第20話 約束と話し合い

 家に帰り、まず両手を時間をかけて水で冷やしてから、冷治は紫村の家に電話をかけた。

 彼女は家に帰っていないらしい。

 心配している紫村の両親に、冷治はなにも知らない振りをして、友人にも聞いてみると答えておいた。

 それから、冷治は菅原涼にSNSでメッセージを送った。

 明日学校に行く途中、話したいことがある。

 すぐに、了解と返事が返ってきた。

 さらに一つ先の駅から地下鉄に乗るから、自転車で行くことも付け加えた。

 また手が痛くなってきたので、冷水をかけて冷やす。冷たさで逆に痛くなるまで冷やしたあと、保冷剤をタオルで手に巻き付けた。

 今日は家にいる自分の両親には、友達に誘われて季節はずれの花火をして、失敗したと伝えてある。

 高校生にもなってと叱られはしたが、疑われてはいないようだ。

 そして翌日、いつもよりかなり早い時間に菅原涼と合流した。

 菅原涼と一緒にいるようになってからは乗っていなかった自転車を久しぶりに引っ張り出して、冷治は彼女の家に向かった。

 隣駅に向かうため、並んで自転車に乗りながら、冷治は口を開いた。

「昨日の夜、紫村が炎を出した」

「……手品とかでって意味ではないんだよね。パイロキネシスっていうやつ?」

 菅原涼が口にした単語を冷治は知らなかったが、おそらくはその通りなのだろう。

「そっかあ……残念だな」

「なんで?」

「私と冷治くんだけだといいなって思ってたの。二人だけが特別だったらいいなって」

 菅原涼が言ったそれは冷治にはない発想だったが、とりあえず相槌を打つ。

「……冷治くんの怪力のことを知る前だったら、喜んだかもだけどね。相手がたとえ紫村さんでも」

「それは……そうだろうね」

 自分の異変に気づかないうちに菅原涼の飛行能力について知ったので、冷治は心細さを感じたことはなかったが、泣きはらした目で見下ろす彼女の顔は目に焼き付いている。

 どうにかしなければならない。

 たとえ、どうにもならなくても。

 昨日からずっと、冷治はそれを考え続けていた。

 いつも使わない駅に向かって、冷治たちは自転車を走らせた。

 そのおかげなのか、今日はなにごともなく学校までたどり着くことができた。

 授業の合間にある休み時間に、冷治は紫村赤音の教室を覗いてみる。

 彼女は今日、来ていないようだ。

 メールでメッセージを送ろうと思ったけれど……なんと送ればいいかわからなかった。

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