第27話 火災現場

 ――マンションはすでに、完全に炎に包まれていた。消防車もすでにたどりついており、消火作業が始まっているようだ。

 少し離れた場所で車を降りたのに、熱気が顔に叩きつけられている気がする。

(……紫村、なんだよな。能力を押さえられなくなるとこうなるってことか……!)

 菅原涼や影井は本人が困るだけだ。辛そうにしつつも、なんだか冗談半分で、決して深刻な様子ではなかった。

 しかし、紫村はそうではない。

 気を抜けば惨事を引き起こしてしまう力を、彼女は持っているのだ。

(確かに……これじゃ、『呪い』って呼びたくなるかもしれないな)

 冷治の怪力だって、実のところ何度か菅原涼や他の友人にケガをさせたり、物を壊したりしてしまっている。いずれにせよ炎とは規模が違うが……。

「犯人はこの近くにいるはずです。手分けして探しましょう。見つけたら、先ほど渡した私の携帯電話に連絡をください」

「……火事はどうするんですか?」

「どうしようもありません。火を消せるような能力があるなら話は別ですが」

 影井は首を横に振った。

「日本にはなぜか公務員が無能だと考えている人が多いですが、彼らの多くは皆さんが考えているより努力をしている、優秀な人たちです。信用してください」

 車の中から加我が声をかけてきた。

「すみません。わかっています」

 答えて、冷治は走り出した。

 ここもまた自分の家に近い場所で、地理はたぶん誰よりもよくわかっている。

(紫村が行きそうな場所はどこだろう?)

 考えたところで冷治は思わず立ち止まってしまった。

 彼女がよく行っていた場所だとか、思い出の場所だとか、そんなことをまるで自分が知らないのだということに気づいたのだ。

「くそっ! なにが『優しい』だ……結局、俺は優しさなんて偽物なんだ」

 七年前のあの夜から、困ってる人を見かけたら助けるようにしていた。その『優しさ』が、いつか巡り巡ってあの人に届くと思って。

 それが無駄なことだったというわけじゃない。……と、思う。

 ただ、結局冷治が続けていたのは、優しい人間の『フリ』でしかないのだ。

 本当に優しかったわけじゃない。

 偽物でしかない。

 だから菅原涼や牧野先輩、それに紫村のように……真剣に困ってる人たちには、なにもしてやれないんだ。

 そのくせ、ちょっと関わってしまえば見捨てる勇気さえ持てなくて、近くにいるだけでなにかしてやっているような気になっている。

 冷治は頭を強く振った。

「どうでもいい! とにかく紫村を探すんだ!」

 わからなくたって走るしかない。

 大きな店や公園など、目印にしていた場所を回ってみようと、冷治は走り出した。

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