第18話 公園で交わした、短い会話
公園の真ん中で、目を丸くしている紫村から少し離れた位置で、冷治と菅原涼は彼女を見つめていた。
半歩前に出て、冷治は菅原涼を視線からかばっている。
「今……空から、降りてきた、よね?」
途切れ途切れの声で、紫村が問いかけてくる。
自分が見たものが、信じられないようだ。
「そうだよ」
ぶっきらぼうな言い方で冷治は答える。
できることなら、突っ込んで聞いて欲しくはなかったからだ。
「なんで……?」
「空を飛べるからだよ」
紫村はさらになにかを言おうとしたけれど、うまく言葉が発せないようだった。
冷治にとっては都合がよかった。
事情を説明する気はない。
「できたらあまり言いふらさないでくれたら嬉しいな。無理にとは言わないけど」
菅原涼の腕をつかんで、紫村に背を向ける。
「待って!」
呼び止める声を聞いて、冷治は振り返った。
たぶん、ずいぶん冷たい視線を彼女に向けてしまったのだろう。
紫村が次の言葉を発するまでに少し時間がかかった。
「……教えて。なにが起きてるの?」
「知らないよ。むしろ俺たちがそれを知りたいくらいなんだから」
自分でもそれとわかるほど、刺々しい声が出たので、紫村はそれ以上なにも言っては来なかった。
だから冷治は黙って菅原涼の手を握り直した。
「行こう。家まで送るよ」
「うん……ありがとう、冷治くん」
いつもなら遠いからいいと答えてくるところだったけれど、今日は断られなかった。
不安なのが理由なのだろうが、もしかすると紫村がいたからという理由もあったのかもしれないと、冷治は思った。
「レイちゃん!」
公園から出て行こうとする冷治を紫村が呼び止めた。
「……なに?」
顔だけを彼女へと向ける。
眉を寄せ、唇を震わせる紫村の表情が見えた。なんだか、泣き出しそうな顔だった。
隣では菅原涼も彼女のほうを見ている。
ただ、無表情に見つめていた。
「……なんでもない」
「じゃあ……また明日」
答えた紫村を置いて、今度こそ冷治と菅原涼は公園から歩き出した。
二人で並んで歩いている間、交わした会話は彼女がこの前見たドラマの話だった。
楽しかったけれど、不安は決して消えることがなかった。
家の前で、目を閉じてこちらを見上げた菅原涼にキスをして、それから彼女の母親に挨拶をしてから冷治は家路についた。
父親は出張中らしい。彼女は彼女で、家族が家にいないことは多いようだ。
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