第38話 最強は撲滅を齎す⑧
宿屋へ向う途中ティタに肘で突かれ、指差すほうを辿ってみれば……グランドロールのマスターであるはずのアクセルが、正面からのらりくらりと歩いて近づいてくる。
立ち止まり彼を凝視している私たちに気付いたらしい彼は、舌打ちすると憎々しげにギロリと睨みつけると素通りしようとするも、黒がいるのでそれは不可能だ……。
ニヤっと名前通りの黒い笑みを浮かべ、注目を集めるような大きな声で先程のPKについて話し始めた。
「いや~。マジ超楽勝だったわ~。グランドロールゴミ過ぎ」
「だな。2PTの増援送って全滅とか……草生えるわ」
街中で白チャで煽る黒に乗っかるティタ。
二人の話しを聞いていた、アクセルは立ち止まり振り返ると、ワナワナと震える指を吐きつけ、顔を真っ赤に染め上げ「卑怯者が!」と叫びを上げた。
「だいたい、普通クラン戦にするのが常識だろ? それをPKなんかしやがって!!」
「クランに対して宣戦布告したけどさ~。クラン戦ですとは一言もいってねーよ?」
「常識? 誰がそれを決めた? お前が勝手に勘違いしたんだろ?」
黒が事実を告げる……と言っても最初、黒たちもクラン戦とか言ってたけどね?
[[大次郎先生] まだか?]
[[ティタ] アクセルに絡まれた遅くなる。]
[[ren] 絡まれた× 絡んだ○]
先生から、まだかコールが入り、ティタが軽く嘘を吐くので訂正してあげる。
「はぁ? 常識つったら常識だろーが! だいたいお前らんとこのその女が、うちが確保してたボス勝手に食ったのが悪いんだろうがっ」
「ぷぷーっ。ボス確保……2PTも居て、renに瞬殺されといてボス確保wwww」
「ほとんどボスが殺した……あの程度の攻撃で死ぬとは思わなかったけど……」
[[黒龍] wwwww]
「くっ、はははははははは」
[[大次郎先生] 絡むな]
「GMコールすりゃー俺らが正しいってわかるんだぞ」
二人に煽られたアクセルが、顔を真っ赤に言い返す。
黒がワザとらしく笑い声を上げ、更に煽るのだが……瞬殺してないのにしたと言われるのは、心苦しいので正直に話せば、黒に草を生やされ、ティタはその場で声をあげて笑っていた。
「何をGMコールすんだよwww」
「そんなの決まってるだろ。お前らがやったことをだよ!」
「俺らがやったこと? PKしたことか?w」
GMコールすると脅しはじめたアクセルに、冷静? 否、弄ぶような声音で問い返す黒とティタ。
複数の足音が聞こえ、振り返れば先生と宮ネェ、シロ、さゆたん、宗乃助、キヨシが走ってくる。
本気で心配しているのは、先生だけで他はニマニマと口角が上がっていることから、碌なことにはならないだろうなと予想できる。
「いいか……俺らが本気出せばお前らなんか、すぐに引退に追い込めるんだぞ。わかってんのか? 覚えてろ」
増えたレッドネームのメンバーにギョッとした顔をするアクセルは、雑魚キャラが言うような言葉を残しどこかへ走って逃げていってしまった。
アクセルが居なくなり宿屋へ向おうとした、黒とティタを引っつかんだ先生はその場で説教をはじめる。もちろん私も含まれているのだが、流石に公衆の面前で正座は勘弁……。
先生の長い説教を、右耳から左耳へと流しつつ周囲に視線を投げ見回せば
宮ネェ以外、レッドだからだろうか? 周囲の視線が非常に痛い……周囲から漏れ聞こえる声に、正座という言葉が混じっている。
流石にまずいのではないかと、長々と説教する先生にクラチャで一度冷静に周りを見るよう諭す。
[[ren] 先生。周り]
[[ゼン] あのー。全チャが凄いことになってますよ]
[[大次郎先生] はぁ~。宿屋いくよ]
クラチャに反応した先生が、辺りを見回し呆れた溜息をつくと、宿へ向うと指示を出し移動する。立ち上がりつつゼンさんのクラチャが気になり、全チャをonにしてみればそこでもまた、アクセルが吠えていた……負け犬の遠吠えだ。
{[ネ申] グランドロール南無(チーン)}
{[黒龍] アクセル。逃げたのに全チャでは元気なんだなーwww}
{[アクセル] クラン戦すらできねー雑魚どもが吠えてんじゃねーぞ}
{[白聖] それ、お前だろ?ww}
{[イム] 16vs11で16が負ける……慢心したグランドロールが悪い}
{[黒龍] ところで、メンバーだけ増援に向わせて、お前は何してたの?}
{[ren] グランドロール装備ドロップ者、返却@10分 デンス宿屋前}
[[宗乃助] 律儀でござる]
[[大次郎先生] 黒、シロ煽るな]
[[宮様] ren。どうせ取りに来ないから全チャしなくていいのよ?]
全チャでは懲りない黒に、シロまで乗っかっている。
それをスルーして、取りに来ないことは重々承知の上だが全チャを流す。
あのアクセルの言い草から、装備泥棒と言われたくは無い。
[[ren] 泥棒って言われるのは嫌。こんなゴミで……]
[[ヒガキ] ゴミですか?]
[[ren] y]
ヒガキさんと宮ネェの声に答え、アイテムボックスを開き拾った物を確認する。
{[アクセル] 人殺しの卑怯者共が湧く湧く。
マジ一人で話すこともできねーのかよ}
{[みょーん] PKしても装備返す死神……流石です}
{[ティタ] ボス食われるの嫌で、ボスにヒールとバフ入れる
お前のとこのクランと宣戦布告した上で、PKした
うちのどっちが卑怯か本気で考えてみろ}
{[さゆたん] ラスボスが死神に進化したでしゅw}
{[黒龍] 人殺し? ボス支援して今まで他のクランにからせなかった
奴等が何調子に乗ってんの?}
確認する間も、全チャは活発に意見交換? が行われている。
うん……意見交換は大事……多分。
[[大次郎先生] 他に拾った人いる?]
[[宗乃助] 死神以上ってもう魔神ぐらいでござるか?]
先生の問いかけに、一人ずつアイテムボックスを除き、クラチャで答えた。
キヨシ、+10風のグローブ。さゆたん、+7アイアンヘルム。宗乃助、+3カークスヘルム。シロ、+11エンリル弓。ティタ、+8マジックリング、+12デュアルオリハルコンダガー。と6個だったらしい。
私の拾った分である、+3ククルカン スティック。+10オリハルコン グレートソード。+9リネットの耳飾。+4マジックローブを含めば、10個だ……かなりグランドロールとしては、予想外の散財だろうと内心ほくそ笑む。
[[さゆたん] renちゃん。お顔が悪魔みたいでしゅ]
歩くきながら、目が合ってしまったさゆたんにクラチャで顔が歪んでることを指摘され、慌てて無表情を作る努力をする。
さゆたんのクラチャに反応したメンバーたちが振り返り顔を見てくる。
ネタにされるのだけは、絶対に嫌だ。内心焦り視線を彷徨わせれば、宿を示すベットの書かれた看板が見え、皆を置き去り足早に宿へと入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます