第72話  最強は覇者を志す⑨

 街に戻り宿屋に帰るといつもなら既に落ちているはずのさゆたんを始めクラメンが全員部屋へと集合していた。机の上には、お好み焼きやらゲテモノクレープやら、皆が思い思いに用意したであろう食べ物と飲み物が並べられている。

 どうしたのかと思い見回せば、ティタが視線を逸らしつつ「黒が凹んでるかと思って」とボソっと伝え励ますために用意したことがわかった。


[[宮様] あら、ティタ可愛い~]

[[黒龍] ありな。ティタ]

[[大次郎先生] ティタのこう言うところを女子が知ればモテそうなのにな……]

[[ティタ] 可愛いって言うな―!]

[[†元親†] うははははww 性癖がまずいからなティタ]

[[キヨシ] 性癖がな~]

[[ヒガキ] え? そんなにマズイんですか?]

[[ティタ] チカ、キヨシちょっと後で殺す]

[[白聖] 普通だよ……足フェチ過ぎて顔はどうでもいいとか言う以外]

[[さゆたん] 一番マズイやつでしゅ]

[[宗乃助] 巨匠並みにごだわるでござる]

[[ティタ] ばーらーすーなー!]

[[黒龍] 居酒屋のねーちゃんの足見て萌え萌えしてたな。オフ会の時]

[[大次郎先生] その後ホテルのエレベーターで一緒になった

       スレンダー美女に惚れた! 告白するって言ってたなー]

[[ティタ] もーやめてぇぇぇぇ! 暴露しないでー!]


 しんみりしていた空気が、チカの一言から笑いに変わりティタの性癖がネタにされていた。そう言えば……ティタの元クランは問題ないのだろうかと不安になり、密談でティタに聞いてみる。


”ren” ティタ。元クラン平気?

”ティタ” 何の事?


”ren” 抜けた事に対して……色々と?

”ティタ” あぁ、平気。マスターがリア友だから、判ってくれてる。


”ren” なるほど、なんかあったら相談ね?

”ティタ” うん。


 どうやら、問題はないようだ。まぁ、何かあれば相談してくるよう伝えたので何かしらアクションがあるだろうと、この話はそこで区切り皆でティタ初めクラメンたちが用意した食事を食べた。


 ゲテモノクレープを初めて食べたらしいゼンさんとチカが、一口目を含んだ刹那ブホッと音を立て中の果物を吐き出したり……お好み焼きの美味しさに感動したヒガキさんが場所を聞いたりと、思い思いにその日は宿屋でのんびりと語らい過ごした。


[[ren] クランハウスほしい]

[[大次郎先生] ファンシーなのはパスだけど、クランハウスは欲しいね]

[[宮様] 倉庫の装備売り払っても、いいとこは買えないわよね~]

[[大次郎先生] クラン資金が……あればいいけど……]

[[宮様] そうね。資金無いに等しいものね]


 クランハウスが欲しいと胡蝶のところを見て思った。あんなファンシー? ファンキー? 意味のわからないハウスではなく、もっと実用的で皆が過ごしやすいようなものがだが。

 クラチャでポツリとその事を零せば、先生も宮ネェも欲しいとは思っているようだがヤハリ資金面で問題があると言われてしまう。


 仕方ない諦めるかと思いつつ、明日に備えて落ちる準備を始める。

 倉庫へとおもむき、鍛冶屋へと移動しようとした私のシステムログに競売の文字が見えた。ログを遡り読みなおせば【 クラン ハウス 競売開始 】と出ている。


 買わないけどどれ位の値段なのだろうと思いつつ、クランハウス専用の競売NPCへと移動し様子を見れば、なんと通常価格4Tのところ開始700Mからとなっていた。

 安い……最大2.5Tで入札してみようかな? などと軽い気持ちで入札する。


 競売とは、以前の持ち主であるクランが、クランを解散する場合に不要となったハウスを競りにかけ売り払うと言うシステムだ。

 クランハウスは一度購入すれば、競売にかけない限りクランマスターの所有物となるため解散する時に元メンバーへの退職金代わりに、競売で得た資金を山分けするのが一般的と言われている。


 買えればラッキーぐらいの気持ちで、最大購入金額上限を2.5Tに設定し、競売終了日が3日後と言う事だけを確認してNPCを後した。

 その後自身の倉庫のお金をクラン倉庫へと移し入れておく。あり得ないとは思うが、競売で競り勝ち購入できる状態になった場合、クラン倉庫からその資金が差し引かれるためだ。


 クラン倉庫に持ち金のほとんどを入れたおかげか、自身の倉庫残ったびびたるお金を見て少し焦りを覚えた。そこで、自身の露店から売上金を引き出すためサブキャラへとキャラチェンジする。

 倉庫弐号機へ移動し、自身倉庫から更に不要な物を取り出しアイテムボックスへ移動させると自分の出している露店へと移動した。


 私が露店に選んだNPCは、狼の獣人の女の子で少しだけ幼い顔をしている。

 その子へと話しかけ、ウィンドウが開くと選択項目の中から、売上金を確認するを選択する。


 露店で販売していた魔法書やスキル書、善悪の塔のスクロールやら、ドロップやらの売上金の合計が表示され、倉庫へ送金と言う項目をタップすることで、その全額を倉庫へと移動させた。


