第67話 最強は覇者を志す④

 密談の受信をオフにしようかとまで思ったが、それをすると余計面倒なことになりそうだと考える。

 はぁ~。と溜息を零す私の気分は鬱気味だ……このままトーナメント戦が終わらなければいいとさえ思うほどこの後に控える、胡蝶とのやり取りが嫌だった。


 気分を害されたまま、マッチングが終了したのか次の戦いの地へと移動する。

 今回の場所は、何もない平原で相手は盾職……あれ、見たことある装備じゃん? と思い画面中央上部のバー付きの名前を確認すれば、黒龍となっていた。


[[黒龍] あー。マジ終わったわ]

[[ティタ] 笑うわwww]

[[白聖] くじ運最強だな黒。腹いたいわwww]

[[ヒガキ] どんまいです]

[[†元親†] やっと終わった~。バリア最高~!]

[[ゼン] 元親さん、強い!]

[[キヨシ] どっちが勝つかな?w]

[[宗乃助] チカ……バリア>突っ込むまではいいでござるが……その後が酷いでござる]

[[宮様] チカの戦い方真似できる回復居ないと思うわよ~]

[[大次郎先生] あぁ……黒、多分ren機嫌悪いから気をつけて?]

[[さゆたん] チカの戦い方、酷いでしゅね……ただ、バリアして大剣振り回すだけでしゅ]

[[ティタ] 機嫌悪いの?]

[[黒龍] ちょっ……マジ?]

[[大次郎先生] y]

[[白聖] ワロス]


 先生の余計なひと言に黒が、ガチで課金バフを入れ始めた……あー。面倒な!

 舌打ちしたい気持ちを押させつつ、こちらもバフを入れようと思い。そう言えばさっき覚えたイリュージョンの存在を思い出す。


 どうしよう……使ったら怒るかな? でも戦いだしいいよね。それに、胡蝶にからまれたの黒のせいだし……腹いせしたい。黒が悪いわけじゃないとは思うも、胡蝶の件に関して無関係ではない。

 思考の中で理由を並べ、自分を肯定してやりバフを開始した。


 カウントが残り5秒となったところで、黒がこちらに向かって走りだす。

 それを見つめニヤっと口角を上げれば、ピタっと走る足を止め右へと回避するような動きを見せた。


 そこで0となり、開始を知らせるラッパのような音がなる。

 開始と同時に杖を掲げ詠唱した。


「イリュージョン トニトゥールス」


 空より、太く大きな稲妻が、空間を縦に亀裂が入るように落ちてくる。雷が落ちたことで周囲に砂が舞い視界を塞ぐ。

 舞っていたはずの砂が次第にパリパリと電気が走る音を鳴らし、黄色いエフェクトへと変化していった。


 「グルボオオオオ」

 

 砂の中から、大地に轟く鳴き声がすると同時に砂がパンと弾け、トニトゥールスが姿を見せた。

 金とも銀とも見える鱗を持ち、その周囲を取り囲むように稲妻が走る。

 

 カリエンテとは少し形態が違う個体の竜で、獰猛な目、少し長めの髭を揺らす龍のような顔。

 胴は丸く蝙蝠の羽のような小さな翼が両前足の肩の部分にあり、尻尾は長く銛の先のように反り返っていた。


 トニトゥールスは四肢を踏ん張り首を天へ擡げ、耳を塞ぎたくなるほどの咆哮をあげる。


「ギュアオォ!」


[[黒龍] おまっ! くそがぁぁぁぁぁ]


 それが黒の最後の言葉だった……なんて嘘だけど……。


 トニトゥールスの咆哮に答えるかのように、天から幾筋もの稲妻が高速で落ちる。

 逃げ場を失った黒をその視線にとらえたらしい、トニトゥールスは巨体に似合わないほど高速で移動するとその勢いのまま雷を纏う尻尾を、黒めがけ振るった。

 トニトゥールスの動きが早すぎて、諸に尻尾での一撃を食らった黒は、弧を描き空中を飛びつつ儚くも灰色となり地面に落ちた。


 会場にブザー音が鳴り響くと同時に、トニトゥールスが勝ち時の咆哮をあげ、金色のエフェクトを残し消える。【 ren win 】と頭上に表示され【 20秒後街へと戻ります 】と言う表示が、視界中央へ現れるとのカウントがはじまった。


「お疲れ。黒」


「くそ。マジでうぜえええええええええ!」


 ニッコリ微笑みを乗せ労いの言葉を言えば、不服だったらしい黒は本当に悔しそうに叫んだ。

 その様子を見やり、まだ移動までにもう少しかかるなと思いつつ、クラチャへ目を向ければ……職不問への参加を辞めると言ったチャットが目についた。


[[宮様] あれ、カリエンテじゃないよね?]

