第68話 最強は覇者を志す⑤

 歩みを進め、残り5秒で相手まで残り5メートルほどとなった。

 ここからであれば、サイレンス(+25)は余裕で入るだろう。そう思うも相手も警戒を強め少しずつ距離を広げようと動いている。


 無理に詰めることなく、なんとか5メートルの距離を保ちつつ、右へ行ったり左へ行ったりと移動する彼女に合わせ私も移動を繰り返す。


 カウントが0になると同時に、私がサイレンス(+25)、時雨がフリーザーを使用する。彼女を追いかけ動き回ることで回避した。

 エフェクトがあがらないと判断した刹那、相手へと走り距離を詰める。走りながら再度、サイレンスを入れるもヤハリ、レジられた。


「チッ」


 二度もレジられ舌打ちする。

 サイレンスを一時諦め、ブレス オブ アローを使い攻撃を繰り出せば、ミリ単位でHPが減った。

 カスッた……移動速度上昇使ってるっぽい? バインドは設置しておくべきか……後はスローを入れられればいいけど……こう動かれると入れにくい。


 相手が自分と変わらないか少し早いのならば、スローでバフの効果を消すのもありかと考たのだが、左右に動き回る相手に対しスローを、狙い澄まし入れるのは難しいと判断し断念する。


 その代わり時雨が行くよう右前方を、通り抜けやすいよう開けそこへバインド(+18)を設置した。


 その間にも、彼女からの魔法攻撃が何発か届く、一発目を交わし二発目を交わそうと左へ視線を向け移動しようとした刹那、魔法陣のエフェクトが浮かび上がった。

 杖を地に付け支えにしつつ、魔法陣を回避する。


 左後ろへと下がり距離が予想よりも開いてしまった。とそこに、アイス ランスが飛来する。

 このままでは、完全にダメージを負うと脳が伝え考えるよりも先に、プロテクト スケイルを発動していた。


 右足が地を着くと同時に体ごと前へと跳躍する。そのまま、何度かブレス オブ アローを打ち込み時雨の移動先を、バインドの方へと修正し範囲に入ったところで、設置しておいたバインド(+18)を発動させた。


 バインドのエフェクトが上がり、彼女の体が変色する。

 さて、どうやってENDさせようか? 黒との対戦で、多数のプレイヤーに見られていた事を思い出し、できればあまり手の内は見せたくないところだ。

 ならば……と刀のスキルの方がいいだろうと考え、一閃を使う事にする。


 ニヤっと顔が歪むのを感じながら、時雨の立つまで歩を進める。歩きながら、HPPOTを飲み食らった分のダメージを回復させた。


 残り1メートルまで近づき、アーマー ブレイク(+25)を時雨へ発動させる。

 やはり、アクセなどの強化をしっかりしているのか魔法体制が高い……三度レジられ、四度目で漸く彼女の頭上にエフェクトが上がった。


 エフェクトを確認し杖から +29 ムラクモ×オハバリに持ち替え自身にソウル オブ カリエンテ、ファイアー ウェポン(+25)を入れ直し、その場で足を止めスキル一閃を発動させる。


 紫のエフェクトが刀を鞘ごと包み込み、身体が動きをなぞるよう前屈みになると右手がムラクモの柄を握る。一拍置いて刀身が鞘から引き抜かれると同時に、刃が時雨を横一線に切り伏せた。キィンと耳触りのよい音がなり、刃の軌道を描くよう紫のエフェクトが一の字を書く。


 視界中央上部に見える時雨のHPバーを確認する。

 間を置かず、バインドの効果が溶け彼女の身体がふらりと前へと倒れ、灰色へと変化した。


 会場にブザー音が鳴り。

 頭上に【 ren win 】と頭上に表示された。視界中央には【 20秒後街へと戻ります 】と言う表示が現れカウントがはじまった。


「お疲れ様です。参りました。やはり強いですね」


「おつ」


 彼女は上手い。プロテクト スケイルをクラメン以外に使わされた。未だ読みは少し甘いが、今後に期待できる相手だと思いつつ、労いの言葉をかけた。


[[宮様] ふぅ~。なんとか勝てたわ]

[[キヨシ] ゼン、惜しかったなー。でも、いい戦いだったぞー!]

[[ゼン] キヨシ君、ありがとう]

[[さゆたん] 時雨上手いでしゅね]

[[黒龍] renに無敵使わせたのはすげーな]

[[大次郎先生] こういう人欲しいな……うちに]

[[ren] y]

[[宗乃助] でもクラン入ってるでござるよ]

[[ティタ] 終わった。皆どうだった?]

[[ヒガキ] 凄い戦いでした!]

[[†元親†] 聞きたいんだけど、うちのクランって募集しねーの?]

[[白聖] 時雨上手いわ。俺でも多分苦戦するw]


 シロなら、多分余裕で勝てそうな気がするけど……射程は弓の方が長い訳だから、開始と同時にステフ プラウセス入れて、その後サンダー ショットとかを連発すればどうにでもなりそうだがそれではダメなのだろうか?


 などと、シロの戦法などを考えている間に、視界がブラックアウトした。

 視界の景色が街へと変わり、時計を確認すれば終了まで残り二時間だった。


 予想以上にダメージを食らっていることを考慮しつつ、残り時間内を現時点での耐久や消耗品でいけるかを確認をし直す。

 装備の耐久はダメージを負った分だけ多く減る。そのため、こまめなメンテナンスが必要となると考えた。


 刀、杖は大丈夫だが、街着の耐久がちょっと危ないな……今は待ちの人数、多そう……。鍛冶屋で耐久を戻してからでも十分余裕があるだろうと考え、移動を開始したところで、知らない暗殺者風のプレイヤーに声をかけられてしまった。


「すみません」


「?」


[[白聖] お。renに声かけてる勇者がいるw]


 少し申し訳なさそうな、表情をする黒猫の獣人だが……?

 何か用でもあるのだろうかと思いとりあえず、いつも通りの対応をする。目ざとく見つけたらしいシロが、クラチャで黒猫のことを伝えた。


「あの……クランに――と言いかけたところでクラチャを見たらしい先生から「renどうした?」と声がかかた。

 コミュニケーション能力が無い私よりも、マシな対応ができる先生が登場したことに安堵を覚えつつ少しだけ様子を見守る。


[[大次郎先生] クラン加入希望者か……三次職っぽいけど実力が……]

[[ティタ] 宗乃助に勝ったらっていっとけば?]

[[キヨシ] おぉぉ。それすげーいいw]

[[黒龍] なーこいつさー、掲示板に書いてた奴?]

[[宮様] とりあえず、同職に勝ったら体験って言う

    条件を付けるのも良いかもしれないわね]

[[ren] 加入??]

[[ティタ] 掲示板?]

[[黒龍] あんま体験とか入れない方がいいぞ? renがまた解体するw]

[[さゆたん] 黒に同意でしゅw]

[[†元親†] あー。7chとかの方の奴か―?]

[[白聖] まぁ、とりあえず宗乃助に勝てるかどうかじゃね?]

[[ティタ] 宗乃助に勝つやつなら、即戦力だしねw]

[[黒龍] それはそーだけど、極度の人見知りがいるしな……うち]

[[キヨシ] うはははははっ。俺TUEEEE!]

[[宮様] 正直に言うけど、うち火力過多よね……]

[[さゆたん] 盾と回復が欲しいでしゅ]

[[大次郎先生] とりあえず、話してみるから。宮エントリーしてないなら一緒に]

[[†元親†] ほーわったー]

[[宮様] k]


 クラチャで助けを求めるよりも早く先生が、私の危機を救ってくれる……本当に、ありがたい。

 何故か、クランに加入したいと言う人が多い気がする。


 PKクランに入ったところでいいことないのになどと考えている横で、先生が声をかけてきた暗殺者のプレイヤーと穏便に話をはじめた。


「割り込んでごめんね。ミツルギさんは、クラン加入希望ってこと?」


「はい」


[[宗乃助] 終わったでござる。って何事でござるか?]

[[ティタ] いい戦いだった。その調子でもう一人やって?w]

[[白聖] ティタ……やってを平仮名にするのは……マズイwww]

[[さゆたん] 殺ってでしゅねw]


「とりあえずPTに誘うから少し待ってね」


「はい」

 

 状況が判っていない宗乃助にティタたちが絡んでいるがとりあえずスルーする。

 先生が黒猫に対応してくれるようなので、私の仕事は無いなと考え。二人からジリジリと距離をとり、静かに気配を消しつつ、鍛冶屋に向かい歩みを進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る