 そこから、持ち寄った要らない物を売りに出す。一押しの商品はハロウィンイベントで箱から大量に出たパンプキンパイだ。


 効果としてはかなり弱いが、HPとMPの持続的回復をしてくれる。ATKなどのソロには使いやすいはずと市場から消える頃合いを狙い少しお高めに設定して売りにだす。


 全ての値段設定を終え、NPCの狼娘の頭を撫でてやり宿屋へ戻るとその日はログアウトした。






 次の日の夕方、善悪の塔のボス狩りに行こうと思いつつ、昨日のティタたちの言葉を思い出す。仕方なく、ボス行くけど……と声をかければ、ログインしていた全員が参加することになった。

 善悪へ行くためのNPCの前で待ち合わせと言う話になり皆の到着を待った。


 参加するメンバーは、黒、ティタ、シロ、宗乃助、宮ネェ、チカ、キヨシと私の8人だ。

 先生がいない分、纏め役がいないことから、キヨシとチカが暴走しそうだとは思いつつ来ると言うので連れていく。


 PTを組み、黒を先頭に宗乃助宮ネェ、キヨシ、チカ、ティタ、私、シロと言う感じの隊列を組み60Fを目指し登る。いつも通りバフを一通りかけトランスパレンシーを入れ進んでいる。

 昨日、確かこのあたりで……とマップを確認しつつ敵対が居ないかを探すが、流石に今日は居ないようで非常に残念だ。


[[キヨシ] あぁ~。レッドが白にもどるぅ~]

[[†元親†] お前には白が似合いだぜっ!]

[[宮様] 訳のわからない会話しないでさっさと階段登りなさい!]


 こんな調子で、階段の度に……キヨシがボケ、チカが乗り、宮ネェもしくはティタがウザそうに返事を返すのを繰り返す事9回。

 漸く、60Fへと到着した。緊張の欠片もないのはいつもの事だと諦めの境地を発動した。


[[黒龍] じゃま、適当に別れっぞ]


 黒のクラチャを合図に、Aグループ黒、チカ、宗乃助。Bクループティタ、宮ネェ、キヨシ。C(余り)私とシロでそれぞれボスを捜索することになった。


 右から回る、黒たちを見送り左へ宮ネェたちと途中まで一緒に行き、分岐に差し掛かったところで別れシロと二人のんびりと見て回る。


『そういやさ、ren』


『ん?』


『昨日のポイントいくつだった?』


『手持ち合わせて80』


『なる。俺も一緒だわー』


『これって負けたらどうなるの?』


『相手のポイントの開き具合によるらしいけど、最大8~2ポイント減るらしいぞ』


『なる。クランバフ欲しいから負けられない』


『そっち?!』


『え……うん』


『魔法書じゃねーの?w』


『まぁ、取れればいいけど……100万になってたし、いつかでいいかなって』


『100万はやりすぎだよなー』


『だね……いた!』


『おっ!』


 シロとポイントについて語りながら歩いて居れば、壁向こうにボスの表示を発見した。直ぐに一つ手前の通路まで戻り角を左へと曲がり先へと進む。

 その間にシロがクラチャで報告し、黒たちからすぐに行くと言う返事を確認した。


 合流を待つ間、他にプレイヤーが居ないかを確認するため、ディティクションを打ち上げ居ない事が判ると同時に、バフを開始しボスとその周辺のモブへと攻撃を始めた。


 まずは周囲の雑魚を狩るため、ホーリー フレイム レイズ(+20)をサクッと周囲に打ち込んで行く。

 黒がタゲを取ると判っているのでボスへ通常攻撃でチクチク、シロが移動しつつ矢で射してくれている。その間に雑魚処理を終わらせたいと思っていたところに、後ろからボスを撒きこみつつサンダーストームを打ち込む馬鹿がいた……もう、バカと言っていいと思った。


[[白聖] 終わったな……]

[[ren] y]

[[キヨシ] ぎゃあああああああ! ちょっとボスなんで俺んとこくんのぉぉぉ!]

[[宮様] はぁ……]

[[ティタ] 黒居ないからタゲ取ってるわけないだろwwww]

[[白聖] お前少しは頭を使えよw]

[[キヨシ] hhhhhhつhpk]

[[†元親†] きよしぃぃぃ! あの世で会おうぜw]


 ボスのタゲがキヨシへと向かう。

 叫び逃げ回るキヨシを放置して、合流したティタを含め三人で周囲のモブを狩り終えた。

 そこから1分ほどして黒が合流し、白チャで「ばかが」とひと言発したのちバフの更新を確認して、ヘイトを打ち込み始めた。


 なんとか逃げ回るキヨシへ、かみつき攻撃を仕掛けるボス。

 必死な形相で身体を捻りそれを交わしコケルキヨシ……ボスの目が妖しく光、尻尾でダメージを与えんとしたところで、ティタと同時にボスへと走り二刀を持ち尻尾をはじき返した。


[[キヨシ] マジ……俺死んだと思ったおぉぉぉ]

[[†元親†] 生きてんじゃんwwww]


 本気で涙目になったキヨシの顔をチラリと見やり、ぶはっとクラチャで笑いが起こった。少しやりすぎたかな? と思いながら、ボスの動きへと集中した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る