第二点五章 猶予期間
第26話 最強は撲滅を目指す①
寝起きの頭で寝る間のことを思い出す。何か忘れているような……?
「ぁっ! キヨシに装備貸すの忘れた」
その後に続く言葉は、いつも通りの「まぁ、いいか……」である。
さっそく、現実世界で身支度を整え、食事を済ませれば、ギアを被り病ゲーへとログインする。
宿屋のベットを抜け出し、鍛冶屋へと向いつつクラチャで挨拶を流した。
[[ren] おはよ]
[[大次郎先生] キヨシいる?]
[[宮様] あら、ren。おそよ]
[[白聖] おはー]
[[ティタ] よっす]
[[黒龍] ノ]
[[キヨシ] 先生ノ renはよ]
どうやら、さゆたん、宗乃助がログアウト中か放置中のようだ。
キヨシに、装備を渡すか……。
[[ren] キヨシ。暇?]
返事が無いようなら後でいいかと、鍛冶屋での用事を済ませ【 ヘラ 】の街中の露天を見て回る。防具を扱う露天を見て、昨日、PKのおりにドロップした装備について思い出す。
+7アイアン グローブ(返却済み。の他にも、+18マジッ クローブ、+10マジック ヘルムなど、10個ほど拾っていた。
PK後、キングの処理を終えて、クランLvをあげ。
全チャで流してみたものの取りに来るものはいなかった。
否、違う。
アイアングローブに関して言えば、持ち主に公衆の面前で、ジャンピング土下座をされつつ返却を懇願された……。
周囲の視線が痛いので、そう言うのは勘弁して欲しい限りだ……。
二次職ぽかったし、装備一つ買うのにも相当の苦労をしているだろう。と彼の気持ちを推し量りつつ、思考は露天へと流れていく。
「あっ……。魔法書売ってる」
魔法書の並ぶ露天で立ち止まり、販売中の魔法書一覧を覗く。
一覧の中に、ドラゴンマスターの魔法書が売っていた。名前を確認すれば……既に覚えている魔法だった。残念な気持ちを抱え、露天を後に目ぼしそうな露天を探す。
[[大次郎先生] ren。今時間ある?]
[[ren] ?]
[[大次郎先生] 良かった。居た。狩り中じゃないなら、今すぐネキュレネの宿屋に来て]
[[ren] k]
突然、クラチャ先生に【 ネキュレネ 】の宿屋へ呼び出される。
暇つぶしの露天散策を打ち切り、ポータルに向かい、乗ると【 ネキュレネ 】へ転移した。
浮遊感が消え、宿屋へ歩こうと一歩踏み出そうとしたところで声をかけられた。
「あっ、あの!」
「誰?」
その姿を視界に納めれば、短髪、片眼、刀装備の新撰組の衣装を着た、ずんぐりむっくりのドワーフ爺だった。
何故か、両手をモジモジさせ、上目遣いになると、何かを決意した目見せたと思えば。
その場で、突如土下座の体勢を取ると、地面に頭を擦りつけ。
「お願いします。クランに入れてください!」
「……は?」
公衆の面前で、また土下座かよ……。
どうにか、この新選ドワ爺を立たせないと、私が虐めてるみたいじゃん。
視線を周囲に走らせれば、たまたま通りかかったしまったらしい黒が居た。
私と視線が合う。あからさまにヤバッと言う顔をして見せ、踵を返そうとする。逃がすわけがないだろう? と言う気持ちをたっぷり込めて彼を呼ぶ。
「
ニッコリ微笑み、顔を作り上げ、違和感がないように手まで振る。
振り返った黒の目に、
笑顔vs殺意のにらみ合いの末、盛大な溜息をついたらしい黒が、此方へ近寄り隣に立つ。
「
「
土下座する、新選ドワ爺を視認していないかのように装いつつ、会話しようとする黒に小首を傾げ、あざとさを満載に指で彼を指し伝えた。
こういう時、キャラが女だと凄く使い勝手が良いな……。と心の中でこっそり思う。
[[黒龍] チッ。後で覚えとけよ]
「あぁ。とりあえずえーっと、ヒガキ。ちょっとその体勢やめて付いて来て」
「はい!」
クラチャで、舌打ちしつつ。それでも面倒見の良い黒は、新選ドワ爺へ一緒に来るように言うと宿へと歩きはじめた。黒の言葉に、顔をあげ、期待に満ちた瞳をし立ち上がった、新選ドワ爺こと、ヒガキは黒の後についていく。
そんな、二人の後ろから私も宿屋へと向う。
[[黒龍] なんかクラン入れてくれってドワ爺がいるから、一応連れて行く]
[[宮様] は? フレ以外禁止なの知ってるでしょ?]
[[大次郎先生] renまだ?]
[[キヨシ] 黒それ、ダメダメ~~]
[[ティタ] 今から、キヨシのリアフレ面接なのに?]
[[黒龍] 倉庫行って、戻ろうと思ったらポータルで
マスターが土下座されてた……]
[[白聖] あぁ~。renから投げられたわけか!]
[[ティタ] 昨日も、renクロスで土下座されてなかった?]
