第76話 最強は覇者を志す⑪ PT戦

 エントリーを済ませ、黒たちの談義を聞きつつ不安な二人がどう動くのかを予想してみるも……予想できる訳もなく。中に入ってから考えようと思考を放棄した。

 開始から5分が経過したところで、カウントが入り視界がブラックアウトする。

 どうやらPT戦の場合は、移動するまでに少しの間を貰えるようだ。


『うんじゃま、いくかー』

『はぁー。キヨシとチカ……本当に頼むから前にでないでね?』

『いくぜぇぇぇぇ!』

『くぅぅぅ。ミwwwナwwwギwwwルwww』

『……はぁ』

『……大丈夫かな?』

『ダメだろw』

『だよねーw』

『バフ』


 視界に映る景色を見て、遺跡エリアだと言う事が判った。

 白く風化したような元は柱だったものが折れた残骸がそこら中に散らばり、私たちでは登るのも厳しいだろうと言う大きさで壁を作るっている。

 黒、ティタには少し厳しいだろうエリアだった。

 

 黒がいつも通りの声を上げ、ティタが再度チカとキヨシへ注意喚起する。そんな二人は返事を返すことなく、漲っているようだ……不安しかない声に、黒がため息を吐き出しティタが不安を顕にする。

 もう既に諦めたような会話をする二人に、バフと声をかけた。


 いつも通りのバフに今回は、移動速度アップであるマジック オブ ウォーク(+25)を入れる。

 そこから視界右に映る相手の職と名前を確認した。

 

 綺人アヤト、狼獣人で、大盾のランス持ち。

 朱染鬼しゅせんき、骨格のような骨の衣装を着た、マント装備の短剣職。

 クロエ、小さめの耳を持つ猫の獣人、双剣を持ち重装備を着ている。ティタと同職だ。

 ヘルデス、動く度にぷるるんと胸部が揺れているエルフ……両手杖を持つことから魔法遠距離職。

 soKING、男エルフで細マッチョな体躯をしている。飛距離を稼ぎそうな長い弓を持っている。


 以上が今回、私たちの相手をしてくれるであろう相手だ。

 遺跡に隠れトランスパレンシーを入れる。盾が1枚遠距離が二人と言う事で、まずは遠距離から始末しようと相談した。


『先にやるのおっ○いエルフで!』

『あの大きさは……いいよなw』

『シロが、巨乳見かけたってさっきいっていたけど、あれか~www』

『ティタ、足だけじゃなく巨乳もか……』

『ちょ、違うからね! 巨乳というか膨らみがあればいい』

『お○ぱいかー。兄貴の嫁さんが子供産んだばっかりの頃あんな感じだったわw』

『ねぇ……私女なんだけど?』

『あー。そう言えばren女設定だったな。すまん』

『ごめんねー?』

『うははははっ。これで中身本当に女だったら俺らやべーwwww』

『ありえないけどww リアルPKだろうな。あははははw』


 PTチャの荒れ具合が酷い。ちょっと巨乳エルフがいるからと……子供か! 別に、大きいのが羨ましい訳ではないが……ふと、自分のアバターへと視線を落とす。リアルの自分よりちょっと大きめに設定しただけだといい訳しつつ。とりとめのない会話を続けた。


 キヨシの発言から、ティタその一部だけを見つめポツリと零せば、先ほどシロがクラチャで「うぉぉぉぉ。超いい! 美しいフォルムだぁ」と発言していた理由をチカが言い当てた。

 その後、黒がティタの性癖に関して巨乳を追加し、それを本人はあればいいと否定する。チカが、キヅナの奥さんの話を持ち出したところで、話を止めようと事実を告げれば、誰も信じなかった。


 いつかリアルで背後からとび蹴りしてやる。その為にはまず、ジャンプから始めないと……などと考え移動している間に、距離を詰めカウントが開始10秒前となる。

 相手を完全に包囲する形で、盾の前に黒、双剣の前にティタとチカ、遠距離職の前にキヨシと私が立ちカウントが0になる瞬間を待った。

 