[[ティタ] うわー。職不問やめとこうlol]

[[さゆたん] あたくちも辞めるでしゅw]

[[ゼン] ……あんなのに、勝てるわけない]

[[†元親†] ren、超かっけー! 俺もそれ覚えたい!]

[[大次郎先生] だから……機嫌悪いっていったじゃん(汗]

[[黒龍] マジ最悪だわ。アレ何? 雷?]

[[宗乃助] 拙者……暗殺者でよかったでござるよ]

[[キヨシ] 黒。マジ可哀そう]

[[ren] トニトゥールス。雷のドラゴン]

[[宗乃助] 雷はやっぱり俊足でござるな]

[[ティタ] 怖。雷怖]

[[白聖] ふぅ。終わった……えーっと?]

[[宮様] チカ。ドラマスならないと無理よww]

[[さゆたん] ラスボスが、最強のドラゴンをまた1体手に入れたでしゅ]

[[ヒガキ] 惜しい。もう少しで勝てたのに!!]

[[大次郎先生] ヒガキ惜しかった。あそこでまさかってやつだったな]


 先生がヒガキさんの感想を言い始めたところで、視界がブラックアウトすると街へと戻された。トーナメント戦エントリー用のNPCの右に姿を見せた刹那、視界が一気に開けこちらに視線を送っている。


 ん? 何かあった? と思考しつつ、その場を動かず、職不問ランダムへ再度登録した。


[[キヨシ] すげー遠巻きに見られてるwwwwww]

[[白聖] 全員じゃねーだろうけど、白チャで結構言われてたしなw]

[[ren] ?]

[[黒龍] 何?]

[[宮様] あぁ、二人は中に居たから知らないだろうけど……]


 そう言って、宮ネェが説明してくれた。

 黒と私の戦いがあると各部屋を観察していたらしいプレイヤーが全チャで流したらしい。それを聞いたプレイヤーたちが観客となり、その戦いを見ていたと言う。


 あぁ、だからこういう状況なのか……トニトゥールス使ったの失敗した……。

 状況に納得しつつ、トニトゥールスを使ったことを後悔した。


[[ティタ] これで名実共にラスボスだなwww]

[[†元親†] ラスボスren! w]

[[宗乃助] まぁ、何を言われようと……今更でござるよw]

[[黒龍] まじかよー。くそ、だせーじゃん。精錬しねーと]

[[ren] 黒、お金あるの?]

[[黒龍] んー。金はなんとかなる。使ってない奴捌いて作るし。

    1Gでサイレンスかバリアが付けば……]

[[大次郎先生] 1Gでその二つは、本気で厳しいぞ?]

[[ヒガキ] え? 精錬ってそんなに?]

[[さゆたん] 1Tでも厳しいでしゅ]

[[キヨシ] 病みそうw]

[[黒龍] つくかもしれねーだろ! 少しぐらい夢見せろよ!]

[[宗乃助] っ[現実を見るチケット] でござるよ]

[[黒龍] ……鬼しかいねぇ]


 黒が本気で精錬を試みると宣言すれば、その資金では不足だと答えるものが続出した。

 実際問題、精錬は本当にお金がかかる……と言う言葉が、この世界にある。それほど湯水のごとくゼルが消えていく。


 1Gじゃたいした精錬スキルは付かないなと考え、お金が足りないようならそのうち、借金の申し入れがあるだろうと勝手に思ったところで、次の戦いの場へと移動した。


 今回も会場は、平原だ。相手はローブ姿の魔法攻撃職で、名前は時雨しぐれと言うらしい。

 ご丁寧にも、相手の人は私の姿を確認するとペコっと頭を下げた。無言のまま頭を下げられこちらも頭を下げ返す。

 

 魔法職か……バフを足すとすれば、なんだろうか? と思案するも結局いつも通りのバフをかけた。カウントが20秒を切ると同時にゆっくりと相手に向かい歩を進めた。

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