[[宮様] はぁ~。仕方ないから、二人一緒にやるしかないわね]
[[大次郎先生] 要は、絡まれて遅くなったってことか……]
宿屋に着くまでに、黒が説明してくれつつ、ドワ爺に色々質問していたようだが、離れた私には聞こえなかった。
宿屋につくと、宮ネェの「入らないわ」と言う言葉に、入室できる人数を増やし部屋が借りなおことにしたのだが、鍵を持つ全員が居なければ、新しい部屋を借りられない。
現在、さゆたん、宗乃助が不在のため、キヨシのリアルフレだと言う、ゼンさんが借りてくれた。
トレードで鍵を受け取り、中へと入る。
全員が中に入ったのを確認すると先生が立ったまま、白チャで説明をはじめた――。
「Bloodthirsty Fairy クランのサブマスやってる。
大次郎先生です。
自分で先生ってつけるのどうかと思うだろうけど、一応名乗りだから我慢して。
長くなるから、要点だけを伝える。質問は、全部聞いた後でお願い。
一つ、PK。対人に関して、理由をクラチャで流し、上の判断を仰ぐ事。
二つ、クラメンの名前を語り、他プレイヤーに妨害・犯罪行為をしない事。
三つ、敵対クランへの情報漏えいに関与している場合。
即刻、追放後キャラデリ――キャラクターを消すという意味――するまで永遠に報復PKする。
四つ、クエスト以外での狩りの誘いに関して、同等のレベルの者ないし、
自身を勧誘した部隊長のみ誘う事。
五つ、金品の貸し借りは、本人の自己責任とする。
六つ、攻城戦、クラン戦に関して、自由参加とする。
七つ、クラン倉庫内で欲しい物がある場合は、部隊長の誰かに伝えること。
今のところこれ位だと思うから、質問あるなら言って」
先生の説明を聞き終わった二人が、おずおずと手をあげる。
「じゃぁ、ゼンさんからで」
「あの。自分まだ二次なんっすけど、Lv制限とかはどうなってるんっすかね?」
「Lvについては制限ないわよ」
三色毛を短くして、大剣を背負った猫の獣人のゼンが、質問をする。
宮ネェの答えに、ゼンさんは安堵した表情を見せ、キヨシは、グッと親指を立てていた。
先生が視線をヒガキに投げ、質問するよう促す。
「4つ目の意味が良く判らなかったです」
以外にも、キャラの体系見た目に似合わず、イケボで質問するヒガキさんに対し、少し考える素振りを見せた先生が、説明した。
「判りやすく説明すると、高レベルに寄生して経験値を稼ごうとするような奴は、このクランには要らないって意味だよ。
頼むなら、自分が所属することになる、部隊長にお願いして連れて行って貰ってねってこと。なんだけど分った?」
「はい。要は寄生虫予防って意味ですね?」
「そうそう」
「わかりました。後一つ質問してもいいですか?」
先生の説明に理解を示したヒガキさんは、他にも気になることがあったようで、頷く先生に視線を向けて言葉を続けた。
「七つ目なんですが、クラン倉庫の物が欲しい場合とはどういう意味でしょうか?」
「あぁ。昨日クランが出来たばかりで今は入ってないけど、今いるクラメンのサブキャラとかにある魔法書やスキル書を、欲しいクラメンに格安で販売して有効活用しようって言う話が出てて、その補足的なもの。
基本、部隊長から上しかクラン倉庫を使えなくするから、欲しい場合は言ってくれないとわからないでしょ?」
「なるほど、分りました」
「他に質問ある?」
納得したように頷いて答えたヒガキの様子を見ていた先生が、二人に視線を配り確認する。
そこで、少し気になることがありクラチャで聞く。
[[ren] ヒガキさんって、部隊どこ?]
[[宮様] 黒でしょ]
[[白聖] 黒だろ?]
[[ティタ] 連れてきた奴=黒]
[[キヨシ] 黒]
[[大次郎先生] 黒しかいないよね?]
[[黒龍] はぁ? 何で俺が! 元はと言えばrenだろ?]
[[宮様] renはマスターで、部隊持てないからね?]
[[黒龍] ざっっっっけんなよ?]
”ren” 面倒見てくれるなら、+23 エヴァラック 150Mで売る
”黒龍” 利子なし、分割可?
”ren” ある時払い。付ける
”黒龍” 乗った
[[大次郎先生] まぁ、黒怒るな。仕様だから仕方ないだろ?]
[[ティタ] そうだよ。ヒガキ。真面目そうだし迷惑かけなさそうじゃん]
[[黒龍] はぁ。わかったよ]
[[白聖] マジ、真面目そうだよな!]
[[宮様] あら、良かったわ]
みんなに、配属部隊は黒のところと言われ、キレかけた黒に、市場価格350Mする盾を、150Mで販売すると密談で取引を持ちかけ了承させる。
上手い具合に、仕方なく納得したような演技をする黒に、ニヤニヤした顔を向ければ、フイと横を向き視線を逸らす。
本当に、物で釣られるなんて、マジ、チョロイ……。
クラン戦開始まで、残り10:20――。
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