『3……2……1……go』


 ティタのカウントで、goの合図と同時に黒がレンジ ヘイトを打ち込み相手の五人のタゲを奪うと賺さず、ヘルデスにサイレンス(+25)を詠唱し発動させた。


 黒の傍に居る盾に対し、バインド(+18)を使ってみるもレジられる。

 キヨシのフリーザーは見事にツインズを捕え凍らせているのにだ……。それを確認し、舌打ちしつつ即座に諦めるとヘルデスへと二刀を持ち切り込んだ。


 キヨシのアイス ランスがエルフの胸部へと打ち込まれていく。チラリとキヨシを見れば何故かサムズアップされた。

 べっ、別に羨ましくなんかないんだからねっ……なんて言うはずもなく、イラっとするだけの私はその怒りをエルフへと向ける。


 右手の刀を袈裟斬りで動かし、左手の刀で腕や太ももを狙う。金とも銀ともとれる長いストレートの髪が刀の動きに合わせ揺れ動けば、エルフの背後からサンダー スピアーが2回降り注ぎ、エルフはなすすべなくプスプスと煙を上げ前へと倒れ込むと灰色となった。


『じゃんじゃんいくぜ~~~!』


 そんな意気込んでいるキヨシの背後に、骨が見えたと思えば既にスキルを発動させている。これはもう間に合わない……と思う私の視界に、チカがローブ姿に大剣を抱えキヨシのヘルプへと走る姿が映る。


『うぉりゃああああああああああ!』


 気合とともに切り込んだチカ。

 どうやら既にティタにより大分HPが減っていたと思われる朱染鬼は、チカの攻撃を敢えてその身に受けた。そのダメージを負ったと同時にその目がギラリと赤く光る。


『キヨシ、チカまった――』


 PTチャットで叫ぶも間に合わず……キヨシが、サンダー スピアを詠唱破棄し打ち込んだ。

 朱染鬼のHPが底を付く


「……悪いがここから先は……一方通行だ!」


 そう言い残し灰色となり倒れると同時に、彼の死体の周囲に旋回するいくつもの剣が現れた。

 近くにいたキヨシとチカがそれに巻き込まれ、一気にHPを減らし灰色となり死亡してしまった。


『ぎゃああああああ!』

『死んだぁぁぁぁ』


 朱染鬼は自身のHPと引き換えにデス トラップ カウンターを仕掛けていた。要は自爆である……受けたダメージを3倍で周囲の敵に返すと言う死にスキルで、使う奴は滅多にいない。

 と言うより、私も以前闘技場でスキルを試したいと言う宗乃助が使って以来、使うプレイヤーを見た事がなかった為忘れていた。


『まぁ、お前らは寝とけw』

『どんまいwwwww』

[[さゆたん] あふぉでしゅw]

[[宮様] 酷い死に様ねww]

[[宗乃助] アレを戦闘で使うとは、なかなかヤル男でござるな!]

[[白聖] なんでチカまで死んでんだよ……こんな時こそ、バリア貼れよww]

『前に出るなって言ったのに……』

[[キヨシ] あれは無理だ―wつか、こいつの思い切りの良さ好きだwww]

[[†元親†] バリアあああああああ! 忘れてたwwwwww]


 PTチャットで黒から寝ておけと言われ、ティタから励まされ? 戦いを見ていたのであろうクラメンからクラチャで辛辣なお言葉を賜った二人だが、本人たちは至って通常業務なようで……この二人を同時にPTへ入れたのが間違いだったのかもしれないと反省した。


『次。フリーザーはとりあえず放置で、クロエ行こう』 

『k』

『k』


 ティタのターゲットマーカーが猫の獣人で双剣使いのクロエを指し示す。ティタと同職であるクロエの正面を黒が取り、HPPOTの光をあげながらレンジ ヘイトを打ち込みタゲを取りつつ攻撃している。


 クロエの背後にティタが陣取りスキルを打ち込み攻撃を開始する。少し離れた位置にポジションを取り二刀から杖に持ち替え、アーマー ブレイク(+25)を詠唱し入れてみるが入らず、その後何度か試してみるもやはりレジられる。


『Lvカンスト?』

『デバフ効きにくい』

『MP温存で』

『俺のHPがやべー。HOP足りるか?』


 私の様子を見ていたティタの言葉に、同意するように返事を返す。

 黒の言葉に杖に精錬で付いたヒールを飛ばした。


 3割ほどしか回復しないが、無いよりはいいだろうと独り納得しつつ、黒の足元へ濃縮のHPPOTを200撒くと再度クロエへアーマーブレイクの詠唱を開始する。

 15回目の詠唱で漸くアーマー ブレイク(+25)のエフェクトが上がった。

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