第71話 最強は覇者を志す⑧
周囲の景観が明らかにおかしい……と言うより、このクランハウスが周囲の景観をぶっ壊しているからおかしいと感じていると言うべきだろう……。
度派手なハワイアンブルーの屋根に白のホイップクリームの様な形状の模様が入り、風見鶏が何故か羽を着けた胡蝶のキャラになっている。
そして、壁にはアメリカのストリートに書かれたような蛍光色のクラメンたちの絵が描かれ……ところどころにハートや星、♪などが書かれている。もちろん、蛍光色でかかれた中には黒の絵も入っていた。
極めつけはその庭と言うべきだろう。そこには……噴水があり、その周囲にお菓子や果物と言った見た目の置き物が散乱している……。
統一感も何もないテーマパークと言ったところか? そう考え三人へ視線を向ければやはり、どう言えばいいのか……わからないといった様子で、黒は頭を抱え、先生、宮ネェは見なかった事にしたいのか視線を近くの農園へと向けている。
二度と来ないであろうと考え記念とばかりに、胡蝶のクランハウス全体をSSに収め、壁に書かれた黒の絵や風見鶏胡蝶など、できる限りSSに収めた。
そしてさっそくクラメンに”胡蝶のクランハウス訪問記念”と名を打ち、SSを一斉に送信してみる。
[[ティタ] 何これwwwww]
[[キヨシ] 趣味が悪いぜw]
[[さゆたん] きついでしゅ]
[[宗乃助] 拙者こんなハウスに住むぐらいなら、切腹したくなるでござるよ]
[[ヒガキ] ……こんなハウスもあるんですね]
[[白聖] 黒よくこんなとこいたなw]
[[†元親†] なぁ、この4枚目の黒なの? どこのプリンス?wwww]
[[ゼン] 僕このクラン入らなくて良かったです]
[[ティタ] プリンス黒に改名か?w]
[[キヨシ] 風見鶏キモw]
[[黒龍] 俺が抜ける前は無かった……無かったんだよ!]
[[さゆたん] 黒どんまいでしゅww]
[[白聖] やべぇー。酸欠なりそうww]
ジト目でこちらを見つめる黒に、ん? と悪びれた様子もなく首をかしげて見せれば「チッ」と舌打ちされた。先生と宮ネェが大きくため息を漏らすと「いこうか……」と凄く嫌そうな顔でクランハウスの玄関にあるインターフォンを押した。
数秒待つと視界がブラックアウトし、白い下地にハート型をしたサクランボやリンゴが書かれた壁が視界に映し出された。外もヤバイが中はもっとヤバかった……と更に周囲を見回しSSを撮影する。
『ren。これ以上は送んなよ』撮影中黒に脅され仕方なく、送信を断念しつつ案内役のジオルグに着いて歩いた。通された部屋は会議室とは名ばかりの……淡い桃色の壁に白の天井や柱を使い、所狭しと並べられたぬいぐるみが飾られた部屋だった。
[[宮様] えっと、ここは会議室なのよね?]
[[黒龍] y]
[[ren] どこが?]
[[黒龍] 知るかよ。胡蝶の趣味なんだろー。つか俺に聞くな!
俺が居た時はまともな会議室だったんだよ!]
