腰から胸へ切り上げ左手の刀で肩から胸へと斬りつける。それに合わせ一閃のエフェクトが掻き消えた。


 クロエのHPは既に見えない……。


「君が犠牲と……グフッ……」


 最後に白チャで、そう呟きクロエは後ろにドサりと倒れ灰色へと変化した。


『乙、黒、renで盾やろう。弓は処理する』

『k』

[[大次郎先生] 相手も上手けど、renも今の罠の貼り方上手いな]

[[ゼン] マスター凄い! 逆境からの切り返しが上手い]

『k』

[[キヨシ] うおぉぉぉぉ! 俺も戦いたいぜええ!]

[[さゆたん] 上手いでしゅ……だから双剣使いとは戦いたくないでしゅ]

[[白聖] 俺も……renの相手はしたくないw]

[[宗乃助] やっぱり、精錬サイレンス必須でござるな~!]

[[†元親†] うはははは。俺生きてたらヒールできるのになぁw]

[[宮様] クロエって、ティタ並みに上手いわね……クランに欲しいわね~]

[[大次郎先生] 本当にな。Narou連合会ってクランに入ってるなぁ……うちに欲しい]

[[白聖] まぁ、クラン入ってる奴は無理だろw]

[[ヒガキ] こんばんわ。試合どうですか?]


 好き放題言いまくるクラチャでログが埋まるも、戦っている私たちは返事をする事を控え、黒がタゲを持つ狼の獣人盾職である綺人アヤトへと走り移動する。


 大盾のランス持ちだ。十分に硬いだろうと予想しつつ、二刀から杖へ持ち替えアーマー ブレイク(+25)を詠唱し発動させれば、簡単に入ってしまう……。


『え……?』

『どうかした?』 

『いや……簡単にAB入って驚いただけ』


 あまりにも簡単すぎて、ついPTチャットで発言した私の言葉を拾ったティタに理由を話、属性をマックスまで上げた杖へと持ち替える。バフを近接用から遠距離魔法用に変更し、ブレス オブ アローを叩き込む。


 たった一発……ブレス オブ アローを叩き込んだだけなのに、スローモーションのごとくゆっくりと身体を斜めに倒し倒れる綺人アヤト


「……現実って……クソゲーだよ……ね」


 そう言い残し灰色となって倒れた。


『え……?』

『はぁ?』

『ちょっwwww』

[[白聖] 見かけ倒しすぎだろwwwwww]

[[†元親†] やべえwwこいつ好きだわ―ww]

[[ヒガキ] マスターの魔法が強すぎた?]

[[宗乃助] 強そうに見えたでござるが?www]

[[ゼン] うわー。凄い強そうだったのに!w]

[[キヨシ] うおおおおおおお!!w]

[[さゆたん] renちゃん何度めでしゅか? 気合入れて突っ込んで一撃死されるのw]

[[大次郎先生] ごめんw笑っちゃけないけど面白すぎるw]

[[宮様] うふふふww酸素が欲しいわw]


 見かけだけだったらしい綺人アヤトの死に、私と黒が戦闘中だと言う事も忘れ呆然とその死体を見つめ、ティタは弓の相手をしつつ肩を震わせていた。


 クラチャはクラチャで、大草原が発生している……。

 私のせい? いやいや……きっとアクセつけ忘れてただけだ。


 そう自分に言い聞かせ、黒をポンと叩き正気に戻すと最後の相手soKINGへと向かった。soKINGとの距離を詰めつつ、バインド(+18)をsoKINGの足元から少し離れた位置へと設置した。


 黒がヘイトを打てば、ティタを狙っていた弓が黒へと向き矢が放たれた。それを盾を持ち上げる事で、無効かするとティタが背面へと回り込み、剣を使い斬りつける。


 少し離れた場所から、アーマー ブレイク(+25)を詠唱発動させつつ様子を見れば、レジられ続ける。舌打ちしつつ10回ほど試したところで漸く頭上にエフェクトが現れ砕け散った。


 足を何とか止めたい所だが、中々設置した場所へは行ってくれず……仕方なく、バフを近接用に書き換え二刀に持ち直すと、三人で囲み逃げ道を塞ぐ形をとった。

 そこで漸く足が止まり、スキルをティタと黒が使い始めた。


 刀の状態で使えるスキルが既にソウトウオオナミしかない私は、スキルを使わず両手に持つ刀で切りつけるだけだ。

 視界右端に見えるsoKINGのHPは既に残り2割ほど、二人のスキルで沈むだろうと安心したところでティタが、フィルス アタックを使いsoKINGはそのHPを枯らした。


「NewGame……かん……けつ……」


 膝を折り前かがみに倒れながら、soKINGが最後の言葉を発したと同時に、会場にブザー音が鳴る。

【 チームA win 】とデカデカ表示され、私たちが勝利したと表示された。

 一拍置いて死会場にカウントが表示されカウントを刻みだす。


 戦った各々が労い合い、生き残った黒、ティタ、私で小さく拳をぶつけ合った。視界がブラックアウトし、街へと戻る。


[[宗乃助] お疲れでござるよ]

[[宮様] いい戦いだったわ]

[[†元親†] エントリーしたぜ~!]

[[白聖] PT戦いいよなぁ~。早く呼ばれたい]

[[ヒガキ] 早く参加したいですね!]

[[大次郎先生] お疲れw]

[[ティタ] ちょっと補給したい]

[[黒龍] 補給する]

[[ゼン] まずは、Lv上げないと……]

[[キヨシ] うはははは! 俺死んでただけだけどなーww]

[[さゆたん] カウント始まったでしゅ]

[[ren] 補給]

[[ティタ] は? 誰エントリーしたの?]


 補給に行こうと思い歩きだした刹那、PT混合戦開始まで残り60秒とカウントが眼前に表示された――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る