宮ネェの質問に答えていた黒に、どこが会議室なのかと問えば聞くなとキレられた。
ジオルグさんに勧められるまま、ラグマットの上に座り胡蝶の到着を待つ。こんな女の子チックな部屋を見たのは初めてで、色々弄りたいのは山々だが人さまの部屋を勝手に触るのはご法度だろうと我慢した。
「待たせちゃってごめんねぇ~」全く悪いとは思っていないであろう言葉づかいと声音を出しつつ、取り巻き五人の男性プレイヤーを連れた胡蝶が会議室と言う名の私室へと入って来た。
[[黒龍] 殴りてぇ~]
[[大次郎先生] ハラスメントでBANか1週間のログ禁食らうから我慢してw]
さっそく切れる黒に、先生が運営からのハラスメントで色々まずいからと黒を宥める。幸先から不安しかない話し合いが今はじまった――。
そうかっこ良く決めたいところだが、その中身はグダグダである。
「まずは、来てくれてありがとう♪」
「語尾がうぜー」
「落ち着いて黒……確かにうざいけど」
「ちょっと、うちの胡蝶ちゃん馬鹿にしないで!」
「黒龍! あんた胡蝶様のファンクラブ入ってたくせに!」
「はぁ? 俺がいつファンクラブなんざはいったつーんだよ! 俺が惚れるような女か? これが!」
「うざ! 自分が振られたからってさー」
「だよなー。黒龍だぜー。草生えるわ」
「ていうかお前別に必要じゃなかったし……なんで今更出てくんだよww」
「縋りに来たの? 戻りたいです~ってwwww」
人数が多いとこうも上から目線で私のフレであり、可愛いクラメンを馬鹿にするかと呆れを込めニッコリほほ笑み警告する。
「うるさい。黒が惚れた惚れないはどうでもいい。話何? 時間裂いてやってるのこっち」
「そうだな。うちのクラメン馬鹿にするってことは、それなりの覚悟があって言ってるんだろうし? うちとしては、マスターが同盟は拒否したはずだから……これ以上無駄な時間は使いたくないんだけど? 胡蝶、何があってしつこくするのかな?」
私に便乗した先生が、少しどすの利いた声で首を倒し胡蝶に対し目を眇め問い正すよう言葉を発する。宮ネェもそれに頷きつつ更に言葉を追加した。
「黒ってばこんなダサいクランにいたの? ソロしてた方が良かったんじゃないの? くすくす……」
まるで戦争前の煽り合いだ……。
んっーうんと咳払いをした胡蝶が姿勢を正し改めて私の方を向く。
「Bloodthirsty Fairyとうちとで同盟を組みたいの」
「理由は?」
「そうね。お互い有益な関係を作れると思うし、戦争もやっていくつもりなんでしょ? だったら人数的にもうちと組んだ方がいいと思うのよね」
確かに、胡蝶の言う人数的な部分だけを見れば同盟を組むべきだろう……だが、有益な関係を築けるかと言われればそれは否と言わざるを得ない。
戦力的な部分では、遥かにうちのクランの方が強い……レイドをやっていると言っても、胡蝶たちと同盟を組んだクランが主催している。
このことから、私は胡蝶たちと同盟を組むメリットがないと判断し断ったのだが、はっきり理由を伝えていないのが悪いのだろうと思い、まずはクラチャで皆の意見を聞いてみる。その後その結果を踏まえ正直に言葉にしようと考えた。
[[ren] 皆に聞く。胡蝶のとこと同盟組みたい?]
[[宗乃助] 否]
[[さゆたん] NO]
[[ゼン] 良く分かりません]
[[黒龍] N]
[[大次郎先生] メリットないよなー]
[[キヨシ] いらねー]
[[†元親†] わかんねーけどクランハウスファンキー過ぎて嫌?]
[[白聖] N]
[[ティタ] N]
[[ヒガキ] よくわからないですね]
[[宮様] 正直、黒を馬鹿にされてる訳だしいやよ]
[[ren] わかった]
「胡蝶。はっきり言う。まずうちのクランと胡蝶のクランで有益な関係を作ると言うけど、黒を馬鹿にするような人たちとどう言う風に有益な関係を作るの?
それから、人数的に話だけなら確かに同盟を組むべきかもしれない……だけど、今のうちの戦力と胡蝶のとこの戦力じゃ、胡蝶のとこが足手まといでしかない。
そのことを考えて私は同盟を組まないと言ったのだけれど不服?
黒がクラン抜けてどうのって胡蝶は言ってたけど、黒自身がこのクランに居る事を良しとしなかったから抜けただけ。それに対して、胡蝶とそっちのクラメンの考え方に統一性がない。
今後、黒への勧誘は自由にしてもらって構わない……けど、黒を馬鹿にする奴は例え誰であろうと殺すよ?
わかってるとは思うけど、これはうちの総意だから、覚悟を持ってうちのクラメンのこと言ってね?」
久しぶりに長く話して非常に疲れた……そう思いながら、胡蝶を見れば何かを諦めた表情を見せていた。周囲の取り巻きは顔を引き攣らせ黙りこくっている。
誰も発言をしなくなったことで、話は終わったと考え立ちあがれば、黒たちも互いに視線を交わし立ちあがった。
扉の方へ歩き、部屋を後にする。そのままクランハウスの玄関へ向かい外へでた。はっきりと決着? が付き清々しい気分で街へと帰る私へ黒から密談が届く。
”黒龍” ありがとな、ren
”ren” 話過ぎて疲れた……お好み焼きでいいよ?
”黒龍” あふぉかw 後で買ってくるわw
”ren” うん。楽しみにしてる。豚玉チーズね!
”黒龍” おうおう。わかったw
感謝を伝える黒に、お好み焼きを集り先生、宮ネェ、黒と並んで街へと戻った。
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